カァ...カァ...
カラスが鳴き声で目が覚める。そっか、私は死ぬ思いで逃げてたんだっけ... ケホケホと咳き込む。身体を起こそうとするがどうにも動かない。
重りがのしかかったような感覚。
何が、いけなかったんだろうか?
後悔しても仕切れない。こんなにも無力な私が憎らしい。
コツン...コツ...
遠くからあいつが来る。革靴の音が響く。
「実に...不愉快だ」
声のする方を見やると男がいた。私より遥かに大きく悠然と立ち振る舞い、年を召しているのだろうか、しかし幾分その手には似合わぬ杖が握られている。
「小童一人殺せぬとは、私の腕も落ちぶれたものだ...如何にして始末しようか」
に、逃げなきゃ...!
本能がそう叫んでいる、がこの時でさえ動くことが出来ない。
そうこうしてるうちに男は目の前にいた。
「私の街には、貴様のような浮浪者は存在してならないのだ」
そう言い私の横っ腹を蹴られる。グチャリ、嫌な音を立てて私は大きく吹っ飛び壁にぶつかる。痛みはない、が動かすことも出来ず膝から崩れる。
足下に溜まっていた水溜りが私を映す、家を襲われてから身体を手入れする時間なかったためか泥だらけの顔に左目には膿が入ったか痛々しい姿になっていることに初めて気付いた。
泣きたくなるがもう涙なんて枯れ果ててしまって何も出ない。
「罪を犯したものに神は救いなど差し伸べることなどないが、せめてもの情けだ。最後の言葉ぐらい聞いてやる」
杖から細身の剣が出てきて、夕陽が刀身を反射し不思議と燃えているように見える。その剣を私の胸辺りを突き立てる。
「ッ、ガフッ..!コロ、して...やる...!」
喉も潰れ声も絶え絶えになりながら啖呵を切る。
「そうかそれが最期の言葉か、実に罪人らしい言葉だ」
剣はゆっくりと私の身体を貫き心臓に近づくにつれゆっくりになっていく。目に映るもの全てが白黒の世界に変わり、やがてぼやける。
もっといい人生を歩きたかった、普通に生まれ普通に暮らしやがてはお母さんみたいに誰かと結婚をして、そんな平凡の人生を歩みたかった。
最期にそんなことを思い、私は深い眠りについた。
気がつくと暗闇の中私はいた。周りを見渡しても暗闇が続くばかり、私は自然と身体が動くことに傷きも真っ直ぐ進む。
どちらが前かしっかりと立てているかも分からずにただひたさらに歩くと何かに当たった。
暗くて何か分からなく手で軽く押してみるとゆっくりと何かが開く。
中は少しの光が漏れ眼前には椅子が綺麗に並べられて私と似た子がいた。
私はゆっくりと中に入り彼女以外いない伽藍とした椅子に座る、するとあたりは急に暗くなり背後から何かの機械音?が聞こえたかと思うと先ほどいた子が消えて誰かの赤ん坊と私のお母さんが急に現れ動き出した。
きっとここは映画館なのだろう、お金などない私には無縁だと思っていたが...映画は淡々と進んでいく。
私とよく似た、誰でもない女の子の物語のようだ。
生まれは没落貴族、父はそれなりに広い農地を持つ地主、母は少し小金持ちの家の女。
何不自由なく暮らしていたが、そんな生活も長くは続かなかった。
時期が良くなかったのだろう、飢えに苦しむ賊たちが屋敷を襲いその女の子以外死んでしまった。彼女は逃げた、屋敷を抜け薄暗い道を履き慣れぬ靴で走り息が切れるまで走り続けた。
狭い裏道に入り漸く足が止まる。そして急に座り込んだかと思うと自然と大粒の涙が溢れる。このときの彼女の心境など本人以外知るよしもないが不思議とわかってしまう。
その先は見ることは出来なかった。こんな出来の悪い映画なんて誰が見るのだろうか。
気持ち悪い
そんな感情が湧き上がる。ただ生きただけなのに、もっと.,.もっと...その瞬間、心臓が撫でられる様な感覚に襲われる。
『復讐はお望みかい?』
隣から中性的な声が聞こえる。声の主を見ようと隣を見ると、私と同じくらいの背丈の子供がいたが、子供というには身なりが整い過ぎている。
それに無邪気に笑みを浮かべているが目は虚で私を見ている様な感じではなかった。
「...お前は、あなたはだれ?」
『ボクは悪魔さ』
とその子供は悪魔と名乗った。
『それで、どうなの?復讐、したいの?したくないの?』
急かす様に問い掛ける。復讐...
