双鳥の冀望   作:ネギョ

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5話 渦中のメアリー・スー

 礼拝堂は暗くとも閉塞感は無かった。

3階建てほどに高い天井と、祭壇の背に威光を放つステンドグランスが、雲に隠れる月の光と星々がくれる僅かな光源を乱反射させ、影の濃淡を教えてくれた。

 

スズミ「………………」

 

祭壇へと歩を進めるスズミの前に、仮面をつけた少女が立ち塞がっていた。

レムール。ラキュラーの詩書と呼ばれる人を意のままに操ることができる不思議な古書を使う、今朝がたトリニティで起きた生徒集団暴走事件の実行犯にして、学園から離れたこの誰も来ないような場所にスズミを呼びつけた張本人である。

 

レムール「素直に従っていただいて何よりです、スズミさん」「それと、”さん”は結構ですよ」

 

歪な仮面だった。

口元は開き、鼻から上を幾重もの白い羽で隠したようで、これまた沢山の目が羽の上から描かれていた。

スズミはその仮面に、自分の貌は隠しながら、相手の表情を一方的に読み取ろうとする相手の傲慢さを想像した。

罪のない人を利用して、自分は安全圏から高みの見物をするその狡猾さに憤った。

 

スズミ「御託は結構と言いました」「……決着をつけましょう」

 

痛む身体で、銃を手に取った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 太陽を少し地平線に戻す。

スズミが病室を飛び出す前のことだ。

病室は静寂が取り仕切り、4つのベッドが備わる大部屋の入口から見て右側の窓側にレイサ、その隣にスズミは()していた。

利用者はこの2人のみ、先ほどまで反対側にもう2人いたが、スズミたちよりも軽傷で済んでいたため、既に病床を空けていた。

 

スズミ「…………」

 

スズミが眠らずに、天井の虚空へ目を向け続けているのは、2つの理由が原因だ。

 

1つ目は犯人の正体、正義実現委員会による事件の取り調べの様子は極秘、スズミに立ち入れる余地は無い。

故に安心とは程遠かった。とても瞼を閉じていられる場合じゃない。

 

2つ目の理由は――。

 

レイサ「スー…………」

スズミ「………………」

 

――レイサ「――危ないっ!」

――スズミ「――っうぁ!」

 

ドギィゥン!ドガシャァアアアン…………。

 

――ツルギ「……いつもこれぐらいだったら、もう倒していただろう?」

――暴れる生徒「やはり弱くなりましたか?、スズミさん……?」

 

スズミ「っ…………」

 

影の濃い音が、周りが静かなのを良いことに好き勝手反復し、胸の位置まで掛かった滑らかな面のシーツの一部分に皺を作ることを強制する。

 

スズミ「(私が弱くなったから……レイサさんを始め、皆に被害が……)」

 

太陽の面影をほんの少しだけ感じる空気の色の中で、吐き出すことも出来ない具体的な後悔が、次第に心の中で良くない形へと増幅しようとする。

 

レイサ「ふが…………、杏……サァ……」「ズミ……さ……」

 

窓が開いている。

なびくカーテンが部屋に吹き込む冷めたい風の輪郭を教えてくれた。

このままではレイサが風邪を引いてしまうとスズミは危惧し、窓を閉めるために立ち上がる。

その時、スズミはレイサの顔を無意識に覗いていた。

 

レイサ「ぐー……、――――――」

スズミ「!、レイサさん……?」

 

不意の静寂、緩んだ顔から表情が消え、息をしているのかも分からなかくなった。

スズミは安否を確認するため更に近づいた、――その時、レイサの目が表情を捨てたまま開かれる。

 

スズミ「っ!?――」

 

レイサはベッドから上半身だけを起こし、真っ直ぐスズミを見据えていた。

 

レイサ「………………」

スズミ「レ、レイサ……さん?」

レイサ?「……先ほどぶりですね、スズミさん」「――私から受けた傷は、もう治りましたか?」

スズミ「――っ!?」

 

およそベッド1台分、距離を取った。

 

スズミ「……レイサさんではありませんね、何者――」「――まさかフールズ・メイト……!?」

 

スズミの中で合点がいった。

今朝の戦闘での違和感、妙に揃い過ぎている声や動きは、ラジコンのように同時に操作……”操られていた”という可能性で像を結べると。

しかし、だからといって直ぐに飲み込み次の話とはならない。

スズミは本当にそんな事ができるのかと訝しんでいると。

 

レイサ?「ネタをばらすまえにご察しいただけるとは……流石の洞察力、いえ」「信用されているんですね……この子の事」

スズミ「えぇ、レイサさんはそのような悪趣味なイタズラをする子ではありません」

 

遠回しに予感の的中を告げられ背筋が凍りかけたが、”まだ終わっていない”とよぎった言葉を相手への恐怖ではなく、怒りへと心をシフトさせた。

今度こそ、レイサを自分が助けるのだと。

 

