推しがメロつくのは解釈不一致です―――俺が相手でも   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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【MCA鍛冶屋】16日目助っ人鍛冶屋でチルタイム

 槌を振るう。

 金槌が剣を叩き、音が鳴る。

 壊れているSF的なメカメカしい武器ーーー科装剣は、一度叩く度にあるべき姿を取り戻していく。

 十度ほど叩けば、複雑な機構と輝くツヤを取り戻し新品同然となった。

 

「よし、終わりましたよ」

 

「おっ、ありがとうございます」

 

 科装剣を、背後で控えていたプレイヤーに、アイテム所持権ごと譲渡する。

 

「じゃー請求しますね。武器の修繕なんで三十万です」

 

「あざまーす! んじゃミッションあるんで失礼します!」

 

「はーい、頑張ってくださいねー」

 

 手早く請求を行い、支払いを確認して、浮遊バイクで去っていくプレイヤーを見送る。

 

「ふぅ」

 

 一仕事終え、周りを見渡す。

 広い、石造りの工房だった。

 賑わっていて、修理待ちのプレイヤーは工房のあちこち喋ったり、殴り合ったり、たまに死んだりしながら、自分の番を待っている。

 

「ん。終わった。次」

 

 隣の修理スペースではキトラが俺と同じように武器やら車やらを直し、

 

「うおおおおおおおおお!! どうすっか鉄さん!」

 

「おおおおおおおおおお!! いいぞ! いいぞテラスぅ!」

 

 テラスと法被姿の大男が同じ金床を二人で叩きつつ、でかい声で叫んでいた。

 

「……うーん、熱いな」

 

 

 

 

 

 

 今日の『MCA』の仕事は『鍛冶ギルド』への出張だった。

『鍛冶ギルド』の仕事はプレイヤーが使用するアイテム補修、作成全般だ。

『OLS』は武器や乗り物に耐久度が有るタイプのゲームで、使えば耐久度が減り、壊れ、性能が落ちていく。

 使い方や乗り方によってはわりと簡単に耐久度が減って、すぐに壊れかけるので定期的な補修も必要になる。

 それを補修するのが『鍛冶ギルド』の仕事だ。

『ExZ』が始まってそろそろ三週間になろうとしている中、俺、キトラ、テラスは『鍛冶ギルド』の一つである『株式会社カグツチ』の助っ人に来ていた。

 ウェザリとリーゼロッテは『騎士団』の方で助っ人をしている。

 

「だっはっは! いやぁ落ち着いたな! 悪かったな、キトラ嬢、タツ殿! 修理の方を二人きりに任せてしまって!」

 

「あっはっは! ほんとっすね! 俺達作って壊して作り直しての繰り返しだったんで!」

 

「だっはっはっはっは!」

 

「あっはっはっはっは!」

 

「………………はいぃぃ」

 

「うるさ」

 

 客足が引き、落ち着いたはずの工房内。

 二人分のバカでかい笑い声が響き渡った。

 なんか物理的な圧すら感じる。

 キトラなんか、半目になって両手で耳を抑え、俺の後ろに隠れていた。

 可愛いので止めて欲しい。

 

「タツ殿に助っ人を呼んでやってもらうことが修理というのはもったいない気もしたが! うちの社員よりよっぽど手際がいいのは流石だ!」

 

「ど、どうも。助けになって何よりです、あきらさん」

 

 あきら。

 着流しに総髪の大柄の男。

 元プロゲーマーで、格闘ゲーム大会での優勝経験もある猛者であり、同時に『ユニトロ』持ち。

 格ゲーの息抜きで『OLS』で生産職をしていたら、『ユニトロ』を手に入れた人だ。

 今回は『鍛冶ギルド』のサポーターとして、『カグツチ』の社長をしている。

 あと、とにかく元気がよくて声がめちゃくちゃでかい。

 

「キトラ嬢も感謝!」

 

「あぁ、うん……タツさん、もうちょっと離れよう? この人、常時これだから。もっと離れてても話通じるよ」

 

「俺達の声が聞こえないのでは?」

 

「別にいいんじゃない?」

 

 よくはないだろ。

 

「だっはっは! まぁ俺もまだ依頼されてた武器の作成が終わってないからな、変わらず客の相手は任せた! 行くぞぉテラス!」

 

「おぉぉっす!!」

 

