双鳥の冀望   作:ネギョ

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6話 星石と形骸

 外側を天然スレートで覆われた、曲線が織りなす規則的な空を穿ち、隠れるのを止めた月と星の光が容赦なく入り込む。

そんな夜空の脚光を独り占め、まるで光の実体かのように、目の前の少女はここにいる全員の目を釘付けにしていた。

 

ミカ「やっほー☆先生!」「間に合ったよね?」

先生「ミカ、どうしてここに?」

ミカ「セイアちゃんが教えてくれたんだよ!」

先生「セイアが?」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

十数分前。

トリニティ総合学園本館3階廊下スペース。

 

ミカ「んしょっ」「ふー、……冷た~い!」

 

現在ティーパーティーに席を置きながらも謹慎中の身である聖園ミカは、廊下の壁に点在する窓ガラスおよそ数十枚を1人で水拭き掃除に勤しんでいた。

豪奢と呼ぶにこれほど似つかわしい例えがない装飾に囲まれながら手や服を汚す様は、まるでガラスの靴のお姫様のようだが、時間に追われて廊下を走ったのは彼女では無かった。

 

セイア「ハァ……ハァ……ミカ、大変だ!」

ミカ「セイアちゃん!?、廊下走らないよ?」「もうすぐで窓拭き終わるから――」

セイア「――私が代わる!君は急ぐんだ!」

ミカ「え!?な、なにを言ってるのセイアちゃん!?」「取り合えず落ち着いて!急ぐってなに――」

セイア「つい先ほど、強い予感がした!」「先生の命が危ないと――」

ミカ「――」「どこ?」

セイア「ここから北東20km……丘の上にある大きい廃教会だ」「既にアリウススクワッドと自警団の――」

ミカ「――ふん!」

 

ガッシャァァアアアアン!

ミカの拳が、本人が先ほどまで掃除していた窓を、壁ごと粉砕した。

衝撃波によって後ろに靡いた前髪が、戻る風によって定位置に落ち着く。

それもそうなる、壁があった箇所は既に夜空に直通の虚と化していたから。

 

セイア「――」

ミカ「ちょっと行ってくる!」「――窓ふきお願い!」

 

ドゥッ!カシャァァアン!

地面を毛嫌うかのような跳躍で、聖園ミカが中空に飛び立つ。

その衝撃は本館を揺らし、廊下の窓を全て粉砕した。

 

慌てる一般生徒A「うわぁああ!何!?」

慌てる一般生徒B「て、敵襲!?」

セイア「……窓?」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

現在、廃教会礼拝堂。

 

ミカ「先生が危ないって聞いて、超特急で来ちゃった♪」「ちょうどタイミングバッチリみたいだね!」

先生「そうなんだ……」「ミカ……ごめん、巻き込んじゃったね……」

 

結果論としてミカの迅速な判断は最適だったが、立場上は許可が降りないと外出の自由のない彼女にとって、この助太刀は完全なる功績として評価されない。

むしろこれを原因に新たな罰則を付与される可能性すらある。

そう先生は杞憂し、思わず暗い顔で謝ってしまった。

 

ミカ「え?……いやいや!、先生を助けに来たのは私の意思だし!」「……そう!恩返しというか……先生の力になりたくて来たの!」「それにトリニティに関わる問題で指示を出したのセイアちゃんだから、なんとかうまくやってくれるって!」「……だから今は、ごめんなさいは……聞きたくないかな~、なんて☆」

