推しがメロつくのは解釈不一致です―――俺が相手でも 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
俺、日野巽が『タツ』というプレイヤーネームを使って、あるゲームのプロ大会で優勝したのは三年前のことだった。
二十一世紀も後半に差し掛かり、多くの発展が生み出された。
その中で、俺の人生で関わりが深かったのはゲーム、特にVRの分野だった。
俺が生まれてすぐの頃、世界初のフルダイブ型VRゲーム機『マトリクス』が発売された。
それまでのVRゴーグルとVR用コントローラのセットやVRスーツを使ったものではなく、ヘッドギアを装備するだけで意識のみを電脳空間に移行する技術は、文字通り革命だったという。
両親が二人揃ってゲーマーで、ゲームを通じて知り合ったということで、物心付いた時には『マトリクス』を使ってフルダイブゲームで遊んでいた。
結果的にどうなったかといえば、人生の大半をフルダイブで過ごす子供が出来上がったわけである。
中学高校でもEスポーツゲーム部に所属し、全国大会なんかにもでたりして。
高校二年の時はそのままインターハイで優勝してしまって。
高校三年の時、背伸びして出場したプロの大会でも優勝してしまったりもした。
本来ならばそのままプロデビューなんぞする未来もあったのだろうが―――俺は、それを選ばなかった。
いささか自意識過剰かもしれないが、目立ちすぎてしまったのだ。
アマチュアの高校生がプロの大会に殴り込んで優勝、というのはキャッチーな話で、ゲーム界隈は盛り上がった。盛り上がりすぎた。
ほんの一ヶ月ほどだが、極めて高度に情報化された社会ではプライバシーなんてものはなく、インターネットの様々なところで話の種にされたり、妙なDMが届いたり、対戦で倒した相手プロからの誹謗中傷が届いたり。
それは、高校生の俺にとって未知の世界であり、初めて触れた無作為の悪意だった。
精神的に参ってしまった俺は、一時的にゲームを引退し、代わりというべきか大学受験に挑むことになった。
元々、プロ大会は引退試合のつもりで、その後は受験勉強に専念するつもりだったので、予定通りとも言える。
そんなこんなで普通に大学に進学し、だけどゲームをやめることはできなかった。
結局のところ、トラウマにはなったゲームが好きなのは変わらないし、自分に向いているという自覚もあった。
ただ、プロの世界に参加するのも怖かった。
友人のアドバイスもありつつ選んだのは動画配信サイトで好きなゲームの攻略動画を上げるということだ。
正直、目立つようなチャンネルでもない。
だが、高校生でプロ大会優勝という経歴のおかげか、そこそこの注目度を浴び―――チャンネル立ち上げ時も厄介な輩はいたが、一月もすれば忘れられていた―――そこそこの再生数と収益を得られるようになった。
ありがたいことにチャンネル発足当時から応援してくれる視聴者もいて。
大学も三年になり、そろそろ就職を考えつつ、しかしなんとか動画配信だけで生活できないかなぁと思っていた夏。
一通のメールが、俺の元に届いた。
●
「うーむ……」
サブモニターに映るメールに、俺は腕を組み唸りを上げた。
我がチャンネル『タツちゃんねる』にしては珍しい、企業からの案件メールだった。
企業は拡散力のある配信者に商品のプロモーションを依頼し、配信者はその商品に関するライブだったり動画を配信するという、よくあるやつだ。
うちのチャンネルで来る案件といえば新作ゲームだったり、ゲーム用の周辺機器、あるいはゲーム中に手軽食べられる食品の紹介等この数年何度かやらせてもらっている。
頻度としては多くないが、なくもない、という塩梅。
だが、今回貰ったメールはそれまで受けたのは違った。
「『ENCOUNT』と『ZEVOLUTION』の連名……?」
『ENCOUNT』はVtuber事務所。
『ZEVOLUTION』はストリーマー事務所。
フルダイブの普及によってVtuberとストリーマーの違いはだいぶ曖昧だが、配信界隈が盛り上がった2020年ごろから習慣が続いて、今でもざっくり別けられている。
当時から結構あやふやだったらしいが。
案件の誘いが2つの事務所というのも珍しい。
だが、俺にとって気になるのは、『ENCOUNT』の名前。
