「君かね?私のファンと言う受験生は。」
「はい!五大院 秀也(ごだいいん ひでや)です!高名なカードコレクター、龍牙先生!本日はよろしくお願いします!」
その発言に、細いフレームのメガネを、龍牙はくいッと持ち上げる。
若干白い色が混じった髪をオールバックにまとめ、細い目は穏やかな紳士を装っている。
だが、その本質は人を見下す傲慢な物。
『『決闘!』』
龍牙 ライフ4000
手5 フィールド
魔法・罠
五大院 ライフ4000
手5 フィールド
魔法・罠
「行くぜぇ、俺様の先攻、ドローカード!まずはこいつだ、来い!クリバンデット!」
「攻撃力1000か。」
「ターンエンド!このエンドフェイズに、クリバンデットの特殊能力発動!こいつを生け贄にする事で、デッキの上からカードを5枚確認し、魔法・罠カードを1枚手札に加え、残りは墓地へ送る。」
ヘルウェイ・パトロール、デビルゾア、夢魔の亡霊、死霊伯爵、ポルターガイストが墓地へ送られ、五大院はポルターガイストを手札に加える。
龍牙 ライフ4000
手5 フィールド
魔法・罠
五大院 ライフ4000
手6 フィールド
魔法・罠
荒々しい口調に、龍牙は訝しむ。
「…私のターンだ、ドロー!このデュエルは私本来のデッキだ。これに勝てれば、入学はほぼ確実だろう。」
「精一杯、頑張ります!」
この素直な態度が演技なのか、先ほどの粗暴な言動が演技なのか、龍牙は判別出来ない。
「私は暗黒ブラキを召喚!そしてフィールド魔法、ジュラシックワールドを発動!これにより、暗黒ブラキの攻撃力は300ポイントアップして、2100!バトル!暗黒ブラキでダイレクトアタック!」
「わわっ?!」ライフ4000から1900
素直にダメージが通り、龍牙は薄く笑う。
だが、彼の目の前に異形が出現する!
「な、何ィ?!」
「戦闘ダメージを受けた事で、手札からトラゴエディアの効果発動!このカードを守備表示で特殊召喚!」
「攻撃力?だと…。」
「このカードの攻撃力は、手札の枚数の600倍!手札は5枚、よって攻撃力3000!」
「くっ、そのカードを使うために場をがら空きにしていたのか…。メインフェイズ2だ!魔法カード、光の護封剣を発動!これで3ターン、攻撃は出来ない。ターンエンドだ!」
龍牙 ライフ4000
手3 フィールド 暗黒ブラキ
魔法・罠 ジュラシックワールド 光の護封剣(3)
五大院 ライフ1900
手5 フィールド トラゴエディア
魔法・罠
「俺様のターン、ドローカード!」
自分のデッキに目もくれず、五大院は龍牙を睨みながらカードを引く。
故に、龍牙が指輪をいじっている事に気付いた。
(なるほど、あれがイカサマの秘密って訳か…)
「さて、俺様はトラゴエディアの特殊能力発動!手札のモンスターを捨てることで捨てたモンスターと同じレベルの相手モンスターのコントロールを得る!」
「何だと!」
「手札の首なし騎士を捨てて、暗黒ブラキのコントロールを得る!」
「くっ?!」
「俺様はリバースカードを1枚セット、ターンエンドだ」
龍牙 ライフ4000
手3 フィールド
魔法・罠 ジュラシックワールド 光の護封剣(2)
五大院 ライフ1900
手4 フィールド トラゴエディア 暗黒ブラキ
魔法・罠 伏せ1
「私のターン、ドロー!私は…モンスターをセットする!」
「えっ?攻撃しないんですか?」
「トラゴエディアの特殊能力は、相手モンスターのレベルを参照する。つまり、セットされていてはコントロールを奪えない!ターンエンドだ!」
「流石です!」
朗らかな笑顔でそう言うが、龍牙はもはや目の前の受験生が自分の「ファン」とは微塵も思っていない。
「だったら、このエンドフェイズに永続罠、ウィジャ盤を発動!デッキから死のメッセージEを発動!」
「な、何だと!」
龍牙 ライフ4000
手3 フィールド セットモンスター
魔法・罠 ジュラシックワールド 光の護封剣(2)
五大院 ライフ1900
手4 フィールド トラゴエディア 暗黒ブラキ
魔法・罠 ウィジャ盤 死のメッセージE
「あれぇ?どうしました、龍牙先生。」
「い、いや、その…。」
「特殊勝利条件の一つ、ウィジャ盤を使った事ですか?それとも」
五大院は鋭い目を向ける。
「魔法カードの発動を妨害する電波を出しているのに、死のメッセージが発動した事か?」
「っつ?!」