先生「……うん!そうだね!」「ありがとう、ミカ!」「力を貸して!――」

ミカ「えへへっ」「もっちろん!任せてよ♪」

サオリ「ミカ……」

ミカ「サオリ、久しぶり……で、いいんだよね?」「あの時のサオリは……」

サオリ「ああ、その時の記憶は無い」「こうしてお前と会うのも、アツコを取り戻したあの日以来だ」

ミカ「だ、だよね!?あれは流石にちょっと可愛すぎるというか……」

サオリ「そ、そのことについては忘れてもらえると助かる……」

ミカ「……ていうか、すごい怪我してるじゃん!?、アツコたちも!」

先生「サオリ、ここは私達に任せてみんなを――」

サオリ「――すまない、それは聞けない」「こいつは私とミカで抑える」

先生・ミカ「!?」

ミカ「でも、サオリボロボロだし……」「私と先生とのタッグの方が……チラッ」

サオリ「安心してくれ、今アツコの力で回復している……見た目よりは元気だ」「さっきは不意を突かれたが、もう勝つ算段はできている」「特にミカ、お前が協力してくれるなら勝利は確実だ」

ミカ「えぇ~、そんな期待値高く見積もってるの?」「そこまで言うなら……」

サオリ「それにミカが来たという事は、おそらくトリニティの組織のいずれかが動き、ここに向かっているはずだ」「それなら私よりも、先生がアツコ達を引き渡した方が、話が早く済む、それに」「――やられっぱなしは好きじゃない、色々とな」

先生「サオリ……」

ミカ「……わーお、言うねぇ」「そういうの、嫌いじゃないよ♪」

 

肌に伝わるくらい燃え滾る激情が、言葉足らずながらも頼もしそうな根拠の骨を担う。

これを自信と認めるには状況が切迫し過ぎていたが、先生はサオリがただの無鉄砲な行動をすることはあり得ないことを知っていた。

かつてエデン条約襲撃失敗に際し敗走中、仲間をさらわれた時、戦力もままならない中その状況を認め、解決できる手段に仲間のため迷いなく縋れるほど、サオリは判断力と解決力に優れている。

それは責任を果たすうえで、必要不可欠な力であることを先生は知っていた。

 

サオリ「頼む。先生」

先生「……」「分かった……けど、無茶はしないでね!」「すぐ戻ってくるから!」

 

そう託すと、先生がアツコ達を連れて避難する。

その背を見送ったサオリは、自分の我儘を少し恥じるも、好転した戦況に少し武者震いした。

 

レムール「そろそろ、よろしいでしょうかね?」「(シャーレの先生を逃がした……、隠れて指示を出せる場所などないことを理解してのことでしょうか……、ですが……噂通りの性分なら2人を放ったらかしには、しないでしょうね)」「(勝つ算段など言っていましたが所詮ブラフでしょう?……先の戦いで思い知った戦力差からくる絶望を隠して気丈に振舞うとはさすがアリウススクワッドのリーダー)」「(……そういえば、意識が纏まってきたような気が……)」「(ですが、あなただけは耐えられなかったようですね……スズミさん)」

スズミ「(………………)」

 

祭壇に立つ狂気の集合体、力の混沌には次第に秩序がもたらされ始め、ピーキーな出力調整が最適化されつつあった。

正に災厄の擬人化が今、爆発と瓦礫と粉塵が混ざったこの礼拝堂が力場となって誕生したのだ。

不条理を強いる平和の仇敵、立ち向かうは――。

 

サオリ「お前とこうして肩を並べる日が来るとはな」

ミカ「……先生に出会ってなかったら、絶対あり得なかったね」

 

――かつて、トリニティ崩落に手を掛けさせられた2人。

――過去の過ちに自ら絞首台へ進もうとした2人。

そして、そんな断崖から共通の恩人に救われた2人だ。

 

レムール「……第2ラウンド、たったこれだけですか?」

ミカ「ちょっと過剰だったかな?」「ハンデが欲しかったら言ってね☆」

サオリ「聞くだけだがな」

レムール「(なるほど、聖園ミカさん……ティーパーティーの切り札、どれほどなのでしょうか?)」

 

レムールが破片を1つ持ち上げ、宙に放る。

 

ジャギッ!

落下を始めた破片が、ミカの頭と被る位置で――トリガーを引く。

 

サオリ「――!、気を付けろ!」

ミカ「え?――」

 

ドギィゥン!バシィィイイン!

