推しがメロつくのは解釈不一致です―――俺が相手でも   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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【MCA聖歌隊】7日目ゼニゲバシスターと救急活動

 

「んー、この人は感電死……となると、対応する呪文は……」

 

 大聖堂。

 ステンドグラスに照らされた神聖な場所。

 そこでシスター服姿のキトラが死体に右手を掲げ、左手でホロウィンドウを操作している。

 

「あー、とら嬢! もうちょっと! もうちょっとちゃんと調べて! 具体的にはもっと弄っていいんですよ!」

 

 大の字で倒れている死体がセクハラ紛いのことを叫んだら、無言のキトラがみぞおちに肘を打ち込んだ。

 とら嬢、というのはキトラのあだ名の一つだ。

 

「えーと……主の御業に感謝して……あとは私にも大量の感謝をして……びりびりの傷を癒やし給え、『リザレクション・エレクトロ』」

 

 適当すぎるだろ。

 しかし、そんな呪文でも、蘇生魔法の宣言と共にシステムが魔法を発生させ、

 

「俺、ふっかーつ! ありがとうとら嬢」

 

「ん。それじゃあ治療費請求する。送った」

 

「はっや」

 

 死体だったプレイヤーは蘇生され、即座にキトラはウィンドウを操作し、治療費の請求を行っていた。

 治療が終わったので俺も生き返ったばかりの男性プレイヤーに声をかける。

 

「それじゃあ元いた場所まで送りますよ」

 

「おぉ、ご迷惑をおかけします」

 

 キトラにセクハラをしていた男性プレイヤーは一転、丁寧に頭を下げてくれた。

 

「タツさん? 放置でよくない、そいつ」

 

「だめですよキトラさん。死んだ場所まで送り届けるの『聖歌隊』の仕事です」

 

「ちぇー。……ま、帰り道を考えるといっか」

 

 

 

 

 

 

「戻りました」

 

「戻った」

 

「おや、タツにキトラ。おかえり。お疲れ様だ」

 

『ExZ』が始まって一週間。

 配信者との絡みも、人の配信に映るということも、『MCA』の活動にもわりと慣れてきた。

 リスナーのFAで作ったファーストフードはわりと好評で思いの外飲食で稼ぐことができて、そこそこのグレードの乗り物やら武具やらを装備することができるようになった。

 そして、今日は『聖歌隊』の助っ人に俺とキトラ、ウェザリは来ていた。

 ちょこちょこ各ジョブに穴が開く時間帯が生まれ始め、特に『ExZ』のサーバーが開いた直後は人手が足りなくなっていた。

 特に、『聖歌隊』は頭数が足りないと『ExZ』全体の流れが停滞する。

『聖歌隊』の本部である『大聖堂』に戻ってきた俺とキトラは、別行動していたウェザリと合流し、

 

「お疲れさまです三人共! おかげでなんとか医療崩壊せずに済みました!」

 

 もう一人、声をかけてくるシスターがいた。

 赤い髪の彼女は満面の笑みで汗を拭う。

 

「いやー、最初は私だけしかいないとかもう終わったと思いましたが、なんとかなりそうです! いやまぁシスター私だけだったら稼ぎ放題では? と思ったんですけど普通に無理でしたね! あははは!」

 

 笑い事ではない。

 ここの口調だけは丁寧な守銭奴は元女性プロゲーマーでストリーマーのハナコさん。

 快活な女性だがお金大好きというおもしろお姉さんで、今回一人で『聖歌隊』の仕事をやりかけた人だ。

 

「思ったよりみんな死んでるんだね。『騎士団』と『魔王軍』が多いと思ったらそれ以外の人も結構死んでる」

 

「そうですねぇ。えぇ、みなさんよくお死になられます。交通事故やちょけの殺害。多いのは餓死ですけど。テラスくんはお得意様ですね」

 

「お恥ずかしながら……」

 

『聖歌隊』の仕事は、死んだプレイヤーの蘇生だ。

 各プレイヤーは体力やヘルスの回復は可能だが死ぬと蘇生は自力では不可能。

 倒れるダウンモーションで会話しかできないことになる。

 その状態になるとシステム的に『聖歌隊』へ通知を飛ばすことが可能で、それを受けた『聖歌隊』は現地に行って死体を回収。

 一度『大聖堂』に戻って蘇生し、その場に送り返すというのが一連の流れだ。

 

