とある野球の真剣勝負 作:爪先
「なあ一方通行」
「……なンだよ」
「なんで俺たち野球なんてしてるんだっけ……?」
第二〇学区。スポーツ工学系の学校や、スポーツ協会などが集まる体育会系学区だ。その中でも北側、埼玉県にほど近いところ。
上条たちは野球場にいた。
「なんでって、カミやん。そりゃ野球回があるアニメは良作やからちゃうん?」
隣にいた青髪ピアスがキャッチャーマスクをかぶりながら言う。なんか思ったより似合っていて嫌だ。
「あとエンディングで走るアニメも良作の法則があってな……」
訳わからないことを言っている青髪は軽く流して上条はベンチから内外野を眺める。それにしても広い球場だが学園都市のボールパークはみんなこうなのだろうか?具体的に言えば神戸くらい広い。芝生も天然らしいし。
上条としては記憶上初めての野球である。以前やったことがあるのかはわからないが、父親のいうような環境にいたならば混ぜてもらえなかったりしていたのだろう。そう思うとありがたいことである。
上条がしみじみとしていると、
「そろそろ試合じゃん。相手はなんかよくわからん連中だが、まあ頑張るじゃんよー?」
監督の黄泉川愛穂だ。白地に黒ストライプのユニフォーム姿だが、ジャージ姿と警備員の制服以外の恰好は初めて見た気がする。
「あー、一応言っとくと、能力者は能力の使用厳禁じゃん。相手側も魔術?だかは使わないみたいだし、公平は期してるみたいなので安心してホームランぶっ放してくるじゃんよ!!」
監督はそれだけ言うとベンチ裏に下がっていった。しかしユニフォーム似合うな。
夏らしく、もう文句のつけようがないくらい晴れていた。そのせいで暑くもある。
「いやだなあ、プレイ中は汗だくなんでせうね……」
試合開始を待つベンチでは、
「能力使えない上に運痴とか、食蜂アンタ今日なんで来たわけ?」
「……御坂さんみたいな脳ミソが筋肉力の人たちは力任せにバットぶん回して空振り三振がオチよぉ。それと最近物理力は上がったわぁ。心理掌握よんでない訳ぇ?」
女子中学生どうしの罵りあいや(はじめましてのあの娘はほんとに中学生?)、
「このメジャー吹寄のフォークボール、たぶん誰も打てないわね!!勝ちはもらったわよ」
「原作にもあったけどメジャー吹寄ってマジで何……?」
先発投手が肩を作ったりしていた。いやほんとに原作に書いてあるからね、メジャー吹寄って。
今日のスタメンはこんな感じである。
一番ショートに御坂美琴。
運動神経の良さを生かして出塁したい。
二番セカンド御坂妹。
姉妹で二遊間コンビである。上手い連携が見せられるか。
三番レフトは一方通行。
能力が使えないなかでどうして三番に?
四番ライト上条当麻。
多分ヒット打っても不幸でアウト。
五番センター浜面仕上。
三主人公は外野、クリンナップに。という強大な意思が働いた。
六番サード佐天涙子。
バットといえばこの人。ということで招集。
七番キャッチャー青髪ピアス。
オーダー表にも本名は書かれなかった。
八番ピッチャー吹寄制理。
宣言フォークはすべて直球という勝負師っぷり。ホントに投げれるの?
九番ファースト食蜂操祈。
人気的にベンチはあり得なかったので邪魔にならないところで出場。
本当は根性でどうにかしてくれそうな削板が出場予定だったのだが、試合当日に失踪し現在捜索中である。
「こんな即席チームでどうやって勝てばいいのでしょうか。とミサカはお姉様と一緒に試合に出られることに喜びを感じながらも心配を隠せません」
「ま、大丈夫なんじゃない?向こうも寄せ集めみたいだしさ」
上条たちの一塁側に対して、三塁側のベンチは静かだ。
「カミやんは向こうにも知り合いいるんやろ?」
防具をすべてつけ終えた青髪が聞いてくる。上条は外野手用のグローブを叩きながら、
「ああ、まあちょっとな」
「……なんか意外な人脈持ってるわよね、アンタ……」
対する相手チームは魔術師選抜。そう、これは科学対魔術の、真剣野球バトルなのである!!