スズミ「今すぐレイサさんを解放しなさい!」

レイサ?「うぉっとと!、大人しく話に乗ってくれればすぐにそうしますよ!」「……失礼」

スズミ「これは一体何の真似でしょうか?、…………」

レイサ?「あぁ、これは失礼しました」「レムールとお呼びください」

 

犯人はおそらく近くにいる、だがレイサが現在実質的な人質になっている以上、物理的に探ることはできない。

せめて、何か情報だけでも引き出す事を目標に、スズミは口を開く。

 

スズミ「なぜ罪のない人たちを巻き込むのですか!?」「あなたはいったい……いえ、そもそもフールズ・メイトは何人いるのですか?」

レムール「正体に関する質問にはお答えしかねます」

スズミ「ふざけたことをっ……!」

レムール「ここでは、という意味ですよ」

スズミ「なぜ、私に接触を……?」

レムール「我々の真の目的を通して、お答えしましょう」

 

――暴れる生徒「我らは『フールズ・メイト』!」「トリニティを陥落せし集い!」「この一撃は!来たる復活の時のために!」

 

スズミ「……まさか、私を引き込みに……?」

レムール「話が早くて助かります」

スズミ「乗るとでも?」

レムール「先に誤解を解いておくと、トリニティ陥落のお手伝いを要求したいのではありません」「我々の最終的な目的はその裏にあります」

 

裏と聞いて、”復活”の部分が脳裏に浮かぶと同時に察する。

トリニティを貶めることで蘇る存在というのは、おそらく外部の存在、これはトリニティに向けた宣戦布告だったのだと。

――だが答えは意外なものだった。

 

レムール「結論から申し上げますと、トリニティ自警団の復活です」

スズミ「自警団をっ……!?」「い、意味がわかりません……!」

レムール「最近のトリニティの治安状態について、貴女は如何様にお考えですか?」「特に私が起こした暴走事件、自警団のその対応力はいかがだったでしょうか?」

スズミ「それは……」

レムール「私の知る自警団はいかなる武装をしたどのような脅威に対しても、雷の如くの速度と威力でそれを征してきました」「それが最近では牙を抜かれたように大人しくなり、これではいなくても変わらない張りぼてと同義ではありませんか!?」「”私は”、強いあなた達に帰ってきて欲しいのです!」

スズミ「あなたに、そんなことができ……!」

 

最後まで暴れていた生徒を思い出す、その甚大な被害も。

 

レムール「”ラキュラーの詩書”、あなたが突き止めたい能力の名前です」「想像よりもずっと便利ですよ?」「これであなたに、”誰でも守ることのできる力”を授けたいのです」

スズミ「……それまでが仮に本音だとして、素直に受け取れるとでも!?」「そちらがどう正義を主張しようと、あなた方のした事は間違っています!」「無垢な人々を利用し、罪をなすりつけようとした卑劣なテロリストにすぎません!」

レムール「無垢なる……日々余計な火の粉が掛からずに済むのは、あなた方のおかげだと言うのに」「それを分かっていない無礼者どもに罪は無いと?」

スズミ「分かっていないのはあなたの方だ」「私達の信念は情けではありません、学園とはそもそも学生生活を送る場、それを憂いなく平和に過ごせるよう祈り続ける事が信念なのです」「その一歩がどれだけ小さいもであっても、いつか成就する平和を信じて、足だけは止めないためにしているんです!」

レムール「ではその祈りの成就とやらは今のままで果たせるのでしょうか?」「あなたも気づいたのでしょう?、キヴォトスで力を放棄することが何を意味するのか!」

スズミ「っ!…………」

 

レムールがレイサの両腕を上げる、ギブスと包帯に包まれた両腕を。

 

レムール「守れなかった後悔は、より最悪な未来を受け入れる動機になるのですか!?」

スズミ「腕を下ろしなさい……!、今すぐ」

レムール「貴女は分かっていない……トリニティの規模が大きすぎるが故の脆弱性と、数多くの脅威から狙われている現実を」「そもそも自警団の弱体化自体、トリニティを脅かさんとする敵の作戦の可能性だってあります!」「戦力が緩慢になった今もしも戦争にでもなれば、外敵から攻め入れられたら最後、成すすべなく敗れ去るのですよ!」

スズミ「そんな事、起きるわけが……」

レムール「本当にそう言い切れますか!?」「エデン条約調印式での事件、空が赤くなったあの日をもうお忘れですか!?」

スズミ「!…………」

レムール「時期にしてもうすぐ本校では謝肉祭という祭事を迎えます」「こんな浮かれている時こそ、恰好の的になりえると思いませんか!?」

スズミ「そんなのは……!、ただの……」

レムール「被害妄想、そう仰るのでしたら……」「守りたかった全てを失ったとき、そう言い訳するのですね?」

スズミ「私は…………」

レムール「スズミさん、あなたは初心を失っています」「思い出してください!なんのために自警団を始めたのかを……!」「我々が用意したのは、確かに恐ろしい力です」「ですが、貴女の強靭な精神力ならば容易に御することができるはず!」「あなたがトリニティの守護者となるのです!」

