推しがメロつくのは解釈不一致です―――俺が相手でも 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
実のところ、今の話は事前に4人とも認知している。
だから俺の語りは彼らではなく、彼らのリスナーに向けてのものだ。
もちろん細かいことやそれぞれの配信のルールやノリがあって、個人での補足なんかは必要にはなるが、そこは彼らもプロ。配信の後、なんなら今もやっているのだろう。
それまでの会話の中でもそうだったが、時折彼らの口だけが動いても声が聞こえなかったり、視線がなにもない場所に向けられていることがある。
俺の話を聞いていないのではなく、自分のリスナーたちに語りかけているのだろう。
コメントへの反応だったり、ちょっとした補足の類だろう。
プレイヤー同士で話しながらコメントの対応するというマルチタスクはすごいと思う。
キトラはなぜかずっとこっちを見ていて、コメントを見ている様子はないが、彼女の場合それが平常運転。
「タツさん……流石によそよそしいか、タツ、と呼んでも? 敬語じゃなくても大丈夫だよ」
「あ、はい。もちろんです。みなさんお好きに呼んでください。……敬語は、えーと、そのうち」
「だったら私のこともリズと。リーゼロッテ、だと長いですからね」
「うっす! 俺のこともテラスって呼び捨てでいいっすよ! 自分、一番新人だし良い感じに雑な敬語と普通に喋るの混ぜていきます!」
「好きに任せる」
おぉ、コラボ配信の最初っぽい。
呼び方とかあだ名とかを合わせるのはよく見る光景だ。
まぁ俺の場合はやっぱり配信者というわけでもないし敬語を崩すつもりもないのだけど。
「それで、タツ。俺達の主目的は理解したよ。今日はどうするかな。流石に初日で助っ人が呼ばれることもないだろう?」
「えぇ。俺達の出番は、多分三日目以降とか一週間以降だと思います。一ヶ月もあれば、ログインできなくなる人も増えるでしょうし」
『ExZ』は一ヶ月間運営され、午後六時から午前三時までサーバーが解放される。
またメンテナスや調整のために毎週水曜も閉じられる予定だ。
その間、誰もがログインをし続けられるわけがない。
それぞれの日常生活、配信活動、ダブルワーカーなら仕事もあれば、ボイスやダンストレーニング。
配信にしてもそれぞれの定期配信もあるだろし、案件の配信なんかがあればそちらを優先さぜるをえない。
それぞれの生活があり、それぞれの仕事がある。
それは守られるべきだ。
だが、そうなってくると『ExZ』のような長期間運営のイベントの場合、どこかで人手が足りなくなってしまう。
その穴埋めのための『MCA』なわけである。
俺を含め、この五人はこの一ヶ月、ほぼ毎日ログインする予定なのでこういう立ち位置に割り振られたのだ。
「俺達はその仕様上、あっちこっちの拠点を行き来することになります。なので今日はその下見と必要になる小物とか買いに行きましょう」
「あっちこっちの拠点っていうと、さっきの5ジョブのですか?」
「えぇ。『騎士団』の『王城』、『聖歌隊』の『教会』が一つだけなので分かりやすいですね。『魔王軍』はそれぞれの『基地』が三つあるし、飲食店と鍛冶屋も街のあちこちに散ってるんで、全部は回れないですけど、そのうちの一つずつは寄りたいと思います」
「必要になる小物ってのはどんなのだい?」
「とりあえず各回復アイテム、今日は減らないですけど明日のために買っておきましょう。それから無線機ですね。こっちは魔法ぽいアクセサリーとか機械ぽいイヤホンみたいなバリエがあるんで好みでいいですけど。これあると別行動してたりしてもやり取りが楽です」
「なるほど、チュートリアルのマップ確認と買い物ツアーというわけですね」
「僕達の場合、各ジョブの仕事を熟すわけだから街にどこに何があるかを覚えておかないとだね」
「そういうわけです」
すごい。
リーゼロッテとウェザリ、この二人が良い感じに合いの手をいれてくれるので話がしやすいし、まとめてくれてもいる。
このあたり雑談の名手と『女に刺されたイケメン』の面目躍如というところだろう。
いや、後者はちょっと悪口かもしれないが。
