推しがメロつくのは解釈不一致です―――俺が相手でも 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
『OLS』サーバーコラボ、『
それに参加すると決めてから月日はあっという間に流れ、ついに今日開催初日となった。
その間、運営とやり取りは頻繁に行った。
だが、実際に参加する配信者とのやり取りは先輩と少し会話しただけ。
元々知り合いは先輩だけなのでそもそも繋がりがないし、事前に練習というのもしなかった。
この手のイベントは初心者だからこそ面白いというのもあるし、俺が関わることが多いであろうメンバーとのスケジュール調整が上手くいかなかったこともある。
チャットでやり取りはしたものの、実際の対面は今日始めてというわけなのだが。
「うーぅ……」
集合時間五分前、『OLS』にログインした俺は唸っていた。
緊張する。
大学の勉強もそこそこに、このイベントの相談もしつつ『OLS』データを一からトロコンした――これだけで三ヶ月掛かったが―――まではよかったが、それも終えて実際に初日を迎えてしまうと冷静になる。
つまり、これから色んな有名配信者と対面することになる。
俺は所詮サポーターという立場なので配信はしていないが、色んな人の配信に乗ることになるのだ。
「変なことを言って炎上したらどうしよう……」
そうなったら最悪だ。
プロ大会に出場して味わった無自覚な悪意に晒されるのは避けたい。
ちょっとしたトラウマである。
失言をしないように出しゃばらず、配信者のみなさんのサポーターであるということを忘れずにいよう。
「いやそもそもそれよりもだな……」
直視したくない事実についてどう向き合うか唸っていたら、眼の前にプレイヤーが現れた。
『OLS』でのログインはエフェクトとかなく急に出現するので、ちょっとびっくりする。
「おっ」
「おぉ!?」
驚いて出てしまった俺の声を塗りつぶすような大声を発したのはオレンジの少年だった。
明るい金髪にオレンジ色の学生服。
「おぉ! こんちわす! えーと、どなたでしょうか!?」
「あ、タツです」
「タツさんよろしくお願いします!」
すっげー声が大きい。
そして笑顔が眩しい。
場の雰囲気がかなり明るくなった気がする。
「俺は―――」
と、彼が言葉を続けた瞬間だった、
「おや」
「あら」
「ん」
続け様に、三人が姿を現した。
青年と少女二人。
「おーっ! 皆さんこれで揃いましたね!!!」
「うるさっ」
「なーっはっはっは! すみません! こういうやつです!」
ハキハキと大声で喋る少年に、現れた一人が顔を歪めるが、彼は変わらず声がデカかった。
「ふむ。どうやらちょうど全員揃ったみたいだし、自己紹介でどうかな。知っている顔もいるけど、完全に初対面の人もいるし」
どうかな? と青年が俺達に問い、他のみんなもそれに頷いた。
俺としても異論はない。
次に声を上げたのは、やはりというべきかずっと声が大きい少年だった。
「俺、『エクセルシオール』所属、天原テラスっす! 新人でこういうイベントは初参加ですが、みなさんよろしくお願いします!」
勢いよく、90度曲げたお辞儀をするテラス。
新人、というが彼は確かデビューして半年くらいだったはずだ。
ほんの少し会話して分かる通り、声が大きい。
よく笑うし、テンションも高い。
さらには配信時間や頻度も高く、『エクセルシオール』という業界最大手Vtuber事務所の新人ながら破竹の勢いで登録者数を集めている期待の新人といった感じである。
「では続いて僕が。『ZEVOLUTION』のウェザリだ。よろしくね」
爽やかに微笑む錆色の髪の青年、ウェザリさんはモデルか俳優かと思うようなイケメンだ。
ウェザリさんはFPS系ゲームの元プロゲーマーのストリーマーで、そのアバターも現実の本人そっくり。配信業の傍らモデルの仕事なんかもしている。
界隈では『女を殴ってそうなイケメン』なんて言われいたりもするが。
