投壊薬師野球部のドタバタスピンオフ!   作:神谷主水

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練習試合編の導入です。
原作からかなり変えてます。
新しい面子も入れていく予定です(対戦機会は別の話ですが)


ゴールデンウィーク野球地獄

 突然やってまいることが確定しましたゴールデンウィーク。業界によっては天国にも地獄にも変わるとっても大きい3日間だと思います。

 もっとも、高校野球においてはその意味がまったく俗世とは遥かに異なるものである。

 こと全国大会に行こうという強豪校となると、だいぶは外征による試合経験の醸成を主目的としつつチームの調整に時間を当てるのがほとんど。

 さらに強豪校ほど同格の相手とマッチアップするため、普段の公式試合よりプロスカウトに注目される機会も多くなるという特徴もある。

 

 

 

 

 

 5月3日、神奈川県相模原市。

 紅海大学付属相良高校グラウンド

 

 「ぅらあッ!」

 

 右打者がまた無様な空振りを喫する。

 目の前で唸りを上げる剛球に屈し、次の打者もまた腰砕けの空振り三振に打ち取られてしまう。

 これを投げている男こそ、何を隠そう本郷正宗。

 あたかも打者共など眼中にないとばかりに、唸り声とは裏腹にただただ淡々と圧力のこもった直球をキャッチャーミットにぶち込む。

 

 「うわあっ!」

 

 と思えば、140km/h台で勢い良く落ちるスプリット・フィンガード・ファストボールにまた空振る。

 たまにバットに当たったと思ったら、大抵外野まで飛ばないし

 

 『うわ~またサードフライ…』

 『あのストレート、タイミングが合ってても飛ばねえんだよなあ』

 「痛って……」

 

打者の指が痛覚にまみれ思いきりおかしくなるほどの球威が襲い掛かるため、皆まともに本郷と戦うことができないでいる。

 神奈川で横浜港北学園としのぎを削り合い、ともに甲子園の常連校であり続けた紅海大相良がこうなのだ。

 7回裏、ここまで14奪三振を記録している今日の正宗は、腕を振る時に叫ぶだけ叫んでおいて、打者を抑えたらもうそこに人がいないかのようにロジンバッグに触れる姿がやたらと見受けられる。

 

 「フフフ、マサムネ・ホンゴウは薬師が相手じゃないとイージーゲームみたいだな」

 

 150人くらいまでを収容できる観客席でノート片手に、銀河系邪悪帝国ニューヨーク・イェーガーズのスカウトを務めるジーン正樹が呟く。

 クソ補弱を繰り返したヘボGMを追放しスター獲得に躍起なシアトル・マリナイズが薬師高校発の大スター北瀬涼獲得に動いていることを知ったイェーガーズGM勅令のもと、ドラフト外から次代の核になるであろうダイヤの原石発掘に躍起であった。

 

 「ま、こんなんじゃ参考記録にすらならんか。せめて青道あたりと試合してくれないと実力の確実性を評価しようがないね。どうも上は阪真のイカワ獲得にお熱だから仕方もないが」

 

 つまらなそうに記録し続けていくうち、三塁側から歓声があがる。

 ふとスコアボードに顔を向けると、Rもゼロ、Hもゼロ、Eもゼロ。

 本郷正宗は、文句なしの完全試合を達成してしまったのだ。当の本人はなぜか唇をきつく噛み締めていたようだが。

 

 「……なかなかできないことをやるね」

 

 そのモチベーションの基軸に薬師があることは疑いようがない。

 薬師が昨夏甲子園に出場していなかったらどうなっていただろうかと、ジーンは考えずにいられなかった。

 

巨摩大藤巻3-0紅海大相良

 本郷正宗

 9回 109球 被安打0 四死球0 奪三振18 無失点

 

 

 

 

 

 同日、滋賀県甲賀市

 甲賀市水口スポーツの森野球場

 

 センバツ準優勝、春都大会も準優勝を飾ったシルバーメダルチーム稲城実業は、ゴールデンウィークを東海道新幹線に沿って京都・滋賀の両県で戦うことに決定。

 その初日は、4月に開場されたばかりの野球場で京都府の強豪・京都瑛流大学高校(以降京瑛大)と滋賀県の公立名門・彦根内堀高校とで総当たりの変則ダブルヘッダーである。

 

 「ふーん、左腕の本格派か」

 

 感心しながら、わずかに外れたインコースのカーブを平然と見送る神谷カルロス俊樹。

 この日の京瑛大先発は、昨年秋から投げる機会が増えたという左腕の幸野佑都。最速は145km/hとこの時期の左腕としては速い方であり、100km/hのカーブや二種類のスライダー・スクリューを武器に春のセンバツでも紅海大相良相手にそれなりの好投を披露した。

 しかし、稲実ナインにはどこかデジャブを感じるのも事実で

 

 「打ちやすいんだよ、ね!」

 

 4球目内角高めの球を振り抜きライト前ヒットで出塁。フォームからリリースに至るまで、一塁側でブーブー言ってるどこぞの金髪生意気エース(成宮鳴)にそこそこ似通っている感が確かにある。

