Re:Re:Re 魔女ノ魔法裁判   作:終滅の大魔女

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裁判前①-3 決裂した友なる情

 私にとって桜羽エマはどんな存在だったのでしょうか。友人? 親友? 恩人? どれもその通りであり、けれど、どの言葉も合っていないと私は思います。私にとって桜羽エマという少女は、とてもではないけれど言葉では表せない……千の言葉を尽くしても足りないほどに、圧倒的で絶対的な『大切』でした。

「エマっ、エマッ‼︎ ああ、どうしてっ⁉︎」

 エマは弱い人でした。ヒロとは比べものにならないほど『か弱い』少女でした。私に対するいじめを止めることはできず、だからといって抗する勇気もなく、現状を変えることのできない『傍観者』……。それが、桜羽エマでした。

 けれど、私はそれでよかった。私には……それでも十分だったのです。

 生まれた時から私は『ツミビト』でした。ただそこにいるだけで周りに不幸をまき散らすゴミニンゲン……それが私でした。

 母は、私を産んだせいで死にました。特別身体が弱かったわけでも負担のかかる出産だったわけでもありません。なのに、私を産んだショックで母は死にました。父は私を責めませんでした。仕方のないことだと。私が生まれてくれて嬉しいと。お母さんの分まで元気に生きようと。そんなことを言ってくれました。

 最初は。

 初めは、そうでした。

 『化け物だ』

 通った道の花々が枯れました。木の根が腐って倒れてきました。蓋のないマンホールに先生が落ちました。

 通っていた幼稚園が殺人鬼に襲われました。転校先の保育園が放火されました。その次の幼稚園では謎の感染症が広まりました。

 一緒に下校した友人が交通事故にあいました。父親の友人が一家心中をしました。世話をした動物に蛆虫が沸きました。

 『お前は化け物だっ‼ 母さんは、……こんな化け物に産み殺されたのかっ‼』

 父は、私の首を絞めながら言いました。涙を流しながら私の首を絞めて、絞るように叫びました。

 私はそれに抵抗をしませんでした。

 客観的に見て、父の言う通りだと思ったからです。ただ、生きているだけで迷惑をかけるニンゲン。いえ、ニンゲン未満。それが私なのは事実だと思ったからです。

 私のせいでたくさんの人が不幸になりました。私が生まれなければ、父はまだ母と共に幸福な毎日を過ごすことができたでしょう。

 その日々を奪ったのは、他でもない私でした。

 『生きてちゃいけない! 生まれたこと自体が罪なんだ!』

 むしろ、よくここまで我慢したと父を褒めるべきでしょう。職を追われ、周囲から孤立し、逃げるように、隠れるように毎日を過ごす羽目になった父。そんな生活が十三年間も続いていました。父はよく言っていました。『ユキは私たちの大切な子供だから』と。きっと、そうやって自分を奮い立たせてきたのでしょう。どんなに私が──たとえ私自身が何をしていなかったとしても、迷惑をかけたとしても、それでも父は私を常に庇ってくれました。『ユキは私たちの子供だから』と。

 父は間違いなく私を愛してくれていました。そこに否定の言葉は挟めません。最終的に私を殺す決断をしたのだとしても……間違いなく父は、こんな私を愛してくれていました。生きているだけで不幸をまき散らす、私を。

 『死んでくれ! 死んでくれ! 死んでくれ! 頼むから』

 人が人を殺すのは、罪でしょうか。そこにどんな理由があろうと、罪なのでしょうか? 例えば今にも核の発射ボタンを押そうとする人を殺すのは? それがより誤ったことを正すための、より大勢を救うための決断だとしても、罪なのでしょうか。

 例えばそれは介護疲れによって実親や実子を殺す家族のように。

 責められるわけがありません。父は、懸命に頑張ったのですから。

 こんな私を生かすために。こんな、死んで当然の私を生かすために。

 『()()めっ‼ 魔女めっ‼ 魔女めっ‼』

 私のせいです。

 全部、私のせいだったのです。

 何もかも、私の責任なのです。

 一つ残らず私が悪いのです。

 そう、だから。

 

 ──────エマが死んだのも、きっと私が悪いんです。

 

(どうして、エマが……)

 私はピクリとも動かないエマを呆然と見ていました。死んでいます。間違いなく死んでいます。呼吸音も聞こえず、胸の上下も見られない。シーツを染める赤に、彼女自身に付着している大量の赤……。これで生きていられる人間なんているはずがありません。

 大切な、親友でした。いじめを受けていた私をエマは『傍観』していましたが、それでも大切な友達でした。

 放課後、いつも『ごめんなさい』と涙を流して謝ってくれたから。

 時々、周りの人にばれないようにプレゼントをくれたから。

 本当に辛い時、屋上で頭を撫でて抱きしめてくれたから。

 エマに現状を変える力はありませんでした。『気持ち悪い』私を表で庇うことなんてできるわけもありません。だからエマは裏で私を助けてくれました。それがどれだけ救いになっていたのか、エマには分かるはずもありません。

