推しがメロつくのは解釈不一致です―――俺が相手でも 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
ワンボックスカーの車体が揺れつつ、進んでいく。
「ウェザリさぁん! 大丈夫すかこれぇ!」
「安心してくれ。僕のドライビングテクニックを、レース練習中に八回事故で死んだ」
「急に不安になること言わないでください! はい、タツ、キトラ、頼みましたよ!」
「ん、タイタニックに乗ったつもりで任せてほしい」
リズからキトラと共に銃を貰いつつ、
「それ、沈むよな?」
我ながら定番すぎる突っ込みをする。
そうすると、隣の彼女はどこか得意げな顔をして、
「沈んでも、きっと楽しいよ」
「…………だな」
「ちょっとそこぉ! なんか良い感じ出してないでよろしくお願いしますよっ!」
「あーはいはい、テラスこそ、人質頼むぞ」
「下手打ったら私が殺す」
肩をすくめ、バンの扉を開けた。
「うおおおおあいつら止めろおおおお!」
「行かせるなーっ!」
「撃ち殺せ……っ!」
「舐めやがって……ぶっ殺してやるでガス!!」
途端に、あちこちから怨嗟の叫びが聞こえてくる。
殺意に満ちた怒号に紛れて銃弾や魔法なんかも飛んで来ていた。
『騎士団』だ。
そして、
「ーーー全員ぶっ殺す」
「派手に行きましょう」
「僕も一回やってみたかったんだよね」
「やったりまっせー!」
「行くぜーーー今まであれやこれやパシらされた恨みを晴らす!」
『ExZ』最終日。
俺達『MCA』は、『騎士団』に襲撃という『ExZ』内ルールでわりと重い犯罪を行っていた。
バンの扉を開けた俺とキトラが身を乗り出し、手にしたショットガンとアサルトライフルを騎士団員たちに連射していく。
「うわ、キトタツだーーーーミッションのチュートリアルありがとうございました!」
「いやタツキトだろーーーースキルセットの相談とかありがとうございました!」
「龍虎って呼びなさいよ、風情がないわねぇーーーー人いなくて不安な時に助っ人ありがとうございました!」
「お姉ちゃんがご迷惑をおかけしましたーー!」
「こちらこそ、頼ってくれてありがとう!」
感謝の言葉を受け取りながらも銃を打ち、ダウンさせていく。
その間も車は進んでいき、騎士団の本部である『王城』の中に飛び込んで、
「テラス!」
「うっす! 任せてくだせぇ! ーーーーおーいあんたら! よく見ろぉー!」
待ち構えていた騎士団の本隊の前に車が停止し、中にいたテラスが車外に飛び出す。
「あーん!? なんやーーー……」
集団の先頭にいたハクビの声が小さいくなっていった理由は明白だ。
テラスが抱えていた人物。
それは、
「やっほー! みんなー! 待ったかー!? みんなのアイドル、セイちゃんだぞよー! 『ExZ』楽しんでたかー!?」
金髪ツインテールにピンク色のドレスの少女。
『ENCOUNT』の社長、原誠一郎ことセイちゃんだった。
彼というか彼女は手錠で繫れ、身動きが取れない状態になっている。
「見ての通り妾が人質じゃ! そういうわけで、『騎士団』として妾の身の安全を確保しつつ、良い感じに『MCA』の連中を逮捕しておくれ!」
「なるほどなぁ! 分かったでセイちゃん!」
「おぉ!」
先輩はにっこり笑って、『騎士団』の仲間たちに振り返り、
「全火力集中ー!」
「なんじゃとおおおおおおお!?」
大量の魔法がぶっ放された。
●
三十分後、俺達『MCA』とついでにセイちゃんは揃って『王城』前でダウンしていた。
「うーむ、いくらタツがいても五人じゃ無理だったか」
「あっはっは! でも楽しかったすねぇ!」
「リズ、ちょっと動いてくれない? 私、タツさんの隣がいいんだけど」
「ダウンしてるのに動けるわけないでしょうが」
「いやー、暴れた暴れた」
「暴れすぎやで、ほんま」
からからと笑うのはハクビで、
「うぇぇぇい!! 雑魚どもが! 数の有利に勝てると思うなよ! ひゃはははは!」
隣で中指立てて小躍りして煽っているのはシリウスだった。
襲撃中、急に現れて『騎士団』の援護をしてきたのが『魔王軍』の彼らだ。
本来敵対していた陣営だが、最終日ということもあって、みんな好き勝手動いている。
というか『聖歌隊』やら『飲食』やら『鍛冶』やら、これまで平穏に生きていた人たちが最終日だからとはっちゃけてミッションやら犯罪やらやり始めているので、『魔王軍』も『騎士団』と協力していたのだが。
「やりたい放題やってくれましたね、シリウスさん」
「いやおめーらに言われたくねぇよ。ジョブ切り替えまくって蘇生も武器の修理もなんもかんも五人で回しやがって」
