「受験番号24番。よろしくお願いします。」
そう言って来た受験生に試験官はおや?という顔を浮かべる。
サングラスにマフラー、マスクをつけており、見た目は完全に不審者だ。
「どうしたのかね?」
「…体調が悪いので。デュエルに支障はありません…」
「そうか。では君からだ。」
『『決闘!』』
試験官 ライフ4000
手5 フィールド
魔法・罠
受験生? ライフ4000
手5 フィールド
魔法・罠
「先攻は貰います…。ドロー。魔法カード、苦渋の選択を発動。デッキから5枚のカードを提示、相手はその中から1枚を選び、残りは全て墓地へ送られる。」
「ふむ…。」
「提示するのは、この5枚。」
「?!」
神竜 ラグナロク、神竜 ラグナロク、ブリザード・ドラゴン、スピア・ドラゴン、アックス・ドラゴニュート。
「…神竜ラグナロクを手札に加えたまえ。」
「分かりました。手札から沼地の魔神王の効果発動、捨てることで、デッキから融合を手札に。そのまま融合を発動。手札から神竜 ラグナロクとロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-を墓地に送り、竜魔人 キングドラグーンを融合召喚、攻撃表示。」
「ほぅ…。」
「魔法カード、龍の鏡を発動。墓地から神竜ラグナロク、アックス・ドラゴニュート、スピア・ドラゴン、ミラージュ・ドラゴン、ブリザード・ドラゴンの5体を除外。
フィールドに鏡が現れ、5体のドラゴンを吸い込むと、中から5つの首を持つ巨竜が雄たけびを上げる!
「F・G・Dを融合召喚。」
「うぉおおおっ?!」
「カードを1枚伏せて、ターンエンド。」
試験官 ライフ4000
手5 フィールド
魔法・罠
受験生? ライフ4000
手1 フィールド キングドラグーン F・G・D
魔法・罠 伏せ1
「攻撃力5000、デュエルモンスターズ界で最強のドラゴン…。私のターン、ドロー!モンスターをセット、カードを1枚伏せて、ターンエンドだ。」
試験官 ライフ4000
手3 フィールド セットモンスター
魔法・罠 伏せ2
受験生? ライフ4000
手1 フィールド キングドラグーン F・G・D
魔法・罠 伏せ1
「こちらのターン、ドロー。キングドラグーンの効果発動、1ターンに1度、手札からドラゴン族を特殊召喚出来る。マテリアルドラゴンを特殊召喚。」
「ここだ!罠発動、激流葬!場の全てのモンスターを破壊する!」
「マテリアルドラゴンの効果発動。手札を1枚捨てることで、場のカードを破壊する効果を無効にして破壊する。龍の鏡を墓地へ。」
「何?二枚目の龍の鏡だと…。そうか、あの時、神竜ラグナロクを手札に加えられなくても、ロード・オブ・ドラゴンを通常召喚して発動すれば結果は同じだったわけか…。」
「バトル。F・G・Dでセットモンスターを攻撃。攻撃宣言時に永続罠、竜の逆鱗を発動。ドラゴン族に貫通能力を付与する。」
「私のセットモンスターは、クリッター。守備力は600…うわああああ!」ライフ0
圧殺した受験生?は慇懃に一礼すると、その場を後にする。
そんな彼を見送った後、試験官は他のスタッフに確認を取らせる。
あれほど完成度の高いドラゴン族を組める受験生は居ない。その予想は的中した。
「彼は龍愁夏 縁(りゅうしゅうか えにし)プロです!」
「何?何故プロデュエリストが実技試験を受けに…?というより、本来の受験生は?」
「崩 鷹宏(くずれ たかひろ)君です。」
その発言を聞いた他のスタッフが口をはさむ。
「崩受験生の父親は、龍愁夏プロの父親の上司ですな。」
「という事は、父親を経由して、替え玉受験をさせた?」
「あり得ます。彼は息子の長期休暇の宿題を、部下にやらせる事がありましてな。いやぁ、あれは中々大変でしたぞ。」
さらっと悪事を暴く職員に、周りの職員は絶句する。
「しかし解せませんな。何故、プロリーグで使っているデッキをそのまま使ったのか。」
「当然では?替え玉受験に関わったなどスキャンダルどころではありません。とはいえ、お父上の立場もある。故に、我々が不正に気づけるよう敢えて振る舞ったのでしょう。」
教員たちは憤る。神聖なアカデミアの実技試験を何だと思っているのか。
「そういう事なら、不合格通知を」
