猛禽類系先生   作:オーラクル

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 ハクトウワシのハクト先生、という文言がいきなり脳内に生えたから書きました


プロローグ
猛禽類系先生


 文句の一つや二つ言ってやりたい相手と対面した時、その相手がこちらの予想外な格好や姿をしていたらどうなるのか。

 あまりの情けなさや意表を突かれて怒りが吹き飛んでしまうのか。それとも逆にそれ等が火種となってより怒りが激しくなるのか。

 

 そこは個人差があると言われてしまえばそれまでの話だ。物事の考え方や感じ方には確かに個人差があり、数学の数式のように定型的なものではない。

 そうなると実体験に基づくしかないのだが私 早瀬ユウカは前者であった。

 

「……あの、代行? その右腕に止まっている鳥は」

 

 どこに居たのか探し回ってやろうかと思った連邦生徒会長の代行 七神リンは見慣れた白い制服姿とは不釣合いな、大きい茶色の革手袋をはめていた。

 寒い時に手袋を装着するのは分かるがそんな季節では無い。仮に寒い時期だとしても、暖を取る為の道具としては大き過ぎる。

 

 それだけでも猛烈な違和感があったが、それが霞んで思えてしまうくらいのインパクトが手袋の上に乗る鳥から放たれていた。

 

 実物を見た事は無いけど知識として知っている。ハクトウワシだ。

 黒いペンキを被ったかのように黒一色で、嘴と脚部は鈍い紅色をしている。

 鉤爪は薄灰色で瞳はコバルトブルー。白頭鷲と言う割には白要素が欠片も無い。

 翼は畳まれているがかなり大きく、目算で翼開長3mはあるかもしれない。

 首からは用途こそ不明だがタブレットらしき端末が下げられている。

  

『……』

 

 ハクトウワシは首を動かして私達を見回すような仕草をすると、静かに頷いて翼を広げた。

 大きい。目算は外れた。

 3mなんかじゃきかない。5mくらいはある。

 

 たったそれだけの仕草で私は圧倒された。変な汗が滲み出てきて、自然と握り込まれていた拳の中が湿ってくる。

 仮に襲われていたらひとたまりもない。あの鉤爪で引っ掻かれでもしたら……想像するだけで肝が冷える。

 

 私だけでなくゲヘナやトリニティから来た来訪者達も圧倒されている様子だったが、代行は慣れているのか様子に変化がない。

 左肘に引っ掛けていた生肉の入ったバケツを置き、左手に持つトングでもって1つの生肉を拾い上げるとハクトウワシの前へと運ぶ。

 

「彼女は連邦生徒会長が保護し一時的に育てていたハクトウワシのハクト先生です。ハクト先生は現在行方不明となっている連邦生徒会長が指名した人物であり、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました」

 

 生肉を飲み込むハクトウワシに視線を向けたまま爆弾発言をシレッとするものだから、ツッコミを忘れそうになる。

 連邦生徒会長が保護して育てたハクトウワシが先生?

 しかも連邦生徒会長が現在行方不明?

 そんな連邦生徒会長が指名した人物?鳥なのに?

 色々と問い質したいが大声でも出せばハクトウワシことハクトの機嫌を損ねてしまうかもしれない。

 言葉を選び、声量に気を付けなければ。

 

 背中を伝う汗がもたらす気持ち悪さから目を逸らして次の言葉を考えていると、ハクト先生の首に下げられているタブレットの画面が点いて文字を表示する。

 

『こんにちは』

 

 いきなりの挨拶に思考が止まった。

 こんにちは?

 こんにちはって何?

 いや、こんにちはって何?じゃないわよ!

 こんにちはは挨拶じゃない!

 え? ハクトウワシが挨拶したの?

 

 混乱しては自己解決し、その自己解決が別の混乱を呼び込む。

 

『私はハクト。彼女の頼みでキヴォトスに来たの。ヨロシクね』

 

 巨体と色合いからすごい威圧感があるのに、タブレットの画面に入力される文字は柔らかい文体でギャップがある。

 

 鳥なのに私達と同じ言葉を使っている?

 どうやって文字を入力しているの?

 この文章はハクト先生の思考をリアルタイムで反映しているの?

 

 ギャップと混乱によってしどろもどろになりながらも私は口を開いた。

 挨拶をされたのだから返さなければ、という当たり前の思考を鳥相手に用いたという事実に更なる混乱を招きながら。

 

「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの……い、いや、挨拶なんて今はどうでもよくて!」

「うるさい人は気にしなくて良いですよ先生」

 

 勢いに飲まれたが今は呑気に挨拶なんてしている場合ではない。当初の目的を果たすのが最優先だ。

 頭を振って混乱を無理矢理に振り払っていると酷い割り込み方でリン代行が割り込んで来た。

 ハクト先生もその割り込み方には思う所があったのか首を傾げて見せる。

 

『リン。それはダメだと思う。もっと優しく、ね?』

 

 リアルタイムで思考を反映していると見るべき文章に私は小さな声を漏らした。

 

 凄い技術だ。動物の思考を文字として表現する技術はミレニアムサイエンススクールでもまだ確立されていない。

 シチュエーションから適切な文章を自動で生成している可能性もあるが、それにしては生成される文章がやけに自然体に思えてならない。

 

「ですが先生。彼女がうるさいのは今に始まった事では」

『謝らないと、メガネ割るよ?』「ごめんなさい」

 

 右足を持ち上げて鉤爪を開閉させる仕草を見せるとほぼ同時にリン代行が頭を下げた。

 弁明中に言葉を被せるなんて芸当やメガネを用いている人物に効果テキメンな文言を選ぶなんて、本人の意思のリアルタイム反映以外でできるとは考えにくい。

 

 私以外の来訪者達も目の前の光景に言葉を失っている。

 ハクトウワシにしては体色が異常で体も大きく、私達と文字を用いての意思疎通が可能。

 いきなり見せられたせいで半ば強引に受け入れさせられていたが、冷静になって見れば異常な光景だ。

 

『皆もゴメンね。リンちゃんはちょっと当たりが強いというか、口調が強いというか……悪い子じゃないから』

 

 その異常な光景を生み出している元凶のハクト先生は私達に向けて頭を下げる。

 表情は変わらないが雰囲気で申し訳なさそうにしているのが伝わって来て、ますます人間味が感じられて違和感が強まる。

 悪い人では無いが、そもそもハクト先生は人では無いからこの表現が合っているのか分からない。

 

『改めて、これからヨロシクね。先生として、バリバリ頑張るよ!』

 

 先生として頑張るとハクトウワシが張り切っている光景に、私の困惑はますます強まって行った。

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