捨てられ少女の壁作り ~聖女に捨てられ魔物があふれた国で、もふもふと一緒に結界を作ります~   作:龍翠

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第一話 魔女との交流
01-01


 

「うわあ、これはひどい……」

 

 森の上空を箒にまたがって飛びながら、黒い女は眼下の惨状に眉をひそめていた。

 フード付きの黒いローブに、長い黒髪をローブの中に隠している。女はこの土地では有名な魔女で、魔法によって二百年ほど生きていた。

 そんな魔女でも、眼下の惨状は少しショックだ。村があったはずの場所には、倒壊した家屋ばかりが目立ってしまう。魔女を差別しない、居心地の良い村だったのに。

 

「警告、しようと思ってたところだったんだけどなあ」

 

 国を覆う結界の魔力が消失し始めていることに魔女は気付いていた。いつ頃消えるのかを調べて、そして分かったのが今朝だ。つまり、手遅れ。すでに村は魔物によって滅ぼされた後だった。

 この様子では生き残りはいないだろう。それが、魔女にとってはとても悲しい。物怖じせずにいろいろと話しかけてくれた子供もいたのに。

 

「それにしても……。不思議ね」

 

 聖女の結界とはまた別の、薄く強力な結界。集中しないと分からないその壁に、魔物の侵入が阻まれているらしい。いや、むしろ、明らかに魔物たちはこの新しい結界を警戒しているようで、近づいてすらこないみたいだ。

 いったい誰が、いつ張ったのか。それすら分からない。分からないけど……。これは、ちょうどいいとも思う。今なら弔いぐらいはしてあげられるから。

 お世話になった村だ。せめてそれぐらいはさせてほしい。

 そう考えて地上まで下りて、魔女は困惑を隠せなくなった。

 

「遺体が……ない? 穴を埋めたあと……。もしかして、もう誰かが弔った?」

 

 そんな物好きな人がいるなんて。不思議な結界を張ってくれた人かな?

 考えても分からない。ただ、もうこれ以上自分がここにいてもできることはない。

 魔女はそう結論づけて、再び上空へと飛び上がった。最後に村へと祈りを捧げる。犠牲になったみんなが、ゆっくり眠れるようにと。

 そうして、自分の家と戻り始めたところで。

 

「あれ……?」

 

 それに、気付いた。なんだかあの不思議な結界が、少しずつ広がっていることに。

 広がる、というより……。細い管のような道ができてる? そんな感じだ。

 

「つまり、誰かが今も結界を作ってる……?」

 

 それならば、お礼を言わないと。あとは、この村で何が起きていたのか、聞いておきたい。

 そう考えて、魔女はすぐにその場所へ、結界が伸びている先まで向かって。

 

「え」

 

 その子を、見つけた。

 ぼろぼろの衣服にぼろぼろの外套を纏った少女。真っ白な髪は腰まで届く長さでぼさぼさだった。手入れなんてしていないかのように。

 見た目から考えると、年は十かもう少し上ぐらい。それは魔女のよく知る少女の年齢だった。

 

「そこの君!」

 

 魔女が大声で呼ぶ。少女はぴたりと立ち止まって、きょろきょろと辺りを見回して。きょとりと首を傾げて、また歩き始めた。

 

「ああ、こっち! こっちよ!」

 

 慌てて魔女が空から舞い降りる。少女の目の前に下り立つと、少女は足を止めて魔女を眺めた。ぱちぱちと目を瞬かせて、魔女を観察している。

 魔女も真っ直ぐにその目を見て、少し驚いた。

 こんな服装だから、きっと辛いことがあったはず。かつて見たことのある濁りきった目を見ることになるだろうな、なんて思っていたのだけど、少女の目はとても澄んだ青い空色だった。

 

「まじょさん」

 

 少女が口を開いた。少し高めの可愛らしい声。魔女の、よく知る声。

 

「あなた……。リフィル?」

 

 魔女が聞いて、少女は何故かとても悩んでいた。何かを思い出すように視線を上向かせて、むむむ、と唸って。そうしてから頷いた。

 

「たぶん」

「たぶんって……」

「リフィルはどっかにいっちゃった。いまは、わたしがリフィル」

 

 だめだ。意味が分からない。けれどやはりこの子は、魔女があの村で親しくしていた少女と同一人物ではあるらしい。これはちゃんと話を聞かないといけない。

 

「詳しい話を聞いてもいいかな? 私の家まで案内するから」

「ん……まじょさんの、おうち……」

「ちょっと遠いけど、箒でひとっ飛び……」

「だめ」

「え」

 

 魔女の家というものに興味を持ってくれたみたいだけど、何故か箒で飛ぶというところで拒否されてしまった。しかも、明らかに魔女を警戒するように一歩下がっている。

 

「ど、どうしたの? 歩いて行くと疲れるのよ?」

「あるかないと。かべ、つくらないと」

「壁……。じゃあ、やっぱりこの結界は……」

 

 少女についてくるように伸びる結界の、管のような道。よくよく魔力の流れを観察すれば、少女の足から魔力が流れて結界を形作っているようだ。

 というか。よく見たら少女は裸足だ。この周辺は大きな木が多くて、木の根も突き出していて裸足で歩くのは辛いと思うのだけど。痛くないのだろうか。

 

「えっと……。この結界を作っているから、途中で途切れさせることはできない、ということかしら」

「ん」

 

 こくりと頷かれた。正解らしい。

 

「どこまで作るの?」

「ん……。くにを、ぐるっと?」

「国を……一周するの……!?」

 

 正気か、と言いたくなる。

 この国はとても広い。その理由は単純で、魔物に頻繁に襲われる土地なんてどの国も欲しがらなかったためだ。だから、結界を張れる聖女のいるこの国が、この広大な土地を自由に使える状態になっていた。

 人の足で、しかも整備されていない場所を通ることを考えると、何年かかることか。想像もできない。

 




壁|w・)魔女さん。
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