そして、もう二人はというと、
「私、武器が買いたい。パリィできるやつ。あとチェーンソーとか丸鋸みたいなガリガリ削るやつも」
「俺は車かバイク欲しいっすね! いや、なんかテイムモンスター? もできるすっけ、あー、ドラゴンとか乗っちゃうのもいいなー!」
すごい欲望を爆発させていた。
テラスは知らないが、キトラはアクションゲームでパリィを好むので気持ちはわかる。
「えーと、武器は一応裏のアイテムボックスに、いわゆる初期武器が一通り揃ってるんでまずはそれからですかね。性能が良いやつは鍛冶屋買うか作ってもらうかですね。乗り物系はメインジョブとは別にバイヤーが何人かいるんでその人に声をかけて買う形になります。ただ、これも良いやつは結構な金額になるので、これもまだちょっと先になると思います」
「ん。とりあえずその初期武器を見てくる。初期武器で戦い続けるのも浪漫」
「キトラ、武器漁りは街を見回ってからにしましょう」
「ん」
「金かー。ゲームでも現実でも変わんないなー。一杯稼ぎましょうね! それでどうやって稼ぐんすか?」
「テラスも、お金稼ぎはチュートリアルが終わったらタツが教えてくれるさ。順番に行こう」
「うっす! すみませんタツさん!」
「いえいえ……」
リーゼロッテとウェザリがすごい。
大変助かる。
「それじゃあ行きますかね。乗り物は買わないとって話しましたけど、全員乗れる車は支給してもらってます。遅いですけど、今日はそれでゆっくり回りましょう」
とりあえず、一番大事な説明を終えてホッとしつつみんなで酒場を出る。
店の前の道路に仕込まれたガレージから車を出現させる。
魔法もSFも感じない、2000年頭から今に至るまで形を変えない普通のバン車。
速度も出ないし耐久値も低く、なんの特色もない、最低クラスだ。
これも後々アップデートするなり、買い替えが必要なるだろう。
「それじゃ、まずは『王城』から行きますねー」
出発し、道路に出て何度か西洋風ファンタジーと近未来SFが入り混じった町並みを進んで
「ああああああああああああああ!! 避けてえええええええええ!!」
誰かの絶叫と共に、横からユニコーンが突っ込んできて交通事故を起こした。
●
正直なところ、初日ということで油断をしていた。
これから色々なことが起きるだろうが、それでも初日に何か起きることはない、と。
どこだって顔合わせやチュートリアルに忙しいだろうし仮に初日でイベントが起きるとしたら日付が変わったくらいだろう。
だけど。
セイちゃんさんの言葉が蘇る。
思いも寄らないことが起きる。
彼だか彼女はそう言った。
実際予想外だ。
初日で派手にやらかせるなんて思っていなかった。
だが、考えてみれば見ている人の予想を裏切って、当たり前のことを面白おかしくするのが配信者という人種に他ならない。
そう、ユニコーンで交通事故を起こすとか。
「いやそれにしてもそんなことあるか!?」
「ひゃっ」
「なんでですかー!?」
「おっとっとっと」
「なーはっはっは! これが『OLS』の洗礼どわああああぁぁぁぁぁぁ!?」
横からの衝撃を受けたバンが空を飛ぶ。
最低品質のこの車は速度も出ないし耐久力も低く、さらには軽い。
だから、何かに強くぶつかれば、この『OLS』基準でもそれなりに扱いが難しい代わりに乗り物としての性能が高いユニコーンなんかがぶつかれば、当たり前のように空を舞った。
「っ……!」
上下の感覚が滅茶苦茶になりながらも俺は三つある足元のペダルの一つを踏み込んだ。
『OLS』の車は一部の高級品を除いて概ね現実のオートマ自動車のそれと大体同じだ。
細かい違いはあるが、その中でも大きいのはアクセル、ブレーキに続く三本目のペダル。
蹴りつけるように踏み込んだそれは、
「スタビライザ……!」
姿勢制御だ。
幸いというべきか、そんなに難しいものでもない。
スタビライザペダルを押し込めば、システムが勝手に車体を安定させて地面と平行にしてくれる。
そうなった。
派手な音を立てて道路に着地し、数度跳ね、十数メートル滑り、路面の建物に激突してやっと止まった。
「びっっくり、したぁー……」
安堵の息を吐く。