戦いの火蓋がミカの頭部ごと撃墜される。

激しく衝突したことを示唆する破裂音は彼我の戦力差が覆っていないことを告げる宣告のようだった。

 

ミカ「――」

サオリ「ミカっ!」

 

制御を失ったミカの体が、力なく倒れ――。

 

ミカ「いったぁー!」「ちょっとぉ!、痕になったらどうしてくれるのよっ!」

レムール「……え?」

 

――なかった。

それどころか命中した部分、つまりミカのおでこは少し煤けただけで、かすり傷一つできていなかった。

 

サオリ「大丈夫か?、……大丈夫そうだな」「……相変わらずデタラメな防御力だな」

ミカ「もっと心配してよ!?、ていうか気づいたのなら突き飛ばすか庇うくらいしてよ!」「もう、怒った!手加減してあげないんだからっ!」

サオリ「その必要はない……、存分に頼む」

レムール「(ジャブ程度とはいえ、頭部に直撃したはず……)」「どうやらお強いようですね、聖園ミカさん」

ミカ「およ?、やっぱり降参したくなった?」

レムール「いいえとんでもない……こちらとしても、昂ぶる次第です――」「(……最初から本気でいきましょうか!)」

 

バジャッ! 

複数の銃が翼のように展開、サオリ達を打破したあの攻撃がくる――。

 

ミカ「――よっと!」

レムール「!?――」

 

ブォンッ! 

ミカが50cm台の瓦礫を上投げでレムールに投げつける。

 

サオリ「伏せろっ!」

 

ドギギギギギギギィィィィゥン!

射線は即座にミカ達から防御のために、少し上へと修正された。

 

レムール「!、…………チィッ!」「なんて怪力……まさに馬鹿力ですね」

 

瓦礫から2人が頭をひょいと出す。

  

ミカ「……危ないなぁ、おいたがすぎますよー!」

サオリ「ミカ、あの生徒は私の時と同様、現在身体を乗っ取られている」

ミカ「つまりケガはさせたくないってことね!」「でも、サオリと連携するの初めてだし、上手くできるかな……」

サオリ「私が拘束の準備をする。ミカはそれまで時間稼ぎだ」「お互い好きに動けばいい」

ミカ「!……」「――オッケー!」

 

完璧な説明が要らない程に、2人は自分にできる事と、味方に任せられる事を無意識に理解していた。

 

バシュウウウウウウウ!

言葉いらずの連携による、反撃開始の狼煙があがる。

 

レムール「――っ!」

 

サオリ達が隠れている地点でスモークグレネードが発破、サオリが横に飛び出す。

ミカはまだ出てこない。

 

レムール「(二手に分かれた……錠前サオリは気配を隠すのが上手い)」「(……小細工を弄する前に始末し――っ!)」

 

ドゥッ!

煙の中から空気を押しのけ、レムールに向かってミカが飛ぶ。

2人の距離は一瞬で詰められた。

 

ミカ「いっくよー!」

レムール「っ!――」「(接近戦!?銃を使わない?)」「(先ほど同様、拘束を狙って――)」

ミカ「よー、っと!」

レムール「!――(いや、これは……!)」

 

ゴォッ――。

まるで隕石が目の前まで迫ったようだとレムールは感じた。

繰り出されるミカの拳を、レムールが後方に飛ぶことで回避する。

 

ドゴォォォオオオオン!

代わりに拳を受け止めた地面は、爆心地のように弾け飛んでいた。

 

レムール「!……」「この方法が、”本気”というわけですか……」

ミカ「手加減は、期待しないでね!」

サオリ「……ミカの方に気を付けた方が良さそうだな」

ミカ「ふっ!」

レムール「!――」

 

すかさずミカがレムールに接近、ブレーキと同時に体を捻る。

 

ミカ「おいしょっ!」

レムール「くっ!――」

 

ドゴォン!

