まぁ、使い辛いというのがネックですが…。
耳が完全に隠れている、ボサボサの髪型で、メガネをかけた受験生が会場に入ってくる。
「受験番号10番、毒沼 司(ぶすぬま つかさ)です。よろしくお願いします…。」
「先攻は受験生からだ。」
「私の先攻、ドロー。」
ドローした後、受験生はしばし待つ。
「ん?長考か?」
緊張しているのか?試験官はやや待つことにする。
その時、試験の様子を記録している職員は違和感を感じる。
『ん?これは一体…』
『どうした?』
『突然、通信が重くなって…再起動します。』
『おい、こっちも重くなった。誰か、大規模な通信をしているんじゃないか?』
職員は機器の不具合に対処するべく、行動を開始する。
「…お待たせしました。私は、おろかな埋葬を発動。デッキからモンスターカードを墓地へ送ります。私は、グリーンガジェットを通常召喚してモンスター効果発動、レッドガジェットをデッキから手札に加える効果にチェーンして速攻魔法、ご隠居の猛毒薬を発動。さらにチェーンして速攻魔法、サモンチェーンを発動。」
「な、何?サモンチェーンだと?チェーン3以降に発動する速攻魔法…」
「まだ続きます。サモンチェーンにチェーンして速攻魔法、奇跡の蘇生を発動。」
「何だと?!」
「チェーン4以降に発動出来ます。墓地からモンスターを特殊召喚する。チェーン処理を行います、よろしいですか?」
「あ、ああ。」
複雑なチェーン処理を、受験生がスラスラと述べた事に、試験官は驚きながら、ただただ頷く。
「では、奇跡の蘇生の効果で、おろかな埋葬により墓地へ送ったライトニングパニッシャーを攻撃表示で特殊召喚。」
「攻撃力、2600!」
「チェーン3、サモンチェーンにより、このターン、3回の通常召喚が可能になります。チェーン2、ご隠居の猛毒薬でライフを1200ポイント回復。チェーン1、レッドガジェットを手札に加えます。」ライフ4000から5200
この時点で、試験官は感動すら覚えていた。
彼自身、面白い効果だが使いこなせないと判断したカードを駆使する受験生。
「二回目の召喚権で、レッドガジェットを召喚。イエローガジェットを手札に加え、三回目の召喚権で、イエローガジェットを召喚。グリーンガジェットを手札に加えます。カードを1枚伏せて、ターンエンド。」
受験生の場には、三色ガジェットにエースモンスターであろう、ライトニングパニッシャー。伏せカードも添えられている。
「私のターン、ドロー!漆黒の豹戦士パンサーウォリアーを召喚!」
「パンサー、ウォリアー…?」
受験生が不思議そうな声色だったため、試験官は説明をする。
「攻撃力2000の獣戦士族だ。ただし、攻撃宣言するためには、私の場の他のモンスターを生け贄に捧げねばならない。」
「ふむ。しかし、他のモンスターは居ない。つまり攻撃は来ないという事か…。」
「装備魔法、愚鈍の斧を、パンサーウォリアーに装備!攻撃力が1000ポイントアップし、効果は無効になる!」
「攻撃力2000に1000ポイント足されると……、0+0は0、繰り上げは無しで…」
何やら攻撃力の計算を始める受験生。
とはいえ、攻撃しない理由がないため、試験官は無視する。
「バトルだ。パンサーウォリアーで、イエローガジェットを攻撃!」
「ま、待ってください!」
「ほぅ、伏せカードを発動するか?」
「い、いえ!そのモンスターは攻撃宣言するためには、生け贄が必要なのでは…?」
「その効果は、私の装備魔法で無効になっている。」
「は?え?う、うわあああああああ!」ライフ5200から3400
試験官は訝しむ。
こちらの説明を聞いていなかったのか?
先攻1ターン目のプレイングが流れるような物だっただけに、ちぐはぐな印象を受ける。
「ただし、愚鈍の斧は呪われている。私のターンが来るたびに、私はスタンバイフェイズに500ポイントのダメージを受けてしまう。カードを1枚伏せて、ターンエンドだ。」
「くっ、わ、わ、私の、た、ターン!ど、ドローだぁ!」
受験生が動揺している事で、試験官は困り果てる。
(いきなり攻撃力3000での攻撃は、インパクトが強すぎたか?本番にやや弱いタイプか?だが、プロになればこんな物では無いぞ…)
職員の方は膨大なデータ通信が行われている事を突き止め、一体誰が大量のデータの送受信をしているのか?を突き止める作業に入っていた。
二枚の手札、そのうち一枚はグリーンガジェット、という状況で、受験生は考え込む。
「私は、グリーンガジェットを召喚。これにチェーンして罠発動、チェーン・ヒーリング。さらにチェーンして速攻魔法、一陣の風。」
「一陣の風?」
「チェーン3以降に発動出来る…。場の魔法・罠カードを1枚破壊。ここで、ライトニングパニッシャーのモンスター効果発動、チェーンが3つ以上積まれた事で、相手の場のカードを1枚破壊。」
「という事は…。」
「ライトニングパニッシャーの効果で、漆黒の豹戦士パンサーウォリアーを破壊、一陣の風で伏せカードを破壊。チェーンヒーリングでライフを500回復。グリーンガジェットの効果でレッドガジェットを手札に加える。」
試験官の伏せカード、鎖付きブーメランが破壊され、パンサーウォリアーも消滅する。
「バトル。グリーンガジェットとライトニングパニッシャーでダイレクトアタック。」
「ぐううううっ!!」ライフ0
試験官は、「チェーンカードを使っている時は流暢にプレイングが出来るが、相手ターンに思わぬカードを使われると動揺する、やや精神的に脆い」という印象を抱いた。
「試験終了…?」
そんな試験官の所に、複数人の職員が押しかけてくる。
「どうしました?」
「そのまま待機していてください…。」
「な、何をする!は、放せ!」
なんと、他の職員が受験生を拘束し始めた。
「ま、待ちなさい!どういうつもりですか!」
ややあって、職員は受験生から小型の通信機を取り上げる。
「そ、それは…まさか、誰かから指示を受けながらデュエルしていたのか?」
「その通りです。急に通信状態が悪化し…。調査の結果、彼が原因だと判明しました。」
通信機のログから、データ内容を把握した職員が思わず叫ぶ。
「お前!!海馬コーポレーションのデュエルロボのレベルMAXから指示を受けていたのか!」
「う、うぉおおおお!俺は、俺はぁ!」
試験官は、喚き出した受験生の前に行くと、彼と眼を合わせる。
きっと何か事情があるのだろう。場合によっては、擁護するのが試験官である自分の務め。
「ただ、楽にプロデュエリストになって、金を稼ぎたいだけなんだああああああ!でも、俺はデュエルモンスターズがさっぱりわからない!だから、AIを使ったんだぁあああ!」
試験官は大きくため息をついた。
当然ながら、その場で不合格判定が出され、受験生は退場となる。
「デュエルアカデミアの実技試験で、AIを使うなんて。」
「全く。それで合格してどうやってやっていくつもりだったのやら…。」
試験官は浅知恵に呆れ果てながら、実技試験を続けていくのであった。
( ◇ ◇)