「そこはまー、助っ人チームの面目躍如ということで」
基本的に『ExZ』では一つのジョブにしか着けないのだが。
俺達『MCA』は助っ人ジョブなので全てのジョブに着くことができた。
だから、戦闘中もジョブを切り替えまくって、ダウンしてもその場で蘇生したりとかしてゾンビアタックをしていたのだった。
セイちゃんは途中で放置されて、端っこでダウンしている。
「ぬぅ……ハクビやシリウスも斃したかったのに……」
「あほか。トラ嬢はタツ相手限定な? タツ以外だとせいぜいちょっと上手いなくらいだから」
「どうしようタツさん、私、タツさん専用だって」
「先輩、さっさと刑務所送るなりなんなりしてください」
「というか私を挟んでいちゃつかないでほしいんですが」
「なっはっは! はいはい、最終日なんで刑務所送りとかは無し! 『聖歌隊』来たら蘇生してもらうで! 悪いけど、みんなあっちこっちで暴れまくって『騎士団』も大変なんやから!』
言い切ったハクビは、数歩進んで立ち去ろうとし、振り返った。
「なぁ、タツ」
「はい?」
「参加してよかったやろ?」
「…………ですね」
●
「それじゃあみなさん並んでくださーい」
『騎士団』襲撃という最後のはっちゃけを終えた後、雇ってくれたあちこちの店や組織に挨拶周りをしてきた。
どこも最終日ということでお祭りムードだったが、俺達もそれは同じだ。
「記念写真、いいっすね! 最終日つーか青春ぽくて!」
「青春か……僕には懐かしい響きだよ……」
「何言ってるんすか! 青春って感じたときが青春っすよ!」
「うおっ……まぶしっ……」
「ちょっと、テラス、ウェザリ、遊んでないで速く並んで」
「………………キトラさんに怒られるの、情けなくて死にたくなりそうっすね」
「うむ……」
「お望み通りにしてあげようか」
「はい! はい! 今からダウンしたら面倒でしょうが! 速く並んでください! …………ちょっとタツ、隅っこに行こうとしない! あなたが真ん中です!」
「えぇ……ちょっとそういうのは……」
「今更何を言ってるんですか!」
「ん、じゃあ私はタツさんの隣」
「じゃー俺もタツさんの隣で!」
「は?」
「いやそこキレられたら俺端っこなんすけど」
「私が分身するしかないか……」
「こわっ……」
「じゃあ僕はテラスの隣に行くとして、リズはキトラの隣でいいかな」
「えぇ、それじゃあセルフィー起動するんで五秒後に取りますわよー」
五人が並ぶ。
テラスはいつも通り楽しそうに破顔して。
ウェザリは首に手を当てて微笑んで。
リズは柔らかく微笑んで。
「ん!」
「あー!?」
キトラが急に俺の腕に組み付いてきて。
俺は推しとの接触に思わず叫びつつ飛び上がって。
カシャリ、と写真を取る音がした。
そうして。
俺の『ExZ』は終了した。
●
「つっかれたぁぁぁ……」
『ExZ』が終わり、ログアウトした後も仕事が終わったわけではなかった。
プレイヤーとしてではなく、サポーターとしての様々フィードバックを運営に送信し、VR空間内でのミーティングを終えたのが次の日。
全てが終わったわけではないが、一先ず一段落。
さらに次の日の朝、俺はベッドの上でただただ呆けていた。
「濃かったな」
時間にすれば一ヶ月。
長いようで短い日々。
だけど、どうしようもなく濃密だった。
「………………いや、すぐ大学が始まるんだよな」
『ExZ』が夏休みの企画なので、『ExZ』が終われば当然夏休みも終わる。
夏休みが終われば大学が始まる。
単純な理屈だが、気が重い。
四年生なので、大半の授業に出る必要はないのだが、そこはまぁ気分だ。
「まともな大学生活を取り戻すか……」
ベッドから起き上がり、部屋の掃除をしたり、日用品のストックを確認してネット通販で注文、髪が伸ばしっぱなしになっていたので美容院の予約なんかをして過ごす。
ちょうど昼に予約できたので、久しぶりに昼を外食にしつつ、髪を切って、ついでなので通販で注文し忘れていた雑貨なんかを薬局に行って買ったりして、
「あっつ……」
当然のように汗だくになっていた。
8月終わり、夏の盛り。
まだまだ夏は続くのだろう。
髪を切って、さっぱりできたのだけが救いだった。
汗を拭いつつ、マンションのロビーに戻って、
「ーーー」
一週間ぶりに、黒髪の隣人と鉢合わせた。
いつも通り、黒いキャップにマスク。
軽い会釈だけをして、視線を合わせないようにさっさと通り過ぎることにする。
すれ違い、ロビーの奥のエレベーターに乗り込む。
「ねぇ」
背後から声をかけられた。
初めて聞く女性の声。
「ーーーーー」
だけど、その声を、俺は、知っていた。
●