ミカの、頭部への容赦ない回し蹴りにレムールが受け流すように上体を横に反って回避、近くの柱が消し飛ぶ。

 

ミカ「そーれっ!」

レムール「っ!――」

 

ドゴォン!

右ストレート、しゃがんで回避。

両者の攻防は、形勢が変わることなく続いた。

 

ミカ「ふぅっ!ぬぁ!、……すばしっこいなぁ!」

レムール「ハァ!……ハッ!(この距離では撃てない……!)」「このっ……!」

 

バァン!キィィィイイイン――。

レムールが閃光弾をミカの目の前で発破、両者とも光と音を少なからず食らった。

 

ミカ「わっ!――」

レムール「うぅ!――」「――ふっ!」

 

レムールが後方へジャンプ、ミカとの距離を作った。

 

ミカ「逃がさないよっ!」

 

それを追おうとミカは地面を踏ん張る、レムールはその瞬間を見逃さなかった。

 

レムール「(追ってくるのなら……それを利用するまで!)」

 

近接戦ではレムールが圧倒的に不利、おまけに機動力も向こうに軍配が上がる。

そんな状況に少なからず焦りを覚えていたレムールは、咄嗟に不意を突いた必殺の一撃を思いつき、トリガーに指を掛ける。

 

ミカ「とぉ!――」

レムール「(今だ)」

 

ドギィィゥゥゥン!

ミカが踏み込んだタイミングを計り、地面を蹴った瞬間で弾を発射。

さきほどよりも弾丸の威力を上げ、かつミカ自身の瞬発力で増大させたこの一撃、耐える術は――。

 

ミカ「――あぶなっ!」

レムール「――!?」

 

――ミカが首を傾けて回避する。

 

ミカ「――頭狙ってるの、バレバレじゃんね♪」

 

ドゴォオオオオオオン!

外れた弾丸が地面を爆散させ、ミカを更に加速させた。

レムールが驚いたのはミカの咄嗟の回避もそうだが、それと並ぶほどの理由がもう1つあったからだ。

 

レムール「(――出力が落ちている!?)」「(まさか……!?)」

スズミ「(っ!……)」

レムール「(――いまさら邪魔した所で!)」「――っ!」

 

レムールが閃光弾を取り出し、至近距離で再び発破――。

 

ミカ「させないよ!」

 

ガシィッ!ブォン!バァン!

ミカが空中で閃光弾をキャッチ、地面に叩きつけた。

 

レムール「バカな……!」「(単に火力の話じゃない!、そもそもの戦闘技術が――高い!)」

 

距離が無に近づく。呆気の取られている暇は――。

 

ガシィッ!

 

ミカ「捕まえた!」

レムール「んぐっ!」

 

ミカが空中でレムールの上半身を捕え、そのまま後方に持ち上げる。

 

ミカ「ちょ~っと痛くするからねー!」「せぇの!」

 

ドゴォォォオオオン!

ミカ懇親のブレーンバスターにレムールは抵抗するまでもなく、激しく肢体を地面に叩きつけらた。

 

レムール「ガハァ!――」

 

地面に亀裂が走り、建物全体が揺れる。

 

レムール「ア、ハァッ……!アァッ……!」

 

想定以上の衝撃に身体から操作する権利をはく奪され、今にも消えてしまいそうな景色に1秒でもと縋っていた。

 