スズミ「………………」

レムール「ここから南東20㎞、丘の上に今は廃墟となった教会があります」「30分経ったら、1人で向かい始めてください」「もしも断る、あるいは指示通りの行動を拒めば、私は再びトリニティにて暴走事件を起こします」「そうですね……今度はチャンスを見計らって剣先ツルギさんに取り憑きましょうか」

スズミ「!?、――そんなことっ!」

レムール「夜道は危険ですので、気を付けてお越し下さい」「では後ほど……」

スズミ「待ちなさい!レム――」

レイサ「ふ……がー……トマトの皮……剥かなくても……、んん……サラダチキンで十分……」

スズミ「戻った……?」「レイサさん――!」

レイサ「……スズミさ……ん、大……丈夫……」

スズミ「………………」「私は………………!」

 

スズミの中で、最善の選択肢が揺らぐ、本当に自分がすべきことは何なのか。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 現時刻、廃教会に戻る。

 

レムール「決着……何の話でしょうか?」

スズミ「――もちろん、この事件の決着です!」

 

スズミが銃口をレムールに向ける。

  

スズミ「動くな!」「私はあなたを捕縛しに来たんです!」

レムール「やはりご賛同いただけませんでしたか……残念です」

スズミ「平和を謳っているようで、野蛮な手段しか取らなかったテロリストの言葉を、ほんの少しでも肯定するとでも!?」「交渉の余地などありません、投降しなさい!」

レムール「仕方ありませんね……ですが」「……その怪我では、私達にすら勝てないでしょう?」

スズミ「達……?」「――!、まさかフールズ・メイトの!」

?「……」

 

スズミの油断は先の会話だった。

 

――「”私は”、強いあなた達に帰ってきて欲しいのです!」 

 

興奮ゆえのボロ、単独犯である自白と推測したが、予想に反し仮面をつけた2人目がスズミの背後を取った。

 

スズミ「(それでも2人、武装も大したことは無い……)」「っ――」

?「っ!?」

 

スズミは閃光弾を頭から1メートルほどの高さに放り、姿勢を低くしながら、身体を背後の誰かに向ける。

 

バァン!ダッ!

 

レムール・?「っ!――」

 

閃光弾の発破を合図にスズミは駆け出し、素早く”?”へ飛び掛かり、背後から拘束した。

 

?「ぅあっ!……」

 

スズミ「動かないでください!」「あなた達は何も――」「――!」

 

仮面が地面に落ちる、化けの皮が剥がれたその正体に、――見覚えがあった。

因縁があるとか、交友関係があるとかではない、ただ――。

 

――?「――っ!、す、すみません!私なんかのために!」

 

――?「毎日こんな感じで戦ってるってことですよね?、……辛くはないのですか?」

 

――?「――は、はい!私――」

――セラ「”一石(ひとし)セラ”と申します!」

 

かつて自分が重ねたすべきこと、その道筋で会った人達。

自身が守りたいと願い、そして自らの行動で助ける事を選んだ被害者達。

 

レムール「あらためて、お久しぶりですね」「守月スズミさん……」

 

レムールも続いて仮面を外す、一石セラ同様に助けたことのある生徒だった。

 

スズミ「確か……土彫、フランさん?」「あなたも――」

 

スズミの頭によぎる2つの可能性。

――1つ目、彼女たちも操られている。卑劣なテロリストは、か弱い生徒を利用して私の動揺を誘っている。

――2つ目、……それは、本人の意思で――。

 

フラン「お、お、お、覚えていてくださったんですかぁっ!?」

スズミ「――!??………………」

 

思いつく前に実証された。

彼女たちは自分たちの意思でここにいると。

信じたくは、なかった。

 

スズミ「??……?……?、?」「そんな……、どうして――」

フラン「ごめんなさい、スズミさん」「私の事は……どうか許さないでくださいね」

 

ラキュラーの詩書が開かれる――――――――――――――――――――――――スズミの意識が途絶え、気付いた頃には、さっきとは違う景色の中、椅子に縛り付けられていた。

 

フラン「じゃあ、始めよう……」

セラ「………………うん」

スズミ「は………………」

 

オーケストラ、指揮者が手を上げ、振り下ろすまでの無窮の静寂と緊張がその場にいた全員で共有していた。

そんな張り詰めた糸のような空気に――。

 

ガシャァアアアアン!

