まず関東大会までの間の練習試合をやっていきます。
北瀬涼らが2年生の春。春季東京都大会をまさかの準決勝敗退で終えた薬師高校野球部は、幸いにしてセンバツ優勝校の肩書をもって東京都高校野球連盟(以降高野連)の推薦による関東大会出場枠を確保。昨冬に野球部長兼ヘッドコーチに就任した片岡鉄心・元青道高校野球部監督の人脈とこれまでの名声を頼りに夏季西東京大会までの練習試合編成を急ピッチで行うことになった。
雷蔵「あー、はい。そ、そっすね。
片岡「……そうですか。ではよろしくお願いします」
雷蔵「おー!お前受けてくれるのか!ありがてぇ!」
片岡「……その枠は当部の都合で
裏方仕事を息子に引かれるほど面倒くさがる轟雷蔵の首根っこを掴み、六輪台車に両手首を括って職員室に引っ張り出した片岡がまず行ったのは、彼を解放してのテレアポであった。アポの相手は片岡の高校・大学時代の先輩、また青道の監督コーチ時代にやり合ったところ、轟の知り合いが監督やってるところ、まったく初めましての新規顧客と本当にテレアポ千本ノックと言われても当然の数である。
某ライトニング通信ばりの電話営業振りに周囲の教員たちは絶句。というか他人事過ぎる。
『なんか監督たち、すごい勢いで電話かけてるみたいよ』
『そらそうよ。いくらセンバツ優勝校たってもともとちょっと勝ち上がれば御の字なチームなんだから』
『野球部って本当に大変ねぇ』
そう思うなら少しは助けてほしいと願う雷蔵だが、野球部の監督は基本的に自分以上に癖が強い連中ばかりなのですぐにコールセンターに外注する羽目になるだろうと、なかば諦め気味に根性で電話をかけ続けるのであった。
5月6月、都道府県大会に負けたチームにとってこれ以上ない調整のシーズンである。
また上位大会に進出したチームの場合も、各県の高野連が主催する招待試合などを使い合間を縫って試合経験を積みながら夏までにチームを仕上げていく。
薬師は残念ながらゴールデンウィークの招待試合に乗り遅れたものの、監督たちの人脈を駆使し
・3日 一戦目:海耀(神奈川) 二戦目:郁栄(兵庫)(いずれも多摩川緑地広場硬式野球場A面)
・4日 一軍:常陸学院(茨城。駒沢野球場) 二軍:聖ハウル学園(西東京。薬師高校グラウンド)
・5日 一軍:樫野(埼玉。さいたま市立浦和球場) 二軍・都立白虎(西東京。薬師高校グラウンド)
といった感じに、なんとか試合をまとめることができた。さすがにこれ以上のランクとなると他の強豪校に分捕られてしまっている状況なので、甲子園常連の常陸学院と郁栄を確保できたのはとりあえず御の字といえる。
「可もなく不可もなく、近年に甲子園出場歴があるところから新進気鋭のチームまで、なんとかまとめてみました」
「おー大変でしたわ。特にカシノとかいうとこは学校創立100周年だからって熱烈に招待されちゃいましたよ。人気者ってつらいなあ(笑)」
(……恐らく支援者への『見せしめ』のつもりだろうが、あの子たちを甘く見過ぎてるのでは?)
浮かれてる元ホームレスをよそに片岡が心中で言っているのは、歴史ある学校やチームに
今のところ良くも悪くもそういったことに縁のない薬師にとって、そういった支援者の都合で強化されたり弱体化したりする因果なチームと、それもアウェーで戦うということが果たして幸せなことかどうか。
「いやーまさか公立の伝統校サマまで声かけられるとか、もしかして今モテ期?くぅ~っ」
「……。ところで」
まだ浮かれ調子でブツブツかますのを遮って、片岡はプリントを1枚差し出した。
明らかにゴールデンウィークの試合のベンチメンバー表である。ついでに予定先発までしっかり書かれているあたり有無を言わせない圧が発揮されていることだろう。
「……あー、やっぱそうなります?」
「北瀬以外は柔軟にやっていこうと思っています。友部は県立川上の試合で再起の目途が立っていますから、あとは今まで通り」
「試合成立を優先し、奴さんが動揺した隙に乗じて打力にものを言わせたビッグイニング……か」
「今回は大京シニアの奥村と瀬戸、単に走塁だけなら疾風というオプションもありますから、攻撃の手段は昨年より増えています」
「そっか、そう考えれば楽は楽ですね」
この通り、単に人数が増えただけでなくその分戦術の幅が数倍になったことも大きい。ついでにいうと内野は伊川が二塁に定着し遊撃手に瀬戸、外野には守備が少し安定してきた秋葉や疾風(たまに北瀬)といった具合に守りも当社比で若干だがマシになってきている。
ちなみに片岡構想での遠征メンバーは以下の通り。
1.投手兼外野手(左翼除く) 北瀬涼
2.捕手兼右翼手(暫定) 由井薫
3.一塁手(暫定)兼投手 三島優太
4.二塁手兼北瀬専属捕手 伊川始
5.三塁手 轟雷市
6.遊撃手(暫定) 米原悠
7.左翼手(暫定) 結城将司
8.中堅手兼捕手 秋葉一真
9.右翼手(暫定) 平畠遼
10.投手 真田俊平
11.投手 友部先人
12.捕手 奥村光舟
13.内野手全般 増田篤史
14.二塁手兼遊撃手 瀬戸拓馬
15.外野手兼代打 火神大我
16.外野手兼代打 森山誠
17.外野手 阿部秀夫
18.外野手兼代走 疾風俊
19.遊撃手兼一塁手 三井寿
20.投手 パワード・プロスキー
さらに練習試合でのベンチ入りメンバーのセオリーは多くて最大25人までのため、追加で
21.三塁手 花坂学
22.一塁手 緑野秀丸
以上の二名を特例昇格という形で持っていくことになっている。どう考えても内野が薄いし妥当ではあるが、現時点で一軍の外野手田中明はこの外野手飽和ベンチで座視するよりも二軍で試合に出た方が良いとの判断なのだろう。
さらにその二軍にも、近隣で三回戦すら足踏みしているチームとはいえ、今年も一勝に飢えているチームを選んで試合経験を積んでもらうことにした。留守を守る片岡指揮の下、二軍はわずか数日しかない準備期間を経てきちんと試合ができるか。
「……あと、6月に甲子園クラスのチーム3つと試合することが決まりました」
「はあ?」
「最初は上旬に新潟の日本庄野。下旬早々に青森の光輝学園八戸と愛知の西邦が変則ダブルヘッダーで招待を受けるとの返事でした」
「えっ……、ええっ!?」
あまりのビッグネームとの対戦をあっさり決めた目の前のパンチパーマグラサンにただただ仰天しきりの雷蔵監督。今更ではあるが、威厳も何もない。
これでゴールデンウィーク最終日に公立の伝統校に乗り込むんだから、今から胃が心配でならない。
一応元ネタ
海耀(神奈川・原作)…多分相洋高校
郁栄(兵庫・原作)…育英高校
常陸学院(茨城)…常総学院(持丸監督・木内部長時代)
聖ハウル学園(西東京・原作)…聖パウロ学園高校
樫野(埼玉)…「砂の栄冠」より
都立白虎(西東京)…分かりません!
日本庄野(新潟・原作)…日本文理
光輝学園八戸(青森)…八戸光星
西邦(愛知・原作)…東邦高校