レムール「(マズい……!意識が持たない!……終わり?終わるの?……もう諦めて――終わっちゃダメなんだよ?)」「(ここで邨ゅo縺」縺。負けたら――、続けなくていい――、もう間に合わな繧?ム繝。)」「(縺ェ繧薙□繧茨ダメ、ダ医oシ溘b縺?俣縺ォ蜷絶対縺ェ縺メ!!!!――もう上↑縺止めて――終われ」縺。繧?ない!)」「(起≧繧薙□繧きろ!――も茨シ溘ムう立ち上繝。縲√がらな◎繧薙↑縺ョ邨カ蟇セいで――邪繝?繝魔しな。??シいで!!!)」「(こ?シ?シこま√%縺薙〒でだ邨ゅo繧よ――足りな翫↓縺ェ繧い、全然薙※縺ァ縺阪足↑縺?シ∬オキりない!!!――よく頑縺阪が張っm??たよ)」「(私鬲斐@縺があェ縺?〒?の子を――どうし?シ?シてそ∬カウ繧こまで――助翫↑縺け??∝?辟なカ雜ウ繧いと翫↑縺?シ?シ?シ∫ァ√′縺ゅ?蟄舌r蜉ゥ縺代↑縺?→??シ?シ∫オカ蟇セ荳?邱偵↓繝代Φ繧ア繝シ繧ュ鬟溘∋縺ォ陦後¥繧薙□縺九i?!!!)」「――――――――――――――――――――――――――――――――――」

 

レムールが力なく地面に倒れたままでいる。

 

ミカ「……ヤバッ!ちょっとやりすぎちゃった!?」「大丈――」

 

バンッッ!!キイイイイィィィィィン――。

ミカが油断して近づいたその時、レムールが閃光弾を持ったまま起爆、諸に閃光の威力を食らった。

その隙を逃すまいと身体を立たせ、撃鉄を起こした。

 

レムール「くぅ!……うぅゥゥぉぉオオオ!」

 

ドギギギギギギギィィィィゥン!

災厄の執念が星を撃ち落とす。

 

ミカ「――」

レムール「まだ!!」「こんなところでっ!!!!」

 

バスバスバスバスッ!

慟哭に近しい怒声を合図にしてか瓦礫の中から四ケ所の破裂音、そして――。

 

シュギィルルルルル!

 

レムール「な!?」「――これは!?」

 

ガシィィンッ!ガチャァン……。

 

突如四方から伸びたワイヤが意思を持っているかのようにレムールの腕や胴体に回り、上半身の自由を奪う、銃もその手から離れていった。

 

レムール「いつの間にこんなっ……!」「(執拗に近接戦を仕掛けていたのは、これに私が気取られないように……?)」

ミカ「サオリー、ぐっじょぶ……!」

サオリ「お前もだ。ミカ」

レムール「ふんっ!…………ぬぅっ!」「うぁぁああああ!!!」

 

ギシィィンッ!ギギギギギギ!

ワイヤは文字通りビクともしない、まるで建物と一体化させられたようにレムールは体を動かせないでいた。

 

レムール「クゥッ!……こんな……拘束ごときでっ……!」

サオリ「暴れても無駄だ」「対聖園ミ……対規格外キヴォトス人用の拘束具だ、それを自力で解ける奴を私は知らない」

 

サオリはそう言いながら、レムールに鎮静剤を投与する。

 

レムール「やめっ!こ、ん……な……」

 

遂にレムールの意識が途絶え、そのまま拘束具に身を預けるようにぐったりとした。

 

サオリ「これで目が覚めた時、守月スズミの意識も戻るはずだ」

ミカ「つ、疲れた~!」「イタタ……掃除からここまでの移動も含めて、もうクタクタだよ……」

サオリ「アレを受けてその程度とは……、相変わらず頼もしい限りだ」

ミカ「ちょっとどういう意味~?」「ていうかサオリ……、さっきもしかしなくても『対聖園ミカ用』って言いかけてなかった?」

サオリ「……そんなことはない」

ミカ「言いかけてたよねっ!?」「以前、私にボコボコにされたこと、まだ根に持ってるの!?」

サオリ「根に持ってなどいない!あれは……アツコが攫われていたし、アリウスの兵士と連戦続きだったから……」「万全なアリウススクワッドなら、あの時のお前など敵ではなかった!」

ミカ「やっぱり根に持ってるじゃん!」「ていうか、こんな便利な物があるなら最初から使いなよ!」

サオリ「設置に時間がかかるうえに遮蔽物も無かったから仕方無かったんだ!」「それよりも、今日起きた一連の事件の犯人がすぐ傍にいるはずだ!」「早く身柄を――うぐっ!」