 

――振動と破片の仇浪が降り注ぐ。

 

セラ・フラン「――!」

レイサ「ス!ズ!ミ!さあああああん!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 街灯の少ない暗く細く、視界の上半分を夜空が占有するコンクリートに覆われない地面の上を車が走る。

 

セイア「《――以上が今朝の暴走騒ぎの概要だ》」

サオリ「ラキュラーの詩書……そんな力が、アリウスに……?」

先生「結局、音楽はフェイクだったの?」

セイア「《概ね、そうと考えられるね》」「《想像に易い手段をちらつかせて、説得力のある欺瞞で我々から戦意を削ごうとするための虚構だったと推測できる》」

ハナコ「《セラさんの話ですと、そう言った条件は無さそうでしたので》」

先生「まさかハナコに全て筒抜けだったなんて」「こういう言い方は正しくないんだろうけど、運が無かったね」

セイア「《最短の決着(フールズ・メイト)、愚かな初手は向こうからだったというわけだ》」

アツコ「そういえば、協力者についてなんだけど」「誰なのか分かったの?」

セイア「《未だに目星はついていないが、”いる”ということは守月スズミの誘導で確定している》」

ハナコ「《病室からいなくなった事実も確認しています》」

ヒヨリ「あ、あの!もしかしたらなんですけど……確証はないんですけど!」

先生「?、大丈夫、言ってみて」

ヒヨリ「セラさんはその人に命令されている……という可能性はあるのでしょうか?」「脅されている……なんてことも」

ハナコ「《それは……、どうでしょう……》」「《私が憑依されたあの時に見たあの光景……彼女の動機は、確かにある気がします》」

セイア「《それら疑問の答えは、これからの行動で得るしか無さそうだね》」

ミサキ「これも罠ってことはない?」

セイア「《五分五分だろうね》」

ミサキ「は!?」

セイア「《人の近寄らない、目の届かない位置に移動した時点で怪しいが》」「《錠前サオリの時ほど、あからさまとも言えない痕跡の残し方だ》」

ヒヨリ「そういえば……誰かを呼んでいましたよね?、スズミさんって……」

ミサキ「まさか協力者とかじゃないよね?」

先生「それはありえないよ!」

全員「!」

先生「あ、ごめん……」

サオリ「それだけ信頼しているのなら……、私も信じよう」

先生「ありがとう……そういえば、サオリ」「レムールについてもう少し聞かせてくれない?」

サオリ「レムールについて?」

セイア「《確かに、一石セラが自ら名乗った偽名、それがアリウスの工作兵の通称と同名とは、偶然にしては出来過ぎている》」「《こちらの調査のためにも参考にさせて欲しい》」

サオリ「レムールとは、私ですら全容を知らされていない虎の子たちのコードネームの事だ」「マダムは常に優秀な生徒を側近に置き、親衛隊として護衛させていた」「その中から選ばれ、各学園に送り込まれた伏兵、それがレムール」「眉唾……、もはや都市伝説レベルの話だが、ラキュラーの詩書のような不思議な力を渡されていたとしても不思議ではない」

ミサキ「レムールって、もっと違う意味じゃなかった?」

アツコ「確か……名前の無い子の呼び名みたいな」

先生「名前が……無い?」

ヒヨリ「あ、アリウスだと、そんなに珍しくないんですよ……」

先生「っ…………!」

アツコ「先生、お顔がまた怖くなっちゃってるよ?」

先生「!、……ご、ごめん!」

ハナコ「《一石セラ……あるいはその不特定多数の協力者が、レムール……》」

アツコ「ねえハナコさんもう1つ気になるんだけど」「ラキュラーの詩書を使って乗っ取った身体で、またラキュラーの詩書を使う事ってできるのかな?」

ハナコ「《それは…………》」「《……申し訳ありません、分かりません》」

セイア「《二重での憑依か……》」「《いや、それが可能なら幾重にも憑依できるやもしれん》」

先生「まさか……ハナコが見た容疑者のセラの姿も……」「本人の姿じゃないかもしれないってこと?」

サオリ「いや……止そう、これ以上は栓無き事だ」

セイア「《ここから先は携帯、無線の電波が届かない》」「《故に交信は叶わない、気を付け給えよ》」

先生「うん、そっちも気を付けてね!」

 

先生たちが車を離れて歩き出す。

 

セイア「!……、このタイミングで……」「ハナコ、少しここを頼めるかい?」

ハナコ「もちろんです、お気をつけて」

 

セイアが持ち場から離れる、急がないと間に合わない何かを悟ったかのように。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 礼拝堂とは違う、別の部屋。

スズミは、5つある縦長の窓を背に座らされていた。

スズミの前方には、窓を突き破って部屋に突入したレイサが立っている。

フールズ・メイトの一石セラと土彫フランからスズミを庇う形で、立ち塞がっていた。

 

スズミ「レイサさん……どうしてここに……!」「お怪我は……?」

レイサ「病室で私を乗っ取っていた時の会話を頼りに来ました!」「怪我の方はご心配なく!、起きたら治っていたので!」

フラン「記憶が……?」「ちゃんと消したはず……!」

レイサ「既にシャーレの先生にも連絡済みです!逃げられませんよ!」

セラ「シャーレの……先生まで!?」

レイサ「大人しくスズミさんを解放して、えっと、投降してください!」

 

レイサ「あなた方では私に勝てませんよ!”場数の数”が違いますから!」

フラン「……分かりました、投降しましょう」「――なんてね」

セラ「――…………」

スズミ「――…………」

 

フランとセラの身体が力なく地面に倒れる。

 

レイサ「え?……」「ど、どうしたので――」

 

――バァン!

