推しがメロつくのは解釈不一致です―――俺が相手でも   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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推しがメロつくのは解釈不一致です―――俺が相手でも

 

 

『いや、それはあなたが悪い。セクハラだよ』

 

『えぇぇぇ!? そんな! 俺は全然! そんなつもりはなくてぇ!』

 

『なかったらよけいにきっっしょい』

 

『くすくす、キトラの言う通りですね』

 

『ははは、全くだ。今日も切れ味は健在だね』

 

 モニターの中で少女の辛辣な発言を受けて少年は膝から崩れ落ち、その光景によって周囲から笑い声が上がる。

 

「んふふ」

 

 それを見て、俺もまた思わず頬が緩んでしまった。

 画面に映るアバター同士の会話は動画配信サイトにおいてリアルタイムで配信されているもので、画面の端の時計に目を向けると19時を少し過ぎていた。

 

「急がないとな……」

 

 慌てて食事を口の中に突っ込む。

 ここ数年人気の冷凍食品の宅配サービスはレンジで温めるだけで、結構美味しく、バランスよく栄養が取れるものなので気に入っていた。

 普段なら豊富なバリエーションを楽しむが、今はそれどころではない。

 食べ終わったプラスチックのトレーを片付け、トイレに行き、部屋に戻る。

 自室は、あまり広くはない。

 デスクにはPC、モニターが三つ、録音用のマイク、ショートカットデバイスにヘッドギアがある。

 壁際の小さなディスプレイラックには子供の頃から好きな少年漫画の主人公のフィギュアが一つだけ飾られていた。

 

「えーと……」

 

 会議用のアプリで連絡事項を確認。

 動画サイトのブラウザを閉じようとし、

 

『全く……』

 

 気だるげなため息を吐く少女に一瞬だけ視線が引き寄せられた。

 

「うし」

 

 ブラウザを閉じ、椅子のリクライニングを傾ける。

 両足はオットマンに乗せ、楽な姿勢に。

 部屋の中にあるものでは自作のパソコンに次いで値段の高い高級チェアだ。

 人間工学的に、長時間座っていても体に負担が少ない優れモノ。

 机の上にあるヘッドギアを手に取った。

 ヘットギアというと物々しい響きはあるが、実際はヘッドホンにバイザーが追加されたようなもので重量は軽い。

 それを頭に嵌めつつ、背もたれに体重を預けリラックス。

 息を深く吸い、目を閉じ、

 

「―――――リンク・エンゲージ」

 

 俺の意識は、別の世界へと吸い込まれた。

 

 

 

 

 

 

 目を開ければ、そこはさっきまでの自分の部屋とは全く違う場所だった。

 石造りの工作台とキッチンが併設された作業場、部屋の住みにはロッカーも姿見がある。

 そこに映る俺。

 はっきりいって、モブみたいに地味な姿がある。

 前髪を下ろした黒髪、黒の拳法服は普段通り。

 たまにバグで全然違う姿になっていたりするから、ログイン直後の自分の姿の確認は地味な必須事項だった。

 いつも通りであることを確認し、作業場から出る。

 出た先は、小さな酒場だった。

 バーカウンターとテーブル席が三つ。

 そこに、先程モニターで見た四人がいた。

 

「お疲れ様です、皆さん」

 

 声をかけ、四人の視線が俺の方に向いた。

 それぞれ、様々な装いをしている四人だ。

 

「あ、お疲れ様でーすっタツさん!!」

 

 大きな声で破顔する少年は現代的だが、ライトノベルやアニメにしか出てこなさそうな装飾の多いオレンジ色の制服姿。

 

「こんにちわ、タツ」

 

 柔らかく微笑む青年はあちこちにネオンカラーが輝くSF映画のような迷彩柄のパーカー。

 

「お疲れ様です、タツさん」

 

 背の高い少女は手甲や足甲を装備した豪奢なワンピース。

 そして、もう一人。

 ウルフカットの白髪、白のチャイナドレスに、白の羽織。

 所々に黒の刺繍はあれど、全身白い少女。

 その頭部には虎の耳。

 背は低くスレンダーだが、その白さ故に幼さよりも神秘さを漂わせる美少女。

 彼女はそれまで無表情で、気怠さを全身から表していて、

 

「――――タツさん! 待ってたぁ!」

 

 オクターブ高い声で、一瞬前の無表情が嘘のように破顔した。

 

「……………………みなさん、お疲れ様です。キトラさんも」

 

「もう、さんは着けてなくていいのに。敬語も」

 

「いえ。俺はあくまでサポーターという立場なので……」

 

「えー」

 

 頬ふくらませるキトラは大変可愛らしい。

 スクショを何枚を取りたいが、俺としてはそれどころではなかった。

 あるはずない腹痛と冷や汗が流れを感じていたら、

 

「わはははは! キトラさんそれまぁーだやってんすか!?」

 

 少年が大声で笑い出した。

 

「いくらなんでもメロつきすぎでしょ! どういう――――」

 

 少年の頭にナイフが突き刺さった。

 

「黙れ」

 

