男の娘シスターに憑依転生した俺が神を殺すまで〜クソ難易度の死にゲー世界の男の娘シスターに憑依転生した俺はクソッタレの神に復讐をする〜 作:ミタケ
固有能力の発動に重要な物──一部例外はあるが──……それはイメージだ。
例えば、破壊の固有能力だとしたら破壊するものがどうやって壊れていくか……どんなふうに壊れたか等、過程と結果を鮮明にイメージにしなければならない。
イメージを疎かにしてしまうとどうなるのか? ……結果は固有能力が暴走してしまったり、関係ないところにまで影響がいってしまう事がある。
固有能力と言う存在を、使う者に必要なものは想像力だ。
だから俺は目の前にいる、女性が元気な頃に巻き戻るイメージを想像する。
生憎と目の前の女性が元気な頃に会った事は無いのだが、それはここに来る道中に猫耳の少女に教えてもらったので想像で補完させてもらう事にする。
さて……イメージは完了した。後は能力を使用するのみだ。
そうして能力を使用して──
……は!?
能力を使用した瞬間、視界に広がる全てが黒に染まった。
「ねぇ♡……この子を助けようとしたの?」
全てが黒の世界で、背後からその声が聞こえた。
「まだ足りないよ……もう少し♡」
足りない? 何がだ……そもそもここは?
背後から聞こえるソプラノの様に、高く透き通った声。それを聞いていくと混乱していた頭が段々と安らいでいく……。
……ダメだ!
危ないところだった……あのまま流されていたら、おそらく自分は後ろにいる奴に魅了されていた。
魅了された後の事……どういう風になっても恐らくろくなことにならないだろう。
そこに存在するだけで。声を聴いただけで魅了されそうになる背後の存在。それに……!
こいつの気配……力は!
俺の後ろから漂っている力に、見覚えがあった。それは少し前のあの上位天使との闘い……あの時。
あの天使と同じ威光……いや、そんなものは比べ物にならない程の……!
声のした方へ振り返ろうとした瞬間……背後から抱き着かれた。
「ま。さか……お、まえは……!」
何故か思うように口が動かない……。
暖かく柔らかい感触。甘い匂い。後ろから回されている華奢な手。背後から感じる絶対的なまでの威光。
……まさか。まさかまさかまさかまさか……!
もし、俺の予想があっているのなら……。今、俺の後ろに立っているこいつは……!
「私はいつまでも待っているからね♡」
背後からそうささやかれた瞬間、意識がシャットアウトした。
再び目を開けると先程の部屋に戻っていた。
「カハッ……!」
口から吹き出る鮮血。止まらない眩暈。激しく痛む頭。立つことが難しくなり地面に手をついてしまう。
「大丈夫ですか!?」
そんな俺を心配してだろうか。少女が急いで俺の方へと駆け寄ってくる……。
能力を使用した女性の方へ視線を向けると、先程までと変わらずに安らかに眠ったまま……。
少女が俺を心配そうに見つめているのだが、今の俺にはその光景が入ってこない。
今の俺の中には、驚愕だけしか浮かんでいなかった。
何故能力が効かない!?!? 何が起こった!?
能力を使用した感覚はある筈なのに変化がない女性。能力を使った瞬間に飛ばされたあの空間。
そしてあの空間に居た存在……この部屋の違和感。
クロノスとこの女性に何のつながりがある!?
今にしてみればこの部屋の違和感……いや未だ眠っている女性から放たれている力。
神族にしか持ちえない力。権能……その残影のような物が彼女からほんの少しだが漏れ出ている。
本来、権能とはクロノスと最上位5人の天使しか持ちえない力だ。
だとしたら、何故この女性からその権能が放たれている……!?
それにあの空間に居たのがクロノスだったとしたら……。未だ眠っている女性を通して俺に干渉してきたのだったら。
……下手したら神族である天使以上の繋がりがあることになってしまう……!
初対面に俺を縛ろうとしてきた勇者。自身の見た目の変化……。
そして、未だ眠っている女性を見て思う。
どうなってんだよ、原作にない物が次々に……!
