推しがメロつくのは解釈不一致です―――俺が相手でも   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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【MCA】2日目③シネマ飯、始動

「それなら、屋台飯とかどーっすか? それかポップコーン」

 

『MCA』に戻り、飲食やハリィの話を蘇生して戻ってきたキトラやテラス、ウェザリに話したら、テラスが何気なくそう言った。

 

「屋台飯……ポップコーン?」

 

 なんで?

 

「いやほら、俺ら便利屋でしょ? それで飯作るなら、こー、サクッと食べられるやついいんじゃないですか? 屋台とかフードトラックのファーストフードみたいな」

 

「ほほう……確かに……」

 

 便利屋、何でも屋、助っ人屋。

 確かにインスタントな感じはファーストフードぽいかもしれない。

 

「ポップコーンはどういう理由なんですか?」

 

「友情出演って映画用語っすよね。カメオ出演とかの」

 

「そうなんですか」

 

「え、違ったんっすか……?」

 

 映画はほとんど見ないのでよく知らない。

 たまにゲームの実写化を見るくらいだ。

 

「テラスの言う通りだね。友情出演、カメオ出演。例えばゲームや漫画の実写化でその原作者がモブキャラクターとして一瞬だけ出演することを言う。他にも主演の友人がたまたま撮影所の近くにいたからちょっと呼んで一瞬出てもらった、みたいなこともあるよ」

 

「へぇ。普通に知らなかったですね」

 

「んん……一時期、映画本編よりもカメオ出演ばっかに気を取られる、みたいな映画とかもあったけど」

 

「そうなんですか……」

 

「言わないであげてくれ……」

 

 キトラのぼそっとした発言に俺は苦笑し、ウェザリが苦虫を噛み潰したような顔をする。

『MCA』の名前は五人でチャットしながら決めたが、ウェザリの提案だったし、映画好きなのだろうか。

 

「っと、まぁそれで映画用語ならポップコーンもありなんじゃないかなって」

 

「ん。テラスにしては悪くない考え」

 

「あれ? なんか二日で俺のヒエラルキーだいぶ落ちてないっすか?」

 

「気の所為。うちの変態社長の顔でもプリントしたカップとかのポップコーンとか、良いんじゃない?」

 

「肖像権とか大丈夫なんですかそれ」

 

「セイちゃんの方なら問題ないと思いますよ。そういうの好きですし。セイちゃんは顔も広いからみなさん買ってくれるでしょうね」

 

「おー」

 

「ファーストフードも悪くないんじゃないかな。僕ら五人モチーフみたいなのがそれぞれあると面白い。リズはドイツの食べ物だっただろ? 僕はそうだな……FPSをやることが多いから、軍用レーションぽいやつとか」

 

「はーい! 俺、実は太陽の神見習いなんすよ!」

 

 急にどうした?

 

「……あ、そういう設定」

 

「せっ……てい……?」

 

「テラス、急に知能を失わないでください。キトラも突っ込まない」

 

 確か、テラスというVtuberは太陽の神の子で、太陽神見習い。

 一人前の神様になるために人間界で配信をしている、とかそういうプロフィールだった。

 設定、というのはVtuber相手には禁句だろう。

 ちなみにキトラは武芸者の一族だが、修行をサボってゲームばかりしていて、それが長じて配信を始めたという話だった。

 リーゼロッテも貴族の娘で市井の人々と触れ合うために配信をして、彼女たちと他の同期は偶然知り合って同期としてデビューしたとかそういうの。

 

「俺は一応和風なあれなノリが多いんで、和食系で、太陽の形したおにぎりとかできるんじゃないですかね。あと日本酒とか。あ、俺未成年って設定なんですけど」

 

「あ、設定で言葉思い出したんだ。よかったね」

 

「たははは! 学習能力があるもんで! キトラさんはどうします?」

 

「んー」

 

 首を傾けた彼女は俺を見た。

 じぃぃ、と猫のような目に見つめられ、視線を逸らすことしかできない。

 なんでこっちを見るんだよ。

 

「タツさーん?」

 

「う、うす」

 

「私達、中華風でおそろっちじゃない?」

 

「おそろっち……」

 

「だはっ……!」

 

 リーゼロッテがキトラへ半目を向け、テラスが笑いをこらえて歯を食いしばっていた。

 なんか既視感あるぞ。

 