サブモニターからメインモニターに視線をずらせば、そこではVtuberのライブ配信が行われている。
『もう一回……もう一回……次は行ける……行けるから……』
可愛らしい白虎の少女が、両目をカッ開いてぶつぶつと呟きながらゲーム内の道を進んでいた。
チャイナドレス風の格好の彼女の手には、洋風の装飾のあるナイフを手にしている。
キトラ。
俺の推し配信者。
彼女は今、高難度のアクションRPGのボスへのトライを五時間ほど繰り返している。
休み無しで。
ひたすらに。
つまり五時間ほど画面が変わっていない。
ここ一時間はコメントすら見ずに自分の世界に没頭してしまっている。
普通なら放送事故ものだが、彼女はこういう配信者だ。
今日も今日とてボスの動きを文字通り死に覚え、不屈の精神力で無限リトライを行っている。
「流石だ……」
腕を組んだまま、しみじみと息を漏らした。
しばしその回のトライを眺める。
今回はかなり上手く行き、順調に相手の体力を削り。
二回目の形態変化の新モーションに狩られて死んだ。
『まだ、本気を出されていなかった? ――――――屈辱、必ず殺す』
「流石だ……」
この負けず嫌いこそ、キトラという配信者。
恐らくもう三時間ほど続くだろう。
推しの勇姿によって精神エネルギーを蓄え、サブモニターに映る『ENCOUNT』の名に視線を戻す。
「うーん」
俺が悩むのは、まさにキトラの所属事務所が『ENCOUNT』ということだ。
日野巽というオタクは、基本的に推しは推すが接点を作りたいと思わないタイプだ。
配信にコメントはしないし、SNSで呟くこともない。
グッズは買うが劣化が怖くて開封もせずに保管してひたすら溜まっていってしまう。
そんな俺なので、万が一でも仕事でキトラと関わるようなことがあるのは絶対に避けたいのだ。
自意識過剰の自覚はあるが、気分の話だ。
なので、これが『ENCOUNT』からの依頼だったならば丁重に断っていただろう。
だけど、
「『ZEVOLUTION』かぁ……」
迷わせるのはもう一つの名前。
「先輩が絡んでないわけないもんなぁ」
動画配信を勧めてくれた元プロのストリーマー、その人が現在所属しているのが『ZEVOLUTION』。
配信の仕方やら機材やら、配信者としての立ち回りを教えてくれる恩人だ。
俺のようないくらでもいる配信者がこんな案件の話が来てくれているということは、彼女の推薦なりなんなりがあったのだろう。
と、なると断りにくい。
そうなると推しと先輩を天秤に掛けなければならなくなる。
「となると推しか―――ん?」
会話アプリに通知が来た。
開けてみれば、その先輩からのDMで一言。
『話聞かんと断ったらおこやで』
「………………エスパー?」
勘の良い人だが、それにしたって強すぎる。
「うぅん」
唸り、
『―――ここっ! 薙ぎ払いはバクステ! タメを――――っ……! ………………もう、一回……!」
繰り返されるキトラの配信に視線を戻す。
上手いわけではない。
だが、少しづつ、本当に少しづつ上手くなっている。
単調とすら言えるプレイを繰り返し、彼女は前に進んでいた。
「…………」
そして、それからちょうど三時間。
『たっおしたぁぁ……!』
「っし!」
彼女は、ボスを撃破した。
普段無表情な彼女も、この時ばかりは控えめながらにはにかんでいる。
かわいい。
『ふぅ……まぁ大した相手ではなかった。私の敵じゃない。まだまだ余裕だけど、今日はこの辺で勘弁しておいてあげる』
彼女の配信も終わり、
「――――チャレンジは、大切か」
俺は返信メールの文面を考え始めた。
●
「リンク・エンゲージ」
『マトリクス』の起動ワードと共に、意識が仮想世界へと送り込まれる。
事前に設定したURLによって降り立ったのは高級中華レストランのような場所だった。
赤を基調とした広い部屋、中央に円形のテーブルが置いてある。
既にそこには二人、席に着いている。
定められていた時間の五分前だが、俺の方が遅れたらしい。
「すみません、遅くなりました」
「いやいや、早いくらいじゃよ。問題ないの、なぁ?」
「えぇ。どうぞ、まずはお掛けください」
「あ、はい。失礼します」
促された通り、二人の正面の椅子に座る。
男女二人組。
一人は金髪ツインテールにピンク色のドレスをした可愛らしい少女。
もう一人はスーツ姿の中年の男でさっぱりとした印象だが、目だけが鋭い。
この二人には見覚えがある。