「そうなると、どうして息子の替え玉すら出来ないんだと彼のお父上が責められますぞ?ここはあえて不合格を出さず…」
デュエルアカデミアは孤島に存在するため、移動手段は必然的に船になる。
そこに、崩 鷹宏の姿があった。
彼はニヤニヤしながら、周りを見渡す。
「…ラーイエローは成績優秀な編入生。後は万丈目グループの三男、万丈目準に接触。真紅眼の黒竜を献上して3年間舎弟にして貰えば3年は安泰。その間にオベリスクブルーへ昇格。卒業したらカードショップを開いてオーナーになる。」
彼は真っ当な努力が嫌いだった。何故ならまともに努力しても成績は上がらなかった。
何時間もかけてきれいなノートを作り、一生懸命、教材にマーカーを引いたのに。
だから、不正で他人を出し抜く事にした。筆跡を真似てカンニングペーパーを作り、嫌いな奴の机に仕込んでカンニングを密告した。
ピッキングの練習を重ね、職員室からテストの解答を入手し、記号を丸暗記した。ハッキングして解答を丸暗記した事もある。
そうやって『努力』を重ねていると成績の順位が上がり、父から褒められた。それからだ。不正行為だけは努力しようと決心したのは。
そういえば、替え玉受験を担当したあのプロは本当にウザい奴だった。
『成績優秀者として実技試験を確実に突破しろ、という事だからそのようにした。言っておくが、こんなやり方がいつまでも通用するほどデュエルモンスターズの世界は甘くない。今からでも遅くない、心を入れ替えて真っ当な努力をした方が良い。』
余りにも腹が立ったので、『うぜぇっ!』と叫んで手元のグラスを投げつけてしまった。
躱されたせいで壊れてしまったが、まぁいい。もうどうせ会う事は無い。
「これは困った事になったぞ。鳶野 亀吉(とびの かめきち)君に合格通知を出していたとは。」
「こうなったら、誰か一人、不合格にするしかないな。」
スタッフの発言に、崩はほくそ笑む。
そうなると、オシリスレッドに配属予定の誰かがこの場で不合格にされるという訳か。
バラ色から一転、どん底に叩き落される姿は、いつ見ても楽しい。カンニングの疑いをかけられ、停学が決定したアイツの顔は忘れられない。
そんな彼の肩に手が置かれる。
「よし、君達でデュエルしたまえ」
「…は、はぁ?!」
まさか、自分が選ばれるとは思っていなかった崩は飛び上がって驚く。
「ど、どうして!僕はラーイエローに配属」
「ほぅ?ラーイエローなら実力も十分。実技試験同様、実力を発揮すれば遅れは取らないだろう?」
そう言われ、周りの視線もあり…。何より、スタッフが有無を言わせない目を向けてきたことで、補欠合格という少年と向き合う。
「おい。本当に僕とデュエルするつもりか?僕はあのラーイエローへの配属が決まっているんだぞ!」
「ここで勝たないと入学出来ないというなら、勝つだけだ。いくぞ!」
『『決闘!』』
崩 ライフ4000
手5 フィールド
魔法・罠
鳶野 ライフ4000
手5 フィールド
魔法・罠
「先攻は僕だ!ドロー!魔法カード、レッド・ポーションを発動!ライフを500ポイント回復だ!」ライフ4000から4500
「えっ?」
中途半端なライフ回復カードに、鳶野少年は困惑する。
「魔法カードが発動したターンのメインフェイズ、このモンスターは手札から特殊召喚出来る!ダークティラノを特殊召喚!」
「攻撃力2600か。」
「まだだ!装備魔法のオンパレードだぁ!まず1枚目、覚醒!地属性モンスターの攻撃力を400ポイントアップ!2枚目、装備魔法、体温の上昇!恐竜族の攻撃力・守備力は300ポイントアップ!3枚目!ビッグバン・シュート!攻撃力は400ポイントアップ!これで攻撃力は3700!カードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」
崩 ライフ4500
手0 フィールド ダークティラノ
魔法・罠 覚醒 体温の上昇 ビッグバン・シュート 伏せ1
鳶野 ライフ4000
手5 フィールド
魔法・罠
「俺のターン、ドロー!」
「この瞬間、罠発動!」
「ここで罠を…。」
「メタル化・魔法反射装甲!これをダークティラノに装備!攻撃力・守備力が300ポイントアップ!どうだ!攻撃力は4000!」
馬鹿笑いする崩少年。
勝った!決まった!やはり、初手を固定するイカサマは最強だ!