ミカ「もー!やっぱり無理してたし!」

 

功労者達がやいのやいの言い争っていると。

革靴と地面とが作る反響音が急速に近づいてきた。

 

先生「2人とも!大丈夫!?」

サオリ「先せ――」

ミカ「あ!先生!やっほー!」「ちゃんと無事だよー!この子もー、ほら☆」

 

アツコ達を預け、すぐ現場に戻ると戦闘が終了しており、ミカが指し示す方に蹲るスズミの姿があった。

 

先生「スズミ……」

サオリ「大丈夫、眠っているだけだ」

先生「サオリ、ミカ、本当にありがとう……」

サオリ「このくらい問題な……」

ミカ「えへへ~!」「ぜぇんぜん!このくらい何とも無いよぉ!」

サオリ「……」

先生「ふ、2人ともボロボロじゃないか!早く治療しないと!」「歩ける?、肩貸そうか!?」

サオリ「な!、大丈夫だ。これくらい……」

ミカ「私もぜんぜん大じょ……――!」

 

その時ミカに電流走る。

先生にくっつけるチャンス、上手くいけばお姫様抱っこのチャンスと気づいたのであった。

 

ミカ「ワ、わたしもうダメ~。一歩も動けなよー」「だからその……先生、助けてほしいな~……なんて」

サオリ「……な!?」

先生「わかった、しっかり捕まってね」

ミカ「へ、い、いいの!?」

先生「いいって?……」

ミカ「あ、いや!なんでも……お願いしま――」

 

ガシッ!

 

先生が差し伸べた手は、ミカに届くことは無かった。

なぜなら――。

 

?「救護なら私におまかせを」

 

先生よりも早くに助けを求める声に応えた者が来ていたから。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

少し前、サオリ達に逃がされた先生たちは、すっかり暗くなった来た道を戻っていた。

先生はアツコを抱え、ヒヨリはミサキに肩を貸していた。

 

先生「はぁ……はぁ……みんな頑張って……!」

 

アリウススクワッドの一刻も早い介抱、暴走する守月スズミの制圧。

この両方を解決するために先生は2つの事を信じることから始めた、1つはサオリの執念と省察、もう1つは――。

 

先生「もうすぐだよ、みんなっ……」「きっと来てるはず……!」「やっぱり、来てくれた!」

 

暗い景色の中を進む先生たちの前に、大きい翼と盾を持つ少女のシルエット。

大怪我を負った者を瞬く間に癒すことのできる、この場に絶対不可欠な存在だ。

 

?「先生!」「それに……この方たちが協力者の……?」

先生「そうだよ、みんなをお願い!」

?「あ!せ、先生!」

 

先生はそそくさと踵を返す、既に走ることもままならない程体力を消耗していたが、それでも体を走らせた。

大事な生徒達がまだ残っている、歩いている暇などないと。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

サオリ「いつの間に!……」

ミカ「へ?ミ、ミネ団長!?」「なんでここにいるの!?」

先生「ミネ!アツコ達は?」

ミネ「ご安心を、もうすぐ搬送が完了し、本格的な治療に移る頃合いです」「先生のご様子から更なる救護の必要を予感し、参りました」

サオリ「どういう行動原理なんだ……」

ミネ「必要な時、場所、瞬きの余暇も許さず駆けつけるのは救護の基本です!」「歩けない程の重傷の者がいるなら、なおの事!」

サオリ「ど、どういう基本なんだ……?」

ミネ「お話はここまで、救護騎士団、これより重傷患者を救急搬送します!」

 

グイッ!ポスッ!