が、今日のミーティングで会える相手だとは思っていなかった。
「えぇと……原社長と西条社長、ですよね?」
『ENCOUNT』の社長、原誠一郎。
『ZEVOLUTION』の社長、西条隆盛。
二人とも、ネットニュースとかで見たことがある。
『ENCOUNT』も『ZEVOLUTION』もここ数年で大きくなり、所属Vtuberや配信者の総登録者数は数百万にもなり、様々なリアルイベントや企業コラボなんかもしている。
これでも動画投稿者である俺からすれば有名人というわけだ。
ネットニュースとか、それこそ会社の紹介動画とか、それぞれのイベントの動画とかで見たことはある。
だが、疑問と戸惑いがあった。
そもそもなぜ社長が俺なんかのために二人揃っているのか。
そして、
「いやじゃのう、タツ殿。今の妾のことは、セイちゃんと読んでおくれ」
現実ではナイスミドルなイケオジの男がのじゃろり美少女アバターを使って、かわいい声で喋っているかということだ。
いや、知ってはいる。
『ENCOUNT』の社長は、会社運営をしつつ自身も女性アバターを使って配信をしている。
自分とは違う性別のアバターでログインする人は別に珍しくはない。
古くはMMOのネカマネナベ、バ美肉等々、ずっとある文化だ。
元々そういう配信者で、そういう人がVtuber事務所を立ち上げることもあることだ。
だから、それはいいんだけど、
「今日は例の話のミーティングで、なぜその格好で……? いや、失礼ですがそもそも社長のお二人がいるのも驚きなんですけど……」
「かっかっか。愚問じゃ! 妾は仮想空間内では箱内だろうと企業相手だろうといつでもセイちゃんで通しておるんじゃ!」
「タツさん、社会人としてはあるまじき痴態、これを五十近いジジイがやっていると思うと吐き気を催すかもしれませんが、受け入れてください」
「リュウ坊よ、あまり失礼なことを言うもんじゃないぞ。今度飲み会で潰してやるからの」
急なアルハラ発言怖いよ。
とは思うが、形はどうあれ相手はこれからお世話になるかもしれない社長なので黙っておく。
「それで……お二人がいるのは……」
「それもこのTSエセロリババアの都合なんですが」
「うむ。何を隠そう、妾はタツ殿のファンであってな! プロ時代も、今の攻略動画もの! 『ドラバス』の攻略には大変世話になったぞ!」
「おぉ……それは……ありがとうございます」
プロの試合に出ただけでプロだったことはないのだがそれはともかく。
ファンと言われて、それも界隈の有名人にそう言われると嬉しくないわけがない。
『ドラバス』は『ドラグーンバスター』という人気シリーズで、先月最新作であるフルダイブRPG『ドラグーンバスター:ビッグバン』が発売され、今一番流行っているゲームと言って良い。
ゲーム攻略チャンネルをやっている身としては流行ゲームをやらないわけがなく、俺もここ一ヶ月は『ドラバス』の攻略動画ばかりだしていた。
再生数も回ってありがたいことだ。
「タツ殿はやたらめったら『ぶっ壊れ』だとか『この武器装備で〇〇も楽勝!』とか大きいこと言わんので助かるからのぅ。妾はゲーム自体はそこまで上手くないから、下手っぴにも配慮した攻略指南なので助かっておる」
「ははは……」
微妙に同業者へのディスになりかねない発言は愛想笑いで誤魔化す。
「ま、それが理由だけではない……」
「はい?」
「ふっ……今は言わんでおこう。気にするでないぞ」
「えぇ……」
めちゃくちゃ気になるじゃん。
漫画とかアニメでたまに見る意味深ムーブ。
「こほん。タツさん。色々申し訳ないですが、つまりはこれがタツさんのファンだったので直接話したかったということで了解してください。私としても、うちのハクビからタツさんの話を聞いていましたので興味があったんです」
「あぁ、先輩が……なるほど」
「ともあれそういうことです」
西条社長はつかれたように息を吐く。
「では本題に入りましょう」
「もうかの。妾はもうちょっと小粋なトークをしたいんじゃが」
「本題に入りますね、タツさん」
さらりと無視をしていた。
絵面だけ見るとテンションの高い幼女とクールなおっさんという一部に刺さりそうではあるが、幼女の中身はおっさんだ。
「メールやうちの社員とのやり取りでお伝えしているは思いますが、改めて説明いたします」
「よろしくお願いします」
