「…はぁ。」
俺は転生者だ。マスターデュエルのランクマを楽しむ、普通の決闘者だ。
それなのに、「間違えて死なせてしまったので、貴方が大好きなデュエルモンスターズの世界へ転生させます!」
と言われて、今に至る。
はっきり言って、つまらない。シンクロ、エクシーズ、ペンデュラム、リンク召喚ダメ。何が楽しいのやら。
俺は普通に地元の公立高校に入学し、卒業と同時に就職しようと思っていたのだが…。
名家のお嬢さんである幼馴染相手に連戦連勝し続けた結果、マークされてしまい、こうして実技試験を受ける羽目になった。
「…受験番号9番、帝公 涼斗(みかどこう りょうと)。」
「うむ。では先攻は受験生からだ。」
『『決闘!』』
帝公 ライフ4000
手5 フィールド
魔法・罠
試験官 ライフ4000
手5 フィールド
魔法・罠
「…俺の先攻、ドロー。」
この、先攻ドローも嫌だ。
どうせなら、アークファイブに転生させてほしかった。出来ればシンクロ次元。
ユーゴとリンのハッピーエンドの為ならば、俺は融合次元とハゲを心置きなく叩き潰したのだが。
「手札から永続魔法、次元の裂け目を発動。墓地へ送られるモンスターは除外される。魔法カード、増援。デッキから下級戦士族をサーチ、異次元の生還者を手札に加え、召喚。リバース2伏せ、ターンエンド。」
帝公 ライフ4000
手2 フィールド 異次元の生還者
魔法・罠 次元の裂け目 伏せ2
試験官 ライフ4000
手5 フィールド
魔法・罠
「随分と淡々と進めるのだな。さて、私のターンだ、ドロー!ところで君は、茅沼 明美(かやぬま はるみ)を知っているな?」
「知り合いでしたか。」
「私の妻の妹の娘。つまり姪に当たる。」
親戚でも、血は繋がっていない訳か。
「君の噂は聞いている。相当な実力者だと。」
「…そうですか。」
「行くぞ!私は魔法カード、コストダウンを発動!手札の流星の弓-シールを捨てて、手札のモンスターレベルを2つ下げる!」
『わざわざレベルを下げた?』
『プレイングミスか?』
この観客のデュエリストレベルの低さ。レベルが2つ下がるという事は上級モンスターをリリース無しで召喚出来るって、すぐにわかんないかな?
「現れろ、人造人間-サイコ・ショッカー!」
幼馴染のエースモンスター、電脳ハゲがお出ましか。
ここで神の宣告を打ってもいいが…あえて素通しする。
「装備魔法、デーモンの斧をサイコ・ショッカーに装備!これで攻撃力は3400!」
攻撃力が3000を超えた事で、ギャラリーがざわめく。
『あれは入試用の調整デッキじゃあないのか?!』
『アイツ、終わったな』
『残念だったわね。私には、デュエルアカデミアの門が閉じる音が聞こえたわ』
『それは幻聴だ。そもそもこれぐらいで倒せるなら、私は苦労していない』
「バトルだ!サイコ・ショッカーで異次元の生還者を攻撃!」
サイコ・ショッカーが手をかざすと、デーモンの斧が浮き上がり、クルクルと高速回転しながら、異次元の生還者を襲う!