義理の妹と幼馴染と彼女と自称彼女と修羅場になって実際に刺されたりして『女に刺されたイケメン』として一時期話題になった。
本人の非はなかったのが怖い。
もっと怖いのは自称彼女は複数人いたとか、誰に刺されたのかはわかっていないとかいう話だ。
「『ENCOUNT』所属リーゼロッテ・ゴルドシュベルトです。よろしくお願いしますね。『OLS SURVIVAL』は少し齧っただけなので色々学ばさせていただきます」
続いたのは騎士服に金髪巨乳ポニーテールの少女。
頭には小さな鷲の羽根が生えているのは彼女が、その鷲をモチーフにしたVtuberだからだ。
サンドボックス系、FPS、格闘ゲーム、RPG、音ゲーと大体のジャンルを網羅しつつ、コラボやイベント、歌活動等々Vtuberとしての活動は大体手広くやっている万能タイプ。
彼女がいる配信は大体丁寧に話が回るので、業界からも重宝されている印象がある。
ウェザリもそのタイプなので、こういう人が二人もいるというのは正直安心するところだ。
「キトラ、次はあなたですよ」
「ん」
そして。
問題はここだ。
「『ENCOUNT』のキトラ。『OLS』は一応全部やった。よろしく」
ウルフカットの白髪、白のチャイナドレスに、白の羽織。
所々に黒の刺繍はあれど、全身白い少女。その頭部には虎の耳。
クールな無表情。
俺の推し。
「………………」
どうして、こうなった?
そもそも今回、俺はサポーターだ。
そしてある目的を持ったチームに所属することになった。
ここまではいい。
なのになぜかそこにキトラの名前もいたし、招待されたチャットグループには彼女がいた。
俺の推しである。
推しと関わりたくないタイプのオタクである俺だが、だからといって事前に『キトラさんは推しなので共演NGです』言えないし、『キトラさんは推しなのでチーム変えてもらえますか?』なんて言えるはずもない。
あ、実際に見ると超カワイイ。
困る。
いや、VRアバターに実際というのも変な話だが。
とにかく推しが俺の前に実在しているという事実に呼吸が乱れそうになるのを必死に抑えるしかない。
ここで息を荒くして気持ち悪いオタクになるのは嫌すぎる。
キトラの冷たい目は需要があるが、しかし推しに気持ち悪い存在を見せたいわけではない。
なので、努めて冷静な自分を想像し、アバターに反映される。
「次、タツさん」
「……………………あ、はい」
推しに名前を呼ばれてしまった。
それだけで恐ろしいほどの幸福感に満たされるが、なんとしても表に出ないようにする。
脳内がかなりキモイことになっているが、推しを前にして超テンパっているので仕方ないとしておく。
「タツです。今回は皆さんのサポーターとして参加させてもらいます。こういう配信イベントは初めてなので何かとご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」
事前に何度も考えた言葉を、機械的に口にする。
「固いっすねタツさん! 俺も初心者なんでよろしくお願いします!」
「むしろ、タツさんからはゲームについて色々教えてもらうことになるだろうしね。よろしく頼むよ」
「ですわね。頼りにさせていただきます」
「ははは……よろしくお願いします」
よかった、雰囲気は和やかだ。
チャットしていた時からみんな俺なんかにも丁寧に接してくれていたし、こうして人気のある人たちと話せているのはちょっと嬉しい。
嬉しいが、
「………………」
なんかキトラがこっちをすごい見ているのだけはなんなんだろうか。
あまり見つめないでほしい。
顔が良い。
「キトラ、どうかしました?」
「……ん、なんでもない」
「こほん、キトラは結構コミュ障な上に誰に相手でもこんな感じなので、タツさんもテラスさんも気にしないでください。緊張しているんだと思います」
「あぁ、僕も最初に一緒にゲームした時は全然会話してくれなかったしね」
「えー!? そうなんですかキトラさん! 俺、大丈夫っす! 超ウェルカムっす! 仲良くしましょう!」
