推しがメロつくのは解釈不一致です―――俺が相手でも 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
「ドラマなぁ」
朝……というか昼、ベッドの上でぼんやりと先輩の言葉を思い出す。
昨日、というより今日だが、『ExZ』初日は最初のユニコーン交通事故くらいで、あとは諸々のチュートリアルでつつがなく終わった。
テラスが茶々を入れ、キトラが毒舌を吐き、ウェザリとリーゼロッテが軌道修正をしていくという流れ。
流石は配信者というか、俺のことも会話にいれてくれた上で、話を楽しく回してくれた。
元々『MCA』が本格稼働するのは、サーバーが始まってから少し後ということでわりと穏やかな、いわゆるチルい時間だった。
「そういう意味ではよくなかったのかね……」
首をひねりつつ、顔を洗ったり歯を磨いたりして、朝食に冷凍食品をレンジで温める。
デスクに向かい、動画配信サイト『Divetube』を開いた。
俺が動画を上げているサイトで大体の配信者もここか『Lewitch』というサイトを使っていたりする。
そして『ExZ』で検索してみれば、
「早いねぇ」
既にいくつもの切り抜き動画が上がっていた。
『くりいも姉妹初日やらかし』
『ExZ初日から無双するパイル・リノール』
『魔王軍にて鬼教官覚醒する鬼火グレン』
『愉快な『聖歌隊』一日目まとめ』
『圧倒的ママっぷりで飲食を支配する花見屋かえで』
『エクセルシオールExZ参加者初日総集編』
などなど。
流石に大人数のサーバーコラボということで、個人を切り抜いたものだったり、事務所のまとめだったり色々だ。
知っている名前も知らない名前もたくさんあり、改めてイベントの規模の大きさを感じる。
『MCA』の動画もあるが……怖いので見ない。
コメントとかで俺だけ叩かれていたら嫌すぎる。
『ExZ』に参加を発表した時点で、通常の攻略動画もコメントを閉じたくらいだ。
「おそろしやおそろしや……」
その後『ExZ』関連のメールを返信しつつ、食事を終えて日々の家事をこなしておく。
一人暮らしも四年目に入るので、料理以外はだいぶ慣れてきた。
洗濯をしたり掃除をしたりして、
「ゴミ出し行くか」
ゴミ袋を片手に外に出れば、
「あっつ……」
夏の猛暑が全身を襲う。
科学が発展し様々なことが自動化やらなんやらしても自然気象だけはどうにもならない。
一日の大半を室内かVR空間で過ごしているが、こうして外に出ると生身であることを実感する。
俺の部屋はマンションの四階なのでエレベーターの到着を待てば、
「あ、ども」
「……」
先に乗っていたマンションの住民に軽く会釈をする。
相手も、無言ながら軽く頭を下げてくれた。
顔見知りではあるが、ほとんど話したことはない。
青いインナーカラーをいれた黒髪の、年は多分同じくらいの女性。
身長も同じくらいで、オーバーサイズのパーカーを着ていてもわかるくらいにスタイルがいい。
胸もでかい。
思わず下世話なことを思ってしまうくらいには。
モデルかなにかって感じ。
いつも黒のキャップとマスクを着けているところしか見たことはないが、間違いなく美人だ。
目の保養になる。
ゴミ袋片手にしているあたり、彼女もゴミ出しだろう。
「………………」
もちろん、エレベーターの中でまじまじと見ることはせず、スマホに視線を落としておく。
このマンションは防音設備とセキュリティしっかりしていて、配信や音楽をしている入居者が多い。
いわゆる、配信者向けのマンションだ。
俺はあまり気にならないが、女性の居住者はプライバシーを気にするので、挨拶以外で無理に話しかけないように、というのが入居の条件でもあった。
