レイサ「スズミさん!すごい賑わいですね!」
スズミ「そうですね、皆さんとても張り切っているようです」
最後に先生とお会いしてから多少の月日が経った今日、近く開催されるトリニティ総合学園の祭典――”トリニティ
以前先生に相談した自警団活動の自粛、結果を言うとやはり最適の判断だったようだ。
最初こそ、不良側と自警団側で戦力差があることを否めない様子だったが、どうやら不良側も、毎回毎回装備を準備するのが大変だったらしい。
ものの2週間程で、1日に起きる戦闘の被害規模が目に見えて激減したのだ。
戦闘で消費される弾薬の量も団員からの報告を見るに半分近くまで下がっているそうで、結果の好転は団員や市民の皆さんも実感している様子だった。
スズミ「(そう、正しかったのだ)」「(私が、いない方がトリニティは平和――)」
レイサ「――これは!私たち!トリニティ自警団の~!」「スーパーアイドルとして~!、よりすごいパトロールを~、――ですねっ!スズミさんっ!!」
スズミ「――っ!」「え、ええ……、程ほどに……参りましょう……か」
レイサ「……スズミさん?」
スズミ「……!、は、はい!」「……どうしました?」
レイサ「もしかして……久しぶりの出動で、緊張していますか?」「そ、それとも私……スズミさんを疲れさせちゃいました……か?……」
スズミ「そ、そんなことないですよ!」「そうですね……、久しぶりでちょっと……」でが!レイサさんの高揚ぶり様に、身が引き締まる思いです!」
レイサ「そ、そうですか!えへへ……」「謝肉祭、楽しみですね!当日も一緒に頑張りましょう!」
スズミ「はい……、そうですね!」
レイサさんは優しい、共にパトロールをするのもおよそ数週間ぶりなのに、変わらずいつも通り接してくれる。
私の居場所が無くなっていないことを全力で伝えてくれているようだ。
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街を歩く生徒A「ステージイベント、アイドルコンサートだって!」「他の学園からも参加者呼んでるみたい!」
街を歩く生徒B「他の演目は……正義実現委員会が舞台!?」「『麻痺した森の姫』……知ってる?」
街を歩く生徒C「前に古典の授業で習ったやつじゃない?」「王子様役は誰がやるんだろ?」
街を歩く生徒A「あ、噂をすれば……」「正義実現委員会の……」
街を歩く生徒B「副委員長じゃん!隣の子は……新人?知らない顔ね……」「ちょっと演者誰か聞いてくるっ!――」
街を歩く生徒C「よ、止しなって!?」「――ってかなんでそんな詳しいの!?」
端から見たら違和感のない二人組、だが内情を知っている者からすれば少し変わった組み合わせ。
なぜなら、片方の桃色の髪の少女は正義実現委員会の制服だが、現在は所属が違う。
――直近の試験の結果が優れたため、特別に一時復帰を許可してもらえたが故の光景だった。
?「おや……あの方たちは」
?「?、ハスミ先輩のお知り合いですか?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
レイサ「~♪、~♪」
スズミ「レイサさん、いつもより張り切っていますね」
レイサ「当然です!久しぶりに、二人でパトロールですから!」
スズミ「レイサさん……」「……ですが!」「余りはしゃぐと、他の方にぶつかってしまいますよ!」
レイサ「あ……うぅ、ごめんなさい……」
スズミ「……ふふっ」
そんな私の目に、見覚えのある人影が写る。
スズミ「……!」
ハスミ「やはり、スズミさんでしたか」
スズミ「ハスミさん!に……そちらは確か、一年生の」
コハル「せ、正義実現委員会の……下江コハルよ……」
レイサ「トリニティ自警団のエース!宇沢レイサです!」「よろしくお願いしますっ!!」
コハル「ひゃあっ!?」
ハスミ「お久しぶりですね……今日は自警団として、パトロールでしょうか?」
レイサ「その通り!
スズミ「レ、レイサさん……!、そのあだ名は止めていただけると……」「ところで、お二人も見回りを……?」
ハスミ「はい、理由はそちらとほとんど一緒ですね」「毎年この時期だけは、デスクワークや外交業務から解放されています」「おかげで、かわいい後輩の我儘も叶えてあげられます……」
コハル「だ、だって……ハスミ先輩と一緒に活動できるのも……もうすぐ終っちゃうから……」
ハスミ「!………………」「……今ゲヘナに単独で殴り込みに行けば、もう一度三年生でいられるでしょうか……いえ!なんなら一年生に戻してもらえないでしょうか!」
コハル「ハ、ハスミ先輩!?」
スズミ「それは……、留年では済まないような……」
ハスミ「ところで、パトロールはこの区画全域でしょうか?」「もしよろしければ、少し共に行動しませんか?」
スズミ「構いません、よろしくお願いいたします」
コハル「え、えぇ……」
ハスミ「コハルもいずれ正義実現委員会の活動を通して、自警団の皆さんとも関わることになるかもしれません、今のうちに交流しておくのも必要ですよ?」
コハル「ハ、ハスミ先輩がそう言うなら……」
レイサ「よろしくお願いいたしますっ!!、コハルさんっ!」「大丈夫です!いざという時はこの自警団のエースたるこの私が、コハルさんをお守りいたします!」
コハル「ひゃぁうっ!」「――いちいち大きい声出さないでくれる!?」 「あと、自警団のアンタに心配されなくても大丈夫よ!」
ハスミ「最近は、自警団の活動を控えていると聞きます……」「……大丈夫でしょうか?、今まで習慣としていたことをいきなり取り除くのは心理的に何か負担があったり……?」
スズミ「ありがとうございます、ハスミさん……」「シャーレの先生からも同様のご心配をいただきまして、よく暇つぶしのアドバイスなどいただいています」「お忙しいでしょうに……私のために先生の方から時間を割いてくれるのは嬉しい反面、恐縮に思っています……」
ハスミ「珍しいですね、先生の方から連絡を送るのは」「……何か、あったのでしょうか?」
スズミ「それは……」
以前、お付き合いいただいたお出かけの時だ、結果的に先生を困らせ、自信を喪失させてしまった”あの相談”以来、先生に気を遣わせてしまっている。
でもどうしてか……素直に甘えたいという感情の方が強かった。これも最近気が付いたのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
話の夢中になる内、地面に石畳、左右に暖色の模様に包まれ、真っ直ぐ景色が伸びた美しい通りへ出た。
色、高さが揃えられた建物に街灯、窓や柱、柵の模様に至るまで規則的に配置され、道の真ん中から眺めると放射状に広がった街並みが心を掴んでいた。
その道沿い、花壇のような華やかさを加えていた、オープンカフェのパラソルが放つアクセントの近くで。
チンピラA「うおっと!」「――ッテェ!」
トリニティ生徒B「あいたっ!」
ありふれた火花が今日も散っていた。
チンピラB「おいおい!どこ見て歩いてんだぁ~?」
チンピラA「いってぇ~!、こりゃ病院行かないとだなぁ~?」
トリニティ生徒A「ちょっと、今わざとぶつかったでしょ!」「派手に転んだのも、演技でしょ!?」
チンピラC「なんだ因縁つけようってのか!?」
トリニティ生徒C「因縁つけてんのはそっちでしょ!」
チンピラB「ぶつかっといて謝りも無したぁいい度胸じゃねぇか!」
トリニティ生徒A「謝るのはそっちでしょうが!」
トリニティ生徒B「ちょ、ちょっと、やめようよ……」
ガジャッ!ジャギッ!