「我々は数カ月後、『ENCOUNT』と『ZEVOLUTION』を中心にして、1ヶ月間持続する配信者を集めた大規模コラボを行おうと思っています。いわゆる鯖コラボですね」
MMOや大人数マルチプレイ可能なゲームではよくあるタイプのイベントだ。
例えば事務所や友人同士の配信者で、専用のサーバーを構築。
その中で一定期間ゲームをプレイするというもの。
何をするかは配信者に委ねられることが多い。
大ボスをみんなで倒すこともあれば、ゲーム内で勢力に別れたり、配信者の交流自体が目的だったりもする。
結果的に、偶然と必然が重なってとんでもないドラマが生まれたりすることが多いので、それを期待されることが多い。
盛り上がるかはベースとなるゲーム、そして配信者たちに委ねられるのだ。
「運営するゲームは『Oneself Life Storys』、かつてタツさんが高校時代にEスポーツ甲子園、プロ大会で優勝したゲームです」
そして、
「そのサーバーにおいて、タツさん。あなたにサポーターとして参加していただきたいのですよ」
●
はるか昔の遠い異世界、聖なる神と邪なる神が争っていた。
聖なる神の眷属である人類と邪なる神の眷属である魔族もまたそう。
神々とその眷属の戦争は長く続き、世界を傷つけた。
そして戦いの果てに―――世界は滅びを迎え、神々は共倒れになってしまった。
だが、世界で唯一、二柱の神の影響を受けなかった最果ての地『エデン』だけは滅びから免れ、残った人類と魔族はそこに避難し、種の滅亡を防ぐためには不本意ながら共存を選ばざるをえなかった。
ここまでがバックストーリー。ゲーム本編はその数百年後。
『エデン』の地で人類と魔族は共存を望む者もいれば、片方の絶滅を目論む者もいれば、そもそも種族に興味のない者もいた。
理想郷は二つの文明と様々な思惑が入り混じった混沌の地に成り果てた。
そんな街に人類と魔族のハーフである主人公は生まれた。
彼、あるいは彼女は数百年前に死んだ神の力を秘め、人類を救う勇者にも魔族を統べる魔王にもなる素質を秘めている。
二つの勢力が支配する失われた理想郷で、主人公の選択は無限だ。
人類勢力『騎士団』に入り勇者となるも良し。
魔族勢力『魔王軍』に入り魔王となるも良し。
そのどちらに所属せず、人々を癒す『聖歌隊』に入っても良し。
日々の営みを支える『商業ギルド』に入っても良し。
どんな選択をしてもいい。
どんな人生だろうと自分らしくあれ。
それが『Oneself Life Storys』、通称『OLS』のストーリーだ。
ジャンルとしてはフルダイブオープンワールドRPG。
十年ほど前に発売された初期のフルダイブゲームであり、そのジャンルを盛り上げるきっかけにもなった作品だ。
人気になった理由は三つ。
前提として、2000年代前半の人々が想像していたVRゲームそのものだったということ。
仮想空間で超人になり、冒険をし、再現された五感があり、作り物とはいえ壮大な異世界を楽しめる。
その上で戦闘システムがシンプルかつ奥深かったということ。
よく使われる文言ではあるが、この場合、システムアシストが優秀で素人でも超人的な動きができるし、玄人であればフレーム単位でしのぎを削る攻防が可能であり、幅広いビルド選択肢からプレイヤー個人だけの戦闘スタイルを選べた。
それこそプロゲーマーの大会として扱われるくらいには。
そして、何よりストーリーの派生が無限に近かったこと。
『騎士団』の先頭に立って無双ゲームをしてもいいし、『魔王軍』の将軍として戦術シミュレーションにもできる、逆もまた然り。
はたまた戦闘をせず、生産職としてアイテムの製作を勤しんでもいいし、商人として大企業を作ってもよかった。
ざっくりとした主流はいくつかがあるが、どういう風に生きるかはプレイヤーに委ねられる。
『どんな物語でも、君こそ主人公』
発売時のキャッチコピーに嘘偽りはなかった。
俺が人生で一番やり込んだゲームだが、
「気になったんですけど、『OLS』って無印なんですか? 『OLSⅡ』とか『OLS SURVIVAL』の方ではなくて?」
人気ゲームだからこそ、その後続編や派生作品も多く出ている。
正統続編『OLSⅡ』、モンスターテイムとサバイバル要素をメインにした『OLS SURVIVAL』。
特に大人数でやるなら『OLS SURVIVAL』あたりは人気だ。