露骨に顔に出た事で、五大院は口角を持ち上げる。
「さて、俺様のターン、ドローカード!俺様は暗黒ブラキを生け贄に、冥界の魔王ハ・デスを召喚するぜ!」
「ぐっ?!」
破壊したモンスターの効果を無効化する悪魔族。それを見て龍牙は自身のセットモンスター、ハイパーハンマーヘッドを見つめる。
これでは、バウンス効果も使えない。
「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ。」
龍牙 ライフ4000
手3 フィールド セットモンスター
魔法・罠 ジュラシックワールド 光の護封剣(1)
五大院 ライフ1900
手3 フィールド トラゴエディア 冥界の魔王ハ・デス
魔法・罠 ウィジャ盤 死のメッセージE 伏せ1
「私のターン、ドロー!魔法カード、大進化薬を発動!場のハイパーハンマーヘッドを生け贄に捧げ、発動してから3ターンの間、私は恐竜族を召喚する場合に生け贄が不要になる!」
「ほぅ。」
「その効果で現れろ、超伝導恐獣!フィールド魔法、ジュラシックワールドで300ポイントアップし、3600!」
上機嫌な龍牙を前に、五大院は超伝導恐獣がレベル8であることを確認すると、手札に目を向ける。
その目の動きに、龍牙は気づく。
「トラゴエディアの効果で奪おうと思っているのだろうが、甘い!バトル!超伝導恐獣で、トラゴエディアを攻撃だぁ!」
全身に雷を纏う巨大な恐竜が、咆哮を上げながら迫り来る!
向かってきたところで五大院は口角を持ち上げ、罠にかかったとばかりに冷酷に笑う。
「ヒャハハハハ!罠発動!ヘイトバスター!悪魔族が攻撃された事で効果発動、互いのモンスターを破壊し、貴様に破壊されたモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与えるぜ!」
「何ぃ!ぎゃああああああ!」ライフ4000から700
思わぬ大ダメージを受けた龍牙は倒れてしまう。
だが、残りの手札を見ると戦意が戻ったらしく、ヨロヨロと立ち上がる。
ここにきて、龍牙は気づいた。先ほどの眼の動き、あれは、「次のターンになればトラゴエディアの効果で奪える」と龍牙に思わせ、攻撃を誘導するための布石だったのだと。
「ターンエンドだ。」
「エンドフェイズ、死のメッセージAを発動!」
龍牙 ライフ700
手2 フィールド
魔法・罠 ジュラシックワールド 光の護封剣(1) 大進化薬(3)
五大院 ライフ1900
手3 フィールド 冥界の魔王ハ・デス
魔法・罠 ウィジャ盤 死のメッセージE 死のメッセージA
「俺様のターン、ドローカード!チイッ」
引いたカードを見て、五大院がいら立った事で龍牙の機嫌が上昇する。
「ふっ、どうやら逆転のカードを引けなかったようだな。」
「キサマがもがき苦しむ姿を見て居たかったが…。このターンで終わりにするぜ。」
「馬鹿が!私の場には、強力なレアカード、光の護封剣がまだ残っている!これがある限り、お前は攻撃する事は。」
「魔法カード、ポルターガイストを発動。貴様の魔法・罠ゾーンのカードを1枚、手札に戻す。」
「馬鹿め!魔法カードは使えないんだよぉ!」
「あぁ?教師の癖に知らねぇのか?ポルターガイストの発動と効果は、無効にされねぇ。」
不気味な亡霊が光の護封剣に襲いかかると、龍牙を守っていた光の剣が消滅する!
「…は?」
「俺様は墓地に眠るヘルウェイ・パトロールの効果発動!こいつを除外する事で、手札から攻撃力2000以下の悪魔族を特殊召喚!来やがれ、ディアバウンド・カーネル!」
「攻撃力1800!?」
石像彫刻の上半身に、白い大蛇の頭を持つ神聖な白い悪魔が、4枚の羽根を広げて現れる!
「さらに!墓地から夢魔の亡霊、死霊伯爵、クリバンデットを除外し、ダーク・ネクロフィアを特殊召喚!」
「攻撃力2200ぅ?!」
龍牙は、あの目の動きは攻撃誘導のブラフではなく、「自分がどう動こうと始末できる」という物だったことを悟る。
今まで、彼は狩人だった。レアカードを持っていても使いこなせない子供から、レアカードを奪う狩人。
今や、彼の方が追い詰められ、追い立てられる獲物だった。
「バトルだ!ディアバウンド・カーネルでプレイヤーにダイレクトアタック!螺旋波動!」
「うぎゃあああああああ!」ライフ0
ライフがつきて倒れる龍牙。
そこにスタッフが駆け寄る!