火花が次第に苛烈さを増し、黒鉄へと変貌する。
珍しい光景ではない、トリニティ……否、キヴォトスでは茶飯事の代名詞とも言える光景だ。
もちろんそれは、規律を守護する者がいるから、茶飯事という言葉で済ませられるのだが。
ハスミ「はぁ、……止めに入りましょうか」「行きましょう、コハル」
コハル「は、はい!」
スズミ「一応、私たちも加勢に――」
レイサ「うぉぉおおおおお!挑戦を申し込みまーす!」
スズミ「もう行ってますね……」
ここ最近、街頭で起きる騒動はこれくらいだ。
スズミ「(このくらいで済むようになったのであれば……、私の納得しきれていない感情など不要ですね……)」
――♪
そう思ったその刹那。落ち着いた白地に、劇物が撒き散らされる。
スズミ・ハスミ「?――」
聞いたことのある音楽だった。
特別知見があろうと無かろうと、一度は聞いたことがあるだろう旋律が、強制的に健全たる賑わいの様相に彩りを加え始めた。
ハスミ「こんな時間に、街頭スピーカーの使用許可を受託した覚えはありませんが……」「もしや不正利用でしょうか?あとで放送室の――」
カフェでくつろぐ生徒「新訳版お読みになられましたか?、価値観描写の――」
街を歩く生徒「?、……――っ!」
街灯傍で話し込む生徒「その時に、ジャージ取り違えっちゃったみたいでさ――」
カフェの列に並ぶ生徒「!…………」
集団の先頭を歩く生徒「やはり夏の虫には悟性は必――」
カフェのバイトをする生徒「――!…………」
スズミ「……………………?」
その音を耳に入れた者は、聞き流す者と、”自然とは言い難い反応”をしている者の、二種類に分かれていた。
チンピラA「…………」
チンピラB「ん、どうした?」
トリニティ生A「怖気づいたの?、ならさっさとどっか行きなさいよっ!」
チンピラC「あぁ!?誰がビビってるってぇ!?」
トリニティ生B「…………」
トリニティ生C「どうしたの?どこ見て――」
ドンッ!
トリニティ生C「うぁ!、え?――」
チンピラC「おいテメェどこ行く気だ!?話は終わっ――」
ドンッ!
チンピラC「――てぇ!、は?」「おい!お前までどこ行くんだよ!?」
トリニティ生A「ど、どうしたの……?」
トリニティ生B・チンピラA「………………………………」
銃を構えた生徒、それを制止した生徒、トラブルの風景を演じていた生徒達が突如として役を放棄し、道路の真ん中へと歩み始め。
「ん?、どうかした?――うぉ!」
「…………」
「……この音色、調律が少し可笑しくありませんか……?」
「そうかなぁ……――って!」
「なんか、あそこ集まってる」
「………………」
「出店の一覧情報が、一部解禁されてさー」
「…………」
「そっちのクラスの催し物、何にしたー?――わぁ!」
「……………………」
「ねえ?、話聞いてる?」
それに続くように一人一人、日常を演出する背景から抜け出し、同じ位置に集まった。
規則正しい円の配置、全員が真ん中へと視線を向け、その集まりを注目する者もまた、その視線の先を自然と追っていた。
様子の可笑しい生徒達「………………………………」
ハスミ「……何をして?――」
レイサ「どうして皆さん集合したのでしょう?」
コハル「な、なんか……怖い」
スズミ「(明らかに様子が可笑しい……)」「――何か、が……始まる?」
「…………………………うん、始めるね」
一斉に生徒達が振り向き――。
ダダダダダダダダダダダダダダッ!
周りの生徒が皆、違和感を覚えると同時に、平和で埋め尽くされた情景を焼き尽くす混乱の火蓋が、叩き落された!
不良を含め道を行き交っていた生徒十数名が、ほぼ同時に発砲を始め、それと同時に街を行き交う人の声を、全て悲鳴に塗り替えた。
ババババババ!ドガァン!ガシャアン!ダダダダッ!ドガァァアアアン!
混乱する生徒達「うわぁぁあ!いきなり何!?」「痛たたたっ!痛いって!なんで私を撃つの!?」「お、おい!落ち着けって!お前なんか変だぞ!?」
途切れることのない銃声と爆発音とが安穏の崩壊を肯定し、負けじと鼓膜をつんざく悲鳴の数が混乱の波紋を広げていった。
レイサ「え、え、急に何ですか!?」
コハル「な、なに、いきなり!?」「きゃっ!」
ハスミ「コハル!、私のうしろに!」
スズミ「皆さん!こちらへ!」
オープンカフェのテーブルを遮蔽物にして逃げ込む。
レイサ「と、突然どうしたのでしょうかっ!?」
ハスミ「恐らくテロかと考えます」「生徒達の射線、目標が無いように見えるんです」
スズミが少し顔を覗かせる。
ダダダダダダダダダダダダダダッ!