対して『OLS』は名作だが、言ってしまえば十年前のゲームで大規模イベントをやるのは少し意外だ。
「無印です。この後説明しますが、単純な理由の一つとして無印より後の作品はサーバー運営の負荷が大きくてですね。二社合同でやるにしても現実的ではないという話です」
「あー、なるほど。納得です」
「最新のゲームだったら良いというわけではないのぅ。最新のゲームだからこそ負荷が強すぎてまともに遊べなくなる、というのは今も昔もある話じゃ。『OLS』はバグが少なくて優秀だったが、『マトリクス』発売直後は酷いゲームも多かったしのぅ」
「らしいですね」
「ジジイの昔話は良いとして。今の話をしましょう。結論から言えば我々は『OLS』に専用のMODを入れたサーバーを用意して、大人数のマルチプレイゲームを行う予定です」
「はぁ」
MOD。Modification。
元々あるゲームに外部が作った改造・拡張データのことだ。
ゲームに存在しないデータを入れることで、キャラクターの見た目を変えたり、ゲームの数値を変えたりすることができる。
俺はあまり使わないのであまり詳しくはないのだけれど。
このあたりの扱いはちょっとセンシティブで、ゲームによってはチート扱い、またはMOD導入を推奨していたりと様々だ。
日本のゲームは比較的MODを禁止していることが多いが、『OLS』は国内ゲームでありながらMODが禁止というわけではない。
「それは……なんかすごいですね?」
『OLS』にもマルチ機能はあるが基本的にソロゲームで、対人戦闘で最大四人がプレイできるだけだった。
それを何人かはわからないが大人数用に弄ることができるのは結構すごいことではないのだろうか。
「すごいぞ? まぁそこら辺は妾とかプログラミングチームの話なので細かい話は置いておこう。すんごい横文字が並ぶ専門知識になるからのぅ」
「そうですね。とにかく『OLS』で数十人規模のマルチをしますよ、という話です」
「わかりやすいですね」
「だと言いですね。……いえ、実は私自身は『OLS』をやりこんだわけではないので、あまり詳しくないんですけども。配信でたまに見るくらいで……」
「誘ってはいるんじゃがのぅ」
「忙しいんですよ、やることが多くて。とにかく、運営チームや『ENCOUNT』と『ZEVOLUTION』の所属配信者にも『OLS』プレイヤーもいます。ハクビとかそうですね。なんですけど何分初めての試みなので、実際にサーバーに参加する者にも『OLS』に詳しい協力者が欲しかったんです。私のようなにわかではなく、実際にやり込んだ人間が」
「それで、俺ですか」
「はい。もちろんあなただけではなく、外部のストリーマーなどには声をかけています。ただ、受けていただくと長期間はサーバーに入り浸ってもらいますので結構な時間を拘束してもらうことになります。一応、今年の8月、夏休みの1か月間を目安にしていますが」
「ふむ……」
今が4月。
あと4ヶ月。
早いのか遅いのかはよくわからない。
この手の大人数コラボは参加したことがないし。
夏休みの間、というのも悪くない。
大学生なんて時間はいくらでも作れる。
「…………」
そんなことを思って苦笑してしまった。
今日はとりあえず話を聞こう、というものだったが、当然のように前向きに考えている。
自分でも不思議だが、その気がないならそもそも話を聞かない。
チャレンジは大切だ、と思ったのだから。
「まぁなんだ。色々話したし、受けると決めてもらったら諸々守秘義務とか、動画勢のお主には慣れないことが色々多いと思うがの」
セイちゃん……さんが笑う。
「この手のサーバーコラボイベは、予想外が華じゃ。妾もこの陰険小僧も、お主も思いも寄らないことが起きるじゃろう」
楽しそうに、無邪気に。
リアルとは違うアバターではあっても、そこに嘘はないのだろう。
「だがのう―――きっと、その予想外がおもしろいぞ?」
その後、細かい話が色々続いたけれど。
多分、この時のセイちゃんさんの言葉で俺の気持ちは決まっていた。
一番好きな、思い入れ深いゲームで大きなイベントが起きる。
しかも、その運営側に回るチャンスがある。
ゲーマーとして、それに乗らないほど、俺は慎み深くはなかったのだ。
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