推しがメロつくのは解釈不一致です―――俺が相手でも   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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【MCA】25日目① キトラ、タツ、螺旋階段、ラスボス

 

「う、ぐ、お、お……」

 

 目が覚めてまず感じたのは全身の強張りだった。

『ExZ』最終週にも入ったが、つまり三週間以上毎日八時間近くVR世界にログインしているのだ。

 生活は完全にそちらが主軸になっており、現実世界では必要最低限の日常生活くらいしかしていない。

 それにしても買い物はほとんど宅配サービスを使っているので家から出ることもない。

 あと、何より暑いし。

 

「ぬぅ……」

 

 そうなると、完全に運動不足だった。

 それまでは適度に体を動かしたり、大学に行ったりもしていたがそういうのが無くなっているのだから、当然といえば当然だ。

 

「流石に、拙いか」

 

 なんとかなりそうな気もするが、『ExZ』はもう一週間続くのだから、体調は整えておきたい。

 

「……うし」

 

 意を決して起き上がる。

 まず、諸々の朝の支度を終え、運営にゲーム内の問題点や改善点をチャットで報告。

 ジョブのバランスやゲームシステムの問題点、遭遇したバグ等々。

 それに対する俺の所感。

 その後、外出着に着替え、家を出る。

 向かう先は近くの太極拳教室だった。

 格闘漫画が好きな影響でVRゲームでも格闘キャラを使ってばかりで、そのために小さい頃から色々格闘技を習っていた。

 大学に進学し、地元から出て、近所で見つけたのがその太極拳教室だった。

 大学からの帰り道で、近いのがいい。

 まぁ、他にももっと近代的なジムとかはあるんだが。

 キトラが中国モチーフとか、太極拳もやっているとか、そういう理由もなくもない。

 教室の名の通り、かなり緩いもので大半がお年寄りや主婦の人の健康目的で形を狙っているくらいの、緩いところ。

 講習自体の時間は決まっているが、運動スペース自体は大抵の時間解放されているのがありがたい。

 

「昼間に来るのって久々だな……」

 

 基本的に大学終わりの夕方に体を動かし、家に帰って配信を見たり、編集をしたり、収録をしたり、というのがここ数年のルーティーンだった。

 日中に来たのはこの三年でも数えるほどしかない気がする。

 教室は雑居ビルの二階にあるため、階段を上がろうとし、

 

「っと」

 

 上から足音が聞こえてきた。

 狭い階段だ。

 二人すれ違うのでもギリギリだし、着替えや道着なんかを詰めたカバンがあるとそのすれ違いすらできない。

 だから、足音が聞こえたら通るのを待つというのがこの太極拳教室のマナーだった。

 見上げるのもなんなので、階段の脇でスマホでも弄っていたら、

 

「ーーーー」

 

 降りてきた人物が視界に入る。

 同じマンションの黒髪の美人だった。

 いつも通りの黒いキャップとマスクにスポーツバッグ。

 運動を終わりなのか、わずかに汗ばんでいる。

 

「ーーーー」

 

 互いに、何も言わなかったが目が合い、彼女の瞳が驚きで見開かれる。

 まさか、こんなところで会うとは思っていなかった。

 とりあえず、会釈をすると向こうも会釈をして去っていった。

 

「びびった……ここに通ってたのか」

 

 まさかのニアミスだ。

 近所だからありえないというわけでもないが、

 

「………………ストーカーとかだと思われたらどうしよう」

 

 思わず頭を抱える。

 なんで現実でもこんなことで悩まないといけないんだろう。

 

 

 

 

 

 

「ふわぁ……」

 

 七雲鈴はデスクの前で大きなあくびをした。

 

『寝起き?』

 

 するとスピーカーからキトラの声がする。

 

「えぇ、まぁ……最近はいつもこの時間ですよ」

 

