亡霊、本因坊道策 作:へっぽこ棋士
優作君が道策に憑かれたタイミングは中学の大会でヒカルがアキラと三回目の対局してる時くらいです。アキラがふざけるな!してる時に優作君がぶっ倒れていた……のかもしれない。
佐為がヒカルに憑いてから結構遅れての事になります。
ちなみに優作くんの学年はヒカルやアキラの一つ下です。
「また勝った。道策ほんとにすげーよ。今んとこ負けなしじゃん」
『いやぁ、それ程でもあるかもなぁ。……中盤、此処は捌かずに凌いだ方が良かったなぁ。白が生きる道はいくつかあった。逆に此処を切り捨ててこっちを突いたのは良かったと思うぜ。ただまぁ良くも悪くも見切りを付けんのがちぃと早すぎるな』
「はいはい」
こうして対局後は良い点と悪い点を一つずつ、相手に送るのがいつしか当たり前になっていた。外国の人相手は、何手目良い、何手目悪い、くらいの事しか伝えられないけど。
道策と会って既にひと月以上が経ったけど未だに全勝中だ。九段のユーザーとも何度か打ったけど危なげなく勝っていた、と思う。
ネット碁の他にも棋譜や定石なんかもネットにあるものは見せている。俺はゲームをしながらページを進めたり、一緒に見たりとまちまちだ。それなりに指導碁を打ってもらったりと最初の頃よりはマシな腕になってると思う。
「それにしても、塔矢アキラプロ試験合格かー。俺より一つ上なだけでもうプロかよ。いや、囲碁じゃおかしくないんだったか」
『塔矢アキラ……、例の四冠の息子さんかぁ。重圧もあるだろうに良くやってるぜ、ほんとに』
何か知った風な顔つきで別窓の塔矢アキラの記事を見ている。そういやこいつも息子がいたんだっけ。跡目が二人も早くに亡くなって最後は息子に託したんだよな。
「ほんとなー。話は変わるけど、俺らが始める前ネット碁にすげー強い奴がいたらしいよ。saiっていう日本ユーザー」
ネットに現れた本因坊秀策なんて掲示板では言われている。なんだよ、先行者がいたのか。ネットに転がっているsaiの棋譜を道策に見せる。
『かなり熟達した打ち手だなぁ。所々手が古い所はあるが、そこはオレが言えた事じゃねぇな。だが、棋譜を見る限り対局を重ねるごとに今の時代の碁にちゃぁんと順応していってる。今頃はもっと強くなっててもおかしかねぇ』
「へぇ、まるでお前みたいだな」
道策も今、第二のsaiだと話題になっている。初期のsai程じゃないが所々古い打ち回しが目立つ事。同じく無敗な事。一部では同一人物ではないかと言われているが。棋風の違いからその線は薄いと結論付けられている。実際別人だし。
「打ってみたいとかないの?」
『そりゃあ一局打ってみてぇさ。同類の匂いがするしなぁ。だが、同類なら必ずまた表に出てくんだろうからなぁ。急ぐ必要はねぇさ』
笑みを浮かべながら棋譜を眺めている道策。こいつが化けて出てきてるんだ。秀策が化けて出てきてもおかしくないか。
「ふぅん。なぁ、一局打とうぜ」
『なんだぁ?お前も囲碁の面白さが分かって来たみたいじゃねぇか。何局でも相手してやらぁ……。どうせならネット碁でも打てばいいじゃねぇか』
「それはいいや。どうせ打つなら強い奴と、だろ?お前が一番強い内は、お前と打ってりゃいいだろ」
『……くはっ!そりゃあいい。お前はオレとしか打たねぇってこった』
力強い目で俺に言う道策。対局を重ねる度に最初のような気の抜けた雰囲気から、段々と覇気が戻って来ているように見える。やっぱ碁打ちってそういう生き物なのかな。