「…次元の裂け目により、異次元の生還者はゲームから除外されます。」ライフ4000から2400
「ふっ、噂程では無いようだな。私はリバースカードを1枚伏せて、ターンエンドだ。」
「このエンドフェイズ、ゲームから除外された異次元の生還者を特殊召喚。」
「また戻ってきたか。だが、サイコ・ショッカーは攻撃力3400!攻撃力1800の異次元の生還者では倒せないぞ!」
帝公 ライフ2400
手2 フィールド 異次元の生還者
魔法・罠 次元の裂け目 伏せ2
試験官 ライフ4000
手1 フィールド 人造人間-サイコ・ショッカー
魔法・罠 デーモンの斧 伏せ1
「…俺のターン、ドロー。異次元の生還者を、生け贄に…。邪帝ガイウス、召喚。」
「むっ?!」
なんでまだ公式用語がリリースになっていないんだ。
途端に、周りのギャラリーが騒ぎ出す。
『あれって、帝モンスターか?!レアカードの…』
『何であんな奴が…』
「効果発動、生け贄召喚に成功した事で、場のカードを1枚除外。」
「じょ、除外?!」
「それが闇属性モンスターなら、1000ポイントのダメージを与える。」
「な、何ィ?!」
ああもう、いちいち、リアクションが激しい。
「サイコ・ショッカーを除外。」
「ぐああああああっ?!」ライフ4000から3000
「バトル、ガイウスでダイレクトアタック。」
「うわあああああああ!」ライフ3000から600
「ターンエンド。エンドフェイズ、ゲームから除外された異次元の生還者を特殊召喚。」
帝公 ライフ2400
手2 フィールド 異次元の生還者 邪帝ガイウス
魔法・罠 次元の裂け目 伏せ2
試験官 ライフ600
手1 フィールド
魔法・罠 伏せ1
「ぐぐっ、わ、私のターンだ。ドロー!よし、強欲な壺を発動!」
なんでこのカードが野放しなんだ、この世界。
「カードを2枚ドロー!来たッ!私と共に戦ってくれ!召喚!魔導騎士ギルティア-ソウル・スピア!」
攻撃力1850の上級モンスターが出てきて、槍を構える。
カッコつけているけど、その程度の攻撃力では様にならない。
「このカードは5つ星モンスターだが、場にカードが無ければ、生け贄無しで召喚出来る。さらに!このカードより攻撃力の高いモンスターを1体選んで、除外する!ガイウスを除外!」
ゲームから除外される邪帝ガイウスだが、俺は何の感慨も無い。
ただ事務的にカードの処理を行う。
「バトルだ、異次元の生還者を攻撃!ソウル・スピア!」
「…」ライフ2400から2350
「どうだ!カードを1枚伏せて、ターンエンド!」
たった1ターンの巻き返し。それに対して。
『す、すげぇええええ!』
『あの帝モンスターを一瞬で?!』
『これで、あの子はもう終わりね。』
『そう思っているなら、天上院はあいつの事を何も分かっていない。』
『どういう事?』
『すぐにわかる。』
この騒ぎっぷりだ。声が枯れないのか?
「エンドフェイズに、異次元の生還者を特殊召喚。」
俺がカード処理を行うと、一部のギャラリーが騒ぎ出す。
『また戻ってきた…。ちょっと、これってもしかして!』
『あの永続魔法、次元の裂け目を破壊しない限り、毎ターン、生け贄召喚を行える。』
『そんなコンボがあったなんて…。彼は一体、何者なの?』
帝公 ライフ2350
手2 フィールド 異次元の生還者
魔法・罠 次元の裂け目 伏せ2
試験官 ライフ600
手1 フィールド 魔導騎士ギルティア-ソウル・スピア
魔法・罠 伏せ2
「俺のターン、ドロー。異次元の生還者を生け贄に、風帝ライザーを召喚。」
「べ、別の帝だと?!」
「効果発動、ギルティアをデッキの一番上に戻す。」
「何?だが、次のターン、私は再びギルティアをドローするぞ?そうなれば。」
何か言っているが、状況分かってないのか?残りライフ600で場はがら空き、こちらは攻撃力2400。
ああ、伏せカードで凌ぐつもりか。凌げればいいな?