「………………………………」
「無視!? あれミュートになってますか!?」
「うるさいよ」
「聞こえたー! あー、よかったー! しょっぱなから配信トラブルからと思いましたよ!」
「…………」
「キトラ? 一瞥くらいしてあげてもいいんじゃないです?」
「はっはっは、いやぁ楽しくなりそうだねぇタツさん」
「………………だといいですね」
●
「えーと、それじゃあまずは諸々のベースとなることを自分から伝えさせていただきます」
本来なら四人のトークを盛り上がるところを見たかったところだが、仕事はしなければならない。
他の拠点やチームでも今頃俺のようなサポーターや経験者から事情の説明が行われているはずだ。
「ん」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
「お願いしまーす!」
四人の視線が俺に集まることに少し緊張する。
四人の視線は同時に彼らを見ている数千数万のリスナーの視線だ。
「えーと、今回のサーバーは『OLS』の無印がベースですけど、システム的にいくつか別シリーズの要素も導入しています。その中で一番重要なのは、皆さんの視界の端に映っている各種ゲージですね」
視界内にはいくつかの情報がHUDのように提示されている。
自分の体力バーや他人のアバターの名前、現在時間、マップ座標、所属するチーム名。
そして三本のゲージ。
体力、HPとして別に表示されているのは、
「特に気にしなければならないのは空腹度、喉の乾き、ストレス耐性値ですね。体力とは別にヘルスゲージって呼ばれるやつです」
今の俺のヘルスゲージは満タンとなっている。
これは全員がそうだろう。
「今日は初日ということでこのゲージは満タン固定です。明日からこれの減りを無視していると――――まぁ、死にますね」
「これ、『SURVIVAL』のほうにあったやつですよね?」
「えぇ。あの手のサバイバルゲームではよくあるシステムなんで、その感覚で大丈夫だと思います。アラートとかはないんで、ちょこちょここまめに確認しないと、ほんとに急に餓死するので注意ですね」
「やっべー、俺絶対やらかすわ」
テラスが唸っているが、まぁそれはそれで面白いとも思う。
「キトラ、気を付けてくださいね。集中するとすぐに忘れるんですから」
「失礼だよ、リズ。私に死角はない」
いや、キトラはこの手のヘルス管理は下手なので実際よく死ぬ。
サバイバルゲームでヘルス管理をミスって死んでキレるキトラまとめのような切り抜きもあるくらいだ。
彼女に限らないことだが、チームのヘルス管理をそれとなく示唆するのも俺の仕事だろう。
「ヘルスの回復は、後で説明する飲食店で食べ物や飲み物を買えば良いですね。ただ、ストレス耐性に関しては減りすぎると行動にデバフが掛かっていくので、戦闘やファーム中には適宜回復をさせられます。これも飲食店でストレス回復アイテム買えるので、そっちでフォローする形です」
このあたりの詳細は後で置いておくとして。
とにかく各種回復アイテムを用意しておけば良い、という話だ。
「これ、体力とは別枠だけど関係はないのかい?」
「ストレス値に限って言えばあります。戦闘時には被ダメージが大きくなったり与ダメージが小さくなったり、バフデバフが減ったり。アイテムや回復魔法での体力回復の上昇幅も減りますね」
「なるほど、それは重要そうだね」
「このあたりスキルとかで対処したりするんですけど、そこら辺はまた今度」
戦闘周りは明日以降に説明をする。
それよりも大事なのはここから。
「この『OLS』……というか『ExZ』は大きく分けて五つのジョブに分かれています」
指を振り、ホロウィンドを大きく展開。
説明やプレゼン用に他人にも見ることができるものだ。
そこに事前に運営が用意されたエンブレムが五つ、表示される。
一つは剣と杖のファンタジー風。
「街の治安を維持し、法を守る『騎士団』」
一つは光の刃と銃のSF風。