「テラス、すぐ死ぬ。アホだから仕方ないね」

 

「キトラもそのアホに付き合って結構一緒に死んでるけどね。というかよく殺してるよね」

 

「ん、実現してみるね」

 

 苦笑したウェザリに、キトラがファイティングポーズを構え拳を繰り出すが、ウェザリが丁寧によけていった。

 ちょけの殺害、というのはこういうことだ。

『MCA』だとキトラとテラスの死亡率が断トツで多い。

 ちょけの死もそうだが餓死にもよくなる。

 不注意といえば不注意だが、それで一笑い起きるので配信者としてはありなのだろう。

 

「ま、いいや。でも、『聖歌隊』、思ったより覚えること多い」

 

「そうでしょうそうでしょう、神の導きを全うするのも大変です」

 

「死因が色々ありますからね」

 

『聖歌隊』は専用の蘇生魔法を使うのだが、それにも種類がある。

 というか死因が色々あり、それに対応する蘇生法がある。

 単純死、餓死、外傷死、出血死、焼死、溺死、感電死、凍死、呪死。

 大体の戦闘による死は単純死か失血死。

 それ以外は魔法による死亡。

 この対処を間違えると蘇生だけ通って、死因の傷がそのままということになるのだ。

 

「尊い犠牲の果てに私は学びを得た。トライアンドエラーが人生の基本」

 

 その対処を間違えまくってリスキルを三十分ほど繰り返し、ついに今先ほど治療をマスターしたキトラだった。

 間違えられた人たちには悪いが、推しの失敗と成功を眼の前で見られたのは最高だった。

 これでこそキトラである。

 

「これも一緒にいてくれたタツさんのおかげだね、ありがとう」

 

 にっこりと笑ってお礼を言ってきた。

 今回、俺とキトラ、ウェザリとハナコでバディを組み、俺とハナコが蘇生の指導役になっていた。

 正直男女で分けてくれと思ったが、キトラが受け入れてくれなかった。

 これまではキトラも真面目に蘇生をしてくれたが、これだ。

 

「ひぃ」

 

「なんで怯える?」

 

 これはキトラじゃない。

 

「ぷっ……なるほど……これが噂のメロつきキトラさんと恐慌するタツさん……くっ……切り抜き見ましたけど、一週間飽きずにずっとやってるんですぅかこれ……」

 

「ははは。ずっとやってるんだよこれ」

 

「おぉ主よ……おもしろカップルに祝福あれ……くくく……!」

 

 なんか切り抜きとかいう単語が聞こえてきたが聞こえないことにする。

 あとハナコ、別にほんとにクリスチャンじゃないにしてもシスターのロールプレイが雑すぎる。

 

「というかタツさん、私の格好に言うことはない?」

 

「くっ……!」

 

 そう、『聖歌隊』の助っ人に入るということで一時的に俺達三人はそれぞれカソックとシスター服に着替えていた。

 といっても、俺の場合は元々黒のシンプルな拳法服なのでぱっと見普段と変わらない。

 ウェザリは顔が良いので何を着ても様になる。笑みがすごく胡散臭くなっているが。

 そして、キトラもシスター服自体はシンプルだ。

 いつもは白をメインにした中華風の服装なので、黒のシスター服だと雰囲気が変わる。

 通常ウルフカットの髪も、ポニーテールにしていて新鮮だ。

『OLS』の豊富な衣装には感謝したい。

 

「……よく似合ってますよ」

 

「タツさん、笑顔がひきつってるけど」

 

「気のせいです」

 

「なんか震えてるけど」

 

「気のせいです」

 

「……似合ってない?」

 

「そんなことは……まったく……ないです……っ!」

 

「ふぅん、ならいっか」

 

 あ、はにかむのが可愛い。

 

「くくく……あ、続けてください。動画撮ってるだけなんで」

 

「ハナコさん! 今すぐ消してください」

 

「ハナコ、私に送って」

 

「おっと! これは難しい問いですね……では主のご意思に従うとしましょう。―――はい、始まりましたタツキト動画オークション、さぁ! 消すのか! 送るのか! 高い値段を付けた方に従わせていただきます!」

 