魔術師選抜 監督ハーマジェスティ・エリザード
一番レフト左方のテッラ。
左というだけでレフトを押し付けられた。
二番ショートレッサー。
ドジだけはしないようにとフロリスにきつく言われた。
三番サードキャーリサ。
三ばっかりなので妹に譲ろうかとも一瞬思った。
四番ファースト後方のアックア。
アスカロンで打つらしい。普通に反則。
五番センター神裂火織。
アックアの後ですか……とコメント。
六番ライトフィアンマ。
本来四番級の大物だが魔術が使えなければたぶんダメだろうという判断。
七番セカンドレイヴィニア・バードウェイ。
極狭ストライクゾーンで四球量産。
八番キャッチャーシルビア。
夫婦バッテリーが見たい!というたっての希望で招集。
九番ピッチャーオッレルス。
正直この二人ペアで見たかっただけでどんな球投げるか何も考えてない。
「こんな感じだな。今回はごった煮多国籍チームだが魔術師のプライドをかけてテキトーに頑張ってくれー」
エリザードはスタメンだけ告げてとっととどっかへ行ってしまった。パッと振り返るとアルプスのほうにもう居る。特に指揮をしようという気はないらしい。クリケットにしか興味がないのか。
「監督がスタンドにいるのはラグビーくらいなのでは……」
「ラグビーだってマイクぐらいつけて指示は出してますよ」
あきれる神裂と同調するレッサー。ベンチには控えも含めて十数人の魔術師がいるが、空気は冷え切っている。誰も喋らない。
(こんな宗派も出身もバラバラなチームでどう戦えというのですか……)
いつの間にか五番という大事な位置を任されてしまった神裂。ちょっとプレッシャー感じてきた。
スタンドでは観客が試合開始を待っている。
「とうまは四番みたいなんだよ」
「当麻くん凄いね……ってあれ、バッティングセンターだと空振りばっかりじゃなかった?」
インデックスと鳴護アリサ。なんで鳴護がいるのかなんて野暮なことはまあいいじゃない。インデックスは上条に持たされたお弁当を試合前に食い尽くし、今はもう空腹である。
「なんかおなかすいたかも。売店とかあるかな?」
「……あれ、もしかして忘れ去られたあたしのハラペコキャラを押し出すチャンス!?よしインデックスちゃん、球場メシたくさん食べるよ!!」
「それでは、これより科学サイド選抜対魔術サイド選抜の試合をはじめます。気を付け、礼!!」
「「「「「おねがいしますっ!!」」」」」
本日の審判団はその他サイドということで、甲賀の忍びさん達が担当してくれるそうだ。責任審判はもちろん近江手裏である。一塁塁審は坂田、二塁浅井、三塁野洲という布陣。甲賀のメンバーなんて誰も覚えてないんだろちくしょう。
しかしとにかく試合は始まる。上条たちは後攻めなので、まずは守備位置につくのだが、
「なあ、ちゃんとフライの時は声出していこうな。普通に衝突するぜ」
外野まで走っていく途中、センターの浜面が声をかけてきた。確かに頭上のボールに集中して外野手同士が衝突、という場面はプロ野球でもたまに見かける。必死に追いかけるためぶつかった時の衝撃も大きくケガに繋がりやすい。
上条はレフトに歩いていく白髪を見つけて、
「聞いてたか一方通行ー?声出してけよー?」
「……チッ」
内野では御坂と御坂妹がキャッチボール。
「ヘイヘイびびってるーう、とミサカは一度やってみたかった煽りを全力でかましていきます。ヘイヘイヘーイ」
「それ私にやって意味あるわけ……?」
マウンドでは吹寄が投球練習。
「次フォークいくわよー」
「真っすぐしかけえへんなあ」
一回の表。相手の先頭バッターはテッラだ。
「私が左方という理由だけでレフトの先発ですか……舐められたものですねぇ……」
そしてやっぱり左バッターボックスに入る。
「なんかぶつくさ言ってるけどあいつ何者?顔色悪すぎない?病院連れてった方がいいんじゃないかしら」
吹寄にとっては未知の相手。口元をミットで隠した青髪と攻め方を相談する。
「とりあえずアウトコース低めで様子見、どう?」
「任しといて。……ところでほんとに真っすぐでいいの?」
青髪はマウンドから戻りながら、
「いや真っすぐしかないやん」
「プレイボールッ!!」
球審近江の一声でついに試合が始まった。ピッチャー振りかぶって投げる。
(とりあえずは全力のストレート。高くならないようにしないとね)