体力やヘルスに初日保護が掛かっていなかったら、結構削れていただろう。
「大丈夫ですか、みなさん」
助手席のウェザリ、後部座席にいたリーゼロッテとキトラを確認し、
「…………あれ、テラスくんは?」
一人、足りなかった。
彼が座っていた右の扉が開け放たれていた。
「えぇと……さっき、車が回転している間に、遠心力でどっか飛んでいきました」
「……シートベルト、つけてなかったんですか彼」
「そのようですね……」
『OLS』あるある。
乗車中、シートベルトを付け忘れて事故って吹っ飛んで死ぬ。
●
「ご、ごごごごご迷惑をおかけしましたー!」
「ごめんなさーい!」
「はっはっは! いいっすよいいっすよ! 初日だから死ななかったし! ノーロープバンジー味わえましたし!」
車の外、二人の少女がテラスに頭を下げていた。
「全く! 世が世だったら犯罪ですよ……いや、この世界でも犯罪なんじゃないですか? くりいも子」
「悪かったのは私達だけどまとめて略さないで!?」
「いや姉さん今回は仕方ないですよ……」
俺は知らない顔だったがリーゼロッテは知り合いのようで、テラスとの間に仲裁に入っている。
「
「あぁー、なるほど」
配信界隈、特にVtuberにおいて『ママ』とは、そのアバターを描いてくれたイラストレーターのことを指す。
『あなたとは私は絵師が同じですね!』なんて言うのは、それぞれの設定という名の世界観を壊しかねないからそういう業界用語を使っているのだ。
そして同じママを持つVtuber同士は事務所や所属関係なく、兄弟姉妹と呼び合っているからあの二人もそういうことらしい。
「それにしてもユニコーンにも乗れるんだね。あれは僕らも乗れるのかい?」
「買えば乗れますよ。ただかなり高いのと、操作難易度が高いですね。テイムモンスター系はそれぞれに癖があって一長一短って感じです。なつけば自律行動で助けてくれたりしますけど」
「女の子しか乗れない、とかない?」
「……」
「……」
キトラの問いに、俺もウェザリも一瞬黙る。
これはあれだ。
ユニコーンは純血の女性しか乗れないという有名な話。
センシティブ。
アバターに冷や汗が流れた。
これで適当なことをいうとセクハラと受けられて炎上の可能性がある。
これが配信者同士ならばそういうネタになるだろうが、俺みたいな素人の場合だとどうなるか怖い。
だが変に黙るのもおかしいし、流れ的には俺が答えないとまずい。
意を決して口を開こうとし、
「え? ユニコーン乗るのに条件あんの? 秋和さんと芋海さんはそれを満たしてるってこと?」
「せ、セクハラだぁー!」
「ぐあああああ!? リスナー!? いった……くはないけど!」
その問題を、おそらくリスナーに唆されて口にしたテラスが、くり子の剣に斬られてていた。
「……今の質問は無し」
「えぇと、まぁ特に条件はないということで」
「ん」
危なかった。
推しにセクハラなんぞしたら舌を噛み切って死ななければならない。
「あぁ、でもあれですね。今言いましたけどユニコーンって結構高いんで、初日に手に入るようなものじゃないんですけど。最初から配置されているジョブがあります」
「ん?」
「それが、今向かってる『騎士団』なわけですね」
●
「こぉんのあほんだらー! 初日から使用禁止のユニコーンパクって市民引いたとか騎士団失格やで! クリとイモがユニコーンで爆走とか走るセクハラか己らは!」
「すみませーん!」
「は、走るセクハラはお姉ちゃんだけで……!」
「いの海!?」
結局、『騎士団』所属の二人はユニコーンを乗りこなせなかったので、俺が代わりに操作し、残りのメンツは無理やりバンに乗って移動をした。
ウェザリが現実でも運転免許持ちだったのでそこら辺は問題なかった。
そして、たどり着いたのが『王城』だった。
街の東側三分の一は全体的に西洋ファンタジー風になっており、『王城』はその中心だ。
ゲームの『OLS』と違って王様キャラがいるわけではないし、内部もサーバー負荷を軽減するために結構なエリアが封鎖され、『騎士団』に必要なスペースだけが解放されている。
王城正面広場もその一つで、後付で地面を走る系のテイムモンスターの呼び出し場所にもなっているのだが、そこでさっきのよく知らない二人が、よく知っている人に怒られていた。