 

レイサが背後から撃たれる。正面にはセラとフランがいた。

後ろにいたのは、――撃ったのは。

 

レイサ「ス……ズミ……さん?」「――」

 

ラキュラーの詩書による憑依は、既に完了していたのだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――私がしてきたことは、何だったのだろうか。

人々の善良さを信じて、悪へと立ち向かった。その結果、日常を脅かす存在の片翼を担っていた。

本末転倒を悟り、是正措置を取った。その結果、守ってきたものを成すすべなく傷つけられた。

せめてその責任を取りたくて、ここまで一人で来た。敵の正体は……私が今まで信じてきていたはずの――!

 

――下した判断は全て――間違っていた。

私が考える、悩むたびに……望まない未来だけがやってくる。

そんな未来に誰も彼をも巻き込むくらいなら……私はいっそこのまま……。

 

――目覚めない方がいい。

 

……。

 

先に伝えておくと、今から起きる事は誰の予想からも外れたイレギュラーな事態だ。

先生は当然、スズミも、フールズ・メイトの2人でさえも望んでいない混沌。

知らなかったのだ、キヴォトスで力を求める事の意味が。

知る由もなかったのだ、自身を否定した者がどうなってしまったのか。

 

ギィィィイイイイイン。

 

ラキュラーの詩書がどういう目的で用意された物なのかを。

 

――――――――――――――――――――

――――――――――――

――――――。

 

 ひどく雨が降っていた。ぶ厚い雲は綻びを見せることもなく空を隠している。

人の作る光が無かった。まるで雨に全て消火されたかのような冷たい景色の中で、守月スズミは立ち尽くしていた。

銀色の長髪の少女の背後で。

それが”自分の後ろ姿”と気づいた頃には自然と声をかけていた。

 

――誰ですか?……私?――。

 

「私ですか?ええ、私は私ですよ」「初めまして、と言うべきなんでしょうか……」「――別世界の――私への挨拶って」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 スズミは、さして疑問を持たなかった。

夢の中のように、ただ流れる景色を見過ごし、空気の重たさを助長させる雨の臭いを甘んじて受け入れた。

そこからの景色はありえた――否これから、ありえるかもしれない光景。

冷たさに身を許しながら、一言ずつ、正気を拾っていく。

 

――ここは……?、なんで何もかも壊れているのですか?。

 

「こちらに来たところで、もう何もありませんよ……」「私が全て均しましたので」

 

――均した?……この破壊が?……ここはキヴォトス!?――!、レイサさんや他の皆さんは!?、――先生は!?

 

「もういませんよ」

 

――!?

 

「私が弱いばっかりに皆さん」「もういなくなってしまいました……」

 

――どういうこと……見捨てたのですか……!?

 

「いえ、そんなこと」「――手ずからに決まっているじゃないですか」

 

――そんな……、何で!?なんで……守るべき人たちを、手にかけたというのですかっ!

――あなたは、何なんですか!?

 

「仕方ないじゃないですか……誰も彼も、私の理想を崩す要因となる可能性を有しています……」「もう、誰1人と居なくなってしまわないと……平穏など永遠に訪れないのですよ」

 

――誰1人って、その中に先生もいるというのに!?

 

「先生、ですか……もはや懐かしいですね」「彼ほど危険な方はいませんでした」「まるで、いつ倒れても可笑しくない建物全てを支える柱のようで……」

 

――っ!……撃った……の?……。

 

「はい」「この、あなたの銃で」

 

――は……――。――なに?……これ。

 

まっさらだった銃身の側面に、文字列が刻み込まれていた。

 

「アリウスの教義でしたか、大変共感できたので勝手ながら引用させていただきました」「空虚こそが静寂、何も起きないが故に、絶対なる平穏を約束してくれると」

 

                                  

 

――あぁ……――あ……――っ!

――そんなこと、絶対にありえないっ!

 

全身の血を沸騰させて、この戯言を否定したい。――だができない。

流れ込む”この私”の意識が全て戯言ではなく、本心からそう言ってると理解しているから。

ひどく冷徹な事実が、今も降り続ける雨の様に、怒りの炎を消してゆく。

 

――………………仕方ないのですよ、だって先生は……、――生徒の為なら……”平和をも犠牲にしてしまう”のだから。

 

バァンッ。

 

赤く染まった、その人。大事という言葉の中心に、誰よりも近い人。

――今、私が撃ったのだ、”彼”を。

 

――っ!…………!、ウゥ!………………アアァ――ァアア――ア!

