捨てられ少女の壁作り ~聖女に捨てられ魔物があふれた国で、もふもふと一緒に結界を作ります~   作:龍翠

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閑話 関係のない聖女と王子3

 

 そうして、翌日。今日は一日、この村に滞在予定です。他の人たちに挨拶して、お母さんの手料理を味わいたいなと思います。

 思って、いました。

 

「村が騒がしかったからな。そろそろ来ているだろうと思っていた」

 

 その声に。私は、私の体は、竦み上がりました。

 両親の家から出たところで声をかけられました。その人は、黒いローブを着ていて、フードを被っていました。顔は見えません。でも、その声はよく覚えています。忘れられるわけがありません。

 フードがゆっくりと外されて、その顔が露わになりました。

 

「殿下……」

 

 かつての私の婚約者が、そこにいました。

 

「ずっとお前を探していた。俺の全てをめちゃくちゃにした、お前を……!」

 

 殿下がこちらに歩いてきます。その目はとても……澱んでいました。

 

「お前が国を……俺を捨ててから、俺の計画はめちゃくちゃだ。お前の、せいだ」

 

 ゆらゆらと、歩いてくる殿下。それがあまりにも怖くて、私は思わず一歩、後ずさってしまいます。これほどまでに純粋な悪意を向けられたことはなかったかもしれません。

 

「そこまでだ」

 

 そんな私の前に立ってくれたのは、チェスター様でした。

 

「なんだ、お前は」

「サハル王国第一王子、チェスターだ。カーザル王国の王子とお見受けする」

「そうだ」

「我が国の聖女に何用か?」

「我が国の聖女、だと……?」

 

 殿下の顔が歪んでいく。憎悪のこもった顔へと。見ていて吐き気のする顔へと。

 

「その女は俺の国の聖女だ!」

「いいや? 彼女を追放したのは貴国だろう? そんな彼女を保護したのが、我が国だ。我らには彼女を守る責務がある。それに……あなた一人で何ができる?」

「……っ!」

 

 そう。一人だ。たった一人。護衛の兵士すらおらず、殿下ただ一人。殿下について行く兵士が一人もいなかったか、もしくは、すでにみんな……。

 そこまで考えて、寒気がしてしまった。大勢の人が死んだ。そのことを改めて実感したから。

 

「貴様には関係ないだろう! その女を寄越せ!」

「断る。それよりも、どうやってここまで来た? この村を知る者は少ないらしいが」

「ふん! 俺には忠実な臣下がいるのだ!」

「どこに……?」

 

 忠実、というわりにはこの場には誰もいないように見えます。そう思って言ってしまったら、殿下がものすごい顔で睨み付けてきました。

 

「貴様が……!」

「殿下! 何をしているんですか!」

 

 そう叫んで走ってきたのは、商人らしき人です。見覚えのない人ですが、行商人が珍しく長い期間滞在しているのはお母さんから聞いていました。村長が理由を聞いても、困ったように笑うだけだったとか……。

 

「こいつが! 俺の臣下だ!」

「はあ!? 何をふざけたことを言っているのですか!」

 

 あ、あれ? なんだか食い違いがあちら側であるような?

 

「殿下! あなたが聖女と話をしたいというから、協力したのです! きっと聖女に謝罪するのだろうと! この国にまた結界が戻ってくるのだろうと! それなのに……!」

「ふざけるな! なぜ俺がこの女に謝罪しなければならない! 謝罪するのはあの女だろう!」

「はあ?」

 

 これには商人さんだけじゃなくて、後ろにいたチェスター様や両親も思わず声に出していました。私も呆気にとられてしまいます。謝罪? 私が、殿下に?

 殿下が、追放したのに?

 

「なんて……なんて人だ! そんな人とは思わなかった!」

「黙れ!」

 

 殿下が、腰に下げていた剣を抜きました。その剣は見覚えがあります。確か、カーザル王国の国宝の……。

 

「跪けぇ!」

 

 言霊の、剣。

 

「ぐっ……!」

「これ、は……!」

 

 その場で全員が地面に叩きつけられました。強い力で上から押さえつけられているような感覚です。身動きが、取れません。それはチェスター様たちも同じのようでした。

 

「素直に謝罪していれば、赦しを得てやろうと思っていたのに……! 愚か者め!」

 

 赦しを、得てやる? まるで誰かの指示があるような……。

 

「もういい……! 殺してやる! 殺してやるぞリーリアぁ!」

 

 殿下が、剣を持ってこちらに歩いてきます。明確な殺意が籠もった瞳で。恐怖に体が震えますが、何もできません。聖女といえど、私には結界しか使えないから。その結界も、魔物にしか使えない結界です。

 

「リーリア……!」

 

 チェスター様たちがどうにか動こうとしているのが分かります。けれど、殿下のあの剣は、紛れもなく魔法の剣。ただの人間が逆らうことなんてできません。

 ここで動けるような人間なんて、誰も……。

 

「死ね!」

 

 殿下がそう剣を振り上げて。

 

「あなたがね」

 

 その声の直後に、殿下の胸に穴が空きました。

 

「あ……?」

 

 殿下が、意味が分からないといった様子で声を漏らします。同時に私たちにかかっていた力が消えました。

 

「うおおおお!」

 

 チェスター様が勢いよく立ち上がって、殿下をたたき切って。

 

「ふざ、けるな……! 魔女……!」

 

 そうして、殿下は倒れました。

 立ち上がって、殿下が見ていた方を見ます。空を。そこにいた、カラスを。

 

「観測の魔女様?」

 

 カラスはこちらを一瞥すると、何も告げることなく飛び去ってしまいました。

 あの声は、観測の魔女のもので間違いないはずです。どうして助けてくれたのかは分かりませんが……。やはり、悪い魔女ではないのかもしれません。

 そのカラスを見送ってから、私は殿下の方へと向き直りました。倒れて、動かなくなった殿下を。もう目に光はありませんでした。

 

「呆気ないものだな……」

「そう、ですね……」

 

 これで、良かったのでしょうか。

 思えば。私は殿下のことを何も知らなかったように思えます。私が聖女としての役目に追われ、殿下も何も語ってくれなかったから、とは言えますが、それでも……。知ろうとしなかったのは事実です。

 しっかり向き合って話し合えば、何か、違ったのでしょうか?

 

 

 

 その後は案の定と言うか、大騒ぎです。

 商人さんは不問という形になりました。商人さんもまさか殿下が私を殺そうとしているとは思わなかったそうです。すごく丁寧な謝罪もいただきました。

 また、お詫びとして村にたくさんの物資を提供してくれました。むしろこの先の商人さんが心配になるほどでしたが……。商人さんが言うには、まだ余裕はあるそうです。安心しました。

 

 私たちは……。殿下を村の片隅に埋葬しました。墓地などはまだこの村にないそうです。簡素なお墓なので、風雨にさらされていればそのうち何もなくなりそうですが……。これで、いいのだと思います。みんな怒っていましたし。

 その後は改めて村でゆっくりして、翌日に出発することになりました。

 私は、最後に簡素なお墓の前に立っていました。

 

「殿下……」

 

 感謝も謝罪も違うような気がします。最後に何か言おうと思いましたが……。何も、出てきませんでした。だから。

 

「さようなら」

 

 別れの言葉だけを残して、私はチェスター様と共に村を出発しました。

 




壁|w・)いらない子は退場よー。

なお。なんか黒幕さんがいそうなことを王子が言っていますが、魔王のことです。
魔王が命令したからね! 間違ってないね!
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