びゅうッ!!と指先から放たれたボールはしっかりと指にかかった良い回転のストレート。ぐんぐんと伸びてアウトコースギリギリへと一直線。
(あれ案外ナイスボールや)
これなら見送りか、手を出しても内野ゴロだろうと青髪が思ったその時。
「私の名前は、『左方のテッラ』」
彼の眼は、しっかりとボールを見ていた。
ギュイン!!と腕が回される。
「この程度のボール、レフト前に転がすのは簡単ですねー」
カン!!と。
吹寄は自分の真横をボールがすり抜けていくのを感じた。
ショートの御坂も手を伸ばすが届かない。
「……ッああ惜しいっ!!」
わかりやすく悔しがる御坂。
(しっかしバットコントロールいいわね……奇麗なレフト前)
打球の飛んで行った方を見ると一方通行が捕ったボールを返そうとしていた。当然能力は禁止であるため自力で投げる。
が、飛ばない。
「あちゃー、ってミサカはミサカはあの人のことを心配しつつもさすがにあそこまで飛ばないのはどうなの?と疑問視してみたり」
観客席の打ち止めと芳川だ。
「あの子もあの子なりに頑張ってるのよ」
打ち止めは初めての球場にわくわくしていた。野球というものには興味がないが、一方通行にはホームランをぜひ打ってもらいたいと思っている。
「裏の攻撃になれば打つんだよね?とミサカはミサカは基本情報を確認してみたり」
「そうよ。アウトを三つ取って交代、その繰り返しね」
マウンド上では。
「まずいわね……相手は次送って来るんじゃないかしら」
「開き直ってワンアウトでいいんちゃう?一塁の食蜂操祈ちゃんもチャージとかできないやん」
ちらっと一塁を見てみる。何にもしていないのにすでに息を切らした食蜂がそこにいた。彼女は圧力をかけに行く余裕などないだろう。
「じゃあ……やっぱりフォーク?」
「いやそれはないやん」
魔術サイド二番はレッサー。「新たなる光」から唯一の選出である。
(しょーじき肩身がせまいんですよねえ……ま、次につなげるだけつなげましょう)
はじめからバットは寝かせた状態で打席に。
「あれ?あれじゃあバット振れないんだよ?どうして横にしてるのかな?」
球場内での物価に驚いて何も買えなかったアリサと上条の財布を空にしてきたインデックスは、もぐもぐしつつも一応試合状況にも目を配っていた。
「あれはねインデックスちゃん、打球の勢いを抑えて手前に転がすの。それで自分がアウトになってる間にランナーが進塁する、そういう作戦なの」
アリサも別に野球に詳しくはないが、インデックスの解説役に落ち着こうとしている。ふーん、と、フライドポテトを何本かまとめて放り込んで飲み込んだインデックスは何を思ったか、
「自分を贄にするんだね……危険な術式なんだよ」
「術式ちがうよインデックスちゃん」
その後レッサーが一球で見事に転がし、ワンアウト二塁で、
クリーンアップを迎えることになる。
「甘いッ!!」
カキン!!と気持ちのいい音が鳴り打球はレフト方向へ。打ったキャーリサは赤いドレスのまま一塁へ走る。打球は上条の前でワンバウンド。あらかじめ少しだけ前進して守っていたためテッラは本塁を狙えない。
捕った上条は内心ヒヤヒヤしていた。
(いつもの不幸でバウンドが急に変わったりしなくてほんと助かった!!)
しかし状況は全く良くない。むしろ悪い。
ワンアウト一、三塁で迎えるには最悪の相手。
「後方の、アックア……!!」
「うわ、何あの筋肉は。普通にメジャーリーガーなんじゃないの?」
マウンド上から打席のアックアと相対した吹寄はそんな印象を持った。筋肉隆々とはこの人のことを言うのであろう。なんかバットもとにかく巨大だし変な形だし、
すべてが規格外。そんなオーラ。
「野球であっても、ここは勝負の場。手加減などはしないのである」
一回表にしてもう山場。早々と内野陣が集まった。
「もう敬遠して満塁でもいいんじゃないですかー?一塁空いてないデスケド」
と言ったのは三塁手の佐天。確かに満塁にすればダブルプレー、本塁での併殺も狙いやすく、何よりアックアとの勝負が避けられる。
「いや、一回から逃げの姿勢では勝てないわ。私のフォークボールで勝負よ!」
「無理やて」
「せめて監督がもっと指示してくれたらなあ……」
なかなか作戦が決まらず、貴重な時間はすぐに過ぎていく。
と、そこまで一言も喋っていなかった御坂妹が口を開いた。
「なんとかできるかもしれません。とミサカはとっておきの秘策を自信たっぷりに提供します」