「誰にするの?」
「そりゃこの世界さ』
突拍子もなく世界と言う。
「復讐は良くないってお母さんは言ってた」
私が言ったら、悪魔はバカにするかの様に嘲笑う。
「何がおかしい」
『フフッ、可愛いなぁって。復讐に良し悪しなんてないのにね。それで、君はそれでいいの?」
「そ、それは...いいや。やっぱりダメだ!復讐なんてそんなこと...」
「ダメだなぁ...いい子ちゃんぶっちゃって、君がどんなふうに取り繕おうが人間であることには変わりないんだよその面の皮も剥けば、欲望に支配されている生き物...生きる為と自身に免罪符を課し他の生物から奪う。挙句同種の人間からも奪ったりもする...等しく同じなんだよ。聖人と名乗るものも、暴君であろうとも」
下卑た笑みを浮かべ立ち上がる。
「いいかい?ボクは今、君の心の内側に語りかけているんだ。今一度問おう」
悪魔は私の肩に手を置く。
「やるのかい...やらないのかい?」
その瞬間私のナニカが不思議と溢れ出す。ドス黒い感情が溢れ出し堪えようのない気持ちになる。
「...憎たらしい、家族を殺した賊どもや私を殺したあのおじさんも憎い...
そっか、そうなんだ」
動悸が激しくなる。それに呼応するかの様に胸元あたりが痛み始める。
「ッ!...ハァ...ハァ...ここが傷むの、どうして?」
悪魔は表情を変えぬまま胸元をさわり、
「君はまだ少し良心が残っているみたいだ。それにしても凄いな、そこまでいい子ちゃんとはね、どうせ...まあどうでもいいね、少し弄るよ」
悪魔は手を這わせ胸の少し下辺りで止まり押し込む、すると私の身体が沈み込む様に入っていった。少し不快感はあったが痛みはなかった。その手はゆっくりと進み、痛んでいる所を掴まれる。それを引っこ抜くとさっきまでの痛みが何もなかったかの様に消え去っていた。
それはドロドロとした、不定形な物であった。
「これは君の良心、みたいな物だ。ただ抜き取っただけでこのまま切り離してしまうと君は君でなくなってしまうんだ」
そう言いながら悪魔はそのドロドロとした物を手でこね、それは姿を変え、首飾りみたいな物へとなった。
「これを形見離さず持っているといい、それがある意味命とも呼べる物だ。死んでも守ってくれよ」
それを私の首に掛け、
「これでいいだろう。もう君は迷うことないんだよ、さあ答えを聞こう」
「....私に、復讐を。あいつらを殺せるだけの力を...頂戴」
すると私の足下から渦巻いて黒いモヤが現れ私を包んだ。
「契約成立だ。君はこれから君の中にある力を引き出すよ。君の場合は...血液、かな?それを変換して力に変わるよ」
そうして聞くうちにみるみる姿が変わる。見窄らしい服が黒いドレスに変わり、とても質素であるが私が刺された部分には赤い宝石が嵌め込まれる。
「いい衣装じゃないか、それは君の心のうちを反映した物でその間はパワーアップするんだ」
「それで貴方は何が欲しいの?私今持ち合わせるものなんてなくて...」
「別にこの時代の物が欲しいとかそんなんじゃないんだ。ただ君の名前の命名権と行動を見させてもらうよ」
悪魔は少し考えた後何処からか取り出した紙に何かを書き、
「じゃあこれから君は魔法少女クロロと名乗ってね」
そう言いミミズみたいな字で見せつける。
「文字書くの下手だね...」
「年齢に合わせているからね。子供が達筆だったら大人は気持ち悪がるでしょ?」
そういうものなのかな?とどうでもいいこと考えふと、ある疑問が生まれる。
「何でそれだけでいいの?」
「私は君みたいに死なんてものないんだけど、存在する以上どうしても暇になるんだ。君の行動を記録して後から確認して楽しむためだよ」
「じゃあ名前は?」
「私の趣味です。貴方も好きだったでしょう?人形とかに名付けるの」
そういうものかと自分を納得させた。
「気になることはこれぐらいですね。君をこれから君自身の肉体に戻すけど多少衝撃があるかもしれないから気をつけてねぇ」
私の反応するより悪魔は何かを呟き急な睡魔が襲ってくる。
意識が遠のく刹那、大事なことを聞き忘れていたことを思い出した。
「あな...のなま、え..てない」
「ボクの名前かい?ボクはキャス...