 二人で肩を組んで奥の作業場に引っ込んでいった。

 声が大きくて元気がいい者同士、ちゃんと喋ったのは今日が初めてらしいが異様なまでの共鳴している。

『OLS』、そして『ExZ』でも、素材を『鍛冶屋』持っていけば強い武器が作成できる。

 色々手順があり、修理ほど簡単にはできないもので、それを二人は共同で行っていた。

 まぁ、楽しそうだから良いだろう。

 

「ね、タツさん二人っきり」

 

「はい」

 

 そして、二人残された。

 だが、『MCA』として助っ人であちこちに呼ばれ、二人で組むことも何回かあって流石に慣れてきた。

 元々戦闘系での仕様を聞いてくることが多かったので、耐性も付くようになったのだ。

 

「むぅ、反応が面白くなくなってきた。これじゃ切り抜きされないよ?」

 

「そんな単語知りません。そもそももう後半戦なんですから慣れるに決まってます」

 

「ちぇっ」

 

 この女、やはり面白がっていたのだろうか。

 

「でも、配信はまだしてないんだ」

 

「まぁ、そうですね。する予定ないですし」

 

「ふーん。楽しい?」

 

 煽りのようだが、別にそういうわけではないのだろう。

 肩をすくめ、

 

「えぇ、まぁ。最初思っていたよりみなさん受け入れてくれますし」

 

「とーぜん、私はいつでもウェルカム」

 

「キトラさんのはちょっと違いますよね。リスナーの皆さんどういう気持ちで見てるんですか。いや、聞きたくないんですけど」

 

「コメント読み上げようか?」

 

「絶対にやめてください」

 

「そ」

 

 笑いながら頷いた彼女は、幸いにもコメントを読み上げることはなかった。

 

「あ、スキルの構成で聞きたいことあったんだ。パリィを≪上位≫に上げたいんだけど」

 

「はいはい」

 

 その後戦闘に関することを話していたら、客が来た。

 装甲車が工房内に直接入ってきて、出てきたのは、

 

「こんちわー、修理にお願いしますー」

 

 デスサンタだった。

 

「おっ、キトタツだ。こんちはー」

 

「どうも、ハザマさん。全修理でいいですか?」

 

「やほ」

 

「うーっす。はい、全修理でー」

 

 車の修理の場合、いくつかの項目があって、全て治すのか部分的に治すのかで金額が変わってくる。

 大体みんな全項目治すのだが、一応の確認というやつだ。 

 たまに金が無くて部分修理だけ、という人もいたりするし。

 

「今日はここなんすね、『MCA』。先週くらいから街のどこでも見かけるっすけど、まだ行ってないとこあるです?」

 

「それこそハザマさんんとこの『ブラックロード海賊団』は行ってないですね」

 

「あー、うちはイン率高いし、そうでなくても船長がどうとでもしますしね」

 

 ハザマは『魔王軍』の中、『ブラックロード海賊団』という組織に所属している。

 現在『ExZ』に存在する『魔王軍』では最強といって過言ではない組織で、サポーターである『スカルハート』が率いている。

 なので、人数が足りなくても彼一人でどうとでもなるし、そもそも『魔王軍』は人数に応じたミッションがあるので、助っ人に呼ばれることがほとんどなかった。

 ハザマも結構なログイン率で、この三週間あちこちに出張する中でわりと仲良くなっていた。

 見た目がアホなことを気にしなければ、話しやすい相手でもある。

 

「……やつ、ぜったい、倒す」

 

「なんでカタコトなんですか」

 

「そいやキトラ、この前『騎士団』の助っ人入った時船長にボコられてたもんなぁ」

 

「遊ばれた……許せない……」

 

「あの人、普通にこの鯖で先輩……ハクビさんと二強ですよ。流石に無理ありますって」

 

「は? タツさんの方が強いけど……?」

 

「なんで俺に俺の張り合いを……?」

 

「実際、どうなんですかタツさん。船長と戦って勝てます?」

 

「無理ですよ」

 

 修理を行いつつ、ハザマの質問に応える。

 

「俺、ほとんどスキルも仕上げてないですし、武器も初期のままですからねぇ。『騎士団』とかで助っ人する時は装備借りてますし。ハクビさんもそっちの船長さんもスキルも武器も鍛えてるでしょう? 流石に勝負なりませんって」

 

