捨てられ少女の壁作り ~聖女に捨てられ魔物があふれた国で、もふもふと一緒に結界を作ります~   作:龍翠

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02-03

 

 部屋と食事の準備をして、さらにしばらくして。

 

「失礼します」

 

 行商人が宿に入ってきた。その後に続いて、リフィルも。行商人は上機嫌で軽い足取りだったが、リフィルの方は見て分かるほどに疲れていた。なんだかげっそりしているように見える。

 リフィルの頭の上では、あの猫が気持ち良さそうに眠っていた。主人が疲れているようなのに、猫の方は気楽なものだ。

 

「待っていたよ。どうだったんだい?」

「いやあ、かなりのものだね、あれは。とても状態の良い毛皮になるよ。本音を言えば頭もあれば良かったけど……。だが、あの巨体でほとんど傷のない毛皮だ。いい取り引きをさせてもらったよ」

「ちゃんと支払ったんだろうね?」

「もちろんさ。怖いボディガードもいたしね……」

 

 ボディガード? リフィルの方を見る。リフィルは頭の上の猫を撫でていた。あの猫がボディガード、なのだろうか。頼りないと思ってしまうのだが、そうでもないのだろうか。

 

「まあいいか。一泊夕食つきで銀貨五枚だよ」

「分かった。この子も問題なく払えるはずさ」

「あいよ」

 

 金をもらえるなら何も問題はない。すぐに夕食の仕上げをしてしまおう。その前に、部屋に案内しておこうか。

 

「まずは部屋に案内するよ。こっちだ」

 

 ジュリアが手招きすると、二人とも頷いてついてきた。

 ジュリアの宿は二階建てになっている。一階は食堂になっていて、丸テーブルが四つ置かれている。村の人もよく食べに来てくれる食堂だ。

 二階が宿スペース。部屋は三部屋。少ないと思われるかもしれないが、そもそも外からの客人そのものが少ないのでこんなものだ。三部屋埋まることすらないのだから。

 食堂の隅にある階段を上って二階へ。廊下にドアが三つ並ぶ。これが宿の部屋だ。

 

「小さい村だからね。部屋の質には期待しないでおくれよ」

「もちろんさ。期待なんかしていないとも」

「ああん?」

「理不尽すきないかい?」

 

 自分で言うのはいいが、他人に言われると腹が立つ。それだけだ。

 

「ベッドと小さいテーブル、椅子があるだけだよ。窓からの景色はまあまあいいんじゃないかな」

「それは楽しみだね」

「鍵はこれだ。なくすんじゃないよ」

「分かった」

 

 行商人とリフィルに鍵を渡す。鍵を受け取ったリフィルは、なんだか珍しそうにその鍵を眺めていた。まさか初めて見るわけでもないだろうに、と思うのだが、まさかとも思ってしまう。

 この子が小さな村の出身なら、鍵がなくても不思議ではない。そう考えて、使い方を簡単にだが教えてやると、すぐに理解してくれたみたいだった。

 

「がちゃがちゃ……すごい……開く……開かない……。すごい……」

「おもちゃじゃないからね?」

「ん」

 

 こくんと頷いて、リフィルは部屋に入っていった。

 

「すぐに夕食の用意をするから、荷物を置いたら一階に来るんだよ!」

「わかった」

 

 部屋のドアが閉じられる。本当に分かったのかね、と苦笑いしながら、ジュリアは一階に戻った。

 厨房に入って、夕食に出す予定のスープを温める。大きな鍋で作ったので少し作りすぎたかもしれないが……。まあ、残ったら後で考えよう。

 そうしてスープを温め終えたところで、階段からぱたぱたと人が下りてくる音が聞こえてきた。

 

「席はどこでもいいよ! 好きに座りな!」

 