 言葉が鈴のものではなく、リーゼロッテのものなのは、癖だ。

 別に鈴としてでもいいのだが、配信関係相手だと裏でもこういう話し方になっていた。

 時計を見れば午後四時であり、さっき起きたばかり。

『ExZ』が始まってから、元々不安定だった昼夜が完全に逆転してしまっている。

 彼女的には朝食、時間的にはなんともいえない完全栄養食シリアルを口に運びつつ、

 

「正直もうちょっと寝たいですね」

 

『不摂生。私はもう外に出て運動してきた』

 

「バイタルおばけのあなたと一緒にしないでください」

 

 配信時間も長ければ頻度も多いキトラだが、それでいて外出することには嫌いではないらしい。

 むしろ、毎日長時間配信しつつ、近所のジムだとか道場だかに通っているとか。

 どうなっているのだか。

 

『ちゃんとご飯を食べて、適度に運動すればいいだけ。普通。配信者みんな生活終わりすぎだから。リズも今、完全栄養食系食べてるんじゃないの?」

 

「…………」

 

 手元のシリアルを見下ろす。 

 別に悪くない。

 色々種類もあって、一番好きなものを好んで食べている。

 

「…………キトラは何を食べたんですか」

 

『十六穀米とサラダと焼き魚と冷奴とお味噌汁』

 

「くっ……私に悔しがらせるためにあえて理想の食事にしてません?」

 

『ん、バレたか』

 

「キトラ……!」

 

『まぁ、実際そういうの食べてるし』

 

「なんか釈然としないんですよね……」

 

 天はなぜキトラに二物以上を与えたのか。

 対人能力が終わっているにしてもバランスが悪いと思う。

 自分もそういう食事をすれば胸がデカくなるのだろうか。

 もういい歳なんだが。

 

「………………はぁ。もういいですよ。それで、今日やるんですか?」

 

『ん、やる。準備は整った』

 

「炎上する……とはいいませんけど、タツさんが乗りますかね?」

 

『乗ってもらう。乗らせる』

 

 断固たる意思だった。

 鈴はため息を吐く。

 こうなってしまった彼女は止まらないし、彼女の思惑通りに手筈は整っている。

 彼女の言う通り、あとはやるだけだ。

 乗りかかった船だ。

 

『タツさんにはーーーーー責任を取ってもらう』

 

「その言い方は絶対炎上しますよ」

 

 

 

 

 

 

 

「よぉー、邪魔するぜぇ」

 

「お邪魔するなら帰ってやー、ってな」

 

 その日、『MCA』の助っ人依頼は久しぶりに空白で、五人でチルをするなり、街に遊びに行こうかと話していた。

 そんな時に二人が来た。

 一人は先輩こと『騎士団』のハクビ。

 そしてもう一人は、

 

「よぉ、タツ。実際に顔合わせすんのは、四年ぶりか?」

 

「シリウスさん。お久しぶりですね」

 

 海賊の衣装に身を包み、黒い眼帯の男性。

 全身各所に金銀宝石様々なアクセサリーを着けまくった派手な男。

 シリウス。

 個人勢の元プロゲーマーストリーマー。

『ExZ』においては『魔王軍』のサポーター、つまりは『ユニトロ持ち』で、

 

「まー、前会った時は俺ァボコボコにされたからなぁ!」

 

「いや、語弊がありますよね」

 

 高校生の時に参加した『OLS』のプロ大会、その時に準決勝で戦い、勝った相手。

 勝ったとはいえ、ボコボコなんてことはなくギリギリの勝利だった。

 

「他の面子はちょいちょい会ったり、すれ違ったりしてんな。ちょこちょこうちのハザマが世話になってるらしいじゃん? ま、改めてよろしく頼むぜ。あんま助っ人頼んだりしてなかったけどよ」

 

「うちの『騎士団』は世話になりっぱなしやなー」

 

「はっ、部下の教育がなってないんじゃねぇの?」

 

「頭が出ずっぱりじゃ、部下の成長に繋がらんからなぁ」

 

 ハクビとシリウスが目を合わせ、火花を散らし合う。

 プロゲーマーとして様々な大会として活躍していた頃からライバルだった二人だ。

 今回、『魔王軍』と『騎士団』という敵対関係のサポーターであり、リーダーでもあるのだから、対抗意識はより強まっているらしい。

 