「ほー、そんなもんですか」

 

「それでも……それでもタツさんなら……タツさんならやってくれる……!」

 

 力説されても無理なものは無理なんだが。

 

「ハザマさんはどうですか、『魔王軍』の人たちは」

 

「ミッションは結構慣れてきた感じっすけどねー。みんなで最終週は大人数のやつやろうって準備してるところでっす。あれ、十人くらいいるみたいなんで。場合によっては他の『魔王軍』と合同か、『MCA』に助っ人呼ぶかもっすね」

 

「『騎士団』に呼ばれる可能性の方が高いんじゃない?」

 

「その時は脳天吹き飛ばしてやるぜ!」

 

「弾丸斬り飛ばす」

 

「……タツさん? そんなことできるんですか?」

 

「出来ますよ。なんなら指で挟んで受け止めたりとかも」

 

「まじかぁ」

 

 

 

 

 

 

 高速で刃が振るわれる。

 それは炎を纏い、鞘から射出された抜刀斬撃。

 空気を焼き裂きながら振るわれたそれは、本来常人では目で追えない速度であり、人体が容易く両断される。

 

「っと」

 

 それを、俺は掌で押し出すように受け流した。

 

「このっ!」

 

 対し、斬撃を放ったテラスは返す刀で再び炎熱斬撃を連続で繰り出すが、同じように手刀で受け流すか、体を反らして避ける。

 合計六回。

 

「っ、キエエエエエ!」

 

 気合の声と共に、テラスは上段からの振り下ろし、剣道の面打ちを放ってきて、

 

「おっと」

 

「えぇー!?」

 

 真剣白刃取りで受け止める。

 そのまま刀を横にずらしながら踏み込み、彼の体に肩を押し付けて、

 

「ふん!」

 

「ぐはっ!」

 

 震脚と共に発生した衝撃でテラスを吹き飛ばした。

 

「ふう、ここまでにしておきますか。体力とヘルス回復しましょう」

 

「うぅぅ……タツさん、強すぎでしょ……」

 

 

 

 

 

 

『カグツチ』での助っ人中、客がぱったり来なくなって俺とテラスは軽い戦闘を行っていた。

 彼が握るオレンジ色の刀は、あきらから買ったという新品でそれの試しぶりということだった。

 キトラはあきらに用があると言って、二人でバックヤードに引っ込んだが、彼女も武器を買うなり依頼なりしているのだろう。

 

「タツさん相手だと禄に当たらないから訓練にならない気がするんすよね」

 

 テラスは『MCA』製の『太陽くらいにうるさいおにぎり』を食べて、ヘルスを回復しながら口を尖らせた。

 

「いやー、その刀、わりといい奴なんで無抵抗でばっさり斬られたら死にますよ。トレーニングルームだったらともかく」

 

 肩をすくめながら、俺もポップコーンを口に放り込む。

 開いた時間に戦闘訓練というのはこの数週間、よく行っていることだった。

 好戦的なキトラはもちろん、アクションゲーム好きテラス、FPS好きのウェザリの相手をしていたし、助っ人で迷惑をかけたくないということからリーゼロッテにもよく頼まれている。

 

「てか、なんで当たらないんすか? こー、動きに無駄がないつーか。前教えてもらったスキル構成からなんかいじったりしたんですか?」

 

「いえ、全く」

 

 ≪拳撃マスタリー≫、≪気功≫、≪ディフェンダー≫、≪逆境≫、≪乾坤一擲≫。

 それは変わらないし変える気もない。

 

「えー、じゃあどういう理屈で?」

 

「んー、そうですね」

 

 説明するかどうかに少し悩む。

 簡単な話ではあるんだが。

 まぁいいか。

 

「このゲームのスキルって、システムによるモーション補正、つまりはシステムが動きをサポートしてくれるわけですね。剣を振るったら、勝手に正しい剣の振るい方にしてくれるっていう」

 

「はいはい、っすね」

 

「逆に言うとシステム補正を受けているとその補正通りにしか動けないわけで。補正の塩梅を覚えておけば、相手の動きを読めるってわけです」

 

「…………………………」

 

 テラスは首をひねった。

 空を見上げ、下を見上げ、

 

「………………そんな簡単でしょ? みたいに言われても……」

 

「簡単じゃないですよ。何百時間やんないと全部のスキル覚えられないですし」

 