「バトル、ライザーでダイレクトアタック。」
「させない!永続罠、グラヴィティ・バインド-超重力の網-!これでレベル4以上のモンスターは攻撃宣言が。」
「カウンター罠、魔宮の賄賂を場から発動。グラヴィティ・バインドの発動と効果を無効にして破壊、相手はカードを1枚ドローする。」
「な、何ィ?!う、うわあああああああ!」ライフ0
「ありがとうございました。」
サイコ・ショッカーがエースなのに、なんでグラヴィティ・バインドを入れているのやら。
全く、デッキ構築がなっていない。
その後、職員会議が行われた。
「試験用のデッキではなく、私本来のデッキを使いましたが、それでも歯が立たなかった…。帝公君は合格にするべきです!」
その発言に、他の教員は難色を示す。
「彼のデュエルには、魂が感じられないノーネ。アナターは、姪っ子から彼について随分色々聞かされてきたみたいデスーガ、彼は「ただ勝てば良い」という気構えしかないノーネ。」
「恐れながら、勝負事である以上、勝つために最善を尽くすのは。」
「その通り、正しいノーネ。だけーど、ただ勝つだけではプロとしてやっていけないノーネ。」
クロノス教諭の発言に、他の教員も同調する。
「私見ですが、彼からは他人を見下すような雰囲気を感じ取りました。まるで、プロデュエリストが、子供のプレイングを見ているかのような。」
「ここはプロデュエリストの養成校ですよ?ストリートデュエリストであれば、まぁ、問題ないのでしょうが…」
職員会議の結果は、不合格となった。
実力もある、品行方正。だが、熱意が無いのは『決闘者』ですらない。
OCGプレイヤーにとって、デュエルモンスターズは趣味だ。だがそれに人生を費やす事はしない。
何処まで行っても、「ゲーム」の一つでしかない。
大型モンスターの大量展開という高速環境に慣れ親しみ、いかに制圧盤面を作るか、というステージに至った彼にとって…。
モンスターの攻防と魔法・罠でアドバンテージを稼ぎあう低速環境は、退屈だった。
だが、この世界は違う。デュエルモンスターズの勝敗が重視される世界にあって、「デュエルに自分の信念を賭けられない」存在は異端でしかない。
政界、財界に次ぐ第三の界隈は、プロデュエリストになれば生活できるほど稼げる職業なのだから。
デュエリストとしての実力が相応にあっても、まだ経験が不足している「試験官」は見抜けなかった。
直接対決した事と、やや身内贔屓があるとはいえ高く評価している姪っ子が負けているという事実が彼の眼を曇らせていた。
「史孝(ふみたか)伯父上!」
「箕越(みのこし)先生と呼べ、ここは学校では無いが、学校の関係者が大勢いるんだ。」
黒髪ツインテールの姪っ子にくぎを刺しつつ、試験官は近くのベンチに腰掛ける。
気の強そうな赤い瞳のつり目が、試験官を睨む。
「不合格にするんですね。」
「不合格にさせられた、だ。どうも、彼のデュエルがよほど気に食わなかったらしい。」
その発言に、明美(はるみ)は怒りをあらわにする。
彼女の脳裏に、初めて涼斗と出会った時の後継がフラッシュバックする。
『へぇ?思ったより、デュエルを知っているじゃない。気に入ったわ!このわたしが特別に、デュエルの相手をしてあげる。感謝しなさい!』
そう言ってデュエルした結果、惨敗だった。悔しかった。
だから、負けた理由を考えて再戦した。
また負けた。それが、何度も繰り返された。
かつてデッキに入れていた、闇の破神剣や機械改造工場はもう入れていない。サクリファイス・ソードや闇竜族の爪に変えた。
ドレインシールドや神の恵みといったライフ回復カードも無い。強制脱出装置、死者への供物などの場に干渉するカードに変わった。
一時しのぎでしかなかったスケープ・ゴートについては、今では羊トークンを攻撃表示にして強制転移、あるいはエネミーコントローラーの発動コストにする、という絡め手も使うようになった。
いつか、必ず勝って見せる。そう思っていたら、アカデミアに入学せず別の道を進むというから手回しした。
ここなら3年間、いつでもデュエルが出来る。
彼にデュエルの熱が無い事は感じている。だがそれは、彼女自身が魂を燃やすに値するだけの実力が無いからだ。
だから見てみたい。本気で、全力で勝ちに来る彼の顔を。それに打ち勝った時、自分はさらなる高みに登れるはずだから。
だがそれは叶わない。ならば、デュエルアカデミアで頂点に立つ。彼女はそう心に決めた。
後に彼女はラーイエローの男子、三沢大地から「学ぶべき物が多い」とライバル認定され、事あるごとにデュエルする羽目になるのだが…それはまた、別の物語である…。
書いてみましたが、結構難しい題材ですね。この路線で行くと「GXのカードプールで行われる決闘を楽しめない主人公が愚痴るだけ」。かといってOCGの高速環境からGX時期の環境へ飛ばされ、周りが低レベルのデュエリストだらけ、となって熱を失うもそこから再び熱意を取り戻す…という流れに出来ないのが厳しい。
そもそも熱意を取り戻せる人なら昔の環境でも楽しめる、熱意を取り戻してしまうと「熱を失った」という特徴が無くなる…。
師匠ポジションなら良さそうな気がしました。