推しがメロつくのは解釈不一致です―――俺が相手でも   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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【MCA】2日目②デスサンタ、ママ神様遭遇

 

 

『騎士団』と『魔王軍』のミッションは相互関係だ。

『ExZ』では『魔王軍』がそれぞれに課せられたミッションを行い報酬を獲得し、『騎士団』はそれを阻止することで報酬を得る。

 現実でいう犯罪者と警察みたいなものだ。

『OLS』本編でもこの傾向が強いものの、『騎士団』側から能動的に起こすものはありつつ、今回は攻める側と守る側を明確にすることでわかりやすさを優先とした。

 ミッションの種類はさほど多くない。

 一人でもできるような小規模なものはいくつがあるが、その中で、民間人を必要とするものは一つだ。

 

「『祭壇儀式』に使われてるんだと思います」

 

「どういうものですか?」

 

 助手席にリーゼロッテを乗せ、車を走らせながら俺たちはウェザリの下に向かっていた。

 

「ゲーム的に言うと街にいくつか祭壇があって、そこで生贄を捧げる儀式を行うと各種アイテムがもらえるって感じですね。生贄はNPCを使いますけど、今回はプレイヤーも対応できるようになってます。で、『騎士団』は市民を守るのが仕事なんで交渉して生贄を解放してもらって、『魔王軍』は祭壇に置いてある宝石を報酬としてもらって逃げる。『騎士団』は逃げた『魔王軍』を捕まえるって流れです」

 

「はぁ、なるほど? 『SURVIVAL』には全然なかったような……いえ、なんか生贄で儀式してモンスター召喚するようなのはありましたけど」

 

「『SURVIVAL』は『OLS』でこのエデンが崩壊したIF設定だったんで、NPC生贄してテイムモンスター作るのはその名残ですね。この『祭壇儀式』もゲームでいうと結構シナリオ進めて『騎士団』と『魔王軍』の関係が底地にならないと解放されないんですけど……」

 

「やってること誘拐殺害ですもんね。まぁ配信的には盛り上がりそうですけど」

 

「実際それ狙いで実装されましたからね」

 

 基本的に『魔王軍』と『騎士団』はお互いで完結するが、そうなるとそれ以外のジョブは商品を売るだけになってしまう。

 なので、一般市民プレイヤーへのアクシデント交流として『祭壇儀式』が選ばれたわけだが、

 

「まさか二日目でウェザリさんがやられるとは……いえ、なんか設定の重さを除けばやりやすいんで、これが一番回数増えそうだって話でしたけど」

 

「そんなもんですよ」

 

 そうなんだ……。

 キトラとテラスにしても戦闘トレーニングに没頭していたので着いてこなかったあたり、慣れているようだ。

 キトラの場合は単純に興味がないだけかもしれないけど。

 いや、キトラのことは一端忘れよう。

 とにかく車を走らせる。

 辿り着いた先は、三階建てビルだった。

 街の西側は魔族側、つまりは近未来的な街が広がっている。

 ガラス張りの建物や高層ビルなどが並んでいて、別のゲームみたいな風景だ。

 

「あの、タツさん」

 

「はい」

 

「SFみたいなかっこいい街の、ビルの前で、身内が縛られていてその周囲でダンスしているヒゲメガネのサンタがいるんですけど、こういうものなんですか?」

 

 別のゲームをしているのだろうか俺は。

 

 

 

 

 

 

「ンドコンドコンドコ、ハァーーーー! ハァーーーー!」

 

 近未来都市で。

 サンタが。

 ヒゲメガネをして。

 寄声を発しつつ。

 手錠で拘束されたウェザリの周りでブレイクダンスをしていた。

 どうしよう、ほんとに分からない。

 

「ンハンハ! オーエスオーエス! ゥゥゥゥオオオオオ、ハッ!」

 

 落ち着こう。

 ブレイクダンスはエモートだ。

 逆立ちして足を広げてぐるぐる回っているが、発声とエモートは切り離されているので関係ない。

 サンタとヒゲメガネはそういう服もある。

 アバター自体の顔は見えないが。

 そう思えば不思議なことは半分潰れた。

 あとは奇声とそもそもダンスをしている理由。

 

「いやわかんないって」

 