「全部覚えてるんだ……」

 

「まぁそりゃサポーターなんで。『OLS』でプロの大会出てた人は覚えていますよ。ほら、コンシューマーの格闘ゲームとかだと、相手のコマンド入力に合わせて動きを覚えるでしょ? あれと同じです」

 

「あー……そう言われると納得できなくも……ない……のか……?」

 

 唸りながら首をひねるテラスに、俺は苦笑する。

 

「『OLS』のバトル極めるとプレイヤー≪固有≫スキルにあれこれ他のスキル格納して、自分だけの動きにするのはそれの対策なわけです。ま、言ってすぐできるものでもないですからね。ただ、『ExZ』でそれはできないんで、今回はオミット……システム的にないわけじゃないですけど、スルーって感じで。『MCA』の仕事で求められるわけでもないんで。だから俺も別に説明しなかったんです」

 

「はー、奥が深いっすねぇ」

 

「VRゲームだと、システム補正と生身の体の癖に振り回されるってあるあるですからね。時にテラスくんって剣道やってたりしました?」

 

「中高でやってましたよ。実は有段者だったりして……なんで分かるんすか?」

 

「さっき、最後が剣道の動きだったんで」

 

「あー、確かにちょいちょい他のゲームでもやっちゃいますわ」

 

「VR慣れてる人がオフ会したら、体の動かし方だけで初対面でも相手がわかった、なんてことよく聞きますしねぇ」

 

「なるほど……はっ、待てよ!?」

 

 そこでテラスが目をかっぴらいた。

 

「てことは、システムに頼らず俺も剣道で戦ったほうが強くなれる!?」

 

「いや、無理ですよ」

 

「なんでぇー!?」

 

「そりゃ普通に現実で体を動かすのとゲーム専用に超人アクションに補正された動きじゃ後者の方が強いですよ。プロ勢だってシステム補正無しで戦う人とかいないですし」

 

「はー、上手くいかないっすね」

 

「他のゲームと同じですよ。システム理解度がそのまま強さに直結するんです。『ExZ』じゃ使わないだろう≪最上位・固有≫のスキルだってつまりは大量に≪下位・上位≫のスキルを併用してるってことですからね」

 

「むずいっすねー。俺もちゃんとやろっかなー、『OLS』。あ、その時はタツさんの動画参考にしますわ!」

 

「『OLS』の動画はだいぶ古いのなんで今見られるとだいぶ恥ずかしいですね……」

 

 普通に三年前とかだ。

 見るならもっと最近のやつとか見て欲しい。

 

「勉強になりました! てか、それにしても、お客さん来ないっすねー。飲食やってる時もそうしたっけど、やったるぜ! って思ったのに」

 

「こればっかりは相手の都合次第ですからね。『騎士団』も『魔王軍』もみんなだいぶ慣れてきて時間の掛かるミッションとかやってるみたいですし」

 

「っすよねー。大体みんなどこも慣れてきたぽいし……ここは俺達『MCA』で『騎士団』襲撃したら熱いんじゃないすか!?」

 

「それ、めちゃくちゃ犯罪なんで捕まって死ぬほど罰金させられますよ」

 

「金は……大事っすね……! 刀買って、金が……!」

 

「いや、テラス君の場合はこの前キャバクラで所持金使い切った上に借金までしていたのが……」

 

「それはぁ! 本当にぃ! 申し訳なかったと思います!!!」

 

「あとガールズバーだったり、ちょけで友達の『魔王軍』のミッション付き合って罰金くらって『MCA』首になりかけたり……」

 

「タツさぁーん! 最近ほんと手心なくなりましたね!?」

 

「テラスくんがやらかしまくっていればまぁ」

 

「ごめんなさーい!!!!」

 

 ついに土下座までし始めた彼に思わず苦笑する。

 やらかしたといえばやらかしだが、それもまたドラマだ。

 俺はほとんど後から聞いただけばっかりだったが、その後から聞いた話でも結構笑ってしまった。

 人から聞いた話だが、切り抜きも随分と出ているらしい。

 

「ですが! 男テラス、ここからは違います! ここから最後まで、完璧なムーブで駆け抜けて見せますよ!!」

 

「フラグですか?」

 

「信頼がなーい!!」

 

 

 

 

 

 