 

許さないっ!!!

 

複数の意識が、1つの身体の中で暴れている。

それは噴き出る、混ざる、膨張し、理性と袂を分かつ。

 

?「ごめ――さい……――ミ……さ」「これ――ラの……、――め」「わた……――ゆる……ぜっ――な――!」

 

自信を否定する以外に使えない”誰か”を、床に落ちていた仮面で無理やり蓋をした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 緩やかな曲線を描く丘の上で、先生たちは廃教会の形容しづらい威圧感に不安を覚えていた。

 

先生「あれだ……!」「スズミと……、レイサは……!」

サオリ「待て、先生」「先に私たちが様子を――」

 

ドォォオオオオオッ!!

 

突如、教会と空気を揺らす音が鈍く響く。

 

アツコ「今のは――!」「――先生!」

 

先生は一心不乱に駆け出していた。アリウススクワッドの面々も急いで追いかける。

スズミが通ったのと同様に、大きい扉から礼拝堂の中に入るとそこには――。

レイサの襟首をつかんだ、顔に仮面をつけたスズミの姿があった。

 

レイサ「うぅ……」

先生「レイサ!」

 

先生は一切疑うことなく、スズミは憑依されていると察した。

 

先生「もうやめるんだ!こんなこと!」

?「あ――あ……先――ど……逃げ……、の――魔ままま……ラ……、迎え――……ずっと……」

先生「!…………どうなって――」

?「っ!――」

 

レイサが先生の元に放り投げられる。

先生はレイサを受け止め、重傷を負っていることに気づき、動揺した。

 

先生「レイサ!」「ひどい怪我だ……」

サオリ「先生!」「――!?、お前は!」

 

祭壇の前に立つ”スズミの姿をしたそれ”が背を向け、顔の半分をこちらに向けた。

その後ろ姿に見覚えがあった。こちらの心情を理解するつもりなどない無関心の証左を。

その眼に見覚えがあった。人ではなく、道具に向けて一瞥する冷酷なる支配の象徴を。

私たちは知っていた。かつてアリウスを非道な方法で支配し、多くの被害者を生んだエデン条約襲撃事件。その真の黒幕を――。

 

アツコ「あれは……!」

?「久しぶりですね……サオリ」「いえ……アリウスの裏切り者」

サオリ「…………マダム?」

 

サオリは違うと分かっていても、思わず口にしていた。

嫌でも、憎んでいても見せられていたドグマの面影を僅かに感じて。

 

レムール「わ、わたた」「――私は、レムール」「あなた方は……敵ッ!」

サオリ「!――」「全員散れ!隠れろ!」

 

レムールが銃口を向ける。サオリは即座に問答を不要と判断。

彼我の能力差を図るべく柱の陰へと身を隠した。

 

先生「サオリ……落ち着いて、あれは……」「ベアトリーチェじゃない……はずだから」

サオリ「ああ、分かっている……恐らく守月スズミを操っている犯人の猿真似だろう」「もし本物なら、私たちに勝てないことを知っているからな」

先生「そうだね!……力を貸して!」「レイサを安全圏まで送って、スズミを取り戻したいんだ!」

サオリ「了解だ、そいつは先生に任せる」「あいつは私達に任せろ」

先生「二手に……!?」

サオリ「百合園セイアからの報告と、今の攻撃能力から概算した」「私達だけでも勝てる、信じてくれ」

先生「わかった……、すぐ戻ってくるからね!」

 

狭い室内、限られた対応範囲と急を要する事態の両方で納得した先生は、アリウススクワッドに託すことを決めた。

 

サオリ「アリウススクワッド、陣形を取れ!」「先生を援護だ、無事に逃がすぞ!」

アリウススクワッド「了解」

レムール「おしゃべり……、終わりましたか?」

 

ドギィゥン!ドガアァン!

レムールが天井を撃つ、建物全体が軋み、コンクリートの破片と煙とが降り注ぐ。

 

先生「――っ!」

サオリ「ミサキ!撃てっ!」

ミサキ「――!」

 

バシュウ!

ミサキがレムールに向かってスティンガーミサイルを発射。

 

レムール「ほう……」

 

ドギィゥン!カギィン!ドガアァァァァン!

レムールが弾頭を空中で撃墜、爆発する。

衝撃でガラスは割れ、風化した柱がゴトンゴトンと倒れゆく。

座席よりも頼りになる遮蔽物が完成した。

 

サオリ「先生、今だ!」

先生「みんなありがとう!」

 

先生がレイサを担いで、外へと駆け出す。

 

サオリ「(私とアツコで戦線を詰める、ヒヨリが妨害、ミサキはヒヨリのサポート)」

アツコ・ヒヨリ・ミサキ「(コクッ)」

サオリ「(状況開始)」

 

先生が離脱後、サオリはハンドサインで作戦を伝達、決行に移した。

 

サオリ「(最終目標が取り憑かれた守月スズミの無力化と拘束である以上、数の差を武器に相手の意識がなくなるまで射撃で制圧するのが効率的……だが)」

 

相手の外身は意思に反して操られている生徒。先生が救いたがっていた生徒。

アリウスで得た望まぬ杵柄を今ここで活かす。サオリ達はその一心だった。

 

サオリ「(……先生の大事な生徒に傷は負わせない!)」

 

ダダダッ!ダダダッ!