暴れる生徒達は皆、どこか一点ではなく、全方向の建物や生徒をガムシャラに撃っていた。
スズミ「確かに、近くの建物や生徒を矢継ぎ早に撃っていますね……」
コハル「何が目的なのよ……、もしかして……」「もうすぐ謝肉祭だから?」
ハスミ「可能性としては大いにあり得ますね」「……こんな時に、わざわざ事件を起こすだなんて……、まさかゲヘナが!?」
レイサ「えぇ!?、ゲヘナの攻撃なんですか!?」
スズミ「そ、それはわかりません、ですが!」「今は状況の鎮圧が最優先と考えます!」
レイサ「――!、はい!」「宇沢レイサ、いつでも行けます!!」
コハル「あ、あの数を相手にするの!?」
ハスミ「スズミさんに同意です」「これ以上の被害拡大を正義実現委員会として放ってはおけません!」「私も後方から援護します、……些か、久しぶりの共闘ですね」
スズミ「懐かしいですね、何時かはユウカさんとチナツさんも一緒でしたが」「今は頼れる後輩お二人に、その役を代わっていただきましょう!」
レイサ「はい!、自警団のカリスマに、おまかせくださいっ!」
コハル「た、頼りにだなんて……、そんな言葉で拐かそうだなんて意味ないんだから!」
スズミ「いえ、そのようなつもりは……」
ハスミ「スズミさんの仰る通りです、コハルは頼もしい後輩ですよ」
コハル「え?、そ、そうですか……?、えぅ……えへへ……」
スズミ「私が攪乱します、レイサさんは好きに動いて下さい」「先ほどから”銃声の位置が変わっている”ように聞こえます、近い所から各個撃破と行きましょう」
レイサ「いつものですね!了解です!」
ハスミ「私は後方から狙撃で援護を」「コハル、あなたは負傷者の保護と、可能な限りの手当てをお願いします」
コハル「て、手当て!?私……実戦ではやったことが……」
ハスミ「先生が、”コハルは手当ての才能がある”と仰っていましたよ」「それに安心してください、あなたの元に寄る敵は私が阻止します!」
コハル「先生……、ハスミ先輩……!」「は、はい!」
スズミ「――行きましょう!」
ガガッ!ダン!チュゥンッ!、………………。
こちらに着弾していた弾が途絶えた、出るなら今だ。
スズミ・ハスミ・コハル「――――っ!」
レイサ「うぉぉぉおおおお!行きますよぉー!」
レイサが突撃する、スズミはすぐさま相手の注意を逸らすために援護を――。
スズミ・レイサ「――っ!」
スズミとレイサがまず驚いたのは、暴れている生徒の陣形だった。
無造作でバラバラに掃射しているのかと思いきや、三、四人が背中合わせに纏まって死角を消し去りながら全方位の敵に警戒していた。
暴走でも、籠城でもない、――制圧戦の戦い方をしていた。
スズミは疑問を浮かべずにいられなかった。
――なぜ連携が取れている?
あの中にはさっきまで小競り合いをしていた生徒とチンピラも混ざっていて、今はお互いに背中を守り合っている……。
演技だったのだろうか?、自然風景に溶け込みながら不意を突く作戦だった?
――では、街頭でその戦法をする意味は?
建物の中ならいざ知らず、こんな開けた場所でそんな陣形を取ったところですぐに外側からの増援に包囲されて逆に制圧されて終わりだ。
戦車などの大型兵器があるのならまだしも、少人数が真ん中に陣取ったところで何の戦術的効果もない。そんなので勝てるのは映画の中だけだ。
暴れること以外の目的は――?
暴れる生徒達「――!」
スズミ「――っ!(一斉にこちらを見た!?)」
暴れる生徒達たちは防御陣形を解除、集合し、屈んで前列五人、起立した後列六人の一斉射撃体勢を取った。
一番近い生徒だけが気づいた瞬間、一番遠い生徒も同時に気づいたように見えた。
――最たる疑問。
なぜこの人たちは、何も言わないどころか目くばせも、ボディランゲージも無し、一切のコミュニケーションを排斥しながらここまでの連携が取れるのか!?
レイサ「え、急にこっち向いたぁ!?」
スズミ「――っ!、レイサさん――」
すでに突撃態勢だったレイサが一驚を喫した。
このままでは集中砲火を食らう、丈夫さが取り柄の彼女でもひとたまりないだろう。
スズミはすかさず、懐から一時的な解決策を取り出し、暴れる生徒達めがけて投擲した。
暴れる生徒達「――閃光弾!」
レイサ「――っ!」
レイサは反射的に目を閉じ、銃で影を作り、口を開けた。
スズミとの共闘で自然と閃光弾への対処が身についていたのだ。
バンッッ!!キイイイイィィィィィン――。
スズミがレイサを抱えて、向かい側の建物の柱まで引っ張る。
最初に隙をついて前列の戦力を削ぎ、戦線を確保する作戦が、初手から崩された。
スズミ「……大丈夫ですか!?」
レイサ「はい!ちょっとチカチカしますけど!」「助けていただきありがとうございますっ!」
スズミ「相手があそこまでの手練れとは……、申し訳ございません、私の想定が甘かったです……」
レイサ「スズミさんのせいじゃないですよ!、私が油断したのが悪いんです!」「さあ!反撃と行きましょうっ!」
スズミ「いえ、待ってください」
レイサ「え、どうしてですかっ!?」
スズミ「今出ても、良い的になるだけです」「……チャンスを待ちます」
スズミは必要以上に慎重だった、敵に対して違和感の数が、今まで経験したどの戦闘よりも多いからだ。
そこへ更に、加わえられた”強烈な違和感”が、スズミの警戒心を助長させる。
”暴れる生徒達「――閃光弾!」”
スズミ「(私が閃光弾を投擲した時、……全員同時に閃光弾って叫んでいたような?)」「(まるで一人の声のように揃って……)」
レイサ「ス、スズミさんっ……!」「囲まれちゃいます……!」
スズミ「――っ!、まだです……、恐らくもうすぐ……」
暴れる生徒達が、レイサとスズミの隠れた柱に近づいてくる。
このままじゃ袋の鼠――。
カゥンッ!
暴れる生徒「――、ガっ!」
ダァン……!
着弾の音の後に、銃声が響く。――ハスミの長距離狙撃だ。
暴れる生徒達「――!」
ダダダダダダダ!
銃口が一斉に狙撃地点へと向かう、だが十分距離を空けていたハスミに、当たる弾はなかった。
暴れる生徒達「くそ!」
スズミ「――今です!、レイサさん!」
レイサ「うぉぉおおおおりゃぁぁああああっ!」
ガギィン!ドォンッ!
暴れる生徒「な!、ぐぁ!――」
レイサが柱の傍にいた暴れる生徒の銃口を蹴り上げ発砲、鎮圧する。
今度はレイサに銃口が向けられて――。
ババババババッ!