「タツ、タツ。あれやってくれないのかい?」

 

「何がですか」

 

「『クロスハート』……! みたいな」

 

「やりません」

 

「おっ、いいねぇ。やり直すかーーーーよぉ、『黒龍』! 『スカルハート』様が会いに来てやったぜ!」

 

「『雷獣』もおるでー!」

 

 散らしていた火花はどこへ行ったのか、二人が肩を組んでふざけはじめた。

 めんどくさい。

 テラスたちも「おー」とか喜ぶんじゃない。

 

「ん、『スカルハート』も『雷獣』も『黒龍』には及ばない」

 

 キトラもドヤってるんじゃない。

 

「はっ、楽しんでるなぁトラちゃんよ」

 

「そうなんよなぁ、後輩の旅立ちにお姉ちゃんさみしいで……」

 

「だっる……」

 

 仲良いのかよ。

 ちょっと逃げ出そうと思ったが、それを察したのかリーゼロッテが苦笑しつつ、二人に問いかける。

 

「それで? お二方揃って、どういう状況で? 食べ物や飲み物でも?」

 

「おっ、それは後で買うぜ。けどまぁ、わりとマジな話、『MCA』に依頼があってよ」

 

「依頼、ですか? タツさんは今日はなんの予定もないと聞いてましたが」

 

「緊急の依頼ってやつは緊急に起きるもんだからな」

 

 基本的に『MCA』の依頼は二通りだ。

 そもそもの各人のスケジュールから生まれる欠員を見越して、事前にゲーム内外で俺に連絡が来る場合。

 もう一つは当日、体調不良やスケジュール調整から生じた突発的な欠員補充によってゲーム内での依頼が来る場合。

 割合としては、七三くらいだろうか。

 つまり、

 

「ミッションをやる上で、誰か欠員でも?」

 

「そうなんよなー。それもうちの騎士団と、こいつの『魔王軍』とで、それぞれ出ちゃってなぁ」

 

「ほら、くりいも姉妹いるだろ? あいつら揃って食当りになっちまってな」

 

 二日目に遭遇し、その後もちょこちょこ会った二人組を思い出す。

 あの二人もお騒がせな方で、眼の前で餓死したり、ミッションで尻拭いをしたものだ。

 だが、それにしても、

 

「あれ? あの二人って騎士団じゃなかったんすか?」

 

「姉の方がちょっと前に『騎士団』裏切って『魔王軍』になったぜ」

 

「わははは! やるとは思っていたけど!」

 

 そうだったんだ……。

 まぁ俺達は助っ人で色んなジョブをやっているが、人によってはジョブを変えることもあるだろう。

 

「そもそもあの子、ちょこちょこ捕まえた『魔王軍』の子、金と引き換えに逃がしたりしててなぁ」

 

「汚職じゃないのかい、それ」

 

「超汚職やで」

 

「ん、栗乃、中々やる」

 

「ま、なんであれだ。ともかく、メンバーが欠けたわけなんだけどよ。俺達、『螺旋階段』のミッションをやろうと思ってたんだな、これが」

 

 

 

 

 

 

「『螺旋階段』? なんすかそれ」

 

「ミッションの名前ですね」

 

 テラスの問いに応え、全員の視線が俺に集まる。

 知っている者もいるだろうが、リスナーに対しても説明をするべきだろう。

 シリウスもハクビも、どうぞどうぞと平手を向けているし。 

『螺旋階段』。

 久しぶりに聞いた名前だ。

 

「ミッションは色々あるけど、その中でもちょっと特殊なやつですね。街の地下に繋がる螺旋階段があるんです。その下が地脈の溜まり場になってるので、そこで手に入る宝石を換金するとかなりの金額になったり、武器の素材になったり、『OLS』でもシナリオ上重要な場所だったりします」

 

 このあたりは『祭壇儀式』と似たようなもの。

 そのグレードアップ版だ。

 