正直、俺のような動画で声を入れるだけの人間には過剰な設備だし、家賃も結構割高だったのだが、大家が父の友人で優遇してもらうことで住まわせてもらっている。
何もせずに家賃を減額してもらうのも悪いので、ちょこちょこマンション周りの掃除なんかもしていた。
「…………」
数十秒でエレベーターは一階に到着する。
レディファーストの精神でエレベーターを開けておけば、ぺこりと会釈しつつ彼女が出ていってくれた。
お互い無言でいるのも気まずいので助かった。
その後郵便受けを確認している振りやマンションの外に落ちているゴミを拾うなどをして、ゴミ出しのタイミングをズラしておく。
「ふぅ」
ほんの数分だったが、結構な汗をかいて戻る頃には、彼女はもういなかった。
彼女がどんな活動をしているのかは知らないが要らない疑惑を掛けられたくない。
そんなことを思って、苦笑してしまう。
「…………昨日からそんなことばっかりだな」
そして部屋に戻り、PCの元に行けばチャットアプリにDMが。
それも、キトラからだ。
推しからDM。
恐ろしい。
震える指でマウスを操作し、見てみれば短いメッセージ。
『配信しないの?』
「………………なんで気づいてるんだ」
コラボ関係者の動画を見るタイプではないはずだが。
アクションゲーム好きとして、変に目をつけられているかもしれない。
動画とか見られていたらどうしよう。
『OLS』の動画も過去を遡れば大量にあるので、参考に見ているのかもしれない。
「……」
腕を組み、頭を捻り、席を立ってぐるぐると回って、
『予定はないです』
最低限の一言だけ返す。
そっけない気もするが、相手は人気Vtuber。
推しがどうこう置いておいても、このくらいの温度感の方が良いだろう。
『なるほど』
返事はすぐに来た。
それで終わりだった。
「え、こわ……」
●
そうして『ExZ』二日目が始まる。
今日は戦闘面での解説をする予定だ。
サーバーコラボではプレイの仕方は自由と言っても、『OLS』はアクションRPGだ。
やはり戦闘に華がある。
バトルプレイが多くなるであろう『騎士団』と『魔王軍』は盛り上がるだろうし、助っ人である『MCA』もある程度出来ないと助っ人として機能しない。
プレイヤースキルが物を言うゲームなので、最低限のラインは確保しておく必要があるのだ。
だから、昨日は戦闘に関してはそこそこにして、二日目に回したのである。
今日はリーゼロッテ、テラス、ウェザリの順でログインしてきて、
「キトラさん、遅刻っすか?」
「おかしいですね、さっきまで普通に通話していたので寝坊とかではないはずですけど」
「ログインとかでエラーでも起きたのかな」
キトラが遅れていた。
「タツ、ログインエラーだとこのゲーム何があるのかな」
「ログイン場所がズレたり、ログアウト中もヘルスが減った判定でログインした瞬間に餓死とかたまにありますね。とんでもない僻地に飛ばされたりすると身内が『騎士団』か知り合いに迎えに来てもらわないとです。バグの餓死は『聖歌隊』呼んで回復してもらうしかないですね」
「わはは、大変っすねー」
そんな世間話をしていたら、キトラはすぐに現れた。
「ごめん、遅れた」
「数分くらいですし、大丈夫ですよ。機材トラブルでもありましたか、キトラ」
「ん。ちょっとね」
「こんにちは、キトラ」
「こんちゃーす、キトラさん」
「こんにちは、キトラさん」
「ん」
俺達も順番に挨拶をして、
「タツさん」
何故か、彼女はまっすぐに俺を見た。
そして。
「今日もよろしくお願いしますね!」
そして、初配信から彼女の配信を見ている俺でも。
見たことのない晴れやかな笑顔を。
聞いたことのない優しい声を。
俺に向けてきた。
「……………………………………はぃ?」
●
「えー、この『OLS』のバトルはスキル制でして、膨大な量あるスキルから五つを選んで組み合わせるって感じですね」