暴れる生徒「うわ!――」
スズミ「私をお忘れですか!」「(――余計な考えは一度、捨てる!)」
スズミが後発で援護する、ここからはアドリブだ。
場数を踏んだ者だけに許される、突発のセッションが始まる。
バスッ!バスッ!ダダァン!ドォン!ババババババッ!バァン!
ドォン!
暴れる生徒「ぐぅ!」
ガシッ――!
暴れる生徒「――うぇ!?」
レイサ「ごめんな――さいっ!」
ブォンッ!ドサァッ!
暴れる生徒達「――がぁっ!」
レイサ「スズミさん!」
スズミ「――はい!」
バンッッ!!キイイイイィィィィィン――。
レイサがショットガンで怯ませた生徒を別の生徒に投げつけ、スズミがまとめて閃光弾で無力化。
暴れる生徒「くぅ!――」
ダダダダッ!カゥンッ!
暴れる生徒「――っ!?、……」
加えてハスミとスズミの正確な射撃がみるみる相手の数を減らしていき――。
レイサ「あなたで最後です!」
暴れる生徒「っ!……」
――とうとう、最後の1人になった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
生徒一斉の暴走による混乱が始まって既に十数分、突如として燃え上がった炎は既に、消え入る蝋燭の火の如く消沈しかけていた。
レイサ「随分好き勝手暴れましたね!」「覚悟してください!」
レイサは興奮していた。一刻も早く最後の生徒を倒す、と。
――だが。
スズミ「――待ってください!」
レイサ「え!?」
スズミはそれを制止した。
このまま倒すことは容易にできるだろう、だが……今回の騒動は”それだけ”では解決しない気がしていたのだ。
自警団は捜査機関ではない、武力的脅威が現れたら同じく武力で対処する。いわば対症療法であり原因を根絶することはしない。
しかしそれは、”活動の自粛という手段を取る前”までの話だ。
偶然か必然か、原因を究明したうえで発案した対処方法が良い結果を残した。という経験から、スズミの中で問題解決の価値観に変化が起きていたのだ。
スズミの無意識の判断が警鐘を鳴らす。「こいつらの正体を探れ、不気味な違和感の正体を暴け」と。
――そうしないと、また望まない選択を強いられることになると。
スズミ「銃を下ろして投降してください!」「目的は知りませんが、もう勝ち目はありませんよっ!」
暴れる生徒「……目的?」「まだまだ……、計画はこれからですよ」
レイサ「しゃ、喋った……!」
スズミ「計画?……」「何者なのですか!?、あなた達は!」
ハッとした表情を見せて来る、自分自身が何のためにこのような事件を起こしたのか、今知らされたかのような顔だった。
暴れる生徒「そうでした……、名乗っていませんでしたね……!」
スズミ「投降しないのなら撃ちますよ!」
暴れる生徒「ハァァアッ!――」
スズミ「――!」「まだ抵抗を……!?」
レイサ「スズミさん、離れてくださいっ!」
ドォォオオオオオッ!!
爆発のようだった。見えずとも見える迫力が全身から噴き出て、見る者全員に危機感を強制していた。
――分からない、何なのだこいつらは。皆そう思った。
暴れる生徒「…………前哨戦は終わり……本番にしましょうか」「――スズミさん」
スズミ「!?――(私の名前を……!)」
暴れる生徒「我らは『フールズ・メイト』!」「トリニティを陥落せし集い!」「この一撃は!来たる復活の時のために!」
ガジャッ!
銃をこちらに向ける。
――”当たってはいけない”と、本能が叫んだ。
――そしてその恐怖が、スズミの足を一瞬、固めた。
レイサ「――危ないっ!」
ドンッ!
スズミ「――っうぁ!」
ドギィゥン!
殺意の一筆書きがレイサに命中、後方の建物へ吸い込まれていくように吹っ飛んだ。
ドガシャァアアアン!
逸れた弾丸が建物に命中、その轟音が周りの建物のガラスが軒並み粉砕した。
――着弾個所は、砂の城を殴ったかのように、原型を破壊痕が上書きしていた。
レイサ「――――――」
スズミ「――レイサさんっ!!」
暴れる生徒「やはり弱くなりましたか?、スズミさん……?」「……今のくらい、避けられていましたよね?」
スズミ「――っ!?、私の事を……!」
暴れる生徒「驚くことも無いでしょう?」「”トリニティの走る閃光弾”さん――」
スズミ「……、――このっ!」
ババババババッ!
振り向くと同時に射撃、だが撃った時には――懐まで接近していた。
スズミ「!?」
暴れる生徒「遅くもなってる……」
ガァンッ!ギッ……ギギ!
銃同士で鍔迫り合う。
スズミ「何の……!、目的が……!」
暴れる生徒「――それはもう、言ったでしょうがっ!」
ドゴッ!ザァッ!
スズミ「ぐッ!」
暴れる生徒「力も落ちてる!」
ジャギッ!
銃口が今度こそスズミを捉え――。
カゥンッ!ドギィ――ドガァァアアアン!ダァン…………!
暴れる生徒「――チィッ!」
ハスミの狙撃がその銃口を逸らし、放たれた弾丸は近くの路面を抉った。
スズミ「ハスミさん――!」
暴れる生徒「狙撃手っ!」「今なら、届きますよっ!」
ジャギッ!
暴れる生徒は、再びハスミの方に銃口を向けた。
ハスミ「――!」
スズミ「させません!――」
バンッッ!!キイイイイィィィィィン――。
暴れる生徒「――ぐぅっ!」
閃光弾を叩きつけるように投擲、ハスミに向けられた銃口を逸らした。
――銃口の先は。
ドギィゥン!ドガシャァアアアン!ガラガラガラッ!ダダーンッ!
ハスミ「――っ!、コハル!」
コハル「きゃあっ!」
ハスミのすぐそばの建物上部に命中。
――コハルの元に瓦礫が降り注ぐ。
コハル「うぅ……何なの、急に強くなった……?」「――ハスミ先輩っ!?」
ハスミ「コハル……、無事ですか……!」
コハル「うそ――、ハスミ先輩っ!!」
ハスミはコハルを庇って、瓦礫の下敷きになっていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その規則性が保証していた、美しい街並みが崩れていく。
正しく、戦場。景色は華やかさや活気とは真逆のテクスチャに塗り替えられていった。
ドギィゥン!ババババババッ!
瓦礫、砂塵、破片、――薬莢、平和の対義語に囲まれながら、二種類の銃声が熾烈を極めていた。
暴れる生徒「小賢しいですねっ!」
ドギィゥン!ドギィゥン!ドゴォオオオオオオン!