 マジでなんなんだよ。

 配信者強すぎ。

 

「おっー、タツ、リズ。来てくれたんだね。いやぁ助かった」

 

「だ、大丈夫ですかぁ?」

 

「どうなんだろう?」

 

「むっ! お前たち、『騎士団』かぁ!?」

 

「違います」

 

「えっ」

 

「ほら、言っただろう。僕の仲間だよ」

 

「なにぃ!? 『騎士団』が止めに来るんじゃないのか!?」

 

「っていうかあなた、ハザマですか?」

 

「ぬぅ……! 私はハザマなどという人間ではない……!」

 

「いや、急に声低くしてもわかりますよ」

 

 途端にハザマと呼ばれたサンタがあたふたしだした。

 

「ハザマって……」

 

「私の……まぁ知り合いですよ。ウェザリがいってたの、彼だったんですね」

 

「ハザマではない! 私はデスサンタだ!」

 

「なんでサンタなんですか」

 

「かわいいだろう?」

 

「ははは、僕もこの見た目に気を取られてたら捕まったわけだ」

 

 楽しそうに話している三人を見ながら、記憶を引っ張りだす。

 ハザマ……そう、確か世繋(よつなぎ)ハザマだ。

 個人勢の男性Vtuber。リーゼロッテと一緒にゲームしている切り抜きをよく見る。

 というか、

 

「あ、リズハザてぇてぇの……」

 

「タツさん、それは忘れてください」

 

「あっはい」

 

「悪いなリズ……俺はもうお前の知っている男じゃないんだ……」

 

「何を洋画の別れた夫みたいなムーブを。そんなダサいサンタとか知りません」

 

「ダサい!?」

 

 しばしハザマとリーゼロッテが言い合いをし、ウェザリが茶々を入れるのが続き、

 

「というか何をしてるんですかあなたは」

 

「いやなんかここで生贄捧げたら金もらえるって聞いたから生贄の儀式してたのになんも起きないんだよ!」

 

 デスサンタのロールプレイを忘れてハザマが叫ぶ。

 

「……あの、いいですかね」

 

「あ、はい」

 

 初対面だから急に冷静になられるとちょっとおもしろい。

 

「『MCA』のタツです。『ExZ』のサポートもしてるんですが……」

 

「え!? タツさん!? マジ!? 俺、大会の動画見ましたよ! やべーかっこよかったっす!」

 

「ど、どうも。ありがとうございます。それでなんですけど……この『祭壇儀式』、ここじゃダメですよ」

 

「えっ」

 

「この建物の地下に行くんです。そこでちょっとしたミニゲームすると中の祭壇に入れて、そこでまずお金、というか宝石あるんで手に入れて、そこで『騎士団』来たら交渉して乗り物で逃げるって流れです」

 

「『騎士団』も来ないしそもそも車を持ってないんですけど……」

 

「それは……チュートリアルしなかったんですか」

 

「した……というかやり方を聞いて…………あーっ! スカルのやつ、嘘教えやがったな!? くっそー!」

 

 スカルという名前には覚えがあったが、それは置いておいて。

 

「……………………自分が教えますか」

 

「……………………お願いします」

 

「ダサいですねぇ」

 

「これ、俺は生贄のままなのかな?」

 

 

 

 

 

 

『祭壇儀式』自体は別に難しいものでない。

 軽く説明するだけでハザマは理解をしてくれた。

 このあたり、普段からゲームをやっている配信者は流石というところだろう。

 宝石を手に入れてホクホク顔のデスサンタと呆れ顔のリーゼロッテ、それにずっと手錠をかけられたままのウェザリといっしょに外に出れば、

 

「えー、犯人に告ぐ! 犯人に告ぐ! 今すぐ人質を開放し、宝石を私達に渡し、出頭しなさぁーい!」

 

「お姉ちゃん? 宝石もらったら汚職だよ?」

 

 見覚えのある姉妹が馬にタンデムしていた。

 

「うっわ何あのデスサンタきっも、ってあれ、『MCA』の人たち? チュートリアル中でした?」

 

「おい今キモイっつったか!?」

 

 秋和栗乃と妹波いの海だ。

 昨日と変わらず二人一緒で元気そうである。

 