「あ、ああ!い、今すぐ、あのクソガキを拘束」
「龍牙君!ラストターンのあのセリフはどういう事だ!」
「は?」
「君の場には、王宮の勅命や、マジック・キャンセラーといった魔法カードの発動を無効にするカードは無い。にも拘らず、ポルターガイストが発動出来ないと言ったのはどういう事だ!」
「まさか、イカサマをしていたのか!」
「ひ、ひぃえええええ!」
墓穴を掘った事に気付いた龍牙は逃げようとするが、拘束される。
「…これで、龍牙はおしまいだ。刻佑(ときすけ)兄さん、仇は討ったよ。」
彼の兄は龍牙に超レアカード、『M・HEROダーク・ロウ』と『マスク・チェンジ』、『魔宮の賄賂』を没収され、成績不振になり、他の高校へ転校する羽目になった。
彼はそんな兄の仇を討つべく、一子相伝の秘術、降霊術を用いて冥界より「盗賊王バクラ」の魂を一日だけ現世に呼び戻した。
ちなみに死者の魂を呼び出すためには、3か月の準備期間と様々な呪物が必要になる。今回は94万円かかったが、必要経費と割り切った。
今までの政界や財界のお偉方からの依頼による稼ぎがあるとはいえ手痛い出費ではあったが、それに見合うだけの成果は上げられた。
『さぁて、これで俺様との契約は終了だな?』
「そうだね。」
唐突に現世へ一日だけ舞い戻れる、という話に冥界の盗賊王バクラは飛びついた。
3000年前のファラオとの決着はついた。だが、現世で暴れるなら暴れたい。
とりあえず、腹ごしらえをさせろと言った。
そんなバクラに対し、五大院は前金としてTボーンステーキを用意した。自分で焼いたりはしない。
同年代で腕利きの料理人やパティシエと交流があり、こういう時に利用している。
無論食べたのは彼自身だが、食べている時の記憶は一切ない。
「これから、何かしたい事はある?」
『海だ。海を見たい。』
「だったら、行こう。」
バクラは現生にいる間に「パラサイトマインド」で自分の精神体を適当な人物に植え付けようと考えていたが、そもそも千年リングを失った今、邪念を物体や生物に封印する事は出来ない。
こうしている間にも、わかる、わかってしまう。
まもなく、この繋がりが消える。そして再び冥界へ戻ってしまう。
ならば、最後の最後まで精々楽しんでやる。
夕焼けが綺麗な海岸にて。
五大院は傍らに幻影として実体化したバクラの横顔を見つめる。
『…俺様は、かれこれ3000年の間、一つの目的の為に存在してきた。冥界の扉を開き、大邪神ゾークを復活させ、世界を混沌と破壊の楽園に塗り替える。それが俺様の目的。』
「だけど、それは潰えた。」
『ああ、そうだ。なんで気づけなかったのかねぇ…。俺様は。』
バクラは言葉を区切って、呟く。
『器が中身より小さいわけがねぇって事に。』
「君からすれば、最大の宿敵はファラオだった。その周りに居るのは、所詮有象無象。そう思うのは仕方ないし、僕だって君と同じ立場ならそう判断するだろう。」
言葉を区切り、改めて言葉を紡ぐ。
「こういう形で呼び出した人に、僕が言う事がある。」
『あぁ?』
「歴史に『もしも』は無い。あの時ああしていれば、そういう事を君は考えているのだろう。だけど、それは意味がない。」
『まぁ、過ぎちまった訳だからな。』
「違う。」
はっきりと言われ、バクラは自分を呼びだした不遜な降霊術の末裔の眼を見つめる。
「グールズの首領、マリク・イシュタールに協力を仰いでグールズのレアハンターになり、オシリスの天空竜を奪われる前の武藤遊戯とデュエルする。ドーマの長、ダーツに跪いてオレイカルコスの結界を手に入れて武藤遊戯と戦う。そういう選択肢があったとして、君にそれが取れたか?」
そう言われたバクラは、自分がマリクの手先になってグールズのフードを被ったり、オレイカルコスの結界を手に遊戯達と対峙する光景を想像してしまい、嫌悪感を募らせる。
『…ケッ、願い下げだ。』
「そう。調べれば調べるほど、考えれば考えるほど、『なるべくしてなった』と打ちのめされる事になる。仮に不本意ながら、これらの選択を取った場合でも。」
『マリクの奴が三幻神を束ねる。それかダーツが俺様の前に立ちはだかる訳だ。』
フッ、とバクラが俯いて笑う。
ややあって顔を上げると、そこには3000年のしがらみから解放された「盗賊王」の姿があった。
「どうせあと少しで俺様は消えちまう。だったらよぉ…。」
デュエルディスクがその腕に出現する。
「デュエルだ!」
吹っ切れたバクラに対し、五大院は一進一退の攻防を繰り広げる。
互角な理由は、カードパワーの差だ。バトルシティ時代のノーマルカードばかりのバクラに対し、高額なレアカードを可能な限り揃えている事もあり、拮抗した。
だが、ラストターン。
「俺様のターン、ドローカード!永続魔法、凡骨の意地の効果発動だ!人喰い宝石箱!ドロー!邪剣男爵!ドロー!」
引いたカードを見たバクラは大笑いする!