ゲームの事となると言葉はすらすらと出てくる。
精神状況とは別として、これでもわりと長いこと攻略解説動画を上げているのだ。
「これはもうほんとに大量にあるんですが、セオリーももちろんあります。メイン武器、サブ武器ないしメイン武器補助、行動補助のパッシブとアクティブを二、一」
言葉で言ってもわかりにくいので、実際に共有ウィンドウを展開し、四人に見せる。
「俺の場合だと≪拳撃マスタリー≫がメイン、≪気功≫がメイン補助、≪ディフェンダー≫、≪逆境≫がパッシブ、≪乾坤一擲≫がアクティブって感じですね。これでタンク型の格闘家が出来上がるわけです」
≪拳撃マスタリー≫は拳を使った戦闘スキル。
≪気功≫は格闘に使う身体能力強化。
≪ディフェンダー≫は防御や味方を庇ったりする行動に補助が入る。
≪逆境≫はHPが三割を切り、レッドゾーンになると全能力が上昇する。
≪乾坤一擲≫は大量のストレス耐性を消費する代わりに、強力な一撃を発動可能。
これで、前線で自己強化をしつつ、仲間の盾となり、体力が削れたら逆転を狙うことができる、というわけだ。
「このゲーム、システムアシストが強力で≪〇〇マスタリー≫ってやつを取っておけば、それこそ漫画みたいな動きができるようになります。跳んだり跳ねたり、魔法を使ったりとかも。ここらへんは好みですね」
ウィンドウを操作し、次の画面へ。
「これはテラス君のスキルセットですね。みなさんのは事前に好みを聞いていたのでこっちでおすすめセットを用意しています。テラス君だと≪刀マスタリー≫、≪居合い切り≫、アクティブの≪炎魔法≫、パッシブで≪心眼≫、≪カウンター≫。これで剣に炎を纏わせて抜刀術で戦う剣士ができます」
「っぱ刀っすよね! そして刀といえば抜刀術っすよ!」
「まぁ実際人気あるビルドでした」
日本人はいつまでたっても刀が好きなのだろう。
俺は昔から好きな漫画の影響で格闘家スタイルになったけれど。
「ねぇ、タツさん?」
よく知っている、けれどよく知らない、低いけれど高い、甘ったるい声が耳に届いた。
キトラだ。
「あ、う、……すぅー……はい?」
「ギッ……」
テラスが歯を食いしばった音が聞こえてきた。
「タツさんのスキルセット、だいぶ劣化してない? それ≪下位≫スキルだよね?」
「よ、よくご存知で……」
「ん、私、タツさんのファンだったからね。言ったでしょう?」
「うぅっ……すぅぅぅう……えぇ……」
「ギッ……ガッ……グフッ……!」
ダメージボイスみたいなテラスは置いておいて。
問題は、これだ。
先ほどログインしたキトラの様子が、おかしい。
本来であれば彼女は笑うことが少ない。
初配信で笑顔がない、愛想がない、楽しくないの負の三拍子で炎上し、四年経ってある程度マシになったとは彼女の笑顔はレアなのだ。
雑談でたまに、あるいは高難易度で数時間のトライの果てに見える、激レアもの。
よく配信者やっていけるなと思うが、それがキトラの笑顔なのだ。
なのに、なんかその笑顔をずっと俺に向けている。
推しの笑顔が見れているのに、怖い。
「ダァファ……!」
笑いをこらえていたテラスの声はもうよくわからない鳴き声になっていた。
ウェザリは興味深そうに目を細め、
「………………」
リーゼロッテは珍獣でも見たかのように絶句し続けている。
「どうしたの、タツさん?」
「ぃーえぇー?」
俺は俺で会話が不自由になっていた。
そもそもだ。
彼女は俺の動画を見ていたらしい。
それだけならいい。
『OLS』のサーバーコラボがあって、同じチームの相手が『OLS』の解説動画を上げていたら見ることもあるだろう。
いや、彼女は攻略動画とか見ないタイプだったはずだが。
ともかく、動画を見た、ならいい。
だが、昔からファンだった?