 続く二番白河勝之もバスター打法で右方向に一二塁間をギリギリで抜く打球を放ち無死一二塁。しかし背番号5矢部浩二はまだ都大会決勝を引き摺っているのか振り遅れが目立ち、幸野得意のインズバストレートで空振り三振に喫する。

 

 「おいおい、沢村じゃねえんだぞ相手」

 「すまねぇ……、少し頭が冷えた」

 

 打席に向かう山岡陸に窘められ足早にベンチに戻るのをよそに、生意気小僧がネクストサークルでブンブン滅茶苦茶に振りまくる。間違いなく矢部に対する怒りの表現だ。

 一瞬ベンチ側を向きわずかに笑うと、右打席に立ちすぐ睨みつけるように投手と正対する。

 センバツ初戦負けの投手に対し、センバツ準優勝チームの4番。

 勝負は初球で決まった。

 

 『打ったー!』

 『初球であんなに飛ぶかよ!?』

 

 決め球のカーブを完璧に掬い上げ、打球はレフト線あわや場外というホームラン。さらにネクストサークルでブンブン振り回していたやつにも惜しい当たりの二塁打を打たれるなど、幸野は初回だけで5失点。5回からは二年生でまだ肩が回復していない久地が投げて9回まで4失点に抑えたものの、この5失点が重く響いた試合になってしまう。

 稲実この日の先発は右の平野啓二。金髪小僧と比べると大して特徴がないと思われそうだが、さすがにセンバツ序盤の稲実戦線を守り抜いただけあって、スライダーとフォークをとにかく低めに集める投球を安定的に行い被安打7も7回まで3失点。失点は事故のようなソロ本塁打が2本と犠牲フライの1点のみ。

 8回。ここで稲実ベンチが動き出す。後に某野球ゲームで実装される栄冠ナインでいう経験値稼ぎの側面はあったろう。

 

 「ねーねーかんとくー、何で今日俺じゃないわけぇ?」

 「明日本命の京都大黒で出番があるんだから仕方ないだろ」

 「納得いかない!」

 

 自称エースの金髪小僧と林田正義部長の口論をよそに、ブルペンから長身の投手が笑顔で鉄火場に駆け寄ってきた。

 都内の南沢シニアで3年次、成長痛を考慮した監督の采配で登板がなかったことから推薦を出す高校がほとんどなかったこの赤松晋二、赤い髪にさわやかな顔立ち。次代のスターになれそうな感がバリバリである。

 

 「ふーざーけーんーなー!」

 

 孺子の叫びむなしく、全国区のチームを相手に2回4奪三振無安打無失点。

 こと幸野と同じような高さから投げ下ろされる鋭く曲がるドロップカーブが外角低めに膝下にズバズバ決まる。幸野と投げ手が違うだけでまったく打てなくなるのだから不思議なものだが、案外野球などはそんなものだろう。

 ただ、都大会のような無駄な大振りが劇的になくなるわけではない。関東大会までの前途はそこまで明るくはなかった。

 続く二戦目は控え中心のBチームが彦根内堀と対戦。控え投手高橋が途中苦しみながら9回5失点と投げ切り、打線はAチームと対照的にとにかく強く低くの攻めでコツコツ得点を積み重ね、結果として8点をもぎ取り2勝目を挙げた。

 ちなみに金髪小僧こと成宮鳴は左翼手として1試合出場。3安打1打点とまあまあ調子の良い出だし。大振りによる空振りが一度もなかったのは好印象と言えなくはない。

 

稲城実業A9-3京瑛大

稲城実業B8-5彦根内堀

 稲城実業、初日全勝。

 

 

 

 

 

 同日、大阪府大東市。

 大阪桐生高校野球場

 

 『うわっ、今日牽制アウト3つ!』

 『ついてねえなあ白龍』

 『てか坂根のやついつの間に牽制と投球の区別がつかなくなってんのや!』

 

 「ふうん、機動破壊とはこんなものか」

 「くっ……(隙がまったくない…)」

 

 一塁で憤死(比喩)したまま突っ伏している美馬総一郎を心底から見下しながら、明らかに声が剣桃太郎な二刀流投手・坂根晃による投球が続く。

 時折ヒットこそ打たれるものの単打ばかり、あまりにも牽制と投球・偽投との区別がつかない足の使い方で走者はスタートを切ることができない。

 下手に低めのスライダーを打てばダブルプレー、しかし盗塁を急げば示し合わせたかのような牽制送球が待っており、せっかくのチーム走塁が台無しである。このように、二塁があまりにも遠すぎる白龍打線。

 

 「坂根はぁん、ちぃとは俺んとこに打たせてくださるやろか」

 

 その後ろから強烈なヤジを浴びせてくる無謀な内野手。実は兄が大阪桐生の選手であったということで、父親が監督の松本隆広に特別トライアウトを開いてもらったうえで入部を認められたという経緯がある。

