捨てられ少女の壁作り ~聖女に捨てられ魔物があふれた国で、もふもふと一緒に結界を作ります~   作:龍翠

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第三話 魔道具職人
03-01


 

 森の中をのんびり歩くのは、いつもの二人。ぺたぺた前を歩くリフィルと、てくてくその後を歩くアレシア。

 アレシアはたくさんの知識を持っている。この国の地理にもわりと明るいのだけれど、リフィルの行き先については何も言わないようにしている。だって、この旅は新しい結界を作る旅だから。リフィルの気の向くまま、のんびり歩いていく。

 ぺたぺたてくてく歩いていたら、思い出したようにリフィルが立ち止まった。

 

「ん……。きょうは、ここまで」

「あ、うん」

 

 そろそろ日も傾いてくる時間。ここで寝る用意をしないといけない。リフィルは放っておくと、地面の上で寝袋に入ってしまうから!

 リフィルとの旅で驚いたことは、かなり適当に旅をしているということ。魔女さんからもらったという素敵な道具がたくさんあるのに、その多くをアイテム袋に死蔵しているという状態なのだ。

 例えば、テント。組み立てやすい、居心地良さそうなテントが入っていたのに、リフィルは一度も使っていなかった。理由は、面倒だったから。これはひどい。使い魔の目を通して見守っている魔女さんが泣いちゃいそう。

 

 そんなわけで、今はアレシアが寝泊まりの用意をする役だ。リフィルからテントを出してもらって、ささっと組み立てていく。十分ほどで組み立て終わったテントは、とってもシンプルだけどたくさんの魔法がかけられたもの。

 中に入ると周囲の環境にかかわらず過ごしやすい室温になっているし、地面の上とは思えないほどに柔らかな床になっていたりもする。魔女さんの本気が垣間見える一品だ。

 

「でも、使い魔を通して見守ってるって……」

 

 俗に言うストーカーでは? ちょっと考えたけど忘れることにした。魔女さんの名誉のために。

 そうしてテントを作り終わったら、中でのんびりとくつろぐ。ちなみに防火の魔法とかもあるので、なんと中で料理ができてしまう。換気も魔法でばっちり。

 というわけで、夕食は温かいスープ。レオンが狩ってきたお肉も焼いて入れたので、ちょっと豪華。

 

「どう?」

「おいしい」

 

 言葉が少ないリフィルだけど、よく見ると少し表情が変わっていることが分かる。ちゃんと笑顔。ほっとしてる、みたい。とてもかわいい。

 そうして食べ終わったら、リフィルがアレシアにすり寄ってきた。

 リフィルはこうしてテントに入ると、アレシアにちょっと甘えてくる。それがとても嬉しい。アレシアもリフィルの頭を撫でてあげる。気分はお姉ちゃんだ。

 そう! アレシアは! お姉ちゃん!

 ふんすと鼻を鳴らして気合いを入れる。自分がしっかりしないといけない……。

 がさり、とテントの外から音がして、アレシアは飛び上がるほどに驚いてリフィルを抱きしめた。

 

「ん……。だいじょうぶ。どうぶつの、おと。こわくない、こわくない……」

「うう……」

 

 なお実際はこんな感じで、リフィルはリフィルで自分が姉だと思っている、かもしれない。甘えてくるのは妹を安心させるため、とか。

 ともかく。仲良しな二人はそんな平和な旅を続けていて。

 

「ふにゃあ……」

 

 レオンは微笑ましそうにしながらも退屈なあくびをするのだった。

 

   ・・・・・

 

「ふふふ……。ははははは!」

 

 町の側の森で、男が一人、高笑いを上げていた。白衣に身を包み、右手には淡く赤色に光る石を持っている。髪は濃いめの赤色で短い。

 男、レスターは大きな声で言葉を紡ぐ。

 

「さすが俺だ! 俺の研究に失敗などあり得ない! これで富も名声も俺のものだ!」

 

 なかなかに危険な発言をしているが、これを聞いている者は誰もいない。それこそ、魔物たちですら。何故ならこれこそが、レスターの研究成果なのだから。

 レスターが作ったものは、魔物よけのような効果を持つ魔道具だ。レスターが右手に持っている石がそれで、魔力を流し込めば周囲から魔物がいなくなるというもの。

 レスターが知っている限りでは、このような魔道具は今まで作られたことがない。つまりは、世界初の、唯一の発明。これなら町の人もレスターを見直すだろう。

 

「ふふふ……」

 

 町の人がレスターを褒め称える様を想像しつつ、町へと戻るためにきびすを返す。あとはこれを量産すれば、全てが元通り……。

 