そういうとミネは軽々とミカを持ち上げ、そのまま肩で抱えた。

少し企んだミカへの罰と言わんばかりにお姫様抱っこならぬ、お米様抱っこの刑である。

 

ミカ「わぁー!?ミネ団長!?先生の前でやめてー!!」

ミネ「暴れないでください、ミカ様!それと……」

 

ミネはサオリをジッと睨む。

サオリ「!、(まさか私の事がバレ――)」

 

サオリは身構えた。

踏む潰されるのではと思うほどの迫力を前に、トリニティから自分たちが敵視されている現実を思い出し――。

 

ミネ「あなたも救護対象です!」

 

グイッ!ポスッ!

そう言うとミネは、ミカの時と同様サオリを軽々と持ち上げミカとは反対の方の肩に担いだ。

 

サオリ「な、どういうことだ!?」「わ、私は平気だ!降ろしてくれ!」

ミカ「うわー!見ないで先生ぇ!」

ミネ「お2人とも、お静かに!」

 

雲の1つにさえ濾過されない煌びやかな月光は、廃墟になるほど熾烈を極めた礼拝堂での戦績と、本日のMVP2人のあられもない姿を鮮明にするスポットライトと化していた。

 

先生「サオリ」「大丈夫、私を信じてこのままトリニティで治療を受けて」

サオリ「せ、先生……」「……わかった」「っ!、レムールが!、一石セラがすぐそばに!」

先生「それについても大丈夫、後は私に任せて」「ミネ、2人をお願い」

ミネ「当然です、おまかせくださ……」

先生「?、……ミネ?」

 

ミネの鋭い双眸が先生に照準を合わせた。

 

ミネ「先生もです!」

先生「え?……」

 

確かに先生も先の戦闘で多少の傷は負った。

でもそれは擦り傷程度の……。

 

ミカ「わ!先生傷だらけじゃん!暗くて全然気が付かなかった!」

先生「え?……え?……別に、大したことないよ……?」

 

先生は気付かぬ間に重傷を負っていた、訳では無い。

2人に比べれば驕りなく、本当に軽傷も良いところだった。

 

サオリ「せ、先生!……今すぐ処置を!なんてことだ……私は、なんて!……」

 

サオリが今日で最も、な動揺を見せる。

 

先生「いや、本当に大丈夫だから!?」

ミネ「セリナ!」

セリナ「すでに!――」

先生「わ!セリナ!?」

 

先生が気づく間もなく、虚空より主治医が隣に現出していた。

 

セリナ「行きましょう先生!、歩けますか?」

先生「わ、私は大丈夫だって!」「それよりもスズミが!――」

?「それは私たちが!」

 

声を元に暗闇から2人の人影が見える、月明りに照らせても尚影と同等に黒い服装、正義実現委員会のハスミとツルギだった。

 

先生「2人とも、どうしてここに!?」「!、もしかしてセイアが……?」

ハスミ「い、いえ……」

 

少しバツの悪そうな顔をした2人がここに来た理由を話し始める。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ミカがセイアの言葉を頼りに、現場へと向かった直後。衝撃音とそれに慌てる生徒達の声が丁度届かない生徒会室にて。

ナギサは独自で動いているセイアからの報告書を片手に今日トリニティで起きた事件を振り返り、これから来る事件の顛末に対し予想以上の被害か、はたまた呆気ない鎮静かどちらにしても事の始末をより効率的に遂げられる方法を複数のパターンで考えこんでいた。

 

ナギサ「………………」

 

周りの側近がつばを飲み込む音でさえ躊躇うほどの張り詰めた空気の中で、ナギサは自身の僅かな休息を許し、紅茶を口に含む。

 

フィリウス派側近「ナ、ナギサ様……先ほど、ミカ様が本校を脱走したとの報告が」

ナギサ「――ンブフッ」

 

ピロッ!

むせると同時にセイアからのメッセージが画面に通知される。

 

セイア「《ナギサ、光陰か矢と言うべきか、とにかく慌てずに受け入れて欲しい、私が必要と判断し今しがたミカを向かわせた》」「《予め誤解を解いておくとこれはトリニティの存続と先生の存命に関わることなんだ、また後で詳しい説明を――》」

ナギサ「……」「………………」

 

パチンッ!