 今すぐその服着替えろよエセシスター。

 

 

 

 

 

 

 

 今日の依頼はサーバーが開いて一時間半の助っ人だった。

 最初の三十分は俺とキトラ、ウェザリとハナコのペアで。 

 次の三十分は俺とウェザリ、キトラとハナコのペアで治療を行っていた。

 そして、もうあと三十分で他の『聖歌隊』が来るというとこまで来て、

 

「急にチルくなったねぇ」

 

「ですねぇ」

 

 俺とウェザリは、のんびりしていた。

 さっきまでひっきりなしに死亡通知が来ていたが、ついさっきキトラとハナコが出動してからぴったりと通知が止まっていた。

 そうなると、『聖歌隊』にやることはない。

 

「……」

 

「……」

 

 話が途切れた。

 やべぇどうしよう。

 キトラといる時は彼女の方からやたら話しかけてくれたし―――それもそれでかなり解釈不一致でしんどかったが―――、それ以外の時も大体俺以外が複数人いて、その人達の会話を聞いていただけだったけれど。

 こうして二人きりで、なにもない時間が生じたことは少なかった。

 内心焦って、どうしようか考えていたら、

 

「ははは、そんなに困らないでよタツ。別に気まずいとかないからさ」

 

「そ、そうですか?」

 

「あぁ、信じてくれ。――――静かになった途端、慌て始めた君がおもしろかったからね」

 

「うぇ、ウェザリさん……!」

 

「はっはっは」

 

 楽しげに笑うのが腹立たしい。

 

「いやごめんごめん。そんなに睨まないでくれよ。タツさん、睨むと結構怖いね。ま、こうしてのんびり話せるのは地味に始めてだろ? アイスブレイクアイスブレイク」

 

「はぁ……」

 

 にこにことした笑みはさわやかなようでどこか胡散臭さがにじみ出る。

 まぁ、この一週間、良い人であることはわかっていた。

 

「タツは今、学生さんなんだっけ。あ、言いたくないなら言わなくて良いけど」

 

「いえ。大丈夫ですよ。ですね。今四年で、まさに夏休み中です」

 

「へぇ大学四年……僕はほら、高卒でプロしてからストリーマーになったから体験はしてないんだけど、この時期だと就活とかしてるの?」

 

「あー、一応、今が就活といえば就活というか」

 

「おっ、配信者デビューかい?」

 

「いやいや」

 

 ありえないだろ。

 慣れてきたとはいえ、まだ怖いものがある。

 情報をシャットしているが、SNSとかで叩かれていないかかなり恐ろしい。

 

「動画投稿はまぁ続けますけど、普通に? 就職するつもりですよ。というか、俺、名目上は『ENCOUNT』のバイト扱いなんですよね」

 

「………………それ、聞いてよかったのかな」

 

「言っても良いって言われたんで大丈夫です」

 

「ならいいか。へぇ…………じゃあ『ENCOUNT』デビュー?」

 

「だったら絶対言えないでしょう」

 

『ENCOUNT』はVtuber事務所だ。

 そこに今こうして顔出ししてる人間が『ENCOUNT』でVtuberデビューなんて口に出せるわけがない。

 

「そもそも『ExZ』を手伝うってなった時、『ENCOUNT』と『ZEVOLUTION』のどっちかでバイト扱いにするかで社長二人がじゃんけんをして」

 

「じゃんけんなんだ……」

 

 なんとも言えない顔をウェザリがしたが、同感だった。

 向こうからしたら『ExZ』は『ENCOUNT』と『ZEVOLUTION』の合同チームで運営するので、所属自体はどっちでもよかったらしい。

 

「それで、そのかわりと言うか『ZEVOLUTION』の人……というか社長の西条さんから、うちでストリーマーとして所属しないかって誘われまして」

 

「おぉ、いいね。ということは僕の後輩になる。ハクビさんとも仲良かったんだろう? ふむ、いいな。とてもいい」

 

「いやいやいや、普通に断りましたけど」

 

「そうか……」

 

 ちょっと残念そうにされると気まずい。

 

「まぁ断ったんですけど、裏方としてなら……って話をしたらわりと乗り気で。『ENCOUNT』も『ZEVOLUTION』も全然うちで働いてくれていいぜ! って感じだったんで……まぁ、普通の就活してる暇もないし、『ZEVOLUTION』で働かせてもらうのはかなりアリかなと。みなさんの切り抜きとか作るのなら力になれるかなって」