スズミ「――っ!」「ハァ…………、ハァっ!……」
スズミは避けるので精一杯だった。隠れても意味は無い。遮蔽物など、弾丸の形を変えるだけだからだ。
スズミ「(それでも好機は必ず来る、狙うべきは――
ドギィゥン!ガチャンッ――!
暴れる生徒「!……」
スズミ「(――今ッ!)」「――――――っ!?」
銃のサイト越しにスズミが目にしたのは、正しく理不尽の具現。誰もが従う法則への挑発であり背信。
銃が現れた、中空からおぼろげに光る半透明の――二丁目を手にしていた。
スズミ「(――どこから!?)」
ババババ――ドギィゥン!
一心不乱に目指したチャンスが、スズミに牙を剥き、抵抗の意思諸共に吹き飛ばした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
コハル「――しょっ……、ふん!んん!」
ハスミ「コハル!、私は大丈夫です……ふん!」「あなたは退避を!――」
コハル「待っててください……今、助けます……から……!」「ふん!……ぐッ!」
ズズズズ……。
僅かにできた隙間からハスミが這い出る。だがこれ以上の戦闘は難しいだろう。
ハスミ「……助かりました、私は、あの生徒を食い止めます!」「あなたは急ぎ、怪我人を連れて安全圏へ……!」
コハル「はぁ……、はぁ……」「い、……嫌です!」
ハスミ「コハル!……これは、……命令ですっ!」「――ぐぅっ!」
コハル「町の平和を乱した挙句……ハスミ先輩までこんな目に合わして……!」「――絶対に許さないんだからっ!」
ハスミ「コハル!?」「待ちなさい!」
スズミ「うぅ…………!」
直撃は免れた。
だが、掠っただけなのに、自身と衝突した柱だった残骸に身を預ることになった。
暴れる生徒「動かない方が良いかと……」「……本当に惜しいですね」
トリニティ自警団員A「と、トリニティ自警団です!……武器を、降ろして!」「……ええっと」
暴れる生徒「やっと来ましたか……」「以前に比べて、遅すぎ、そうは思いません?」
その蔑視に気づくこともなく、この生徒の恐ろしさに気が付かない団員が近づいてくる。
トリニティ自警団員A「え!なんかすごい事になってる!?」
トリニティ自警団員B「急いで、避難誘導……援護したほうが良いのかな……?」
トリニティ自警団員C「……あれスズミさんじゃない、やば!早く助けないと!」
暴れる生徒「集まってきましたか……」
スズミ「――!、離れてください!」「危険です!――」
ジャギッ!
後方へ銃口を向ける。駆けつけた自警団員のいる方向だ。
トリニティ自警団員A・B・C「――!」
スズミ「やめ――」
ドギィゥン!ドギィゥン!ドギィゥン!
トリニティ自警団員「うわっ!――」
ドガシャァアアアン!
悲鳴も爆音にかき消される。
スズミ「……っ……、よくも……!」
暴れる生徒「困りますよ……こんなの……!」「止めてくれる人がいないじゃないっ!」
スズミ「――何を言って…………?」
ジャギッ!
暴れる生徒「っ……………………」
スズミ「……………………っ!」
トドメの一撃が、放た――。
コハル「――そこまでよっ!」
暴れる生徒・スズミ「!――」
後ろから迫力不足の怒声が響く。
暴れる生徒「……?」
コハル「こ、こんなに滅茶苦茶にして……、あんたタダで済むと思ってんの!?」
スズミ「コハル……さん……?」
暴れる生徒「……うるさいですよ、臆病者さん」
たった一人、瓦礫を踏みつけ、咆えていた。
今にも消えてしまいそうな勇気を、自らの声にしがみつきながら、立ち向かっていた。
コハル「こ、怖くなんてないわよっ!」
暴れる生徒「膝、震えてますけど?」
コハル「――っ、震えてなんかないっ!」
スズミ「に、逃げてください……!」
コハル「絶対に逃げないっ!」
スズミ「!――」
実際、コハルは恐怖していた。背中を追うことしか出来ないくらい頼りになる味方は、殆どが戦闘不能、それもこの一人によって。
勝てる想像などできない。自分が無事でいる未来も見えない。
だが、逃げ出すという選択肢はあり得なかった。
――なぜなら。
コハル「――正義実現委員会の理念は治安維持のために、違反行為を許さない事!」「怖くても、勝てないって分かっていても!」「尻尾巻いて逃げ出すなんて、ありえないんだからっ――!」
暴れる生徒「犬が……!、振りかざした所で……」「――意味無いんですよそんな度胸っ!」
ジャギッ!
照準が容赦なくコハルに向けられ――。
ドギィゥン!
コハル「!――」
バッ!――――。
凶弾がコハルに命中――しなかった。弾丸が空中で逸れ――否、コハルが移動した。
――本人も気づかない速さで、黒い残像によって躱された。
ドガシャァアアアン!
暴れる生徒「なに?――」
ドォォォオオオ……ザッ。
土煙の中で人影が立ち上がる、コハルを抱えた、”茨のような翼を持つ少女”のシルエット。
ガチャッ!
?「コハル……、よく言った……」「それでこそ、正義実現委員会だ……!」
スズミ「あの方は……!」
コハル「あ……」
ハスミ「はぁ……、遅いですよ!」
ハスミが叫ぶ、やっと来た形勢逆転の擬人化に向かって。
ハスミ「――ツルギっ!」
煙が晴れると、黒の長髪、赤く汚れた黒い制服、二丁の散弾銃が姿を現す。
彼女こそトリニティの平和の象徴にして、『トリニティの戦略兵器』のエンブレムを保持する者。
ツルギ「キヒッ!」
正義実現委員会会長にして最大戦力、剣先ツルギ――現着。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
空気が一変した。食物連鎖の王者がすり替わったのだ。
もう絶望の空気はお役御免だ。
暴れる生徒「剣先ツルギ……!」
ツルギ「キヒヒ……!」「ギィヤハハハァッッ!!」
その笑い声はまさに獲物を前に猛る猛禽類の喝采。
万夫不当の正義の味方に、恐れ戦くがいい。
暴れる生徒「――っ!」
ジャギッ!
恐怖から鳥肌が立つのと同時に、反射的に銃口を向ける。
ドォゥッ!
ツルギの姿が消える。
暴れる生徒「!?――、な」
上へ跳んだのだ。最大到達点に照準。
ドギィゥン!