 人が来ないなとだらだらしている時もあれば、来る時はたくさん来るというのが客商売というものだろう。

 そして『ExZ』において『鍛冶ギルド』の仕事は客との交流と同義だ。

 手順さえ間違えなければシステム補助で修理は勝手にやってくれる。

 数十秒から数分掛かるその間、変な空気になったら困るわけだが、

 

「おー、テラス! 今日はここなんか。あっちこっちにいるのぅ!」

 

「ちゃすブリライさん! いやー、みんなに言われますよそれ!」

 

「この前はさんきゅーなー。次はもっと難しいミッションやろうぜ」

 

 助っ人で一緒になった人と話したり、

 

「あら、テラスくんじゃーん。この前はうちの商品たくさん買ってくれてありがとね。次もサービスするよ」

 

「うっわ、蜂針さん!? もう騙されませんからね!? そんなチェキで代金を水増ししようなんて……!」

 

「でも今度キャストみんなで水着着る日があるよ?」

 

「……! その話……詳しく聞かせて頂けないでしょうか……っ!」

 

 前のキャバクラの……キャバクラじゃないな……コンカフェのキャストだなあれ……。

 彼女とある意味では楽しそうな会話をしたり、

 

「テラスじゃん。修理頼むわ……ワイバーンも修理って言うの嫌だな、治療?」

 

「治療しゃーす! 腹太鼓先生、原稿は大丈夫すかー?」

 

「うっ、言うな……『ExZ』ばっかやっていて編集さんにつつかれてる……でもまだ三日は伸ばせるぜ!」

 

「わっはっはっは! ダメだこの人!」

 

 プロの小説家と配信を兼任している人を刺したりと。

 

「すみませーん、修理お願いしますー。あ、君ー。テラス君ー?」

 

「ん? おぉ! 弊社の! 大先輩じゃないすか! 天原テラスです先輩! はじめまして!」

 

「はじめましてー。後輩だねー。君の三年先輩、鬼魂かわらだよー」

 

「おおおおお!? 初手先輩の圧!?」

 

 初対面の同じ事務所と挨拶というなの洗礼を受けたりと。

 これまで助っ人で関わった人もそうでない人ともとにかく楽しそうに話していた。

 凄いなと、純粋に思う。 

 誰が相手だろうと盛り上がるし、笑いが起きるのは彼の人柄によるものだろう。

 意図しているのか天然なのかはわからないが、俺には絶対できないものだ。

 

「タツさん、大丈夫。タツさんにはタツさんのいいところがあるよ」

 

「いや別になにも言っていませんが」

 

 こっそりと隣に忍び寄って人の思考を読んできたキトラに言い返す。

 

「ん。驚いてくれないとおもしろくない。後ろに目でもついてる?」

 

「視線を感じるので」

 

「感じるなんてそんな……」

 

「セクハラですよ」

 

「勘違い勘違い。というかこのゲーム、視線なんてシステムあるの?」

 

「ないですけど、まぁ感じるものは感じるんですよ」

 

 半目を向けられたが、わかってしまうので仕方ない。 

 

「タツさん? 日に日にというか数十分でセメント度合いが増してるよ? もうちょっと優しくしても良いんじゃない?」

 

「キトラさんが呪物ムーブ止めてくれたら軟化しますよ」

 

「ふっ……最初は唸ってるだけだったタツさんもここまで配信に慣れるとはね……私も鼻が高いよ」

 

 胸を張ってドヤ顔し始めた。

 確かに我ながら遠慮が消えてきている。

 あぁ、我が推しよ。

 こういう物言いになりたくなかったから、変に関わりたくなかったのに。

 まぁもう諦めの境地である。

 

「そろそろ配信してもいいんじゃないかな。私赤スパ飛ばすよ」

 

「今のでやる気なくなりましたね。自分、サポーターなんて」

 

「ちぇっ。まぁいいよ、あきらが社員さん出社してきたから、そろそろ上がっていいってさ」

 

「おっ、了解です。テラスくーん! もう終わって良いそうですよー!」

 

 テラスにも声を掛けた後、あきらに挨拶をして撤収をする。

 三人で車に乗り込もうとして、

 

「タツさん……私、行けないんだ」

 

「はぁ」

 

「もうちょっとリアクションして? こう、感動的にさ」

 

「はぁ」

 

「ボット?」

 

「NPCと思ってください」

 