意味がわからない。
「それで、なんで≪下位≫で固めてるの?」
「……キトラさんの言う通り、『OLS』のスキルは熟練度制で、≪下位≫スキルをマスターすると≪上位≫スキルに派生したり≪下位≫スキルを格納した上で≪上位≫に発展します。≪上位≫をマスターすればさらに≪最上位≫スキルになって、そこまで行くと個人ごとの≪ユニーク≫スキルにまでなるわけですね」
実際、本来の俺のスキルセットは五つとも≪ユニーク≫スキルだった。
これはプロ級では珍しくない、というかトップ層は≪最上位≫で固めて実質大量のシステム補正を受けるのが当然だったわけだが、
「≪最上位≫まで固めるにはガッツリやり込んでも半年は掛かるので、今回は概ねないものとして扱うって感じですかね」
「ん。残念。私も使いたかったんだけど。≪上位≫くらいまでならいける?」
「それならまぁ……多分……」
「なら、教えてねタツさん」
「うぅ……」
キトラの優しい声にヘルスが削れていく。
ストレス耐性値はゲーム規定のもの以外でもプレイヤーの精神状況に応じて削れもするのでわりとよくない。
昨日作ったばかりの『MCA』製のストレス耐性回復アイテム『ストレス回復ポーション』を飲む。
ついでに空腹と喉の乾きもアイテムを使ってこまめに回復。
ちなみにそれぞれ『満腹バー』と『飲料水』という名前。
味はともかく、名前が酷い。
昨日お試しで大量に作って、名前も適当に付けただけなのでそれこそ初期アイテムみたいな名前だ。
助っ人業務以外ではこういうヘルス回復アイテムを売るのでデザインや名前とかもよく考えないとなぁ。
「ははは……」
「っ――だーはははははは! 無理ぃ! もう無理っすよ! タツさんなんか現実逃避してるし! キトラさんメロついてるし! そういう人だったんですか!? おもろすぎますよ! だははは! リスナー! ここ切り抜いてくれー!」
テラスの爆笑が酒場に響き、
「うるさいよ」
「えぇ!? 俺には変わらないんですか!?」
一転して絶対零度の言葉がキトラから放たれた。
なんなんだよもう。
俺が何をしたというのだろうか。
キトラのコメント欄がどうなっているか恐ろしい。
解釈不一致です。
「ちょっ、ちょっとキトラ。こっちに来なさい」
「えー、まだタツさんの話聞きたいんだけど」
「いいから!」
「あー」
キトラがリーゼロッテに引きずられて消えていく。
残ったのは爆笑しているテラスに、現実逃避している俺。
それに、
「ふむ……タツ」
神妙な顔で頷き、俺の肩に手をかけたウェザリはこう言った。
「女性関係は気をつけたほうが良い―――――刺されるよ?」
不覚にも笑ってしまった。
●
「ど、どういうつもりですか!?」
リーゼロッテは端から見れば半笑いで、けれど内心ではわりと焦った状態でキトラに問い詰めた。
『MCA』のバックヤードで、キトラはさっきまでのタツに対する表情とは違い、いつも通りの気怠げな表情を浮かべている。
「ん、何が?」
「何がってタツさんへのあれですよ!? え? どうしたんですか!? ここに来てキャラ変!?」
「ここに来てじゃない。タツさんのファンだったのは本当」
「それがもうびっくりなんですけど……? あなた、人の配信とか動画見るんですか? 一時期自分の箱のこと知らなさすぎて不仲説とか流れたのに」
「大変不本意だった。不仲じゃない。自分の配信に忙しかっただけ」
「それは分かってますけども」
納得のいかないリーゼロッテに、キトラは胸を張りどやっという顔を浮かべた。
「安心して、リズ。私ももう三年も配信者をやっている」
リーゼロッテは、その四年間のことを思い出した。
初配信で炎上した同期。
コラボ配信でまともに会話ができなくて炎上した同期。
社外コラボを封印された同期。
そのせいで自分に仕事が回ってきて忙殺されることになった原因である同期。
アクションゲームでコラボをすると大体ボコボコにしてきて煽ってくる同期。