「で、この『螺旋階段』っていうのは二重螺旋上の階段になってるんですね、それが降りる途中で何箇所かぶつかって広場になっています。ミッションとしては『騎士団』と『魔王軍』がそれぞれ同時に階段を降り始めて、戦闘をしつつ、先に下に降りた方が勝ちって感じです」

 

「タイムアタック対決、ってことでしょうか」

 

「言ってみればそういう感じです」

 

「説明ご苦労。で、俺とハクビはそこでちょっとしたイベントやろうと思ってたんだよな。それぞれ五人ずつ、ある程度戦闘スキル上げてるやつだして、ガチバトル、みてぇなとこだ。『ExZ』じゃ、ミッション中のバトルはあっても、『OLS』らしいスキルを駆使したバトルって起きにくいからな」

 

「こうしてみんなでサーバーコラボらしく楽しむのもええけど、このゲームはやっぱ戦闘がメインやったからね、そこをプレイヤーにもリスナーにも楽しんでほしいわけや」

 

「へぇ……」

 

 流石、というか素晴らしい心がけだ。

 自分のことで手一杯となっていた俺とはわけが違う。

 しかし、今の話で欠員が出たとなると……

 

「欠けたメンツの穴埋めを、タツに頼みたいんよ」

 

 やはり、そうなるわけだ。

 

「いや……俺以外にもいるでしょ。そもそも俺、『ExZ』であんまり戦闘してないんで、スキル上げ全然してないですよ」

 

 これは本当の話。

 ミッションの助っ人では他の『騎士団』や『魔王軍』に合わせて、支給品の剣や銃を使っていて、セットされた五つのスキル上げは全くしていない。

 それ以外では『MCA』メンツのトレーニングに付き合ってるくらいだ。

 だが、俺の言葉をシリウスが鼻で笑う。

 

「はっ、冗談だろ? ()()()()()()()()()()()()()

 

「………………」

 

「おっ、なんだい? 意味深な会話だね。上位プレイヤーにだけ伝わる裏技とかあるのかい?」

 

「そんな感じですけど、まぁそれはまた今度で。それにしたって、俺である意味があるんです?」

 

「そもそもくりいもは姉妹対決っていう名目やったんよね。あの二人は元々お騒がせ姉妹で、片方が裏切ったりもしたから、その上でのバトルならおもろいやろ? ただなぁ」

 

「そのおもしろマッチ以外だとな? ちょい物足りないつーか」

 

「はぁ……」

 

「だったら逆にもっとマジなやつを見せるかって話でよ、そういうことならタツ、お前しかいないだろ?」

 

「うーん……」

 

「いいじゃないですか、タツさん。やってみれば。あなたなら問題ないように思いますけど」

 

「たしかにね。僕も真面目にタツが戦うところ見てみたいよ」

 

「つーか! マジバトルってことならタツさんいなかったら拍子抜けなんじゃないすか!?」

 

 リーゼロッテ、ウェザリ、テラスが勧めてくれるが、

 

「いやでも俺、そうやって派手なことをするのは……サポーターだし、配信者でもないですし……」

 

 サポーターというならハクビやシリウスもそうだけれど。

 俺は配信者ではないし、人前に出るような人間でもない。

 みんなのドラマを作る手伝いをする人間だ。

 そこで、俺が前に出るのは違う。

 

「マジでお前配信してないのか? アホなの?」

 

「この三週間ずっと言われてますけど本当です」

 

「どうかしとるで。ウェザリぃ、その時のやり取りの切り抜き、よう伸びとるみたいやね。ちょっとはタツに還元したりよ」

 

「いやぁ、お陰様で。頑張っているよ」

 

「………………」

 

 切り抜き関係はスルーして。

 

「じゃーほら、キトラさんとテラスくんとかでもいいんじゃないですか? この二人は結構上手ですよ」

 

「は? いやだけど」

 

「だはははは! そう言うと思いました!」

 

 キトラは見慣れたやり取りを行い、

 

「いいじゃん。やれば」

 

「……」

 

 じぃ、と俺を見つめてくる。

 