「NPCに絡む痛い人になるじゃん私」

 

「自覚あったんですね」

 

「っ……ぎっ……くっ……わはははは! いやー、タツさんあしらい方うまくなりましたねー! キトラさんもメロ付き方雑になってませんかぁー!?」

 

「黙れ」

 

「おっと」

 

 キトラがナイフを投げつけたが、テラスは綺麗に避けた。

 

「おひょひょ! 何度そのナイフに刺さったことか! もう喰らいませんよ!」

 

「ちっ……」

 

「態度悪っ!? いいんですかタツさん!?」

 

「俺は何も見てません」

 

「ともかく、まだちょっとあきらに用があるから、先に『MCA』に戻ってて」

 

「了解です。それじゃまた後で」

 

「もうちょっと引き止めて?」

 

 めんどくせぇなぁ俺の推し。

 

 

 

 

 

 

「大変っすねぇ、タツさん」

 

「もう慣れましたよ。慣れたくなかったですけど」

 

 帰り道、助手席にテラスを乗せながら車を走らせる。

 重い溜息を吐けば、彼がからからと笑う。

 

「いやでもすげーっすよ、あのキトラさんの相手できるとか。いいっすよねぇ、サーバーコラボって感じで」

 

 窓を開けた彼は、腕を外に垂らし、町並みを眺める。

 

「ほら、俺も鯖コラボって初めてだったじゃないすか。普通にゲームとか雑談とかでコラボさせてもらうのはこれまでありましたけど、全然雰囲気違って」

 

「確かにそうですね」

 

 それは、そうだ。

 視聴者側からしてもその二種類は空気感が違う。

 腰を落ち着けて対面する雑談やゲームとは異なり、サーバーコラボは固定のメンツ以外はほとんどすれ違いだ。

 そう考えると、やっぱりテラスはサーバーコラボが向いていると思う。

 

「近くにいるとテラスくんがいるってわかりますし、存在感ありますからね」

 

「おっとっと。チクチク言葉すっか?」

 

「褒めてます褒めてます」

 

 今度は二人で笑って、

 

「いやー、楽しいっすねー!」

 

 そんなことを彼は言う。

 

「高校生みたいなことを」

 

「いやほら、俺十七歳って設定なんで」

 

「神様の息子なのに?」

 

「いつだって十七歳の時はあるっすよ。寿命が何万歳だけって話で」

 

 スケールがでかい。

 

「新人なんでちょっと不安だったりも緊張とかもしてたんですけど」

 

「テラスくん、緊張とかするんですか?」

 

「いや、めっちゃしますよ? そりゃあ。最初インしてた時ガクブルでしたもん。初めて助っ人行くとことかいつも緊張してましたし。タツさんもそうなんじゃないんですか?」

 

「ここ一ヶ月、ずっと胃の調子が悪くて最近もう慣れてきましたよ」

 

「わはは! 大変っすねぇ。端から見てる分にはおもろいっすけど」

 

「変わってくださいよ」

 

「いや、それは無理ですね」

 

「うわぁ急に真面目にならないでください」

 

「だっはっはっはっはーーーうおおおおおお!? ハンドルハンドル!」

 

 テラスの変貌に軽く事故りかけたが、なんとか立て直す。 

 危なかった。

 

「やりますねぇタツさん! ここは切り抜きですよ!」

 

「勘弁してください……まぁでも緊張してるようには見えないですけどね」

 

「うーん、よく言われるんすけど……」

 

 テラスは腕を組み、頭を捻った。

 だが、すぐに何かに気づいて、破顔する。

 

「うん! やっぱそれよりも楽しさが勝るってわけっすよ!」

 

「……ははぁ」

 

「大変なこととかあるっすけど、みんな優しいですし、俺みたいなド新人受け入れてくれますし! やっぱ参加してよかったなーとかそういうのが先にあるっすね」

 

「それは……そうですね」

 

『ExZ』が始まって三週間。

 自分でも驚くほど慣れていると思う。

 もちろんサポーターとしての身の程はわきまえているけれど。

 それでも、俺を邪険に扱ったりする人はいなかった。

 だから、俺も楽しめているのだ。

 参加してよかったと、素直にそう思える。

 

「っぱ、自分が楽しまないと関わる人も、見てくれる人も楽しめないですからね! 楽しんでいきましょー!」

 

 

 

 

 

 

 




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