その考えを最後に俺の意識は遠のいていくのだった……。
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「……んあ?」
「……あ! 起きたんですね。大丈夫ですか?」
目が覚めるとしらない天井。激しい倦怠感に襲われている、自身の体を見るとベットに寝かされていた。
声の聞こえた方向へ振り向くと、そこには俺が気を失った時にそばにいた猫耳の少女が椅子に座っていた。
「ああ。大丈夫」
ああ……そうか。そういえば失敗したのか……
「本当に大丈夫なんですか? さっきまで凄い魘されていましたけど……」
「本当に大丈夫だ。それとごめん……任せてとか、啖呵切ってたくせに君のお母さんを治せなかった」
任せて……と言ったくせに、少女の母親を治せなかった自身に嫌悪感が強く出た。
「……いえいえ、大丈夫ですよ! 今まで色んな方法を試してみました見ましたけど、お母さんは一年も目を覚ましませんでしたから……今回もそうなるだろうなぁって薄々思っていましたし」
少女は力なく言っていた。
「……それにお金をたくさん払って、診てもらったお医者様からはもう長くないって言われましたし……お金を稼いで有名なお医者様に治療してもらおうと、お金もたくさんためてきたんです」
「だけど。お金はなかなかたまらなくて……生活するのにもお金はかかりますし。……だから、最近諦めた方がいいのかなぁ……て」
少女は椅子に座ったまま、俯いている。
「だけど……これが中々諦めきれないんですよね。私がもうちょっとお金を稼げたら、私がもっと頑張ったら……て」
少女は静かに震えていた。
「確かに今日、お母さんは目を覚ましませんでした。だけど初めて、お母さんを治療してくれるって言われて凄い嬉しかったです。ははは……今日初めて会ったお客さんに何言ってるんですかね」
「……もうあきらめようと思ってるんですよ。ごめんなさい、いろいろと喋ってしまって」
少女は時間が経つごとに震えが強くなっていた。
膝の上に置いてある拳はミシミシ……と言う程なまでに、力強く握りしめられていて。
それはまるで、自分の思いを抑え込もうとしているようだった。
……既視感を感じるな。
「いえ。大丈夫ですよ……。それともう少し時間が掛かるかもですが、もう少しの間待っててください。俺が必ず治療して見せます」
意識をせずに己の口調が変わって、少し驚いてしまう。……がすぐに平静を装ってそのまま続ける。
「……っ。大丈夫ですよ。お客さんの時間を取るわけにはいかないですし。気にしないでください……」
少女が顔を上げて笑顔を見せていた。……だが、その表情はとても笑っているとは思えない。
眼は今にでも泣き出しそうな程、潤んでいた。膝の上に置かれている拳は未だミシミシ……と音が鳴っている。笑みを浮かべている口元は引きつっていた。
「無理しないでください。あなたは諦めたくないのでしょう? お母さんの事を……」
「……っ」
少女は唇をかみしめている……。
「諦めたくないのに諦める。……それは悔いが残りませんか?」
「諦めたい事。逃げたい事。そういうものを諦めたり逃げたりする事は俺は賛成です……が諦めたくない物を無理やり諦めるのは、それはやってはいけない事ではないでしょうか」
「無理やり自分を納得させて諦める。それは悔いが残るでしょう。あの時こうしていれば……あの時諦めなければ……と」
「そんなものをこの先、ずっと抱えたまま生きていくなんて後悔しませんか?」
泣き出しそうな少女の顔を見て思う。前の俺……シアに救ってもらう前の俺と似ている、と。
だからだろうか、この少女の姿が見ていられなかった。諦めたくないことを必死に諦めようとしている姿が……。
まるで、昨日起こった出来事のように鮮明と思いだせる、己にのばされた手。
自分の中で救済の象徴はシアだったのだろう。だから目の前の少女を助けようとすると、口調がシアのようになっていた……
「んん……さて、お前は後悔したいか? したく無いか? どっちにする……」
一度口調を戻して手を伸ばす。
それに少女は、何かに縋るようにゆっくりと手を伸ばした。
「お願いします……! お母さんを治してください!」
少女は涙を流していた……その顔は何かに助けを求めるような物になっている。
そうして少女は俺の手を掴む……。
「ああ、わかった」
俺の手を掴んで希望の眼差しで見つめてくる猫耳の少女。少女の目には少し前のような疑念や心配の感情は浮かんでいなかった。
今の少女は憑き物が取れてすっきりしたような、そんな顔をしていた。
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「…………」
あれから数十秒と時間が経っているのに少女は手を離さない。
それどころか、俺を穴が開くくらいに見つめている。
むず痒い……!
結構な時間が経っているのに未だ俺から目を離さない少女。こういう風に、見つめられる事が少ないためどうにもむず痒く感じてしまう。
そういえば名前知らないな……。
「あ~……そういえば名前聞いてなかったな。……俺の名前はシリカだ」
未だ感じる視線に耐えきれず、目をそらしながらそう言った。
「ふふ、そういえば言ってなかったですね。私はシャル……シャル・アルマです!」
少女──いや、シャルは笑ってそう言った。
未だむず痒さを感じる視線の中でもう一度シャルへと向き直りそう言う。
「シャル。よろしく」
「はい! お願いします」
涙にぬれている笑顔。だがその笑みは、先程の無理矢理作っているような物より圧倒的にいい物だった。
嗚呼、これでまた復讐の道が遠のいてしまったな……
復讐の道が遠のいた、だけど今の気持ちとしては不思議と悪くない。
なあ、シア……俺はこの子を助けられるだろうか? 復讐の道は遠のくけど、俺は出来るだけ頑張ってこの子を助けてみるよ……。
シアが俺を助けてくれた時はどんな気分だったのかな?
シアがどんな思いで俺を助けてくれたのか……俺にはわからないけど。俺は何だか、むず痒い気持ちだ……。
だけどこのむず痒さは、そんなに悪くないかな……?
シャルは未だ視線をこっちに向けていている。
取り合えず、今はこの子達を助けよう……ただ少し寄り道するだけだ。すぐに助けて復讐の道に戻れば遅くはないだろう。
そんなことを考えて俺は、未だ慣れない視線を受け続けるのだった……。
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