ナギサが何も言わずに指を鳴らす、その合図に側近が慌てた様子で白と金で装飾されたダイヤル式の電話機を持ってくる。

 

ガチャン!ジーガー!、ジーガー!

些か乱暴にかつ無駄のない動作がナギサの内なる怒りを醸し出し、周りの側近はその余波に怯んでいた。

 

ジリリリリリ、ガチャ!

ワンコール以内に受話器が取られる。

 

ハスミ「ハスミです」

ナギサ「ツルギさんもそちらに?」

ハスミ「はい、この電話機をお使いになるとは、もしかして今しがたの……」

ナギサ「ツルギさん、ハスミさん……お2人に内命を伝えます」「今すぐミカさんを連れ戻してくださいっ!!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ハスミ「ですが今の様子で察するに、先生の指揮下に加わった方がよさそうですね」「スズミさん並びに、容疑者の身柄は私たちにおまかせください」

ツルギ「せ、先生の安全が最優先です……」「お、お任せくださいっ!!」

 

現在アロナとプラナは先の防御で休止中、その事を先生は思い出す。

 

先生「分かった……ありがとう、そうしてもらえると助かるよ」「ナギサには私の方から連絡を入れておくね」

ハスミ「はい……っ!、先生そのお怪我は!?」

ツルギ「――!?せ、せせせせせせ!?怪我ああああああああ!!??」

ハスミ「今すぐ医務室へ!」

ツルギ「ギイィィィヤァァアアアア!?」

セリナ「行きますよ、先生」

先生「………………」

 

キヴォトスでたった銃弾1発で死にかける方にも非はあるのだろうが、さすがに認識の差異を先生は痛感した。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ツルギ「報告の内容では容疑者は2人以上、”ラキュラーの詩書”と呼ばれる人の身体を乗っ取る道具を今も所持している……」「注意しろハスミ、まだ何か仕掛けてくるかもしれない」

ハスミ「ですが、ここで確実に決着を付けましょう」「今朝の事件から被害者も出続けています……」「スズミさん……、あなたまで……」

 

先生たちが搬送された後、すっかり静けさを取り戻した礼拝堂のほぼ中心で、ハスミはスズミの身を案ずると同時に自身の無力さを恥じていた。

 

ツルギ「……そっちから来るとはな」「数時間ぶりか?フールズ・メイト……」

ハスミ「っ!」

 

祭壇の奥、1人の少女が空にした両手を上げて歩いてくる。

 

?「ご推察の通り、私が事件の首謀者です」「自首。させてもらえませんか?」

ハスミ「手札が尽きたら潔く降参……」「人々の身体を弄んでおいて、自身の身体は大事になさりたいと……!」

 

ハスミは憤っていた。

自らの手を汚さない狡猾な手口、そしていざ自身が危ぶまれればかすり傷1つなく済まそうとする魂胆、総じて卑怯な犯人の振る舞いに拳を握らざるを得なかったのだ。

 

ツルギ「よせ、ハスミ」

ハスミ「!……」

ツルギ「抱え込んだ感情を発露した故の行動は、たとえ結果論に繋がったとしても、それは正義とは言えない」「お前もよく分かっている事だろう?」

ハスミ「……はい、すみませんツルギ……少し取り乱しました」

 

ハスミは、口調こそ落ち着かせたものの、鬼気迫る表情だけは直せないまま、祭壇の方に目を向けた。

 

ハスミ「自首を受け入れる前に、あなたが本当に事件の容疑者である証拠を確認させていただきます」「……あなたは何者ですか」

 

言い淀む様子もなく、犯人を自称する少女は告げる。

 

フラン「土彫(つちぼり)フラン」「トリニティ総合学園1年生、同学園1年生の生徒を利用して、本事件を引き起こした首謀者です」

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