 

「ふむ……確かにタツの攻略動画はわかりやすかった……」

 

 なんでみんな俺の動画見てるんだよ。

 恥ずかしいよ。

 みんな褒めてくれるから嬉しいけど。

 

「しかしまぁ、そうなるとある意味では同僚になるのかな? ふむ、それはそれでおもしろそうだ」

 

「そうですか?」

 

「そりゃあ運営の一人がプロ級とか、面白いだろ? うちのメンツでなにかの大会開いて、一人だけ謎の社員Aで君がいて、謎の社員Aが無双してたらちょっとおもしろいでしょ」

 

「それは……まぁ……うーん……どうなんですかね……一発限りの気がしますけど」

 

 マネージャーやら運営とのやり取りを話す配信者はよくいるけれど。

 だからって裏方が表に出まくるのはどうかと思う。

 

「まーそういう意味じゃ、ウェザリさんには今後ともお世話になりそうですね」

 

「楽しみだ。でも、『ENCOUNT』に行っても良かったんじゃない? ほら、キトラのマネージャーするとか」

 

「絶対無理ですよ……」

 

 それこそ死ぬほど燃える。

 

「別に……『エクセルシオール』でも……いいんじゃないかな……?」

 

「いや、それこそ関わりがまったくない……ってうお!?」

 

 思わず飛び退いた。

 いつの間にか、俺の隣に小柄な少女がいる。

 毛量の多い、もじゃもじゃとした黒髪で目元を隠し、オーバーサイズのシスター服を着た少女。

 彼女を知っている。

 

「やぁ……『MCA』のお二人さん、お勤めご苦労……さっきまでは『聖歌隊』はいなかったが……今は違う!」

 

「…………」

 

 なんか強く言い切られたがなんだろう。

 

「おぉ、ギュッ! ってなってる」

 

「なんですかそれ」

 

「大昔の漫画のネタで……いや……まぁいいや……ともかく、ありがとう……ここからは私が引き継ぐ……というか、始めましてだね……タツ」

 

「……まぁそうですね。アスクさん」

 

 アスク・クレオス。

『エクセルシオール』所属、つまりはテラスと同じ事務所の七年目という大先輩。

 

「あるいは……こう呼ぼうかな……『黒龍』」

 

「……恥ずかしくないですか、『医神』」

 

「いや……全く……私は元々医者の神って設定だし……医師免許もあるし……」

 

「設定って言わないほうが良いのでは」

 

「ひひひ……今のはカット……」

 

『聖歌隊』のサポーター、つまりは俺や先輩、ハリィと同じ『ユニトロ』持ちだ。

 医者の神っていうのは彼女がアスクレピオス、神話の医者の神だかをモチーフにした人だから。

 今は『聖歌隊』の共通衣装としてシスター服を着ているが、デフォルト服も蛇をモチーフにしたものだったはずだ。

 

「うーむ、『ユニトロ』持ち二人の邂逅に僕は邪魔か……? いや、伝説の瞬間には目撃者も必要か……」

 

「ウェザリも……久しぶり……」

 

「あぁどうも。前に人狼ゲームでコラボして以来かな」

 

「きみは……人狼上手すぎるので……もうやりたくないね……」

 

「そうでもないさ。タツも今度どうだい?」

 

「勝てる気がしなさそうなので」

 

 あの手の心理戦ゲームはあまり得意じゃない。

 

「ともあれ……『エクセルシオール』も大歓迎だから……公式切り抜き師はいくらいても困らないし……普通にデビューもありだし……」

 

「なんでみんな俺をデビューさせたがるんですかね……」

 

「箱内で……『OLS』のコラボとか……イベントとかやると……私は無限にできるけど……他はそうでもないから……他のゲームは別に……上手でもないし……一人くらい……『OLS』廃人がいると……嬉しい……」

 

「あぁ……」

 

 特定のゲーム特化型の悲しい嘆きだった。

 いや、確かこの人は、普段はこのたどたどしい喋り方だが、歌うとめちゃくちゃかっこいいので熱狂的なファンもいたりするんだけど。

 なんてことを話していたら、視界に死亡の通知が届いた。

 街の最北、かなり遠い。

 