空中では、蹴る地面や壁はない、ましてや銃弾を避ける手段は――。
バシィィンッ!!
暴れる生徒「なにっ!――」
鞭を打つような破裂音と共に、ツルギの身体が空中で弾けるように移動した。
ツルギの長く、そして鋭い翼が、しなやかかつ俊敏に動かすことで、空気を蹴ったのだ。
弾丸は外れ、明後日の方向に飛んで行った。
ツルギ「ぎひひ……」「――行くゾォッ!!」
ツルギが着地までに、その音は2回鳴った。
1回目の音は今の回避のため、そして2回目の音は……。
バシィィンッ!!
暴れる生徒「っ!?早――」
彼我の距離を0にするための音だった。
ツルギ「キシャアアアアッッ!!」
ズドォォォオオオオン――!
砲弾が地面を穿つようだった。轟音が地面を揺らし、砂煙が舞う。
最高戦力の出陣に打ってつけの狼煙、――開戦の合図だ。
――と、思ったが。
ツルギ「キシャァァァ……、――あ?」
トリニティ生B「…………、キュウ…………」
煙が晴れると暴走する生徒は地に伏し、気を失っていた。
あっけない決着である。
ツルギ「………………」「……、もう終わりか…………」
スズミ「すごい……」
ツルギ「?…………」「……、あんたは……」
ツルギがスズミの元に寄り、瓦礫から起こす。
スズミ「ありがとうございます……ツルギさん……」
ツルギ「…………風邪か?」
スズミ「――え?」「いえ、風邪は引いていませんが……」
ツルギ「そうか……」「…………」
スズミ「な、なぜ……そう思ったのでしょうか……?」
ツルギ「…………いや」「……いつもこれぐらいだったら、もう倒していただろう?」
スズミ「っ!」「…………」
ツルギの目は軽蔑では無く、純粋な疑問を表していた。
正義実現委員会もまた、トリニティの平和を妨げる悪を挫く組織。
特別名が馳せている者の活躍は目を向けていたりする。
――もちろん、
まあ、それとは別で
スズミ「私は……!」
ツルギ「――っ!、悪い、急用だ……!」「コハル、ハスミを頼む」
コハル「は、はい!」
ドォゥッ!
急にあらぬ方向へ顔を向けたツルギが、驚いた様子でその場から去った。
スズミ「…………?」「――っ!、レイサさんは……」
コハル「待ってて!今、瓦礫をどかすから――」
ヒュゥゥゥゥ……ドゴオオオォォォン――!
スズミ「――!?」「何かが降って――」
コハル「きゃぁ!」「今度は何よ!?」
二人の傍に、また衝撃と轟音と共に、砂煙が舞った。
その正体は、青色の髪に同じく青色の大きな翼を有した――。
ミネ「要救護者発見!」「救護を開始します!」
――”ツルギが足早に去った理由”が到着した音だった。
コハル「救護騎士団……!」「こ、こっちに怪我人が……でも瓦礫――」
ミネ「失礼」「ハァッ!」
ドゴォオオオオオオン!
数百キロはあるだろう瓦礫の山が吹き飛ぶ。
コハル「………………」
スズミ「相変わらずですね……、ミネ団長……」
レイサ「………………うーん、ス……ズミ……さん?」
スズミ「レイサさんっ!」「ご無事で――」
ミネ「脈拍、呼吸確認」「ですが、急ぎ処置が必要です!」「――それにあなたも!」
ガシッ!ガシッ!
レイサ「――へ?」
スズミ「わ、私は――」
ドゥッ!
救護騎士団長の蒼森ミネがものすごい勢いでレイサとスズミを抱え、飛んで行った――。
レイサ・スズミ「うわあああぁぁぁぁぁぁ!………………」
コハル「…………」「……、なんだったの…………?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
戦跡となった通りは、再び人で溢れていた。
もちろん、親しい者との交流や、カフェなどの商用施設を利用するために訪れているわけではない。
ミネ「負傷者を急いで運び出してください――!」「瓦礫の撤去が必要な場合は私が――!」
負傷したトリニティ生「いたた……」
救護騎士団員「大丈夫ですか!今担架を――」
野次馬にきた生徒A「やっばー……、建物半分くらい無くなってるじゃん……」
野次馬にきた生徒B「なんか一斉に暴れだしたんだってー、テロかな!」
野次馬にきた生徒C「運ばれてるのがテロリスト?」
正義実現委員会「離れてください!撮影もやめてください!」「車両が入りますので、道を開けてくださーい!」
――平和な日常とは、反対の騒がしさで溢れていた。
セリナ「ハスミさん!、あなたも救護を――」
ハスミ「あ、ありがとうございます。私は現場指示がありますので後ほど……」
セリナ「せ、せめて応急手当だけでも……」「ツルギ委員長はどうしたのですか?」
ハスミ「ツルギは今、二次被害防止のために動いてます……」
戦闘のあった通り沿いの建物内部。
いくつもの風穴が空き、壁や天井の敷居などは既に意味を成していなかった。
当然、内部は避難が完了しているためもぬけの殻だ。
不良生徒A「おいおい、大惨事だなぁ……」「……今なら何とってもバレねぇぞ」
不良生徒B「大丈夫かよ……、正義実現委員会すぐそこにいんぞ……」
不良生徒A「あっちで忙しいって!」「こんな崩れかけのとこまで来やぁ……しな……」
振り向いて答えた不良生徒の顔が青ざめる。裏に何かいる。
不良生徒B「……?」「どうし……た……」
ツルギ「ギヒヒ……」
不良生徒B「…………あ」
ツルギ「ギヒャァァアアアアア!」
不良生徒A・B「ウワアアアアアアアアアア!?」
ハスミ「そ、それよりもスズミさんと、レイサさんはっ!」
セリナ「お二人ならご安心を、命に別状はありません。意識も先ほど回復しました」「しばらくベッドで安静です」
スズミ「………………レイサさん、具合の方は……?」
レイサ「むごごご……!」「むご!むごご!……」
スズミ「…………大丈夫そう……ですね……?」
レイサ「むー!」
ミネ現着後、わずか5秒足らずで救護されたスズミとレイサは、既に治療を受け、ベッドに繋ぎ止められていた。
なおレイサの方は傷が深かった分、包帯ぐるぐる巻きにされている。
救護騎士団員「こっち!――副木と包帯もってきて!」
コハル「わ、わたしも手伝う!」
救護騎士団員「ありがとう!、これお願い!」
救護騎士団と共に救助、手当を手伝うコハルの背後に、凄まじい視線を向ける者が――。
ミネ「……(ジー)」
コハル「……っ!、え!?」「あの……な、なに?……」
ミネ「私たちが来る前から、既に負傷者に救護を施していたようですね……」「……それに処置も正確でした」
コハル「は、はあ……」「……辛そうだったし……できることはした方が……」
ガシィ!