「私、見たいなぁ。タツさんが全力で戦うところ」

 

「…………くっ」

 

 意味不明な距離感の近さとか。

 やたらよってきたりしたりとか。

 解釈不一致な様を見せてきた推しだけれど。

 自分でもだいぶ慣れてきて塩対応しているなぁと思ったけれど。

 それはそれとして、やっぱり彼女は俺の推しなわけで。

 

「………………先輩とシリウスさんも、出るんですよね?」

 

「そりゃもちろん。つーか、『スカルハート』VS『雷獣』が今回のメインイベントだぜ?」

 

「………………出るとしたら誰と戦うんですか?」

 

「タツが受けてくれるか次第やったから確定やないけど、『騎士団』か『魔王軍』で腕の立つやつを誰か選ぶって感じやな」

 

「………………うーむ」

 

「タツさぁん」

 

「くっ………………わかりましたよ」

 

 結局のところ。

 推しの希望は叶えないと思ってしまう、チョロいオタクなのだった。

 

 

 

 

 

 

 ミッション『螺旋階段』。

 二勢力によるタイムアタックバトル。

 今回はそれを利用したバトルイベント。

 五対五の相対形式でまんまと参加することになってしまった俺は、階段をゆっくりと駆け下りながらため息を吐く。

 タイムアタックンなのに、だらだらと歩く理由は一つだ。

 

「結局相手見つからねーのかよ」

 

 言葉にするとアホっぽいが、そういうことだ。

 いや、無理もないと思う。

 当日、急遽な人材募集だ。

 見つからないこともあるだろう。

 目立ちたくないという俺の方向性にも適している。

 ただ、まぁちょっと不完全燃焼というだけ。

 

「イベントとして大丈夫なのか……?」

 

 降りていく階段の先、もう少しで最下層にたどり着く。

 そこはかなり広い空間となっており、床全体が薄く発光していて神秘的だった。

 そんな場所で戦えばかなり映像が映えただろに、ハクビとシリウスはその前の階層で戦い始めてしまった。

 

『わりぃわりぃ! 相手見つかんなかったから、先進んでくんね? 進むだけだからよ!』

 

『かんにんなぁタツ! こういうこともある! というわけで一番下まで行ってミッション終わらせてくれるだけでええから!』

 

『てーわけで、行くぜぇ『雷獣』!』

 

『来いやぁ、『スカルハート』!』

 

 などと、俺の相手もそこそこに、テンション高めではしゃいでいた。

 

「はぁ……まぁいいけどさ」

 

 再度ため息を吐きつつ、地下への道を進んでいく。

 まぁ、さっさと下にいって、報酬だけ貰って、フェードアウトすればいいだろう。

 結局、ほとんどエキシビションマッチなので、タイムアタックよりもバトルアクションをリスナーや他のプレイヤーに見せることに意義があるのだ。

 その点でいえば、不戦勝になってしまうのが俺でよかったのかもしれない。

 配信もしない、配信者でもない俺ならば。

 

「ふむ」

 

 みんなのドラマをサポートしていると思えば、悪くない気もしていた。

 

「とっと終わらせるか」

 

 気を取り直して、階段を降り続け、最下層にたどり着き。

 

「ん、遅かったね」

 

 待ち構えていたキトラと遭遇した。

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーあぁ?」

 

 足元が静かに光る広大な地下空間。

 右手には大きな祭壇がり、俺が降りてきた階段の正面に、もう一つの階段があった。

 そこで、キトラが佇んでいた。

 いつも通りの白の中華風衣装、両手にはナックルガード付きの短剣二刀。

 

「なにを……してるんですか?」

 

「ドッキリー。いぇい、びっくりした?」

 

 短剣を握った両手でピースをしてくるのは可愛いが、意味がわからない。

 

「…………助っ人呼ばれたら何も出来なかった間抜けの面を拝もう的な?」

 

「いや、そんないじめみたいなことしないよ。普通に人としてどうかと思う」

 

「あ、はい。……え? じゃあなんですか?」

 

「シンプルに。私が、タツさんと戦う」

 