 恐るべき速度でキトラがナイフを投げつけたのだ。

 少年は笑った顔のまま固まり、ゆっくりと倒れ、

 

「―――――ああああああ!? 酷い! 俺今日ダウンするの三回目なんですけど!?」

 

 床に倒れ込む行動不能モーションのまま、叫びだけが木霊した。

 それに金髪の少女が呆れたように声を上げる。

 

「三回って、サーバー空いてまだ十分も立ってないですよね。どうやって二回も死ぬんですか」

 

「ログインした時にバグで死んでぇ! 『聖歌隊』に蘇生してもらったら、その『聖歌隊』の人がペガサスの命令ミスって頭から食われてぇ……!」

 

「アホなんですか?」

 

「ははは、流石はテラスくん。波乱万丈だねぇ」

 

 少女はまた呆れてため息を付き、青年は苦笑していた。

 誰も助ける様子はないので、俺も声を掛ける。

 

「テラスさん、『聖歌隊』に救援出しました?」

 

「押忍! ここ来てから死にまくってるのでもう慣れました!」

 

「悲しい慣れだなぁ……」

 

「てかキトラさん、治療費払ってくださいよ! 俺もう金ないんで!」

 

「は? いや」

 

「なぁーんでー!?」

 

 それから数分、動けないヒデを含め、五人で喋っていたら、

 

「こんにちはー、ここってご飯買えますかねー?」

 

「今にも腹減って死にそうで……」

 

 二人組が店の中に入ってくる。

 一人は巫女服の少女。

 もう一人はモヒカンヘアのクマだった。

 比喩ではなく、リアルベアに少しだけ驚いていたら、

 

「こーんにちはー! 今日のおだち……じゃなかった、迷える子羊さんはここですかー!」

 

 バーの外から、そんな声がした。

 窓から見えるのはペガサスから降り立つシスターの女性。

 スタイルがよく、優しそうな雰囲気だが、

 

「今、御駄賃って言ってたねぇ」

 

「げぇー! さっき言った二回もあの守銭奴だったんですけどー!?」

 

「守銭奴、チクっておく」

 

「ちょ、キトラさん!?」

 

「あー、飲食は私が対応しておきますので、ヒデさんは任せます」

 

「よろしくおねがいします、リーゼロッテさん」

 

「えぇ」

 

 金髪の少女、リーゼロッテが巫女服とクマに声を掛け、俺もまた外にいるシスターに視線を戻したら、

 

「あ」

 

 その背後の道路にドラゴンと戦闘機が突っ込んで、大爆発を起こした。

 

「………………」

 

 数秒、全員の動きが止まり、店の外にいたシスターもゆっくりと背後を振り返る。

 かと思えば、爆発の中から叫び声が聞こえてきた。

 

「てめぇこの下手くそがー! お前のせいで俺のタマちゃんが大怪我じゃねぇか!」

 

「はあああああ!? 下手くそはそっちでしょ!? この戦闘機、やっと買えたんだけど! サーバー開いた直後に呑気にお散歩してんじゃないわよ! 蘇生してもらったら覚えて―――あ! そこのシスターさん! 蘇生! 私の蘇生を先にお願いします!」

 

「いや、俺! 俺を先に!」

 

 炎の中から声だけが聞こえてくる。

 それを受けたシスターはにっこりと微笑んだんだろう。

 俺からは見えないが、確信できる。

 

「なるほど! それでは迷える子羊さん、ここは主への信仰が高かった方を先に蘇生しましょう――――えぇ、具体的には治療費で」

 

 即座に通常の蘇生料金を大幅に超えたオークションが始まってしまった。

 

「………………」

 

 なんだかなぁ。

 あまりの急展開に思わず遠い目をしてしまった俺だったが、客の二人も、ダウンしている二人も含め、その場にいる皆は大爆笑。

 そして、

 

「タツさん、タツさん」

 

 キトラが、俺の服の袖をひっぱてきた。

 

「……はい」

 

 その可愛らしい仕草に、しかし俺はなんとも言えない笑顔になってしまう。

 

「今日は、新しいスキルの組み合わせ教えて、ほしい」

 

「えぇ……はい。お付き合いしますよ」

 

「やった」

 

 キトラ。

 大手事務所所属、配信四年目の人気Vtuber、普段は気だるげでダウナーな雰囲気と相手を選ばない毒舌で人気を博す彼女。

 そして――――俺が、初配信から見ている俺の推しが。

 俺、タツのようなゲームの攻略動画を上げるだけの地味な配信者に。

 

「わはははは! またメロついてるよあの人ぐああああああ! 死体撃ちはマナー違反ですよ!?」

 

「黙れ」

 

 配信者たちが集う大規模フルダイブMMOサーバー『ExZ(エグゼ)』。

 どういうわけか、その世界で彼女はやたら俺にメロ付いてくるのであった。

 だが、繰り返すが彼女はダウナーさと毒舌の切れ味で人気を博し、俺自身もそこが彼女の魅力だと思っている。

 

 だからこそ、推しがメロつくのは解釈不一致だ。――――例え、それが俺相手でも。




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