「いやー、その説はご迷惑を! 今じゃこうして身の程わきまえて普通の馬乗ってます!」

 

「無視かぁー!?」

 

 ハザマが叫び、

 

「タツさん。これからはどうすればいいんでしょうか」

 

「あ、はい」

 

 切り替えがちょっと怖い。

 

「警察の人が生贄を解放せよって交渉してくるので、開放しつつチェイスするのに条件提示ですね。三分間は攻撃禁止とか、チェイス以外で勝負するとか」

 

「俺、乗り物ないんですけど」

 

「……ここまでどうやって来たんですか」

 

「ウェザリに乗せていってもらいました」

 

 彼が指を指した方に、軽自動車が止まっていた。

 確かに『MCA』の初期車だ。

 それはいいが……この場合、どうしたらいいんだろう。

 

「え? そのキモサンタ車ないの? じゃあもうこれ捕まえて良いんじゃない?」

 

「生贄の人解放してもらわないといけないんじゃだめなんじゃないのお姉ちゃん」

 

「えー、あのー、タツさん車貸してもらえたりしませんか?」

 

 なるほど、それもありか。

 車は遅いが、くりいも姉妹も同じグレードの乗り物である馬だ。

 

「あの」

 

 そこで小さくリーゼロッテが手を上げた。

 

「それってなんかこう、共犯にならないんですか?」

 

「……どう、なんでしょう」

 

「なりますなります! 多分! いやなるでしょ! 車貸したらあなたたちも共犯です!」

 

「タツさん、車は貸してはいけません。えぇ、犯罪はダメですね。ここはウェザリのことも諦めましょう」

 

「リズお前ーっ!」

 

「おや、さらっと僕は見捨てられたかな?」

 

「………………どうしてこうなった?」

 

 ぐだぐだにも程があるだろ。

 

 

 

 

 

 

 結局、ハザマとクリイモ姉妹はそれぞれの上司だか仲間と連絡を取ってチェイスを始め、無事ウェザリは解放された。

 やっと一安心、と思って『MCA』に帰ってみれば。

 キトラとテラスが死んでいた。

 

 

 

 

 

「タツさぁーん……お姫様抱っこで連れて行ってー」

 

「まあまあまあ! 俺が代わりに一緒に運ばれますから!」

 

「は? ついてこないで」

 

「えぇ!?」

 

 死んだ、と言ってももちろんそれはヘルスが枯渇して行動不能になっていた、ということだ。

 トレーニングモードでは体力の減少はしないが、ヘルスは減っていくので気を配っていないと死んでしまうのだ。

 というわけで二人揃って来てくれた『聖歌隊』に運ばれ、やっと一息つけた。

 つけたのだが、

 

「また何か起きるのでは……?」

 

「ウェザリ、タツさんがオーバーフローを起こして疑心暗鬼になってます」

 

「うーん、そもそもコンテンツが上手く成立していないというのはサポーターとしての心境察するものがある。僕らはそれが面白いんだけど」

 

 リーゼロッテとウェザリから微笑ましい目で見られてるのが切ない。

 なんだろう。

 思っていたのとちょっと違った。

 気分的にはシステム解説のNPCみたいなものだと思っていたが、なにかする度に予想外のことが起こりすぎる。

 いやこれ昨日のユニコーン交通事故でも同じことを思った。

 ユニコーン交通事故。

 デスサンタ人質誘拐事件。

 身内餓死。

 大きいものでもちょっとキャパオーバーだった。

 

「配信って……大変なんですね……、いえ俺は別に配信してないんですけど……」

 

「慣れですよ慣れ」

 

「ん? 今タツ配信してないって言った?」

 

「その話はもうしたんですよウェザリ」

 

 ウェザリからも珍獣を見るような目で見られた。

 解せない。

 

「まぁ、肩の力を抜きましょうということですよ、タツさん。当たり前ですけど、サーバーコラボの場合、大人数がそれぞれで動いてるんで、事故のような奇跡のようなことが起こるわけですね」

 

「身に染みてます……」

 

「ふむ」

 

 そこでウェザリは顎に手を当て、

 

「どうだろう、タツ。少し遊びに出かけたらいいんじゃない? リラックスも兼ねてね」

 

「遊び、ですか」

 

