猛禽類系先生   作:オーラクル

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アビドスに来た猛禽類

『ピイィィイイイイーーーッ!!!!』

 

 大きく雄大な鳴き声が乾いたアビドス高等学校の校庭で高らかに響き渡り、巨大な影を砂の上へと落とす。

 聞いただけで体は竦み上がる。何かを持っていればそれを胸へと抱き込み、何も持っていなければ己の握り拳を同じように抱き込む。

 校舎の強奪とそれを阻止するアビド廃校対策委員会の対応へ意識を割いていたスカタカタヘルメット団は、横槍を入れるように響き渡ったその鳴き声に怯まされた。

 

 そこへ声の主が舞い降りる。

 キツネやネコといった動物の身体的特徴を有する生徒もいるキヴォトスでも未だに発見例の無い、他者の命を容易く奪い取れる鉤爪と嘴を晒しながら。

 

「く、黒いワシ!?」

「ねぇ、このワシってもしかして例の『先生』って奴じゃない!?」

 

 自分達が身を守ると共に敵を倒す為に欠かせない武器へと視線を移すハクトを前に、カタカタヘルメット団がにわかに沸き立つ。

 

 前触れなしに行方不明となった連邦生徒会長が指名した先生が猛禽類だった。

 それも異様にデカくて異様に賢い猛禽類である。

 

 もっとまともな嘘を吐けと言いたくなる衝撃的な事実がキヴォトス全土に駆け巡ってはや数日。ある程度の日にちが経てば混乱は収束しそれに伴って事実も広まるというもの。

 連邦捜査部シャーレの先生としてハクトが就任し、本格的に活動し始めた事でその実態が世間に明らかになっていった。

 

『ピィイイィィーーッ!!』

「「ヒィッ!?」」

 

 再び鳴き声を浴びせた。

 目の前にいきなり翼開長5mもの巨大な猛禽類が現れて鉤爪と嘴を見せびらかし威圧してくる。

 引き金が非常に軽い不良生徒でも思わず一瞬硬直してしまう出来事であり、ハクトの狙いこそその一瞬の硬直であった。

 

 2回目の鳴き声を浴びせずとも十分に無力化は狙えるが、相手に怪我をさせてしまうリスクを最低限のものとする為に一瞬の硬直をより長いものとする。

 驚きや怯えを抱いた際、人間は小さく体を縮ませてしまう。自ら目を閉じて視覚を塞いでしまい顔を背ける、防衛本能が作動して咄嗟に出てしまう決定的な隙。

 

 そこに飛び掛かり、巨大な鉤爪を用いて最前列のカタカタヘルメット団が装備していたショットガンとアサルトライフルの強奪を試みた。

 

「なっ!? 武器を取るつもり!?」

「やめて! 離して!」

 

 武器に掴み掛かられて引っ張られる感覚がカタカタヘルメット団に武器を奪うつもりだと理解させて抵抗を試みる。

 武器を失えば生身で自分より巨大な猛禽類を相手に立ち向かう事になるからだ。

 

「させないよ」

 

 たたたたんッ、という小気味よいアサルトライフルの銃声。

 ハクトと武器の取り合いをするカタカタヘルメット団の足元に銃弾が撃ち込まれ、小さな砂の柱が立ち上る。

 

『この子達の足止めをお願い、ノノミちゃん』

「はぁ〜い☆」

 

 耳に装着しているインカムから聞こえる指示に十六夜ノノミが掛け出すと、女子高生が装備するにはあまりにも不釣合いなガトリングガンの引き金を引く。

 ダララララララッ、という凄まじい銃声と弾丸の嵐が他のカタカタヘルメット団を襲って身動きを封じる。

 

『セリカちゃんはシロコちゃんを、ホシノちゃんはノノミちゃんの援護に回ってあげて』

「言われなくても行くわよ!」「うへぇ〜」

 

 シロコは小回りが利くからセリカが援護射撃をすれば十分。

 ノノミは小回りが利かないからシールドを装備するホシノが援護する。

 武器の取り合いをしながらも冷静に生徒の装備する銃器の特徴から相性の良い組み合わせを選び、指示を出す。

 

 その間も武器を取られまいと懸命な抵抗が続いたが、指示出しから目の前の相手へ意識を切り替えたハクトの力はただの女子高生がどう頑張っても抗えるものでは無い。

 あっさりとショットガンとアサルトライフルは奪い取られる。

 取れたての獲物を強く握り込むと上空へ飛び上がり、薄氷でも握ったかのように握り潰してしまった。

 

「「……へ?」」

 

 装備していた銃火器はキヴォトス内で普通に流通している安物とはいえ、火薬の炸裂に耐えられるだけの強度はある。

 それを容易く握り潰してスクラップにしてしまう光景に空いた口が塞がらない生徒をハクトは『無力化した』と認識し、次に狙うべき相手を見定める。

 