最後まで聞き取れず、意識が引っ張られる。重い物を全身に乗せられた様な感覚を襲われガンッと強い衝撃が伝わった。
気がつくと真っ暗闇に包まれ、狭い空間に閉じ込められている。
身動きが取れないからとにかく出たい、変身すれば力が出ると悪魔は言ってたっけ?それっぽい物を探さなきゃ...ガサゴソと手で触れ回ると、首元にひんやりと冷たい物があった。
これは悪魔がくれたペンダントだろうか。じっくりと触って暫くしてからハッと我に帰る。そういえばどうすれば変身できるか聞いてなかった。
悪魔の対応の雑さに苛立ちをおぼえペンダントにを持つ手が強くなる。
その瞬間、ペンダントの宝石が眩く光り、私の周りを光が包み始める。
あったかいような感覚に絆されているとキュイーンと何かが吸い込む音が聞こえ始め何かを考えるより先に爆音とともに閃光が目を入る。
次に目を開けると先ほどまでなかったはずの夜空が見え私を中心として放射状に抉られていた。
あまりのことで頭がフリーズしてしまったが、何処からか声が聞こえる。
悪魔だ。悪魔は脳に直接語りかけるように、
「変身する時は外でやってくれ、室内でやるとエネルギーが充満して爆発する可能性があるから気をつけてくれよ」
言うのが遅いと思いながら辺りを見回す。周辺は墓標が無造作に立てられている。どうやらここは貧しい人たちが埋められる場所なのだろう、おまけに少し先にいかにもボロく今にも崩れそうな教会があり、私は覚束ない足取りで向かう。
教会のドアの前まで来ると気付く。少し明るかった、さっきの爆発で誰かが起き急いできているのだろう。
私はドアの死角に隠れてやり過ごす。暫くしてドアを勢いよく開けられそこからシスターが慌てて出ていくのが見えた。
不用心にも開けられたドアからコソコソと入り込むことに成功した。
中に入ると広く、清掃が行き届いていて小綺麗になっていた。
「おや?こんな夜の日に迷える子羊が来るとは、何かお困り事かな?」
奥の主祭壇で聖書を開いている男がいたことに気づく。
男は白髪で若々しく屈強な肉体を持ち、額には獣によって負ったであろう傷があり、服は小綺麗であった。
でかい爆音とともに目が覚めてしまった。上からドタドタとシスターが降りてくる音が聞こえる。アァ、全く面倒くさい...、大きく伸びをし彼女を待つ。
案の定彼女は起きて間もなくで来たので階段を転げ落ちながら来た。
頭を抑え「イッタ〜…」と言いながらうずくまっていた。
「大丈夫ですか?シスター」
「だだだ、ダイジョーブです‼︎」
こちらを向き、涙目になりながらもそれを言えるのなら大丈夫か、と思い寝起きの彼女をよく見る。髪がボサボサで服を上手く着れていない。
「シスター、淑女たるもの美しつあるものです。今のあなたは人様には見せる状態ではありません、最低限身なりを整えてください」
そう言いながら彼女の髪を櫛梳かし手拭いで涙を拭き取る。
シスターは顔を赤らめ、
「す、すすみません‼︎ちょっと見てきます‼︎」
逃げるようにして教会を出た。ランタンを持たずに出てってしまった、せめて待つようにと伝えようとしたが多分聞こえないと思いそっとしといた。..,そのうちも気づいて戻ってくるか。
彼女が出たすぐ後に、無用心にも開けられたドアから誰か一人入ってきた。こんな夜に誰だろうか。
暗闇から若干小柄の女性が現れる。真っ黒のドレスを身に纏い背後に死神が立っているかのような背筋が凍るかのような感覚に襲われる。胸辺りにルビーのように綺麗な宝石をはめられ一際目立たせる。肌は病的なほど白く、陽に照らせば透き通りそうだと思った。
人ではないと、私の勘がそう囁く。
「おや?こんな夜の日に迷える子羊が来るとは、何かお困り事かな?」