 返事は、なし。けれど椅子を引いた音が聞こえてきたから、ちゃんと聞こえてはいるらしい。

 ジュリアは木製の器にスープをたっぷりと入れると、食堂の方に戻った。

 リフィルが椅子に座って、なんだか落ち着かない様子できょろきょろと周囲を見回している。どこか物珍しそうな様子にも見える。食堂も宿も初めて、なのかもしれない。

 

「やあやあ。待たせたね」

 

 続いて下りてきたのは、行商人。よほど良い取り引きだったのか、終始上機嫌だ。本当に……。

 

「買い叩いてないだろうね?」

「だから、ちゃんと適正額で買い取ったよ!」

 

 行商人には金が手に入るなら何でもするというような人間もいる。疑わしげな視線を向けると、行商人は肩をすくめただけだった。

 ジュリアには問い詰めるほどの知識がない。今はとりあえず、信じるしかないだろう。

 

「あいよ。夕食だ」

 

 そう言って、二人の前にスープを置いた。

 

「おー……」

 

 村の猟師が捕まえてきた動物の肉を使ったスープだ。この辺りではそれなりに捕れる動物なのだが、ただ焼いただけだと固くなりやすい面倒なやつでもある。

 けれど長時間煮込むと不思議と柔らかくなる。食堂を営むからこそできることだ。他の家では、長時間煮込む暇などないだろうから。

 スープの味付けに使ったのは、これもまたこの村特産の香草。シンプルな味付けではあるが、この肉によく合う香草のはず。

 

「スプーンでいいかい?」

「ん」

 

 リフィルにスプーンを渡してやると、そっと肉ごとスープをすくう。お肉を頬張って、もにゅもにゅと何度か噛んで。

 

「おいしい……!」

 

 目を輝かせて勢いよく食べ始めた。表情が薄い子だ、と思っていたのだが、お肉を食べるリフィルは年相応に見える。どことなく嬉しそう。

 気に入ってもらえて良かった。ジュリアは安堵しつつ、猫用の食事も出した。

 

「あんたはこっちだよ」

「にゃ?」

 

 単純に肉を焼いたものだ。猫にスープはだめだろうと考えての判断、だったのだが。

 

「にゅあ……」

 

 とても不満そうだった。

 

「もむもむ……。おなじもので、いい」

「え? あー……。スープでいいのかい? 食べられるかい……?」

「だいじょぶ」

 

 それなら、とスープを用意してやって、テーブルに置く。すると猫は前足で器用に器を持つと、ぺちゃぺちゃとスープを舐め始めた。熱がる様子はないので問題はなさそうだ。

 美味しそうに食べるリフィルと猫。ジュリアはリフィルの対面に座って言った。

 

「その猫、名前はあるのかい?」

「ん。レオン。わたしの、つかいま」

「つかいま……?」

 

 どこかで、そんな名称を聞いたことがあるような気がする。ジュリアが記憶を漁る前に、行商人の方が答えを言った。

 

「使い魔、だって!? ということは、まさか君は、魔女なのか……!?」

「魔女!?」

 

 そう。そうだ。使い魔。魔女が使役する、動物に魔力を与えて支配したもの。魔女でなければ使い魔なんているはずがない。つまりこの子は、見た目は幼いが魔女ということに……。

 

「ちがう」

「あれ?」

 

 違うらしい。ジュリアは呆れた視線を行商人に向けた。

 

「頼りにならないね」

「い、いやだって……。じゃあ、その使い魔は……」

「魔女さんに、もらった……。もらった? もらった」

「えっと……。知り合いの魔女にもらった、ということかな?」

「そう」

「それはまた……。珍しいこともあるなあ……」

 

 ジュリアはそこまで詳しくないが、行商人が丁寧に説明をしてくれた。

 魔女が自分の身内以外に使い魔を与えるなんてことは、まずあり得ないことらしい。魔女というのは、自分の研究のために人であることをやめて不老となった者たちで、はっきり言ってしまえば変わり者が多いのだとか。

 

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