この盤面を敷くと相手はモンスターを守備表示で出し、守りを固めようと無駄な努力をする。
ダークティラノは相手の場に守備モンスターしかいなければ、ダイレクトアタックできるというのに。
一方、これで懸念事項は消えたとばかりに、鳶野少年はカードを発動する。
「速攻魔法発動、速攻召喚!モンスターの通常召喚を行う。この時、相手の場にモンスターが居れば、レベル5以上のモンスターも、生け贄無しで召喚できる!」
「ハッ、攻撃力4000を凌ぐモンスターなんてそうそう出せるわけが。」
「ソードハンターを召喚する!」
「攻撃力2450を攻撃表示ィ?そんな雑魚は守備表示でだすんだな!」
「俺はここで、アメーバを通常召喚。」
「ハッ、ならこれでデュエルは終わりだな。」
唐突に言い出された事で、鳶野少年は訝しむ。
「負けを認めてサレンダーするつもりか?」
「ハッ!お前、二回も通常召喚を行ったじゃあないか。」
「ソードハンターの召喚は、魔法カード『速攻召喚』によるカード効果で、アメーバの召喚は通常召喚だ。」
「ハァ?それ、何が違うんだよ、お前の反則負け」
頭の悪さに頭痛がしてきたため、鳶野少年はため息をつく。
「不正行為ではない。デュエルモンスターズには、召喚権を増やすカードが存在する。その場合、通常召喚とは別にモンスターを召喚出来るのだ。さぁ、このまま進めたまえ」
「ハァ?!意味わからん!もっとわかりやすく教えろ!それでも教師か!」
文句をスタッフに言い出したことで、鳶野少年は終わらせる事にした。
「魔法カード、強制転移!俺のアメーバのコントロールを与えるから、お前のモンスターのコントロールを寄越せ。」
「だ、ダークティラノが?!」
「そしてアメーバはお前の場に移動する。ここでアメーバの効果発動、2000ポイントのダメージを与える。」
「ぎゃああああ!」ライフ4500から2500
「バトルだ。行け、ソードハンター!アメーバを攻撃!ハンターチャンプ!」
「うぎゃああああ!」ライフ0
ライフが尽き、勝敗は決する。
「このダークティラノは返すから、アメーバは回収しておく。」
倒れた崩少年にそう言い残し、鳶野少年は船へ向かう。
「ぼ、僕の、僕の高校生活が…、や、やい!」
崩はスタッフにくってかかる。
「このタイミングで不合格にするのは酷すぎる!このことは問題にさせてもらうからな!」
「そうか。」
職員はそっと彼にだけ聞こえるよう小声で話す。
「実技試験では、あれほど素晴らしいデュエルをしていたのに。まるで別人だな。」
「っつ?!」
崩少年は顔を歪める。
あのプロめ、手加減も出来ないのか。いや、違う。自分だ、自分が成績優秀者として入学出来るようにと指示をした事で…。
「では、出航だ!」
これが教員の計画だった。不合格通知を出すのではなく、直前で不合格を突き付ける。
崩親子の怒りを、龍愁夏親子ではなくアカデミアへ向けさせる。だがそれは、替え玉受験を疑れるような崩少年の実力不足が原因という物。
こうして進学出来なかった崩少年は、家にも居場所がなくなり、ストア・ブレーカーとなってカードショップを荒らすようになるも、ある【デッキ破壊】使いの美少女に成敗され、収監される事になるが…。
それはまた、別の物語である。