「私とタツさんで、中華風のなにかセット商品を出そう。チャーシューまんとか。上下に私とタツさんの顔がプリントされてるとか」

 

「ひぃぃいぃ……!」

 

「よかった、タツさんも喜んでくれてる」

 

「いや、どう見ても苦しんでますが……」

 

「おもれー!」

 

「ふむ……てぇてぇというより、これは当たり屋だね」

 

 怖すぎる。

 DMとか動画コメントとか閉じていて助かった。

 殺害予告とか来ないだろうか。

 

「ふぅふぅ……セットはともかく、キトラさんで中華料理は良さそうですね」

 

 そう考えると、俺を除けば四人とも国籍というかジャンルが別れているから作りやすい。

 作りやすいって、作るのは俺じゃないんだけど。

 

「問題はそのイラストが用意できるかなんですけど……」

 

「リスナーのみんな、よろしく頼むよ」

 

 ウェザリが横を向いてイケメンを最大限に活かしたスマイルを放ち、

 

「おなしゃーす!!!!!」

 

 テラスがその場で土下座をし、

 

「リスナー、よろ」

 

 キトラは手を三回叩いてから、一言。

 うーん、配信者パワー。

 そんなリーゼロッテが苦笑する。

 

「ま、これでなんとかしてくださるでしょう。その後は、私達がちゃんと使わせてもらって、売上を出すだけです。これなら、行ける気がしませんか?」

 

「確かに……『MCA』らしさが作れるかも」

 

 ほらね、とリーゼロッテは口元に手を当て微笑んだ。

 

「言ったでしょう? ドラマはみんなで作るんですよ」

 

 

 

 

 

 

「――――なんか、小っ恥ずかしいこと言った気がするなぁ」

 

『マトリクス』を頭から外し、リーゼロッテ・ゴルドシュベルト――――七雲鈴(なぐもりん)はため息を吐いた。

 ベッドから体を起こし、配信用のスマートフォンから配信終わりツイートをする。

 

「ふぅ。……むぅ」

 

 一仕事を終え、伸びをして、自分の胸元を見て唇を尖らせる。

 背が高く、胸の大きいリーゼロッテのアバターと違い、鈴は小柄で胸も平坦だった。 

 

「キトラとアバター逆だったでしょほんとに……」

 

 この数年、何度目になるのかわからない文句を、リーゼロッテとしてではない本来の口調で言葉にする。

 現実でキトラと出会った時は真剣にアバターを取り違えたのではないかと疑った。

 VRアバターとリアルボディの身長差のズレを矯正するのに結構掛かったものだ。

 そろそろ子供時代とかの設定で現実に近いアバターを作ってもいいかもしれない。

 再度ベッドに倒れ込む。

 

「大丈夫かなあの人」

 

 考えるのは今日の配信、それにタツのことだ。

 明らかに配信、サーバーコラボに慣れていない。

 そもそも配信者でないから仕方ないのだろうが、緊張と強張りが伝わってくる。

 あれはあれで、サポーターとしての仕事は頑張りつつ、なるべく前に出ないように気をつけているのは伝わってくるのでおもしろいのだが。

 

「問題はキトラだなー。テラスはまぁおもしろいし、ウェザリも安定感あるし」

 

 あの問題児、何を考えているのか本当に分からない。

 いや、わりとシンプルな思考回路のはずなのだが今回のムーブに関しては謎だ。

 

「ファンとか言ってたけど、マジっぽいのがなぁ。大丈夫かなぁ」

 

 サーバーコラボのような大人数コラボは、参加者同士で『憧れのあの人』に会えることが多く、ファンムーブは微笑ましいがやりすぎると逆に毒にもなりかねない。

 リスナーがどうこうよりも、お互いにやりにくくなることがあるのだ。

 実際、タツはめちゃくちゃやりにくそうだった。

 

「うーん……」

 

 少し考え、スマホでチャットアプリを立ち上げ、キトラにDMを送る。

 

『実際、どういうドラマにするつもりなんです?』

 

 口調がリーゼロッテなのは、チャットのスクショをSNSに張られても問題ないようにするため。

 返信はすぐにあった。

 意外にも、彼女はどうするつもりなのか教えてくれた。

 基本短い文章でしかメッセージを作らない彼女にしては珍しい、そこそこの長文で。

 それを目に通し、

 

「うっわぁ……思ったよりガチだこれ」

 

 鈴は頬を引きつらせることになった。

 




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