レムール「!――」「ぐぅ!……」

 

サオリとアツコによる2方向からの牽制射撃にレムールが怯み、祭壇の陰に隠れた。

 

アツコ「(誰かを助ける目的で連携を取るのは初めてなのに……、なんでだろう……サっちゃんの考えてることすごいよく分かるな……)」

レムール「そこ!」

 

レムールが立ち上がり、アツコを狙った。

 

ミサキ「アツコが右から対象に接近」「対象が気づく……武器を狙って――、ファイア」

 

ダァン!ガギィン!ドギギギギギ!

レムール「ちぃ!?」

ミサキ「ターゲット命中――、次弾装填」

ヒヨリ「武器を狙いますか?」

ミサキ「次は無理かな、――隠れて!」

 

ドギィゥン!ドガァァァン!

 

レムール「狙撃っ!……ホントに嫌い!」「(威力が弱い……?どうして)」

 

ダダダダッ!

すかさずサオリの射撃を食らう。

 

レムール「――っ!?」

アツコ「――は!」

 

ガァン!ガタァン!

そしてアツコが死角から近づき、レムールの銃を床にはじき落とした。

 

レムール「また武器を!?なら――!」

 

閃光弾を取り出し、投げ――。

 

アツコ「させないよっ!」

 

ピンが抜かれる前に足を掬う、レムールは閃光弾を持っていたため受け身を取れず、体制を崩した。

 

レムール「っぐぁ!」

 

隙を逃さず、アツコが拘束技を仕掛ける。

 

レムール「うぅ!……あぁ!」

アツコ「動くと折れちゃうよ!」「――サっちゃん!」

サオリ「アツコ!そのまま!」

 

サオリが筋弛緩剤注射を取り出す。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 スズミの意識の中。

2人はずっと戦い続けていた。

終わることのない命を使い、痛みを押し付け合う終わることのない戦いを。

 

――はぁ……はぁ……。

 

「邪魔をしているつもりですか?」

 

――こんなこと……、やめ……!

 

「まだ都合のいい未来に縋るのですか?」「その姿勢が、この行く末なんですよ!」「選ぶ気が無いのなら……身体だけ寄越しなさい」

「――私の道具に成り下がりなさいっ!!!」

 

――ぐっ……あああああああっ!!!

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ドォォォォオオオオン!!!

サオリ・アツコ「――!?」

 

サオリとアツコの体がそれぞれ壁面まで飛ばされる。

 

サオリ「がぁっ!」

アツコ「うぅ!」

ミサキ「爆発!?」「――閃光弾の光じゃない!」

ヒヨリ「お2人は!?」

 

レムールの纏うオーラが変わる。

銃が宙を舞い、――分身し、羽のように広がり、滞空していた。

レムールの周りを回り――銃口が上がった。

 

ミサキ「ヒヨリ!伏せてっ!」

レムール「それでいい」

 

ドギギギギギギギィィィィゥン!

この世の物質を全て否定する破壊の連撃がミサキとヒヨリを襲った。

 

ミサキ「ぅ……う……」

ヒヨリ「ミ……サ……キ……さ……」

サオリ「……!、アツコ?」「ヒヨリ、ミサキ……!?」

レムール「はぁ……、あとは……お前だけです……よ」

サオリ「っ!……」

アツコ「――サっちゃん!」

 

ボロボロのアツコがレムールに体当たりをし、銃口が逸れる。

 

レムール「こんなのばっかり……」「そろそろ、うんざりですね!」

 

アツコの体を持ち上げ、サオリの方へと投げる。

 

アツコ「キャアッ!――」

サオリ「――アツコ!」

 

それをサオリが受け止め――、今度こそ銃口が2人を捉える。

その凶弾を――阻むものはない。

 

ドギギギギィィゥン!

銃口の先に原型を留める物は無かった。

壁、柱の一部、座席、その威力にひれ伏すように皆、灰燼と帰した。

――ある者の背中を除いて。

 

レムール「はぁー……、はぁー……。大したものですね」「今の一瞬で庇うとは、サオリさん……」

サオリ「っ!………………」「……がぁっ!……、うぅ……はぁ!」

レムール「庇いきるのは無理だったみたいですが」「(出力が落ちてる……まだ連続では使えないか……)」

アツコ「ぅぅ……ぁ、サッ……ちゃん……」

レムール「その奮闘に敬意を……」「――今、仲良く楽にしてあげます!」

 

トドメの一撃、死神の鎌が降り上げられたその時。

 

先生「――まった!!!!」

レムール「!」

 

先生が戻ってきた。大声でレムールの動きを一瞬、制止させる。

 

アツコ「……ッ!」

 

バシュウウウウウウウ!