 その発想はなかった。

 ふむ。

 遊びか。

 俺にとって遊びというと……。

 

「……ゲーム?」

 

「してますよ」

 

「してるしてる」

 

「俺、休日はゲームしてるか動画編集してるかなんで……」

 

「………………まぁ、私も似たようなものですけど」

 

「僕もだねぇ」

 

 ははは、と乾いた笑いが酒場に響く。

 

「あ、そうでしたタツさん」

 

「はい?」

 

「ほら、さっき飲食店としての話をしてましたでしょう?」

 

 リーゼロッテが手早く先ほどのオリジナルメニューのことをウェザリに説明し、実際にイラストを見せる。 

 

「おー、凄いね。僕のリスナーもいい奴頼むとしよう。それで?」

 

「リスナーに書いてもらうにしても、どういうのがいいのか方向性があったほうが良いでしょう? なのでみんなで相談をしようと思ったんですけど、それはアホ二人がいないので良いとして」

 

 この人、結構毒舌である。

 キトラほどではないが、同期同士似たりするのだろうか。

 

「タツさんの息抜きも兼ねて、他の飲食店に行ってみてはどうです? 私達と違って、メインでやろうとしている人たちがどうしているのかを聞いてみれば」

 

 

 

 

 

 

「飲食のサポーターは、岸藻ハリィさんって人なんですよ」

 

 俺はリーゼロッテの勧めの通りにすることにした。

 彼女の言う通り、『飲食』がどういう風に商品を売っているかは気になるし、ある意味でも商売敵だ。

 参考にするのも索敵をするのも悪くない。

 

「あー……前に、なんかのコラボで一緒になったことがあるよう、な?」

 

「人脈広いですね、リズさん」

 

「いえ、ほんとにすれ違ったとか挨拶しただけとかですけど……ていうか岸藻さんって元プロとかじゃなかったですよね? 告知動画でサポーターって見た時、なにゆえ? と思いましたけど」

 

「あぁ、あの告知動画……」

 

『ExZ』の告知があった時に、それ用の動画が製作された。

 街の風景とかをざっくりと乗せただけではなく、その時に各ジョブのサポーターも紹介され、その時に俺もいたのだが。

 

「かっこよかったですよ、『黒龍』」

 

「ぎぃぃぃぃ……!」

 

 思わずハンドルを切った。

 

「きゃああ! ちょ、タツさん!?」

 

「その呼び方やめてください……!」

 

「なんでですか! かっこいいですよ『黒龍』! みんな好きですよね『黒龍』きゃあああああ!?」

 

 派手に道路を蛇行し、NPCの車や馬やらとぶつかりかけつつなんとか軌道を修正した。

 

「リズさん!」

 

「悪かったですって!」

 

「勘弁してくださいよほんと」

 

『黒龍』、というのは告知動画のサポーター紹介で使われていた……というかプロ大会に出ていた時のリングネームみたいなものだ。

 当時高校生の俺は、ちょっとかっこいいと思っていたけれど。

 大学生になり、大人に半分片足突っ込み始めてからは面を向かって言われるのはだいぶ恥ずかしい。

 告知動画を見て自分のアバターと『黒龍』の名前が出た時は文字通り横転した。

 

「それで……えーと、岸藻さんはプロじゃないのに、なんでサポーターに?」

 

「あの人、『ユニトロ』持ちなんですよ」

 

「『ユニトロ』とは」

 

「ユニークトロフィーのことですね」

 

 ハンドル切りつつ、道路を右折する。

 岸藻ハリィの店は街の中心地なので、ちょこちょこ他のプレイヤーともすれ違うことが増えてきた。

 

「『OLS』ってマルチエンドで、プレイヤーの行動からAIが判定してそれぞれのエンディングにたどり着くんですよね。勇者したり魔王したり、第三勢力立ち上げたり、戦闘やら政治やら商売やらって、その派生だけで何百ってあるんで、自分だけの物語を作ったりするんです」

 

「多すぎません?」

 

「トロコンするの死ぬほど大変でしたよ」

 

 そのせいで、『ExZ』前に『OLS』を各エンディング最短ルートで攻略しても三ヶ月も掛かったのだが。

 セーブとロードを繰り返して、チャートを組んだりして。

 正直二度とやりたくない。

 