「おや……仕事だね……」

 

「あ、じゃあ最後に僕とタツで行ってこようか。構わないかい?」

 

「えぇ、もちろん」

 

「ふむ……では任せるよ……なに……私が来たからには……もう『聖歌隊』は安心だ……さっきまではそうでなかったかもしれない……」

 

 そして、アスクは薄い胸を張って宣言した。

 

「だが……今は違う……!」

 

 だからなんなんだよそれは。

 

 

 

 

 

 

 

『騎士団』は魔法で、『魔王軍』はSF。

 だったら『聖歌隊』はなんだ、という話だが、答えはどっちとも、である。

 蘇生自体は魔法を使っているが、通知によって呼び出されてから現地に向かう方法は魔法とSF、自分の好きに選ぶことができる。

 陸路では聖歌隊専用の救急車や搬送車、ユニコーンに霊馬、空路ではワイバーンやペガサス、高速ヘリなど『OLS』というゲームとしても高グレードのものがデフォルトで配備されていた。

 個人的に俺は小っ恥ずかしいあだ名の通り、ドラゴンなんかが好みだがテイムモンスターは自分の乗機としてAIが育つまで少し時間が掛かる。

 なので、陸路では普通に車、空路でもヘリを使っていた。

 ウェザリも、他のゲームで慣れているからと同じようにヘリを選んでいた。

 

「おー、やっぱ上手いですね」

 

「はっはっは、そうだろうそうだろう。じゃあ次はあの橋を潜ろうかな」

 

 彼の運転で『エデン』の街の空を飛んでいく。

 街の中心から北へ向かっている。

 中心部は人類と魔族の緩衝地帯のようなものなので、西洋風と近未来風が入り混じっていて、大きな橋やビルも多い。

 ヘリにとってはそれらは障害物だ。

 運転をミスってぶつかれば、当然ヘリは墜落し、乗っている俺達は確実に死ぬ。

 航空機は扱いが難しく、慣れないと事故死しやすい。

『聖歌隊』でも大半のメンバーは練習中で、アスクやハナコみたいにある程度慣れていないものじゃないと使用許可が降りていないくらいだ。

 だが、ウェザリは問題なく飛んでいた。

 

「ヘリでドッグファイトする映画に一時期ハマっててさ。似たような操作感のゲームをやり込んだことがあってね」

 

「映画、好きなんです?」

 

『MCA』の名前とかカメオ出演にもそういえば詳しかったし。

 

「あぁ、結構ね。基本的にアクション系の洋画ばっかりだけど。ガンアクションとかカーアクションとかが好きだね。君はどうだい?」

 

「俺は映画見るよりゲームって感じですかね。流行りも全然わかりません」

 

「僕も好きなものばかり見てる口だから、大人気の大作はあんまりさ……っと」

 

 近くのビルにヘリをかすりかけたが、すぐにウェザリが車体の軌道を修正する。

 

「危ない危ない。二次事故になったらアスクに笑われちゃうな」

 

 そういえば、とウェザリが言葉を続ける。

 

「アスク、彼女はどういう『ユニトロ』だったんだい? 正直、彼女はあんまりゲームが上手いという印象はなかったんだけど」

 

「彼女はなんというか……『OLS』ってマルチエンディングなんですけど、その中にはバッドエンドみたいなのもあるんですよ。人類と魔族の戦いに関わらなかったら戦争が起きて共倒れとか。それにもバリエがあって、治療不可能な死の病が蔓延して『エデン』が滅ぶ、ってパターンがあります」

 

「へぇ。それは、後味が悪そうだ」

 

「えぇ。エンディング全体通しても、一度フラグが立つとルート確定されるんで、トップクラスに酷いパターンですね」

 

 だけど、

 

「あの人、なんかそのエンディングから死の病の治療法を見つけて、なんかハッピーエンドにしちゃったんですよね」

 

「治せないのでは?」

 

「そのはずなんですけどねぇ」

 

 だからこそ、『ユニークトロフィー』なのだが。

 

「自分が医者だから『OLS』で医者プレイするかぁ、みたいな感覚で配信してたら『ユニトロ』になったのでびっくりな話ですよ。まぁ、シナリオ誘導AIのバグかなんからしいので『OLSⅡ』からはそんな要素なくなりましたけどね」