親に買って貰った折り畳み式の碁盤を広げる。碁を打つ事自体には慣れて来たけど実際に石を碁盤に打ち込むのは素人同然だった。なので打ち込む手際を動画を参考にしながら練習している。ついでに指導碁を打ってもらいながらね。大分ましな手つきになって来たと思う。
碁は強いのに。手つきは素人丸出しなんて不自然にも程がある。それに明日は対面で人と打つ予定がある。感触を確かめておきたい。
『じゃ、打つか』
「ちゃんと、手加減してくれよ」
俺は指二本を使い、静かに石を盤に打ち込んだ。
〇●
「それにしても優作が囲碁始めるなんてちょっと意外だったかも!」
翌日、俺は知り合いの家を訪ねていた。
「あす姉久しぶり、プロ試験終わったばかりなのに悪いね」
奈瀬 明日美。遠縁の親戚の姉さんだ。今は院生に通っていて、この前のプロ試験は逃してしまったらしい。
「いーのよ。どうせ本戦にもいけなかったし。……そんな事より夏前に会った時はやってなかったよね?」
「夏に入ってからね。ネットに転がってる棋譜や定石を漁って、後はひたすらネット碁で実戦って感じかな」
家の集まりであす姉とは夏前に会ってる関係上、それより前に囲碁を始めた事には出来ない。よって俺は夏から囲碁を始めた事にするしかなかった。おかげで4カ月足らずの時間で史上最高峰の棋士、本因坊道策レベルの強さを手に入れた超天才という事になる。自分でも無理があり過ぎると思う。
ただ、これからも囲碁を打つならどの道バレる。なら身近で一番強い人に実際に打ってもらった方が良い。
「へぇ~。いいじゃんいいじゃん!どうせならもっと前に言ってくれれば良かったのに」
「いや、それこそプロ試験の予選の時期だったし余計な事言えないよ」
「気にしなくていいのに。最近はピリピリした碁しか打てなかったし、気分転換に今日はいくらでも打ってあげるわ!」
『気前のいい嬢ちゃんじゃねぇか。将来はイイ女になるぜぇ、こいつぁ』
あす姉の部屋に通された。普通の女の子らしい部屋に置かれた碁盤が酷く目立っている。
「おー。ガチの碁盤だ」
「そう!いいでしょー。1組に上がった時、お祝いに親に買って貰ったの」
『一般にこの出来の碁盤が出回ってるってのは、やっぱ時代なんだなぁ』
「そういえば、おじさんとおばさんは?」
碁盤を挟んで座る。碁石も俺が持ってるのと違ってしっかりしてる。
「二人で買い物にでも行ってるんじゃない?優作が来るって言ったら会いたがってたけど、打つのには邪魔になるもの……何子置く?」
まぁそうなるよなぁ。一見初心者と院生が打つんだ。石を置くのは当然の事。
『石を置くのはいいんだがなぁ。苛めみてぇな事するのはなぁ。優作くぅん、何とかしてくれよぉ』
こいつ、自分は打つだけでいいからって無茶ぶり言いやがって……。
「うーん……。院生の人と打つんだから、折角なら一回互先で打ってよ」
「互先?へぇ、いい度胸じゃない。ボロ負けしても泣かないでよー?……ニギリは知ってるよね?」
「一応ね」
お互いに石を握る。……当たったって事は俺が黒か。
「「お願いします」」
———あんまやりすぎないでよ?
『任せとけってぇ、大人げねぇ真似ぁしねぇよ。お願いします。……3-16』
見えやしないのに、律義に礼をする道策の一手目を打つ。
「へぇ。打ち方、結構様になってるじゃん」
「でしょ?俺って形から入るタイプだから」
何回か教えてもらってた時は気にしてなかったけど流石院生。石を打つ姿は堂に入っている。
序盤は互いに早打ちの応酬だったけど段々とあす姉の考える時間が長くなって来た。
———なぁ道策。あす姉ってやっぱ強い?