「………………なんで?」

 

「元々五対五でしょ? 不戦勝はおもしろくない」

 

「………………???」

 

 理解が及ばない。

 不戦勝が面白くないのはわかる。

 だけど、なんでキトラがいるのか。

 ドッキリ、ということは、

 

「そもそも、ハクビとシリウスはタツさんの相手探してもない。最初から私が相手の予定だったから」

 

「はぁ?」

 

「というか、このイベント自体私考案。タツさんと戦いたかったし。他の四人も一応戦ってるけど、ここがメイン。街のあちこちでライブビューイングもやってる」

 

「はぁ!?」

 

 何を言っているんだこいつ。

 

「ちょ、シリウスさん? どういうことですかこれ」

 

 今回のミッションのために無線で繋いでいたシリウスに叫ぶが、

 

「あ、無視か!?」

 

 何も返ってこなかった。

 というか、ライブビューイング?

 え、これみんな見てるの?

 何十人といるプレイヤーとそのリスナー何万、何十万人が?

 

「なんでって言えば」

 

 戸惑い、驚く俺を前に、キトラは語りかけてくる。

 

「まぁ、お礼、的な? タツさんはずっとサポートに徹してくれていた。私達『MCA』の、この『ExZ』の街を。だから、一回くらいタツさんに活躍してほしいなって」

 

「キトラさん……」

 

「そう持ちかけたら、リズやウェザリにテラス、シリウスもハクビももちろんって受け入れてくれた」

 

「それは……」

 

 それは、正直うれしい。

 胸から込み上げてくるものだがあった。

 

「ーーーーまぁ、それは半分くらいなんだけど」

 

「ん?」

 

 込み上げていたものがスンッと抜けた。

 半分? 

 

「…………もう半分は?」

 

「私はね、タツさん」

 

 じぃっ、と彼女は俺をまっすぐに見つめてくる。

 

「『ExZ』始まってからタツさんにメロってたのは、理由があったんだ」

 

「あ、はい」

 

「ん。まぁ私の完璧な演技力に違和感は感じなかっただろうけど」

 

「…………」

 

 違和感しかなかったが、ひとまず置いておく。

 あの行動に意味があるなら、聞いておきたい。

 

「ただ、タツさんのファンっていうのは本当。ーーー四年前、タツさんがプロ大会に出て優勝した時から」

 

「……えっ」

 

 そんな、時から? 

 いや、『ExZ』が始まってから、あの時の話を持ち出されることは多かったし、ゲーマーが多いから見ている人も多かったけれど。

 確か、キトラがデビューするちょっと前だった気がするがーーー

 

「だから、『ExZ』で一緒にゲームができるって聞いて、嬉しかった。動画もずっと見てたし、サブ垢でコメントとかしてたし」

 

「は?」

 

「だから、すごく楽しみにしていた。タツさんのプレイを間近で見れるのが。ーーーなのに」

 

 彼女の目が細められる。

 ただ見つめるのではなく、睨みつけるような眼光。

 

「あなたは、ずっと、私達のサポートに回っていて、本気を出すことがなかった」

 

「それは……」

 

「そう、それがあなたの仕事。みんなのサポート。でも、誰も、うちの社長だって、配信すらしないで裏方に徹するなんて思ってなかった。もちろん、それがあなたのスタイルというなら誰も否定できない」

 

 だけど、と彼女は瞳に強い光を宿す。

 

「私は、本気のあなたと戦いたい。せっかく憧れの人と出会えたのに、生ぬるい模擬戦だけで終わらせるなんて耐えられない」

 

「……………………あぁ、まじかよ」

 

 その行動理由を、俺は知っている。

 彼女が推しだから。

 キトラの配信をずっと見ているから。

 元々高難易度のアクションゲームでボスと戦うまで永遠と繰り返す子だ。

 

「この街はドラマを作る。だったらーーーー()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ねぇ、と彼女はとろけるように微笑んだ。

 

「推しが手を抜いているのは解釈不一致。私が相手なら、なおさらね」

 

 

 




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