「ったく……迷惑かけたみたいやねぇ、タツ。ユニコーンもあんがとさん」
「いや、別に大した事ないですよ、先輩」
稲光ハクビ。
金髪によく日焼けした肌、水着と和装が混ざったような露出度高めの服装に、髪と同じ金色の毛のネコ科の耳と尻尾。
猫に見えるが、名前の通りハクビシンがモチーフらしい。
説教を終えた彼女は、広場の中央で集まっている『騎士団』の面々や『MCA』の四人が話しているところに混ざっていく。
『騎士団』は人数も多く、知り合い同士が多いらしくすでに盛り上がっている。
なんか殴られたり蹴られたりふっとばされたりしている人もいるが、まぁ初日だし大丈夫だろう。
多分。
「楽しんどるかぁ、後輩」
「もういっぱいいっぱいですよ。慣れてないので」
「なはは。やからもっと前から配信しとけゆーとったのに。まー、いい機会やろ?」
けらけらと笑うハクビ。
四年前に参加した『OLS』によるプロ大会の決勝で戦い、俺は彼女を倒すことで優勝することになった。
その後も色々問題だった時に相談に乗ってくれたし、動画配信を勧め、やり方を教えてくれた、俺にとっては恩人で、姉のような人だ。
現在ではウェザリと同じ『ZEVOLUTION』所属、顔出しもしつつ、それをもとに作ったVtuberアバターもあり、多方面で活躍する大人気ストリーマー。
普通に登録者数が百万超えているので、そんな人の配信に映っていると思うとまたさらに緊張してきた。
「おーん? なに緊張しとんやー? ほれほれ、悩みがあるならお姉さんに話してみー?」
「それじゃあ、『MCA』と『騎士団』の今後の確認を……」
「真面目かいな?」
呆れるような半目を向けられたが、こちらとしては下手なことをして炎上しないか不安で一杯なのだ。
そんなことを思ってデフォルトで所持しているスマートフォンの連絡先を交換する。
そういえば『MCA』のメンツとまだ交換していなかったので、あとで交換しておこう。
「あんなぁタツ」
「はい?」
「あんま上手くやろうとせんでえぇからね」
「……? どういう意味ですか」
「まんまの意味や。さっきのくりいもみたいに、滅茶苦茶なのも……まぁ、こればっかりは実際に体験せんとか」
先輩はやれやれと肩をすくめ、意味深に笑って、
「おう、誰が指示厨や? ミステリアスなおねーさんのアドバイスやろ」
虚空を見つめてキレていた。
リスナーになにか言われたっぽい。
「えっと、すみません。俺のせいで……」
「あー、あかんあかん。ネット初心者か? リスナーとのプロレスなんてよう見るやろ。うちもリスナーもマジでキレたりしてへんて。なぁ! スクラムスクラム!」
言いつつ、先輩が実際に肩を組む、というより肩を抱いて彼女の胸に俺の顔を押し当てて来た。
結構、というかVtuberのアバターとして、現実ではあり得ないような巨乳だ。
「ちょっ、先輩……!?」
「おっ? なんや照れてんのかー?」
「これで炎上したらどうするんですか……!」
「そっち? そういうとこだけ配信者ムーブしおって……」
ぶつぶつと文句を言われたが、感覚再現は甘いVRの世界では胸を押し当てられようとなんか当たっている、くらいの鈍い感触しかない。
『MCA』や『騎士団』のみんなにからかわれても困るのでさっさと距離を取る。
「ま、タツの先輩として、大切なことを教えよう」
「はぁ」
「こら、真面目に聞きぃ」
ええか? と彼女は前置きし、
「適当に遊べばええねん」
「それじゃあ俺はこのあたりで……あ、依頼が会ったら電話してくださいね」
「まあまあまあまあまあまあまあまあ!」
しつこいなこの人。
なんかそれっぽく前置きしたのにしょうもないし。
「まったく、ちょっと見ない内に塩になって。まぁそれはそれでおもろいかもしれんけども。ともあれや、これだけは忘れちゃあかんのよ、後輩」
先輩はウィンクをし、広場で戯れている『騎士団』や『MCA』のメンバーを見て言った。
「うちらはゲームをやるんやない―――――ドラマを作るんや」
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