『ん?そうだなぁ。筋は悪くねぇ、ぷろぉ目指してるってだけあって基礎も出来てる。そこらのネット碁打ちよかやるぜ』
へぇ、やっぱ強いんだなぁ。一組に上がったって言ってたし当然か。
「……優作。あんた夏から囲碁始めたってほんと?」
次の手を打ちながら信じられないモノを見るような目で俺を見る。
「え?うん。結構やるでしょ?ネット碁でも調子いいんだ」
『お?大胆に来たなぁ。だが攻めるには厚みが足んねぇぜ嬢ちゃん』
道策の楽し気な声を耳にしながら会話する。
「結構って……。そんなレベルじゃ……」
盤面と俺を交互に見ながら、それでも打ち続けている。形勢は素人の俺でも黒が有利だとは分かる。
『無理な攻めで右下の白地は崩れかけてる。他を荒そうにも、その間に右下が潰されちまうのは嬢ちゃんなら理解してんだろぉ。ここいらで終局だなぁ』
「……負け、ました」
道策の宣言通り投了したあす姉は、そのまま盤面を見つめている。
「あー……ありがとうごさいました」
「優作。あんた本当に誰にも教わってないの?」
「そ、そうだよ。強いて言えばネットが師匠ってとこかな、はは……」
棋譜並べや定石の確認、実戦までネットでこなしている。ある意味ネットが師匠と言うのは嘘じゃない。
「ネット……、しかも4カ月も経ってないって言うのに。あんた、塔矢アキラよりも才能あるんじゃないの?」
「そんな言い過ぎだよ。でも実際どうかな?もし俺がプロになりたいって言ったらなれると思う?」
「あのねぇ。私は院生1組でそろそろ中位に届くくらいには強いのよ?それをこんな……最後は私が自滅しちゃったようなものだけど、それ以外は受けるだけ……これじゃまるで指導碁だわ。結構ショックなんだけど、私……」
指導碁ぉ!?おいおい嘘だろ。
———おおい!指導碁ってなんだよ!?囲碁歴4カ月が院生に指導碁とか不自然にも程があるだろ!
『いやいやぁ、そりゃ手加減するってなったらこうもなるぜぇ?嬢ちゃんくらいの腕がありゃあ手ぇ抜きすぎるのも相手に悪いしなぁ。叩き潰してもまずいだろぉ?』
そうだけどさぁ。
「指導碁なんて打てないって。でもそんなあす姉にここまでやれるんなら俺、結構いいとこまでいけるのかもなー」
「むぅ。一回勝ったくらいで良い気になんないでよねぇ。もっかい!もう一局打と!今度は私が黒ね!」
道策は笑って頷いた。
「じゃあ、お願いします」
「お願いします!」
〇●
やっぱり、強い!私の先手番から始まった2局目。1局目は無理に攻めた所為でヨセに入る事もなく中押しで終わった。
受けに寄った棋風。積極的に攻めてくる事はないけど着実に盤面を支配されていく。時折あまり見ない、ていうか古い?打ち筋が見えるけどネットで片っ端から棋譜や定石を見てるならおかしくはない。
これで囲碁を始めて4カ月!?ありえないでしょ!でも、正月に軽く教えてあげた時は確かに素人だった。夏前の時も囲碁の話なんてしてなかったから、夏からなのは間違いない。
目の前の少年を見る。癖のない短めの黒髪に、小学生にしては落ち着いた雰囲気を漂わせている。会うのは家の集まりだったり、街でたまに会うくらいだけど顔を合わせれば必ず声をかけるくらいには仲がいい、って私は思ってる。
集まりでも親たちから、成績優秀で、大人びた雰囲気だから将来が楽しみだ―ってよく言われてたし、私も他の子とは何か違うとは思ってたけど……。
盤面に視線を戻す。さっきみたいに無理な攻めはしてないから崩れてはない、けど、序盤からじわじわとリードを奪われ続けている。突き放されないように必死に攻め続けているけど全部受けられてる……。これだけ打てるなら私の攻め手を潰す事なんて簡単なはずなのに、優作は受ける事しかしてない。明らかに手を抜かれてる。なのに、差は少しずつ広がって行く。