俺が振り返ると、彼女は一度ロビーの玄関ドアまで行ったところから戻って来るところだった。
ほんの数歩だ。
ただ、歩いているだけ。
「ーーーはっ」
だが、その数歩だけで十分で、思わず笑ってしまう。
向こうはもっと前から気づいていたのだろうか。
ここ数年なんどかすれ違うと、俺の方から見ないように気をつけていたが、向こうは違うのかもしれない。
彼女は帽子とマスクを外し、軽く頭を振る。
青のインナーカラーの入った長い黒髪が揺れた。
分かってはいたが、かわいいというより、綺麗な顔立ちだ。
鋭い瞳はまっすぐに向けられて、
「
「…………日野巽」
「ふぅん。なるほど、巽」
彼女は小さく首を傾けて、
「次は?」
ただ、一言そう言った。
シンプルな言葉に、俺は思わず苦笑しつつ、答える。
「この後すぐだよ」
エレベーターのボタンを押した。
●
「ふぅ……はぁ……」
VRアクションゲーム『ドラグーンバスター:ビッグバン』の中、ファンタジー風の酒場ロビーで俺は呼吸を整えた。
数度繰り返した後、指を振ってウィンドウを展開し、操作を行う。
咳払いをし、
「えーと、あー……どうも? これ、流れてるのか? ……あ、コメント表示しないとか。あー、えー」
あーとかえーとか言いすぎだろ、と自分に突っ込みつつ、ウィンドウを操作し、コメント表示ボタンをタップする。
すると、
(COMMENT)
・きちゃー
・見えてるぞー
・初見です
・ついにあのタツが配信とはな……
・初見だけど初見じゃないです
視界の端に、視聴者のコメントが流れ始めた。
「お、おぉ……こんにちは……はじめまして? タツです。今日は、あー、はい。配信ってやつを初めてやってみようかと思います。来てくれてありがとうございます」
(COMMENT)
・ガチガチで草
・ExZであんなに暴れてたのに
・かわいいね
・がんばれー
「うす。ありがとうございます。まぁ、その、長いこと動画専門だったんですけど、この前の『ExZ』がすっげー楽しかったんで、ちょっとやってみようかな? って思ったわけです」
(COMMENT)
・最高だったよ
・第二回待ってます。今度は最初からプレイヤーで
・タツぅ……
・最後のキトタツの切り抜き、死ぬほど伸びてるからな
「うぅ……ちょっとあの時の切り抜きはスルーで……思い返すとはしゃぎすぎてだいぶ恥ずかしい。こほん、ともかく、せっかく配信するんで、視聴者参加型でクエスト回していきたいと思います。今からロビーコード貼るんで、参加出来る方からどんどん入ってきてください。一旦三人ずつ入れ替わる感じで。あとまぁ、こっちの設定で皆さんはボイチャオフにするので意思疎通はゲーム内チャットかエモートでお願いします」
基本的に、四人のメンバーでクエストに挑んでモンスターを倒すのがこのゲームだ。
もっと何十人とロビーに集めてる設定もできるが、そんなに人が来てくれるか不安なので一先ず三人にしておく。
早速ロビーコードを貼ると、
「お、もう来てくれる人がーーーー」
普通にキトラが入ってきた。
(COMMENT)
・草
・で、でたー!
「ってあんたかい!?」
やっ、という風に手を掲げるキトラ。
そのボイス設定を操作し、彼女のボイスチャットを解放する。
「おっ。やっ、タツさん」
「何してんの!?」
「この後すぐって言ってたから」
「あ、ぬっ……それは!」
なんかさっき良い感じに意味深なやり取りしたんだから言わなくて良いだろ! とは流石に言えない。
(COMMENT)
・SNSでこのあと配信しますって言ってたあれか?
・キトラ、タツのネトスト説やはり正しく……
・タツもお嬢の十時間モード一見で看破してたからリスナー説もあり……
・心のてぇてぇ見届人が荒ぶってしまう……
「私のことは気にせずに、普通に1クエやったら抜けてまた普通に入り直すから」
「あぁ、そう……」
好き勝手しすぎだろこいつ。
もはや気にしすぎても仕方ないと思いつつ、他の参加者二人にも軽く挨拶をする。
流石に一般リスナーのようだが、なんか二人共こっちを拝んでいた。
勘弁してほしい。
(COMMENT)
・おもろ
・リーゼロッテ:キトラ、後で話があります
・ママじゃん
・ウェザリ:いいね、僕も後で入ろうかな
・天原テラス:俺も俺もー!
・みんなよう見とる
・『MCA』みんないて草
「おぉう……なんか凄いことになってる……」
「配信なんてこんなもの。学ぶと良いよ、後輩」
キトラがぽん、と肩を叩いてくる。
あんまり近づいたり触ったりしないで欲しい。
びっくりしちゃう。
「……まぁいいや」
何にしても。
やることは変わらない。
「んじゃ、みんなでゲームしますか」
以上完結です
VCRGTA、ストグラはいいぞ