「『騎士団』と敵対し、襲撃によって戦果を稼ぐ『魔王軍』」
一つは祈りを捧げる聖女を模したもの。
「プレイヤーを治療する『聖歌隊』」
一つはパンとビールを模した現代風ロゴ。
「さっき話した体力やヘルス回復アイテムを作成する『飲食ギルド』」
最後の一つは金槌が交差する無骨なもの。
「回復アイテム以外の武器やアイテムを作成する『鍛冶ギルド』」
合わせてて五つ。
『OLS』ではもっと細分化されていたが、今回はこの五つに簡略化されることになった。
あまり多すぎても困るし、今回が初めてと思うとこれくらいが丁度いいだろう。
「基本的に『騎士団』と『聖歌隊』は一元化されていますが、『魔王軍』、『飲食』、『鍛冶』はいくつかに分かれていますね」
「我々はどこになるんですか?」
「基本的には『飲食』ですね。自分たちの拠点も、こうしてバーっぱくしていますし」
バーカウンターとテーブル席が三つの西洋ファンタジー風の小さな酒場。
基本的にはヘルス回復アイテムを作って、それを売ることになる。
「はいはーい! ちょっと質問なんですけど、『魔王軍』だけなんかSFぽいじゃないですか! そのあたりどうなってるんですか!? てきとーっすか!?」
「いえ、一応設定があってですね」
「あ、はい」
声を張ったテラスの問いに答えたら佇まいを正された。
しまった、ここはふざけた問いを言うべきだったか?
「………………そう、実は適当なんです」
「わはははは! 無理! 無理がありますよタツさん!」
「テラスさん、からかいすぎないように。タツさんも無理しなくていいですから」
「ははははは! すみませーん!」
「…………」
「やばい、キトラさんに超睨まれてる……」
「はいはい、タツさん。続きを頼むよ」
「あ、はい」
会話って難しい。
ともあれ、
「えーと、この『OLS』は人類と魔族が戦うのが大筋なんですけど、人類は魔法を使って、魔族はSFっていうか超科学持ちって設定なんですよね。性能的には変わらないですけど、使い勝手に差があります。『ExZ』もそこは引き継いでるわけですね」
「へー!」
「『聖歌隊』はファンタジーですけど、『飲食』と『鍛冶』は魔法とSF混ざってる感じになってるはずですよ」
「となるとうちは折衷というわけですが、どうなんですかね。どっちかに統一、とかあります? 私的にはファンタジーの方が好みですし」
「俺はSF系がいいかな。そういう銃の方が馴染む」
「じゃー俺は刀で! かっこいいですからね!」
「……ふむ。パリィがしたい」
「えーと、そこら辺はどっかの鍛冶屋に行って武器の調達が必要ですね。戦闘の話はその時に」
「あなたは」
「はい?」
掛けられた声が一瞬誰のものなのかわからなかった。
だがすぐに理解する。
キトラだった。
じぃ、と黒い瞳が俺を見つめている。
「あなたはどうするの? 篭手? グローブ? 素手?」
「えーと……いや、俺はあんまり深く考えてないというか……あの……えぇと……一応グローブとか……」
「そう」
え? なに?
どういう問い?
他のみんなも首を傾げてたり眉を顰めている。
というかなんで俺が拳士、モンクスタイルなのを知っているのだろうか。
アバターの格好が拳法服なせいだろうか。
ちょっとわからない。
テンパり度が増した。
「こほん。タツさん、続きの説明をお願いします」
「あ、はい」
リーゼロッテの促しに、言わなければならないことを思い出す。
五つのジョブの話をした。
その上で俺達のチームの話だ。
「俺達は基本は『飲食』って言いましたけど、優先度は低いです」
なぜなら、と四人を見渡す。
俺の推し。
俺の推しの親友。
女に刺されたイケメン。
うるさい新人。
「『騎士団』『魔王軍』『聖歌隊』『飲食ギルド』『鍛冶ギルド』、それぞれの組織で起こるであろうログイン時間のズレや欠員における人員不足に助っ人として参加すること。それが俺達『
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