捨てられ少女の壁作り ~聖女に捨てられ魔物があふれた国で、もふもふと一緒に結界を作ります~   作:龍翠

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05-09

 

 新たな聖女とその友人たちを見送って。古い聖女とその婚約者は、王都から少し離れた場所で野営をしていました。

 

「…………」

 

 聖女は夕食も取らずに、目の前のたき火をじっと見つめています。その両手はずっと握りしめられていて、真っ白になっていました。

 

「あー……。リーリア……」

 

 王子が声をかけると、聖女はゆっくりと顔を上げました。顔色はとても悪く、真っ白です。

 

「殿下……」

 

 そうして、聖女は力なく微笑みました。

 

「私は……何も見えていませんでした……」

「…………」

「分かっていました。分かっているはずだったんです。私が結界の維持をやめてしまえば、どこかで誰かが犠牲になると。きっと、犠牲になったどこかの人からは、恨まれるだろうと。分かっていた……つもりだったんです」

 

 でも。

 

「憎しみって……あんなに怖いものだったんですね……」

 

 この国の王子からも憎しみは向けられていました。ですがそれは、確かに恐怖を覚えるものでしたが、同時に聖女も王子のことを憎んでいたのでそこまで強い恐怖でもなかったのです。

 ですが、あの小さな聖女から感じた憎しみは……。

 あの子が言っていたように、あの子の故郷の村は聖女について何も知らなかったでしょう。ある日突然、結界が弱まり、魔物が押し寄せて、滅ぼされる。いかほどの恐怖だったか、聖女にも想像できません。

 

 それに、よく考えれば……。王都の人も、確かに石を投げてきた人もいましたが、全員が全員そうだったとは言い切れません。

 きっと、おかしいと思っていた人もいたでしょう。やめるべきだと声を上げてくれた人もいたかもしれません。そんな人たちも巻き込んで、魔物たちは王都の人を皆殺しにしました。

 ああ。何が聖女。間接的にあまりに多くの人を殺しておいて、自分はのうのうと幸せになろうとしている。ようやくそれを実感しました。

 

「せめて……この国にもう一度結界を張れれば……」

 

 罪滅ぼしには、なったでしょうか?

 分かりませんが、例えなったとしてももう一国、つまり二つの国の結界を維持できるほど、聖女は魔力を持っていません。

 改めてこの国に結界を張り、そして二つの国の結界を維持する。おそらく、一年も保たないでしょう。

 どちらの結界を優先するかとなれば……。

 

「私は……今は、サハル王国の、聖女、ですから……」

 

 ただ罪滅ぼしのために、恩のあるサハル王国の結界を消す。それも、聖女にはできないことでした。

 多くの人を殺めた聖女。周りからそうと言われることはないでしょう。けれど、聖女自身は知っています。知ってしまいました。きっとこの先、この罪を一生背負っていくことになります。

 魔女が、会わない方がいいと言っていた理由がよく分かりました。知らない方がいいと、後悔することになると言っていた理由が。

 きっとあの子と会わなければ、聖女はこの現実を知ることはなかったのでしょう。こんな重い罪を背負っていると気付くことなく、サハル王国で幸せに暮らしたはずです。

 

「リーリア……」

 

 チェスター王子が、そっとリーリアの肩に手を置きました。

 

「あの魔女も言っていただろう? リーリアに罪はないと。だから……」

「いいえ。いいえ、殿下。それは、違います。私は、私だけはその罪を背負わないといけないんです。だって、私は知っていたはずですから。たくさんの人が犠牲になると。知っていた、はずなんです」

 

 知っていて、それでも聖女は結界の維持を手放した。それは変わりません。

 追放されたから、という理由はあります。多くの人が聖女に罪はないと言ってくれます。ですがそれは、多くの人の命を奪った言い訳にはならないのです。

 だって。聖女が結界の維持を続けていれば、あの小さな子はきっとまだ家族と一緒に、笑っていたはずだから。この国を歩き回るという旅をしなくても良かったはずだから。

 あんな生活を押しつけられたあの子の憎しみは当然のものです。だから、聖女は背負わなければいけません。それで少しでもあの子が楽になるのなら。聖女は、罪を全て背負うべきなのです。

 そんな気持ちを、訥々と語りました。王子は口を挟まずに、静かに聞いてくれました。

 そうして最後に、王子は聖女を抱きしめました。

 

「それなら、俺もその罪を背負うよ」

「殿下?」

「結果的にとはいえ、サハル王国の結界を任せてしまったからね。だからその罪は、俺も背負うべきものだ。あの子には嫌がられそうだけど、ね」

「ふふ……。そうですね……」

 

 あの、突然饒舌になった小さな聖女。きっと王子の言葉を聞くと、嫌そうな顔をして、けれど無視することでしょう。勝手にしろ、とばかりに。

 

「あの、殿下」

「ああ」

「私が頂いているお給金を……この国の、まだ残っている村や町の支援に使ってくれませんか? 私は、何もいりませんから。せめて、それぐらいはしたいんです」

「それは……。いや、分かった。君がそれで納得するのなら、そうするよ。けれど、何か欲しいものがあったら言ってほしい。その時は、俺が用意するから」

「はい……。その、すみません。ありがとうございます」

「いや……」

 

 ふう、と小さく、王子がため息をつきました。聖女の頭を優しく撫でて、彼女の対面に座り直します。そうして、苦々しげにつぶやきました。

 

「まったく……。あの魔女も、もう少しはっきりと教えてくれればよかったのに……」

「魔女様は……しっかり教えてくれていたと思いますよ」

 

 あれ以上理由を話してくれたとしても、それは結局聖女の罪を知らせることだけになったでしょう。きっと魔女様は、自分が語るべきではないと思っていたのだと思います。

 聞くことになるのなら、本人から聞くべきだと。そう考えたのでしょう。聖女も、それで良かったのだと思います。あの生々しい声を聞けたからこそ、聖女は罪を自覚できたのですから。

 

「殿下。罪深い女ですが……。こんな私でも、まだ国に置いてくれますか?」

「今更手放すことはしないとも。君の罪は俺が一緒に背負い、支えるよ」

「はい……。ありがとうございます」

 

 聖女はそう言って、弱々しく微笑みました。

 あの子の旅路が、良きものとなりますように。そう、聖女は祈りました。

 

   ・・・・・

 




壁|w・)次回はジト目リフィルと冷や汗レオンのやりとりです。
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