『アヤネちゃん。セリカちゃんがそろそろ弾切れを起こすから弾薬補給をお願い。シロコちゃんの分も同時に出来る?』

「は、はい! お任せ下さい!」

 

 後方支援を担当するアヤネへの指示も忘れない。

 前線で戦う生徒一人一人の銃声を認識して聞き分け、本人の性格や銃器の構造を加味して弾切れを起こしそうな生徒を見分け伝達する。

 

 相手を萎縮させる存在感と相手を無力化する確かな実力。

 それと上空から戦況を観察して適宜指示を出す指揮能力を持ち合わせる司令塔の出現により、校舎強奪を目論んだカタカタヘルメット団は見事なまでの返り討ちに遭うのだった。

 

────────────

 

「……驚いた」

 

 カタカタヘルメット団による襲撃の数時間前のこと。

 

 普段通りの通学路を自転車で移動していた砂狼シロコの意識を引いた存在はガードレールの上で羽を休めているようだった。

 翼を折り畳んでいるのに自分より大きいように見えるハクトウワシが居る。

 日差し対策なのか白いテンガロンハットを被り、通り掛かったシロコの顔を興味深そうに見つめている。

 

 予想外の遭遇にシロコは湧いた感想をほとんど反射的に放っていた。

 このハクトウワシが何者なのかは噂で聞いている。外の世界からやってきた『先生』と呼ばれている人物だと。

 

 自然と背筋が伸びた。

 何か威嚇行為をされたのではなく、その鋭ち視線を前にすると無意識に良い格好を取っていた。

 

「お、おはよう。ハクト先生……だよね?」

『おはよう。そうだよ。私がハクト、ヨロシクね。君はアビドス高等学校所属の砂狼シロコちゃんだよね?』

 

 首からぶら下がるタブレットに表示される文章に誤りはない。こてん、と小首を傾げる様が見た目と反して可愛らしい。

 シロコが頷くと嬉しそうに首を上下に振り、右足を口元まで運ぶ。

 

 一目で容易く人を殺せると理解させられる威圧感と迫力のある鉤爪によってガッシリと握り締められていたのは、とても見慣れた水入りのペットボトル。

 そこら辺に設置されている自動販売機で100円か120円くらいで普通に売っているソレを、ハクトは器用に自分で開けた。

 キャップを嘴で咥えると足に捻りを加える。簡単に握り潰せてしまえそうなものを絶妙な力加減でホールドし、中に詰まった水を飲む。

 

『砂漠は暑いって聞いていたけど想像以上だね。自動販売機に感謝感謝だよ』

「……先生って、なんだか人間みたいだね」

 

 暑いから、喉が渇いたから、だから水を飲む。

 人間だろうと動物だろうと理由とそれに伴う行動としては自然なものだが、ハクトウワシが自分でペットボトル開けて水を飲む姿が異様なまでに人間臭かった。

 またしても思った事が反射的に言葉として放たれる。

 ギリギリ失言として取られても文句の言えない発言だったがハクトは機嫌を損ねた様子がなく、器用にキャップを締める。

 

『私は連邦生徒会長に助けられて、怪我が治るまで面倒見てもらったからね。その中で彼女を観察して自然とそれっぽいモノを身に付けただけだよ』

 

 人語を理解している時点で当たり前なのだが、ハクトは高い知能を有している。

 タブレット経由で文字を用いたコミュニケーションを取り、ボールペンを用いて書類関係の仕事も問題なく進行可能。

 

 色合いや体格からは一旦目を逸らし、同族であるハクトウワシと比較してもその知能レベルの高さは相当なものだ。

 そんな存在が見て覚えたと言っても説得力が無い。

 生まれた時から出来たと言われた方がシロコは納得出来た。

 

『おっと、ゴメンね。通学の途中だったのに引き止めちゃって。私もアビドス高等学校に用事があるから着いて行って良いかな?』

 

 左足に巻き付けてある腕時計を見て時間を確認する。

 鳥が時間を理解している。それも感覚的にだけではなく視覚的に理解している。

 変な夢でも見ているような光景にシロコの頷きはぎこちない。油の切れたロボットを思わせるガクガクっぷりだ。

 

『全速力でぶっ飛ばしてイイよ。合わせられるからさ』

「ん……分かった。振り切られないでよ」

 

 そこに全力で走って良いと言われれば食い付かない手はない。

 見慣れない光景に混乱する頭を冷ます為にもシロコは姿勢を整え、全力でペダルを漕ぎ始めた。

 それをハクトが追跡する。念の為に1m前後の間隔を開けつつも、ピッタリ後方に着けて追い掛ける。

 

 通学前でありながらぐっしょりと汗ばむオオカミとワシの追い掛けっ子は、こうして幕を開けたのだった。

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