「廃人ですねぇ」

 

「まぁ。で、そのトロフィーなんですけど、極稀に用意されていない完全固有のエンディングになることがあるんですね。それをクリアすると『ユニークトロフィー』ってのをもらえるんです。本当に世界に一つだけのそのプレイヤーだけのエンディングってわけです」

 

「どのくらいなんですのそれ」

 

「十人ちょっとくらいしかいないんですよね。『ExZ』参加してる人は六人で、それがそのまま各ジョブのサポーターになってるわけです」

 

 先輩こと稲光ハクビもその一人。

 あの人は心の底から陽キャというか『騎士団』から初めて倒すはずの『魔王軍』も傘下に収めて、正邪の神の遺体から生み出され隠しボスを全勢力総力戦で倒すとかいうユニークエンディングを迎えていた。

 普通ならそんな隠しボスは出ない。

 

「それが岸藻さん? あの人そんなにゲーム上手かったんですか」

 

「普通の腕前はよくわからないですけど、あの人『OLS』一切戦闘無しでご飯売ってなんか人類魔族の抗争終わらせたらしいんですよね。それで『ユニトロ』ゲットって感じで」

 

「別のゲームやってますねぇ。再現性ないんですか?」

 

「同じことしてもそもそも同じ展開にならないんですよね。よく出来ているというか、意地が悪いというか。『OLSⅡ』とかだとなくなりましたけど」

 

「なるほど」

 

 ふむ、とリーゼロッテは頷き、こちらに視線を向けた。

 

「あなたもその『ユニトロ』持ちなんでしょう? どんなエンディングだったんですか?」

 

「俺は……逆に戦闘だけやっていたって感じですね」

 

 

 

 

 

 

『飲食』サポーター、『ユニトロ』持ち、『鬼子母神』岸藻ハリィの店は古風な食堂という感じの店だった。

 酒場である『MCA』よりだいぶ大きく、外観もおしゃれだ。 

 そして、

 

「ママー! ママー!」

 

「ばぶぅー!」

 

「うぅぅぅ……おかんに会いてぇ……!」

 

 大量の車やら馬やらが止まっていた。

 なんか泣きながらおにぎりっぽいのを食べている男とたまに女が一杯いた。

 

「地獄絵図?」

 

「やばい癖の博覧会?」

 

 リーゼロッテと共に近づくか迷っていたら、店から出てきた女性がこちらに気づいて近づいてきた。

 桃色の長髪を三つ編みに、胸の前に垂らしている。

 ネットとかでよく見る死ぬ母親ヘア。

 背が高くスタイルも良いアバター。

 

「あら? あらあら! あなた、タツさん? それにリーゼロッテさん?。タツさんは初めまして、リーゼロッテさんも一応久しぶりかしら?」

 

「あ、どうもタツです」

 

「お久しぶりということで、ハリィさん。それで、これは……」

 

「えぇ! えぇ、分かっているわ二人共」

 

 彼女、岸藻ハリィは頬に手を当て、にっこりと微笑んだ。

 

「あなた達も私の子供にしてあげるね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまりね私のお店、『ママ味食堂』のテーマは母親の味なのよ」

 

『ママ味食堂』……口にしても思い浮かべても正気を疑うような店だが、俺達はそのバックヤードでハリィと話していた。

 店の接客は他の店員がしていて、外から赤ちゃんになった他のプレイヤーの声が響いてくる。

 地獄か?

 

「ほら、配信者って結構地元から東京に出て一人暮らししてる人多いでしょ?」

 

「確かに、私もそうですね」

 

「俺もです。いっつも冷食弁当ばっか食べてますよ」

 

「私達が生まれる前とかは冷食もバランス悪いとか言われてたみたいだけどね。今日日それでも完璧な栄養バランスは取れるものだしし、案件とかも盛んなので配信者はそれで生活している人も多いわ。でも、結構な人は宅配サービス使って外食をしていることが多い」

 

「……………………」

 

 リーゼロッテが全力で顔を背けていた。

 心当たりがあるらしい。

 

「まぁ……確かに……」

 