「ヒャハハハハハ!楽しいデュエルだったぜ!このデュエルの礼に、見せてやるぜ!あの武藤遊戯にも、ファラオにも使わなかった、この俺様の真の切札をなぁ!」
「?!」
「儀式魔法発動!闇の支配者との契約、発動!手札かフィールドから合計星8以上になるようにモンスターを生け贄に捧げる!俺様は手札からレベル4の人喰い宝石箱と邪剣男爵を生け贄に、出でよ!闇の支配者-ゾーク!」
「ゾーク?!それが、君の本当の切札…!」
「闇の支配者-ゾークの特殊能力を発動!1ターンに1度、ダイスを振ることができる。」
虚空からバクラが取り出すは、出目がウジャド眼のダイス。
「ダイスの目が1、2の場合、貴様のモンスターを全て破壊、3・4・5の場合、貴様のモンスター1体を破壊。ちなみに6の場合はファンブル、俺様のモンスターが全て破壊されちまうがな。」
「何?!だが、もしも6が出たら、敗北は確定するぞ!」
「ああ、そうだな!貴様の運がこの俺様を超えて居たら、そのときは笑いながら負けてやるぜ!舞え!ダイスロール!」
出た目は。2だった。
「終わったな!スーパークリティカル!これで貴様のモンスターはすべて破壊される!消えやがれ、神・スライム!」
オベリスクの巨神兵を模したスライムが業火に包まれ、消滅する!
「トドメだ!ダークフェノメノン!」
「切札は最後まで取っておくっ!永続罠、リビングデッドの呼び声!蘇れ、神・スライム!これで次のターンに」
「覚えておきな!盗賊王に、罠は通じねぇ。カウンター罠、盗賊の七つ道具!」
「うわぁああああああ!」ライフ0
勝敗が決した後、バクラの姿が消えていく。
「…俺様の勝ちだな。」
「うん…本当に強いね。」
「アバヨ。五大院 秀也…。」
短く言い残し、バクラが消える。
後に残ったのは。
「闇の支配者-ゾーク、闇の支配者との契約と、ウジャド眼のサイコロ…。」
また、宝物が増えた。
実技試験が行われた後日。
退魔師の末裔である黒髪ポニーテールの少女、升ノ内 莉々華(ますのうち りりか)は、友人と向き合っていた。
「兄君に狼藉を働いた教員の風上にも置けぬ男を成敗した以上、進学するのだろう?さみしくなるな…」
「いや、不合格だった。」
その言葉に一瞬驚くも、即座に目つきが冷ややかなものになる。
「呆れた。学園の闇を暴いたことに対する腹いせか。」
「まぁ、そういう理由なら理由で不合格にされるなら、こちらも願い下げだったが、理由に思わず得心が行った。」
「と言うと?」
「替え玉受験に該当する、と。」
珍しく呆けた顔を浮かべた莉々華を、じっと見つめる。
「替え玉…まぁ、冥府の盗賊王の御霊を降霊させてデュエルさせたのだから…」
「そういう事だから、卒業したら家業を継ぐことにする。」
「くだんのカードは?」
「今のところ、おとなしい。」
「…暴れるようなら、また私のところに。」
一度成敗してカードに封印したとはいえ、莉々華は『トラゴエディア』に対する警戒は解いていない。
そんな彼女が警戒しているため、秀也も警戒は継続している。
彼らは知らない。トラゴエディアが『莉々華が生きている間は何もせずおとなしくしておこう』と叩きのめされた事で、心がへし折られている事を。
どうせ一話限りのキャラなので、スペックを盛ってみました。
それにしてもこの主人公、いろんなキャラから「依頼」が来そうな予感…。