 

レムール「!、まだ動けて――」

 

アツコが不意の一瞬の隙を突き、スモークグレネードを起爆。サオリを担いで先生の元へ歩き出す。

レムールはアツコに銃口を向け発射、――できない。

 

レムール「――ぐっ!」「――まだ調整が……、いや、馴染んでいない?」

先生「アツコ!サオリ!」

アツコ「どう?……マスク……、便利でしょ?……」

先生「アツコ!」

 

最後の力を振り絞り切ったアツコが、先生の胸へ倒れこむ。

 

先生「ひどい怪我……サオリも……」「ミサキ!ヒヨリ!」

ヒヨリ「うぅ……ここです……ミサキさん……がんばっ……て……」

ミサキ「……ッ!」

 

アツコがドローンを取り出し、手の上で起動した。

アツコの神秘が傷を癒し始める。しかし重傷のアツコでは、全員を治すことはできない。

 

アツコ「………………」

 

アツコは迷った、自分を庇ったサオリを治したい。しかしそれは、サオリが現状の殿を名乗り出る未来に繋がると。

いつも自分は守ってもらっている。だから、今度は私が皆を――。

 

――ガッ。

 

その意思を呼んでか、サオリがドローンを奪い、サオリ自身に使用した。

 

サオリ「アツコ……すまない」「先生……私が時間を稼ぐ……」「早く!みんなを連れて外へ!」

レムール「ふ……ふー……」「……逃がすとでも!?」

 

――煙が晴れ、レムールの姿が再び現れる。銃口がこちらに向く。

 

レムール「……先生、なぜですか」「――なぜあなたが、また私の前にっ!!??」

先生「――サオリ!」

サオリ「――!」

 

ドギギギギギギギィィィィゥン!

 

サオリ「……――!、先生!私を……かば……って……?」

レムール「ハァ……ハァ……ハァ……」「外れた!?……狙いは正確だったはず!」

 

放たれた必死の攻撃は全て、先生たちから逸れていた。

もちろん代償も、限界もある奇跡だ。

 

アロナ「うぅ……!」「プラナちゃん……大丈夫ですか……!」

プラナ「……っ!」「限界……です、これ以上の防御は、不可能です……」

アロナ「プラナちゃん!、先生逃げてください!」

先生「――!」

レムール「なんで……いたらダメなのに!」「私は……また!!」

 

レムールが明らかに錯乱している。

だが確実なる敵意を感じた先生は……エデン条約の日を思い出した。

 

ダァン!

 

生徒の繰り出した凶弾が、自身を貫いたあの日を。

怖くないと言ったら嘘だ。

 

先生「でも生徒に背を向けて逃げ出す方が、もっと怖い」

 

アツコをサオリに託した先生がレムールの方へ歩き出す。

 

先生「サオリ……みんなを頼んだよ……」

サオリ「先生?……」

先生「私は……逃げないよ」「どんな時だろうと、誰であろうと、私は最後までみんなの先生だからね」

サオリ「先生!――まって!、あ……」

 

サオリは先生を止められない。

たとえ命を落とそうと、この人は止まらないと感じたから。

――こういう人だから、自分は救われたのだから。

 

レムール「なんなんですか……なんでそんな顔……、なんで笑いかけるのですか……?……」「そういうの……むかつきますよ、その表情が!、私の夢を否定する!……」「止まってください……!、離れてください!」

先生「誰だって夢は持つ、それは間違っていない……」「――でも!人を傷つける先の未来を信じるのは何人であろうと間違っているよ!」

レムール「――ダメです、逃げてっ!」「――なら、私に後悔させてみなさいッ!」

先生「――!」

 

レムールの銃口が先生を捉え、そして――。

 

バゴォォォォオオオオオオン!

 

全員「――!」

 

轟音、それは揺るぎない覚悟への、喝采か。

上から見て先生とレムールの丁度間、――まるで隕石の様に、天井を吹き飛しながら何かが落ちてきた。

 

ゴオォォォォ……。

 

煙の中から、人のシルエット。

そして、ハツラツな声が続く。

 

?「ふぅ、到着!」

先生「――!(この声は!)」

?「やっほー、先生!」「……間に合ったみたいだね!」

 

先生が影の正体を察すると同時に、煙が晴れた。

桃色の長髪に、純白の服装と腰から生える翼。

その双眸は、今しがた空いた天井の穴から見える夜空を閉じ込めているかのように絢爛としていた。

 

先生「――ミカ!」

ミカ「うん!」「聖園ミカ!ついに登場、だよ☆」

 

トリニティ総合学園生徒会ティーパーティー所属にして同組織内、最強戦力――聖園ミカ、参戦。

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