 現在ショートを守っている深谷大翔(ふかやはると)一年生、本来なら二軍で一軍よりも多い試合を経験してもらうところであったが、このようにあまりにも生意気であったことから性根を叩き直す目的も兼ねてこの地獄の軍団に叩き落としている側面もある。

 

 「フッ、そんなノロマな打球を打ってくれるバッターがいてくれたらな」

 「なんやとこのケチ!」

 「恨むなら相手打線の貧弱さを恨むんだな」

 (まーたやっとるでこのどアホ共…)

 

 明らかに白龍ベンチや観衆にも聞こえるくらい透き通ったのと大きく元気な二つの声がアホなほど響き渡る。深谷はともかく、坂根のほうは白龍を物の数とも見ていない。

 それにしても、深谷と心中毒づく松本を除く大阪桐生メンバーの甲子園常連の域を越えたこの威圧感。見てくれが明らかに北斗の拳か男塾か。

 

 『あー三振!』

 『どこと比べるわけやないが、白龍は美馬以外ホンマにノーパワーやな』

 

 四番の北大路はあえなく外低めのボール球になるスライダーを振らされ空振り三振。つまらなそうにベンチに走る坂根をよそに、球審に二度促されるまで北大路は膝をついてうなだれたまま。

 しかし白龍ナインは分かっていた。桐生が攻め手を完璧に挫いて攻守が入れ替わったとたんに地獄が始まることを。

 

 『藤澤ホームラン!インコースに不用意なストレートを振り抜いた!』

 『薬師やないけど、桐生もこれがあるんよ』

 

 互いに打者一巡し、白龍の攻撃が終わった4回裏。これまでノーヒットにしてきた相手のエース王野新太郎がいきなり被弾。美馬が一歩も動けないほど、弾道は高く情け容赦のない速さでセンタースタンドに一直線。これが先制点に。

 

 「やっば先輩。王野はんくわばらやで」

 

 のんきにバットを振りながら深谷が打席に入ってくる。しかしさすがに甲子園常連で一年から一軍に入るだけあって、見た目の雰囲気は緩いが目が王野の右手に集中して鋭くなる。

 

 (なんだこいつ、確か春の甲子園ベンチにも名前がなかったが)

 (どうでもいい。前の打席のように確実にフライアウトにする)

 

 打席でしてやられた北大路のサインは、自身がやられた外低め、わずかに外れるくらいのスライダー。ここで確実に空振りさせてバッティングを崩しておきたいのだろうが、深谷はボール1個分ホームベースから離れているからより有効になると思われていた。

 しかし、

 

 「せやからやられるんや、って!」

 

 打席の線からギリギリかかとが出ないくらいに左足を踏み込ませおっつけてしまい、打球はまんまと右中間を抜け余裕の二塁打。さらに三番起用の外野手畑中敏生(としき)がインシュートをギリギリまで引きつけ、引っ張ってレフトの頭を越えるタイムリー二塁打を放ち追加点。ここで四番左打者の赤川勝だが、この時点で通算39本塁打という異常なペース。

 そして打席から背筋に伝わる、凍えるほどの殺気。

 こういう相手こそ慎重にいきすぎれば逆に球が上ずり痛打されてしまう。ここでバッテリーが選択したのはアウトコースにストレート。中途半端な高さではそれこそ本塁打コースなので、王野の制球力を信じ高めボール1個分外して構える。

 

 (無駄なあがきなんだよ!)

 

 無情かな、しっかりきっちり外角高めの「隅」にストレートが入ってしまい、赤川がコースに逆らわず流し、これまたフェンス直撃の二塁打。この回の王野はまったくアウトを取れないまま3失点。さすがのポーカーフェイスがわずかにいびつになる。

 こんな調子の回が6回まで続き、ついに

 

 「ストラックスリー!ゲームセット!」

 

 美馬、ラストバッターながら無情の三球三振。やっている野球の次元が明らかに違う。

 昨夏の甲子園では真紅の優勝旗を手に入れながら、センバツでは薬師にその旗を奪われてしまった。

 この悔しさを晴らさんとする桐生打線の凄まじさを、ギャラリーも残り2日に至るまで骨身に染みるほど思い知らされることとなる。

 

白龍0-13大阪桐生

 

 「なあ、監督のワシはまた無視かいな?」

 

 

 

 

 

 そして東京都世田谷区。

 多摩川緑地広場硬式野球場A面

 

 「よおしお前ら!初日ふたつとも思いっきり楽しんで、そして楽に勝ってこい!」

 『おう!!!』

 

 薬師高校野球部、ゴールデンウィーク練習試合スタート。




モデルです。
巨摩大藤巻(南北海道・原作)…駒大苫小牧
紅海大相良(神奈川・原作)…東海大相模
稲城実業(西東京・原作)…早稲田実業学校高等部
京都瑛流大学高校(京都)…京都外大西
京都大黒(京都・原作)…龍谷大平安
彦根内堀(滋賀)…彦根東
大阪桐生(大阪・原作)…大阪桐蔭
白龍(群馬・原作)…健大高崎
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