「不安しかないんですが?」
「大丈夫。私も配信のことを考えているよ」
「本当は?」
「タツさんのことを考えてる」
「ガチ恋勢殺す気ですか?」
「私のリスナーにユニコーンはいない。この三年間、角を折るのに苦心してきたから」
「嫌な三年間過ぎますよ」
「ゴキブリ並みの生命力だから、ついでにここで絶滅させたい」
「リスナーをゴキブリ扱いしないでください!」
●
「うおおお! 抜刀術きもてぃー!」
「ちっ……次は弾く……もう一回……!」
「なはは! いいっすよ! 次も俺が勝つっすよー」
酒場の地下にあるトレーニングルームから、大きな声が聞こえてくる。
ボイス範囲を絞っていないのだろう、模擬戦中のキトラとテラスだ。
キトラの様子がおかしいのは置いておいて、簡単な体の動き方を教えた後、とりあえず自由に戦ってもらっている。
ウェザリは友人に呼ばれたというので今は席を外していた。
残されたのはバーカウンター内の俺とリーゼロッテ。
「なんというか……うちの同期がご迷惑を……」
「いえいえ……」
そしてリーゼロッテから頭を下げられていた。
腰を九十度曲げた礼を見た目ヨーロッパ人のリーゼロッテがしていると思うと違和感がすごい。
「あの子はなんというか……欲望に忠実というか……自分のやりたいことしか考えていないというか……傍若無人と天衣無縫が擬人化したというか、他人を慮るという機能が人の半分くらいしかないというか……ともかくそういう子でして……」
「て、丁寧にボロクソ言ってる……」
「おそらくですが、浅はかにも、いわゆるてぇてぇカップリングをやってみるか、とかふと思いついてタツさんをロックオンしたんじゃないかと私は睨んでいます」
「はぁ」
てぇてぇカップリング。
言葉にされるとちょっとアホっぽい。
配信者同士の恋愛のロールプレイ、とでも言うべきか。
雑談したりゲームをしたりしながら配信者同士が
配信界隈では非常に需要があるもので、
「そういえばリズさんも相手が……」
「その話は今は関係ないですね?」
「あ、はい」
スン、とされてしまうと言えることがない。
何にしても、俺がキトラとのてぇてぇ……?
「うおぉぉぉ……」
「えぇ……気持ちはわかりますよ。あれは見てくれと声はいいですがそれ以外は問題しかないので……いえ、うちの同期は大体そんな感じなんですけど、あれはコミュニケーション力という意味ではぴかいちの酷さというか……」
「さっきから切れ味がすごいですね」
「失礼、積年の恨みが。ともかく、相手が大変だと思うので適当にあしらっておいてください。そっちのリスナーも荒れるようであれば、私からキトラに言っておくので」
「いやまぁみなさんのサポートが俺の仕事なんで、それはしますけど。それに、俺は配信はしてないので、そこは心配ないと思います」
「はぁ?」
珍獣を見るような目で見られた。
「………………あぁ、タツさんは動画勢でしたもんね。後から動画をまとめるわけですか。実は私も『ドラバス』の攻略動画見させてもらったんですが、わかり易く丁寧な動画でしたよ。なるほど、あの編集力なら動画にするのもありですね」
「いえ、そういう予定もないですけど」
「………………マジの配信外なんですか?」
「えぇ、まぁ」
「正気ですか……?」
「そのつもりですけど……」
珍獣を見る目が狂人を見る目になった。
「鯖コラボで配信外で参加するとか、なんのために……?」
「いえ、だから俺は元々運営のサポートですからね。配信も元々やってないですし。システム調整とかでバイト代ももらってるんで」
「なるほど、狂人でしたか……」
酷い言われ様だった。
「まぁ確かにリズさんみたいな配信者からするとそうですけど、自分、気持ち的には運営側なんで。サポーターとかアドバイザーとかで元々話をもらってますし」
「あなたの経歴を思うと確かにそうなんでしょうけど……いえ、あまり人様のスタイルに口を出すものではないですね。失礼しました」