「む?」

 

 ふと、聞き慣れない音が聞こえてきて、レスターは足を止めた。

 それは、鼻息のような音。しかもかなり大きく、この近辺では見ない大きな魔物だと思われる。

 だが、それはおかしい。何故ならまだ、魔物よけの魔道具は効果を発揮しているのだから。

 まさかと思いながら振り返って、見た。見てしまった。

 巨大な猪だ。大きな家ぐらいの大きさはある猪の魔物で、魔物はレスターを睨み付けていた。

 

「ふむ……。あー……。言葉は通じるかね?」

 

 魔物には知性のある魔物がいる。一縷の望みをかけて問いかけてみたのだが、返事は唸り声だった。世の中は無情である。

 

「いやあ……。ははは」

 

 手に持つ魔道具を見る。ちゃんと効果は出ている、はずだ。けれど目の前の魔物には効果がないように見える。おそらくは、弱い魔物にしか効果がないのだろう。

 失敗作か、と内心でため息をつきつつ、今の状況を冷静に考える。目の前には巨躯の魔物。背後は町。後ろに逃げることは許されない。こんな魔物を、町の中に入れるわけにはいかないから。

 ならば、やるべきことは一つだ。

 

「まったく……。これが貧乏くじというやつか」

 

 レスターは自身の不運を鼻で笑い、叫んだ。

 

「来るがいい! 捕まえられるものならな!」

 

 レスターが走ると、魔物もすぐに走り始めた。そして当然、あっという間に追いつかれる。相手の方が大きく、力も強い。逃げられるはずもない。

 だが、レスターもただ逃げているわけではない。

 

「くらえ!」

 

 レスターが投げつけたのは、赤い石が複数。魔法をこめようとして失敗したもの。ただの魔道具の失敗作だが、レスターの貴重な攻撃手段でもあった。

 失敗作に魔力をこめてから魔物へと投げつける。すると魔物に当たる直前に爆発を引き起こした。

 

「ふはははは! 何もできない無力な人間だと思ったか!?」

 

 魔力を規定量以上流し込み、魔道具を暴走させて爆発させる。魔力を扱うことができ、ある程度の魔力を持っていれば誰でも可能な技術だ。

 もっとも、失敗作といえど魔道具を捨てることになるので、苦渋の決断ではあるのだが。失敗作でも使いようはあるはずだ。

 ともかく。魔道具三個分の爆発だ。いかに巨大な魔物といえど、無事で済むはずが……。

 

「ぶもおおおおお!」

「まあ足りないわな!」

 

 相手も無傷ではなかったが、小さな擦り傷を与えた程度。これは本格的にまずくなってきた。

 そうレスターが焦るのと、走る先から何かが飛び出してきたのは同時だった。

 

「ガアアアア!」

「うおわ!?」

 

 出てきたのは、こちらも大きな白いトラだ。白いトラはレスターを無視すると、そのまま背後の魔物へと襲いかかった。

 そして。

 

「なんと……」

 

 戦いにもならず、魔物の首は落とされてしまった。

 助かった、とは思えない。何故なら、猪の魔物からは助かっても、それよりもはるかに強大な魔物が出てきてしまったのだから。

 

「ぐるる……」

 

 白いトラがこちらを向く。どうするべきかとレスターが悩み始めたところで、さらに状況は動いていく。

 

「だいじょうぶ?」

 

 そんな、幼い声。振り返ると、白い髪に同じ色の外套を羽織った少女が立っていた。少女の側にはもう一人、黒い髪にローブの少女。

 クソが、と内心で悪態をつく。まだ逃げる方法を模索していたが、これはもうどうしようもない。

 

「ええい! 君たち! すぐに逃げたまえ!」

「え?」

「この魔物は私が引きつける! 近くに町があるから、そこで保護してもらいなさい!」

 

 自分はおそらくここで死ぬだろう。だが、無駄に死ぬつもりもない。せめてこの少女たちだけでも助けてみせる。そう覚悟を決めて、レスターは白いトラに向き直った。

 そして白いトラは、レスターを無視して少女たちへと飛びかかった。

 

「な……!?」

 

 まさか目の前にいる自分を無視するとは思わなかった。焦るレスターが振り返って見たものは。

 

「ん……。いいこ、いいこ」

「ごろごろごろ」

「いいなあ……」

 

 白いトラの喉元を撫でる白い少女と、それを少し羨ましそうに見る黒い少女だった。

 

「なんだこれ」

 

 思わずそうつぶやいてしまったレスターを誰が責められようか。

 




壁|w・)今回は、魔道具職人さん。
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