咄嗟に口が出てしまった。しかしいくら小柄とはいえシスターはこの子を見てなかったのか、一体何が目的なのだろうか。ただ一つわかることは彼女からは悪魔が棲みついている、それだけは分かる。
危険と分かっているが彼女に棲みつく悪魔を祓わなければ、街に悪魔が放されてしまう。出来る限り彼女を刺激せず近付かねば...表情を崩さないよう懐にしまってあるロザリオを強く握りしめゆっくりと歩み寄る。
「外は寒いだろう?さ、中に入ってくれ」
彼女は何も言葉を発さずただ立ち止まってこちらをずっと見つめている。
品定めをするかのような視線は身体に何か重いものがのし掛かるような感覚に襲われ、思わず足を止める。
頬に何かを掠めた。咄嗟に遮蔽物裏に隠れ身を隠し、さっきまで場所を凝視する。しかし何も見えない、だが分かったこともある。先ほどの不可視の攻撃はあの少女を中心として発生しているようだ。その証拠に椅子の裏はその攻撃の跡がないからである。
それでもあまり考える時間はない。あの娘が戻ってくる前に終わらせないといけない。やるしかないのか、私は彼女と相対し、真っ直ぐ突っ込む。
この攻撃が彼女のものなら気を失わせればきっとやむ、その後に悪魔祓いをすれば正気に戻るかもしれない。
両手をクロスにし顔を守るようにし、犀のように角で貫くか如く胸あたりに辺り倒れる。その隙をついてすぐさま馬乗りになり相手の行動を妨げる。
「お兄さん...ありがとう...!」
胸を何かが刺していた。それは少女のような腕だった。
押し倒したはずの少女は、霧のよう に..き
気づくと神父はうつ伏せで倒れ、私の左腕は赤く染まっていた。
私が殺してしまった。しかしそこに悲壮感や絶望もなくどちらかといえば彼から垂れ流れている血溜まりが勿体なく感じてしまう。
私は彼を仰向けにする。胸にぽっかりと空いた穴がとても甘美に感じるがはやる気持ちを抑え服を漁る、彼の黒い服の内側に白銀に光るロザリオがあった。私は一度死んだ、生き返りはしたが今の私の立場はなんなのだろうか。人か、それ以外か。
昔お父さんから聞いたことがあるが、この世には罪を犯し死した者を罰するために生き返らせられた者を
しかしながら疑問が生まれる。あれには意思などなく主人の命だけにしか動かないと教えられた。
改めて軽い気持ちでロザリオに触れてみるが、赤く発光し少し熱を帯びているように感じる。
やはり偽物でもある程度効果はあるのか、私は死体...
ロザリオが反応しないよう布を覆い懐に収め他に何かないか弄る。
鍵、懐中時計...どれも私が欲しいものではない。
私を埋めたのは誰か、何かしら手がかりはあるはず...あった手記を見つけた。いい情報があれば良いが...。
パラパラと流しある情報が目に映る。
---今日、珍しい客人が来た。
ハルバードさんが死体を抱え埋めてくれと頼まれた。しかしそれは死体と呼ぶには余りにも悍ましく、痛々しい物であった。
元々ここは----
ハルバード...それが私を殺した男か。
名前は憶えた。次は地図を手に「何、を...してるんですか」
忘れていた。まだ、いたんだ。
ゆっくり立ち上がり女の方を向く。修道服を身につけ青い目をした女は膝を振るわせ震えている。
「神父様に...神父様に何を、ッ!!」
「さよなら、お嬢さん」
首を貫き投げ捨てる。次はどうしようか...家を一つずつ廻って...いやここはでかい屋敷に入ってハルバードとやらの情報を探した方が得策か、奴はきっとこの街で暴れても問題ない人物...市長とかその辺りだろう。
絶対に、絶っ対に...見つけて殺してやる。
朝日が昇る。もう朝か、そう思い変身を解くが生まれたままの姿になる。
...ここを出る前に最低限着れる服は探すか、衣類を探すため私は教会に入った