 

「勿体ないねぇ。浪漫はあると思うんだが」

 

「開発からしたら浪漫どころじゃなかったと思うんで、仕方ないって感じですよ」

 

 作ったゲームから全然知らないエンディングが生まれてしまうのだ。

『OLS』のプロデューサーがなにかのインタビューで苦笑していたのを覚えている。

 

「いやでも……さっき『黒龍』! 『医神』! って呼び合ってたのはかっこよかったな……『ユニトロ』持ちと遭遇したらまたやってくれないかい?」

 

「ぜっっっったいに嫌です」

 

 恥ずかしい。

 

「ははは。ノーと言ってくれてお兄さん嬉しいよ。タツももうちょっと砕けた方が良い。頑張って丁寧にしてるけど、君、普段はもうちょっと荒っぽいはずだろ?」

 

「な、なにを言って……」

 

「プロ大会の時はもっとイケイケだったじゃないか」

 

「ぐあああああぁぁぁあぁぁ……!」

 

 地獄のような唸り声を上げてしまった。

 的確に人の思い出したくないことをついてくる。

 睨みつけるが、

 

「安全運転安全運転、ちゃんと前を見ないとねー」

 

「くっ……」

 

 こいつ……。

 眼下、森が広がっている。

 中には背の高い木があって、プロペラがひっかかると一瞬でヘリが壊れるので安全運転してもらわないと困る。

 

「……というかお兄さんってウェザリさん、いくつなんですか?」

 

「今年で三十一」

 

「お、おぉ……?」

 

「うん、その反応は微妙に傷つくな」

 

「いや、ほら、あれすよ。若く見えるなって」

 

「よく言われるけど、もうおっさんだよ。油ものがもうほんとに辛くてね……いや、食べられるんだと食べた後の数時間の胃もたれがすごくて……」

 

「はぁ……」

 

 今年で二十二の俺にはよくわからない話だった。

 あんまり食に興味はないが、たまにハンバーガーやらピザやらをドカ食いするのは嫌いではない。

 

「若者よ、今のうちに好きなだけ揚げ物を食べてたまえ。それは十年後の君が食べたくても躊躇うものさ」

 

「そんな名言風に言われても。普段から運動とかしておけばバランス取れるんじゃないですか」

 

「……………………手厳しい!」

 

 唸りつつ、彼は笑っていた。

 

「いいね、タツ。やっぱり配信者も悪くないよ思うよ」

 

「なんですかまた」

 

「ほら、だいぶグサグサ言ってくれるようになってきただろ? それが出来る人いると、結構助かる。キトラはグサグサというか突っ込みのようで半分ボケだしね。僕もかなりやりやすい」

 

「そうなんですか……?」

 

 前に出過ぎただろうか。

 

「いいかい、タツ。年齢の話をしたから少しだけ先輩面しようか」

 

 もう少しで現場にたどり着きそうな時に、彼は楽しげに言う。

 

「サーバーコラボではさ、ドラマを作るって言うだろ?」

 

 先輩もリーゼロッテも同じことを言っていた。

 それを『MCA』の商品の流れで、俺は少しだけ学ぶことができた。

 

「そのために大事なことは色々あるけど、僕が思うに相手の信頼関係が一番だと思うんだ」

 

 相手を信じること。

 

「この人ならこのフリに答えてくれる、ってね。今みたいに、タツが色々返してくれるなら僕もやれることが増えるし」

 

 俺がみんなを見ているだけじゃなくて。

 俺もみんなの中に入って、できることをすれば。

 みんなのやれることも増える。

 

「ーーー」

 

 その発想はなかった。

 

「僕やアスクが君を配信誘ったのは、君ならできるって思ったんだよ。君は大会と普段の動画で結果を出しているからね」

 

 だから、と彼は胡散臭く笑みを俺に向け、

 

「僕は君を信じるよ。良いものが作れるってね」

 

 さわやかな笑顔を浮かべ、

 

「あっ」

 

「あっ」

 

 ヘリのプロペラが背の高い木に引っかかって、爆散した。

 

「これが信頼かーーー!?」

 

「ごめーん! 今のは普通にミスった! 恥ずかしい!」

 

 




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