 実家を出てもう三年。

 お盆や年末年始くらいにしか帰っていない。今年は『ExZ』があるから帰れないし。

 夏休みの昼、母さんが作ってくれた絶妙にべちょっとしたチャーハンが懐かしい。

 日野家はわりと食事にこだわるよりはゲームをするという家庭だったので、外食はしないが食事はかなり大味で、上京して色々食べて感動した記憶がある。

 それでも、家庭の味は確かに恋しい。

 

「だから『ExZ』で私は家庭の味っぽい料理を出してるわけ」

 

「ははぁ……配信者のサーバーコラボだからこそ、というわけですね」

 

 なるほど、賢い。

 ものを売るにはまずはターゲットを定めるのが大事、というのを聞いたことがある。

 

「ふむふむ……参考になりますね。つまり、さっき自分の子にしてあげるというのもそういう売り文句というわけですか」

 

「いえ、それは私の性癖ね」

 

「……………………」

 

 良い笑顔で何を言ってるんだこの人。

 

「ふふふ。私、大の大人がバブみに溺れておぎゃっているのが癖で……これなら合法的にできるし、みんな乗ってくれるし……リズさんなら分かってくれたりしない?」

 

「いえ……まぁ……うーん……私はどっちかっていうとショタの方が……」

 

「リズさん???」

 

 苦々しい顔で何を言っているんだこの人は。

 

「残念ね。タツさんはないかしら。ママみあふれる人におぎゃりたい欲」

 

「いやぁ……俺はちょっと、そういうのは……」

 

 俺も何を言っているんだろう。

 どっちかっていうと俺はスレンダーの方が好みなのだ。

 あと、面倒を見られるより見たい方。

 いや、そういうことではなく。

 

「あらあら。残念、『黒龍』をおぎゃらせたかったんだけど。『スカルハート』も『開拓者』も乗ってくれなさそうだし。流石に『ユニトロ』持ちは手強いわね」

 

 無敵かよ。

 

「ちなみに『雷獣』はノリノリでやってくれたわ」

 

 何やってるんだよ先輩。

 

「いや、女性相手でもいいんですか」

 

「全然おっけーだけど?」

 

 何言ってんだこいつって目で見られたが、俺が悪いんだろうか。

 

「ま、『OLS』じゃ味は再現できないからイラストとか名前とかで雰囲気重視で、みんなのロールプレイを前提にしてる感じね。あなたたちがやるなら……そうね。つまりは便利屋でしょ? それっぽいものをやるといいんじゃないかしら?」

 

「それっぽいものとは?」

 

「それを考えるのは、あなた達の仕事でしょ?」

 

 ぐうの音も出ない正論だった。

 

 

 

 

 

 

「うーん……」

 

 帰り道。

 運転の練習のためにハンドルはリーゼロッテに代わり、助手席で俺は唸っていた。

『MCA』、助っ人屋、便利屋っぽいもの。

 正直なところ、『飲食』運営はあんまり考えていなかったが、たった二日で予想外のことが起こりすぎて、ちゃんと本腰をやらないと行けない気がしていた。

『OLS』ではNPC相手にチャートを組めたが、相手は人間だ。

 どうしたらいいんだろうか。

 

「ふふっ、そう難しく考えなくて大丈夫ですよ」

 

 現実でも運転免許を持っているらしく、慣れた手付きで運転しながらリーゼロッテが笑う。

 そういえば、キトラの雑談でリーゼロッテの運転で出かける、みたいな話があった。

 

「なにかいい考えがあるんですか?」

 

「いえ、ないですけども」

 

「…………」

 

「まあまあまあ」

 

 何笑っとるねん。

 配信者って、ちょっと頭がアレな人しかいないのだろうか。

 リーゼロッテはわりとまともだと思っていたが。

 

「そうですねぇ……確か、ハクビさんと仲が良かったんでしょう? なにか、彼女からアドバイスとか貰いました?」

 

「それは……えぇと、リスナーはドラマを見に来ているんだ、とか」

 

 ドラマというかコントが現状な気がする。

 

「なるほど、流石ですね。では、僭越ながら一応は配信者の先輩である私からアドバイスをいたしましょう」

 

 運転をしているから前を見ている彼女は、笑っていた。

 楽しそう、というのは少し違う。

 何かに、期待しているかのような笑みだった。

 

「そのドラマっていうのは、みんなで作るんですよ」

 

 

 




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