彼女は会釈をし、ななめ下を向いた。
「リスナー、どうして私の関わる人は癖の強い人しかいないんですかね…………いえ、私は業界一のまともな人間ですが?」
「リズさん、ミュートできてないですよ」
「おっとっと。おほほ、なんでもないですよ?」
にっこりと微笑む彼女は美人だった。
アバターがよく出来ている。
「まぁいいですけど。とりあえず作業をしましょうか」
バーカウンター、現実であれば酒を作ったりする作業台にあらためて向かう。
『OLS』、そして『ExZ』には料理という手順は存在しない。
決められた作業スペースに手をかざせばウィンドウが展開し、いくつものコマンドが表示される。
そのうち、作りたいものをタップすると体が勝手に調理エモートを十秒ほど行った後、自前のインベントリに保存される。
基本的にアイテム作成においては『OLS』はこういう感じで作られる。
行う作業においじてエモートは変化するが、やることは同じ。
『OLS』自体はもうちょっとややこしく素材消費の概念があるが、『ExZ』ではオミットされている。
「俺達、これを売るのが目的……とまでは言わないですけど、ある程度売らないといけないですからね。俺達の仕様上、『他の飲食空いてないからとりあえずここで食べ物飲み物買うか』狙いですけど。それには答えられるだけは用意しておかないとなんですよね」
「ふむふむ。あくまでヘルス回復のフードを売るのはサブ、というわけですね」
流石に話が早い。
だが、彼女は人差し指を顎に当て、苦笑した。
「『ストレス回復ポーション』、『満腹バー』、『飲料水』、ではね」
「はい……」
さっき同じことを思ったが味気なさすぎるのは本当にそう。
デザインもデフォルトの特におもしろみもないもの。
自前のデザインがあればそれに設定できるが、俺はイラストを描けないのでそれも無理だ。
「と、いうわけで。私、フードのデザインを用意してきました」
「おぉ……!」
「私、というかリスナーがファンアートで用意してくれたものですけどね」
誇らしげに微笑みつつリーゼロッテがウィンドウを操作し、いくつかのイラストデータを送ってくれる。
ホットドックに、黒ビール、コーヒー。
どことなくドイツの香りを感じるのは、彼女がドイツモチーフだからだろう。
リーゼロッテやキトラ『ENCOUNT』三期生は国と動物をモチーフにしたVtuberだったはず。
キトラは中国✕虎。リーゼロッテはドイツ✕鷹。
他にもアメリカ✕ライオン、エジプト✕蛇もいたはずだ。
「他にももっとキャラ要素強めのやつとかあったんですけど、とりあえず一番使いやすそうなやつを選びました。ちょっと私要素強すぎますけど、もうちょっとしたら他のみんなのリスナーで絵が描ける人が用意してくれるんじゃないですかね」
「すっごいですねぇ……」
素直に感動だ。
ファンアートを配信に活用するというのはリスナーと交流する配信者ならではだろう。
俺にとってリスナーの交流はコメント欄で感想を貰うか、攻略のリクエストに応えるくらいなので新鮮だ。
新しいゲームの攻略を始める度に毎回リクエストや結構な量のギフトをくれる熱心な人もいるが、そういうのとはまた違った味わいがある。
「いいですね、早速反映させましょう。こういうのは頭になかったです、色々やれると楽しそうですね」
飲食販売はおまけと思っていたが、これなら話は別かもしれない。
ちょっとわくわくしてきた。
『あー、ごめん。みんな、ちょっといいかい?』
「お?」
無線からウェザリの声が聞こえてきた。
彼はのんびりとした声で言った。
『友達に呼ばれて行ってみたら、なんか拘束されて動けなくなって『お前は生贄だァ……』とか言われて怪しい祭壇に連れて行かれて、今目の前でなぞのダンスを見せられているんだけど、どうしたらいいかな?』
どうしてそうなるんだよ。
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