ミネがコハルの手を取る。
コハル「ひゃうぅっ!?」
ミネ「あなた!救護騎士団に入りませんか!?」「いえ!、入団すべきです!!」
コハル「へぇっ!?」
ミネ「判断速度に対応能力、共に素晴らしい救護能力ですっ!」「是非その力を救護の必要な方たちへ――」
コハル「そ、そんなこと言われてもぉっ!」
ハスミ「――ミ、ネ、団、長、っ!!!」
ミネ「ハスミさん!お疲れ様です、あなたも救護を――」
ハスミ「結構です!」「それよりも、ウチの部員を勧誘するのはお止めいただきましょうか!」「ましてや私の目の前でコハルを引き抜こうとはっ!!」
ミネ「コハルさんがどこに所属するかなんて、あなたには関係のない話です!」
ハスミ「副委員長の私に関係ないわけないでしょう!」「コハルは未来永劫正義実現委員会と決まっています!」
ミネ「コハルさんの能力は救護のために使うべきです!――」
ハスミ「コハルは正義のために存在しているのです!――」
コハル「ワ……ワワ……」
ミネ「見なさい!コハルさんが怯えてしまっています!」
ハスミ「――あなたが原因でしょうっ!」
コハル「そ、そもそも私、今は補習授業部所属……」「…………?」
ハスミとミネの喧騒とは別に、言い争う声がコハルの耳に入った。
救護騎士団員「すみません!通ります!」
トリニティ生徒A「ねぇ!なんかの間違いだって!……」「こんな事進んでする子じゃない!」
トリニティ生徒C「本当!急に様子がおかしくなっただけで!……」「こんな事普段は絶対にしないの!」
正義実現委員会員「こ、ここまでの損害を出した以上、一度身柄を拘留しなければなりません!……」「なにもなかったら、すぐに釈放されますから!……多分」
トリニティ生徒A「た、多分って!……」
二人が必死に楯突くのは、純粋に友達を守りたいからである。
トリニティにおいて波風を立てることは”私をイジメのターゲットにしてください”、そう言ってるのと変わらない。
ましてや二人は今、搬送されつつある友達が、ただ一方的に敵意をぶつけるような野蛮な心は持っていないことを知り、悪辣な暇つぶしの餌食にされようものなら、二度と立ち直れないだろう繊細さをよく理解していた。
――だが周りはそれを信じてくれないだろう。そんな背景はどうでもいいのだから。
既に大衆の目に触れ、謂れのない噂までもが蠢き出す。
今ここで潔白を保証してもらわないと、友達のこれからの学生生活が危ぶまれると二人は焦っていたのだ。
トリニティ生徒A「もし無罪って分かったときにはSNSで拡散されてて、あることないことヒドイ事言われたりしたら、責任とってくれるの!?」
トリニティ生徒C「それどころか、そういう噂を元にイジメられるかもしれないんだよっ!?」
正義実現委員会員「そ、そうは言っても――」
コハル「――そ、そんなことさせないっ!」
トリニティ生徒A・C「――!」
トリニティ生徒A「な、何……?」「あんたも疑ってるのっ!?」「あの子の事何も知らないクセに!」
コハル「た、確かに知らないわよ……でも……」「――私だって信じたいからっ!、その友達がそういうことしないって!」「だから、ちゃんと証明しなきゃダメなのっ!」
トリニティ生徒B「でも、事実は関係なしにあの子が標的にされるかも――」
コハルは”そうなった人”を見たことがある――そして助けたことも。
コハル「だから!そんなことさせないって言ってるの!」
トリニティ生徒A・C「!…………」
コハル「そんなのことするやつがいたら絶対!」「――私が許さなさいっ!!」
トリニティ生徒A・C「…………」
その経験を通じて、疑いようのない彼女の正義は更に磨き上げられていた。
今の言葉はこちらの気休めの為じゃない……、本人の信念をかけた深刻な宣言だと、二人は無意識に理解した。
コハル「お願いだから……」「信じてほしいの……」
トリニティ生徒A「わ、わかった……、あなたがそう言うのなら……」
トリニティ生徒C「……し、信じるからねっ!」
野次馬にきた生徒D「なにあそこ?なんか揉めてない?」
野次馬にきた生徒E「あの二人も犯人なんでしょ!」
コハル「あんた達!いい加減どっか行かないと、公務執行妨害で逮捕するわよっ!」
野次馬にきた生徒「っ!――――」
その声は弱くなんかない、真に強い者だけが放てる”重み”があった。
誰も嗤わず、怪訝な反応も示す事なく、野次馬達が立ち去っていく。
二人はコハルが闇を散らす様なその姿に、威光すら感じいた。
そして――。
ハスミ「ふっ…………!」
ミネ「くっ!…………」
そんなコハルの裏で、ハスミはミネに今世紀最大のドヤ顔をかましていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
正義実現委員会取調室A。
ツルギ「………………」
チンピラA「……な、なあ?なんなんだよぉ?」「さっきから黙ってよぉ……、なんか言えよぉ……」
ツルギ「キヒャ!」
チンピラA「き、きひゃ?」
ツルギ「キィエエエエエエエエエエ!!!!」
チンピラA「ウ、ウワアアアアアアアアアア!!」
バタンッ!
取調室からツルギが出てくる。
容疑者の搬送が終わり、今回の生徒が一斉に暴走した事件について正義実現委員会による取り調べが開始された。
先ほどの騒動で、正義実現委員会1名、トリニティ自警団員5名、トリニティ一般生徒47名が重軽傷を負った。
道路はおよそ200mにおよび、ヒビや陥没などの損傷。道沿いの建物はアパートメント1棟が全壊、その左右に隣接する建物も2棟が半壊、更に道の両側に点在するガラス類は窓ガラスを含めて殆どが破損など、他にもキリがないほどに被害を被った。
ここまで好き勝手暴れ、かつ目撃証人も多数、そのうちの一人は正義実現委員会の副委員長だ。
全員、無罪で済む訳はない。では、いかな理由でこんな凶行に及んだのか。
――ムシャクシャしてたから?、面白そうだったから?