もうヨセに入ろうかという盤面。優作が間違えたならまだ巻き返せるかもしれないけど、それは私が間違えない前提だ。
〇●
「無理ね……。負けました」
「あぁ、ありがとうございました。」
『今回は良く指せてたと思うぜ?さっきみてぇに無理な攻めもなかったしなぁ』
ネット碁では助言するのが当たり前になってたけど、流石にこの状況でそんな真似はしない。
「……ねぇ、優作。本当にプロになりたいの?」
「え?うーん。どうだろう?……でも、どこまで通用するかは気になる、かな」
まだプロじゃないとは言え、院生のあす姉を相手にここまで一方的な碁を打てるなら、いよいよ道策の実力がどこまで通用するのか気になり始めて来た。
「少なくとも伊角君……院生の1組1位の人よりも強いのは間違いない、と思う」
———だってよ、良かったじゃん
『ほぉん、ぷろプロ候補の中で一番かぁ。一回打ってみてぇなぁ』
院生1位よりも強いってんならほんとにプロにはなれるのかぁ。へぇ。
「確か外来でプロ試験って受けられるんだよね?来年の試験、受けるだけ受けてみようかなぁ」
「これだけの実力があるなら、そうね。プロになれてもおかしくないかも。……でも外来はプロからの推薦だったり、アマの大会とかの実績がないと受けられないのよね」
げ……そうなのかよ。プロの伝手なんかあるわけないし、やれるとしたらアマの大会か……。
「へぇ、じゃあアマの大会にでも出てみようかなぁ」
「あ、でも外来の実績として認められそうな大きい大会は当分なかったと思う」
詰みじゃないですかやだー。
『大会ってこたぁそれなりに腕に覚えのある奴らが来るんだろぉ?実績になるかどうかはともかく、そういう奴らと打てんのぁ面白そうだ』
———そうかもだけど、どうせなら強い奴と打ちたいんだろ?だったらやっぱプロなんじゃないの?
『ま、そうだがなぁ……オレなんかの為だけにわざわざプロんなってくれたぁ言えねぇよ。碁を打てるだけで十分以上に贅沢だ。優作が決めた事に従うぜ』
こいつ、囲碁への執念で亡霊になった割にはこういうとこ聞き分け良いんだよなぁ。いやまーだからこそ打たせてやりたくもあるんだけど。
「んー。本気でプロ目指すならやっぱ院生になるのが早いんじゃない?院生なら若獅子戦で若手プロとも打つ機会があるし。そうじゃなくても棋院にはプロもいるから目に留まれば研究会とかに呼んでもらえるかもだし」
悩んでいる俺を見てあす姉が助言をくれた。若獅子戦……そういえばそんな物もあったな。若手とは言えプロだ。アマの大会よりも強い人と打てるのは間違いない。そこで優勝できれば、もっと上のプロとも渡り合えるだろう。
「へぇ。父さんと母さんにちょろっと相談してみようかなぁ」
「おじさんもおばさんもあんたには甘いし、二つ返事でOKしてくれるんじゃない?」
院生に入ったらプロにならなきゃいけないなんて事はないしな。ま、あす姉と打ちながら考えるか。
「院生の事は置いといてさ、もう一局打とうよ」
「当たり前でしょー?院生として一勝はしないと面目が立たないわ!勝つまでやるわよ!」
『いいねぇ、その意気だぜ嬢ちゃん。いくらでも付き合ってやらぁ』
その後、勝つまでやるとの宣言通りにおじさんとおばさんが帰ってくるまでひたすらに打ち続けた。結果は道策の全勝。奈瀬家で夕飯をご馳走になって、なお打とうとするあす姉だったけどあまり遅くなっては悪いとその日はお開きになった。
やっぱ奈瀬は出さねぇ訳にはいかねぇよなぁ?
いつエタるか分かんないんだから出したいキャラは出せる内に出しとくに限るし、話も駆け足気味に進めるに限る。
返信出来てないけど感想はちゃんと読ませてもらってます。評価も感謝。
大好評そうなら続く。