――想像した答えが現実に反映されることは無かった。
ツルギ「こいつも同じだ」「街中で音楽を聴いたら、意識がなくなって気が付いたら捕まっていた……と」「暴れていた時の事は、もちろん覚えていない」
正義実現委員会員「(え、そんな会話してたっけ……?)」
ハスミ「一緒に暴れていた生徒との接点は?」
ツルギ「それもない」
ハスミ「嘘をついている可能性も……」
ツルギ「お前も取調の様子を見ただろう」「今のが演技なら、受賞ものだ」
ハスミ「……」
取調室B。
マシロ「この写真の中から存じている方を教えてください」
並べられた写真は、現場にて暴れていた生徒、それに応戦した正義実現委員会と自警団員の顔写真だった。
生徒B「この人と、この人……確か正義実現委員会の……委員長と副委員長ですよね?、前に見たことある…………」「あとは……、わからないです……あ!この人、記憶が無くなる前に私とぶつかって……」
マシロ「このお二人はどうでしょう?」
スズミとレイサの写真を指差す。
トリニティ生徒B「わ、わかりません……この人たちも捕まっているんですか?……」
マシロ「(スズミさんや、レイサさんの事は覚えていない……?)」「このお二人は、真っ先にあなたたちを止めるのに協力いただいた、トリニティ自警団の方たちです」
トリニティ生徒B「そうなんですね……って、えっ!?」「じゃ、じゃあ私……この人たちと……、戦ったんですか……!?」
マシロ「(嘘をついているようには見えませんね……)」「……何も覚えていませんか?」「これらの写真に見覚えは?」
事件の現場写真、ついさっきまで自分が歩いていたとは思えない景色が写されていた。
トリニティ生徒B「こ、これ……さっきまでいた……カフェの看板……」「……、私がやったんですか?……」「お二人は無事なんですか?……わ、私の友達は……!」
マシロ「落ち着いてください。二人は救護室に運ばれたと聞きましたが、既に意識を取り戻してるそうですよ」「お友達も軽傷を負っただけ、と聞いています」
トリニティ生徒B「わ、私……なんてことを……」
マシロ「(報告ではこの人が最後まで暴れていた生徒……、先輩から聞いていた印象とはまるで違いますね)」「……トリニティでの生活に、何か不満などはありませんか?」
トリニティ生徒B「え……不満って、今聞かれても……」
マシロ「”トリニティを滅茶苦茶に壊したい!”って思ったことは?」
トリニティ生徒B「あ、あるわけないじゃないですかっ!」
容疑者19名は皆、取り調べに対し、全員が同じような回答と反応をした。
正義実現委員会部室。
ハスミ「些か……、分からないことだらけですね」
イチカ「皆さん、音楽を聴いた途端に記憶を無くしている」「――人を乗っ取る音楽、と言ったところっすかね?」
ハスミ「あの時、私やコハルも例の音楽を耳にしています。被害にあった生徒も同様、暴走を起こした生徒のすぐ近くにいた人たちばかりです」「現場にいた暴れた生徒と、そうでない者たちの違い……あれだけの連度と戦闘力……それが気絶後は、まるで人が変わったように……」
イチカ「一応、被害者にも聞き込んでみたんすけど……」
少し前、病室。
チンピラB「なあ、あいつ……どうなった?どうしちまったんだよ……」
チンピラC「あいつ短気だけど……さっきのは……、なんか違ったよな?」
イチカ「――みたいな?」「まあ、”あいつならやりかねない”って声もあったりしましたが……」
ハスミ「容疑者同士の面識もあったり無かったりと、規則性も全く分かりませんね……」
イチカ「本当はただの集団ヒステリックとかじゃないんすか?」「それか謝肉祭も近いんで、調子乗ったらこんな事になっちゃって、”記憶なくしたフリでやり過ごそう”的な」
ハスミ「それにしては意見が揃いすぎです」「仮に全てが演技だったとして……、そこまで準備するメリットと、そもそもの犯行の目的が分かりません」
イチカ「それもそうっすね……」「他の方に所感伺ってみます?、スズミさんも交戦したんすよね?」
ハスミ「それでしたら……」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
少し前、スズミの病床にて。
――「我らは『フールズ・メイト』!」「トリニティを陥落せし集い!」
スズミ「……あなたは、結局、何者だったんですか……?」
ハスミ「スズミさん」「お疲れ様です、お怪我の具合はいかがでしょうか?」
スズミ「!、私の方は大丈夫です……それよりも」「……先ほどの事件、ハスミさんはどう思われますか?」
ハスミ「ただの、”生徒が暴走した事件”だけでは収まらない気がする……としか……」
スズミ「暴れだした生徒達は全員、予め高度な訓練を受けていないとできないような連携を取っていました……」
ハスミ「ええ……遠目から把握しましたが、全員無駄のない動きでした……、何というか”行進”のような……」「しかし当人たちが集団で行動していた様子がなく、それどころか……」
スズミ「ついさっきまで道端で口論をしていましたね……、それも演技とは思えない様子で……」「でも、あの音楽が流れた後、突然に……」「ハスミさんは気づきましたか?、私が閃光弾を投擲した際に全員が一斉に”閃光弾”と叫んだんです。僅かな時間差もなく」
ハスミ「そ、そんな……!」
スズミ「とても嫌な予感がします……、うまく言えませんがその……」「”エデン条約”や”空が赤くなったの時”のような……」
ハスミ「――!」「……私も同意です」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ハスミ「(スズミさんの仰っていた通り、この事件……恐らくまだ解決していない)」「(それに……、嫌な予感……)」
イチカ「報告書、なんて書きます?」「被害が被害ですし、”何もわかりません”じゃあ、お叱り食らうかも……」
ハスミ「とは言っても、私達だけでは、事の究明は望めません……」「……はぁ、……仕方ないですね」「……こんなにも早く頼る日が来ようとは……」
イチカ「……?、誰かに協力を求めるんすか?」「!――、もしかしてシャーレの先生!」
ハスミ「いえ、違います」「個人でならまだしも、ティーパーティーの許可なしに正義実現委員会が独断で外部から協力を仰ぐことはできません」
イチカ「じゃあ……内部の方?」
ハスミ「報告書には現在で判明している点と不明な点をそのまま……、ただし封には……”この書を開く者は、一切の望みを捨てよ”と付け加えてください」
イチカ「地獄の入口……、どういう意図っすか?」
ハスミ「”あの方”の趣味です……」
それを聞くとイチカは口にくわえていたペンで、今の暗号のような文字列を書くことで反芻した。