 エマがいなければ、きっと私は自殺していたでしょう。

 ──────桜羽エマは、私にとって神様みたいに大切な……恩人でした。

「────────────…………」

 そっと、その肌に触れます。もう、声を聴くこともできないあなたの肌に。

「っ」

 堅く、固く、硬く、もう動かない肉体。……自殺ではないでしょう。間違いなく殺人でしょう。エマはそんな子ではないことを私は知っています。なら、問題は誰が、どうして、どうやって殺したのかということです。

 そして当然……。

(……まだ、温かい)

 何かの本で読んだことがありました。人間の身体は死亡後徐々に冷えていくと。確か……、『死冷』と呼ばれる現象。人の体温は死後、徐々に周囲の気温と同等まで下がるはずです。

 でも、エマの身体はまだ温かい。おそらく体温ほどの温度はあります。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それはつまり。

 それが示すことは、だから。

(──────そんなはず、ありません)

 私は知っています。彼女がそんなことをするはずがないということを。何より、もしも仮にそうだったのだとしても……その場合、大きな疑問が残ります。

 だから絶対に違うはずです。

 『また今度だな、ユキ』

 もしも世界が彼女の敵に回ったとしても、私だけは彼女のことを信じます。……大切な、『友達』だから。

 でも。

 けれど。

 ドン、と私の身体が突き飛ばされました。

「なんで」

「っ!」

 声が聞こえます。友達の、親友の、大切な人の……声が。私の耳へと、届きました。

「なんでっ」

 ついで、誰かが私の身体に馬乗りになりました。衝撃が奔り、体を起こすことができなくなります。……いつか、誰かが、同じようなことを私にしました。それは私にとって……きっと大切な想い出。

 誰か? いいえ。……もう、分かっています。

 ──────二階堂ヒロが私の首に手を掛けていました。

「なんでっ、君が生きているんだッ⁉」

 ヒロは、強く、強く、強く、力を込めました。

 私を殺すために? 殺す、ために?

「かっ、ひゅっ!」

 身体を使って床に押さえつけられ、私は身動きが取れなくなります。気道が圧迫され、呼吸が苦しくなってきます。

 私は、見ました。私に覆いかぶさるヒロのことを、見ました。

 皮膚は罅割れ、眼が赤く染まった。……化け物のような、彼女のことを。

「君が、殺したんだ……っ! そうに決まっている……っ‼」

 被ります。

 『どうせユキちゃんがやったんでしょ‼』

 『お前以外に誰がいるんだよ⁉』

 『信じてたのに』

 誰も、私のことを信じてくれませんでした。身の回りで起こった『不幸』はすべて私のせいでした。

 『ちがう……ちがいます……。私じゃない……私はやっていません!』

 どれだけ否定しても、彼女たちは決めつけました。私が犯人だと。証拠もなく、裁判もなく、事実もなく。けれど彼女たちにとって犯人は私だったのです。『気持ち悪い』私が……当然のように、犯人なのです。

 すべての罪の理由に私がいて。

 すべての罰は私が受けるべきものでした。

()()()っ!」

「っ」

 被る。被る。被る。あぁ、なんて……。最後まで懸命だった父の姿と、大切な、大好きな友達の姿が被ります。

 ヒロは、私の首に手を掛けました。

 手を掛けて、力を入れました。

 起き上がれません。立てません。意識が落ちていきます。でも、まだ、手足を動かすことは、できます。

「君が、君がいなければっ! こんなことにはならなかったんだっ! 」

 ……何を言っているのか分かりません。私には、ヒロの言葉の一つも理解できませんでした。

 客観的に見て、私のせいのはずがないのです。どう考えても、私がエマを殺せるはずがありません。いくつもの事実がそれを物語っています。

 そんなの当然、ヒロだって理解しているはずです。客観的に見て、私が犯人であるはずがないことくらい聡明なヒロなら一秒で分かるはずです。中学の頃いつも、そうやって私を助けてくれました。

 ……それでも、私が悪いんです。私がいなければ、私がエマに不幸を与えてしまった。私が、私がっ!

「私を『戻らせた』のも君か……? あれだけエマが説得したのに、君はまだ人類の滅亡を企てているのか?」

 ほんの少しでも冷静になれればヒロならば分かるはずです。私が犯人ではないと。

 だってそもそも、()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 でも、そんなことは関係ないのでしょう。エマを殺された……そう思っているヒロにとって、そんな客観的事実はどうでもいいに決まっています。何か、悪いことが起きればそれは私のせいなのです。そういうことです。

 『みんな』と同じ。

 私を責めた、『みんな』と同じ。

「悪は死ね! 死ね死ね死ね!」

 あぁ。あぁ。あぁ。落ちていく。壊れていく。何もかもが。

 『彼女たちは正しくない。いじめなんて、この世で最も正しくない行為だ』

 掛けてくれた言葉は嘘ではなかったのでしょう。私を助けてくれた行いは本心からのモノだったのでしょう。ヒロは──優しい人だから。

 それでも。

 『友達が交通事故にあった? 飼っていた動物に蛆が沸いた? 学校に殺人鬼が来た? だから、なんだ? そんなモノが君のせいであるはずがない。偶然を誰かのせいにするのは正しくない』

 そう言って、ヒロは私に手を差し伸べてくれました。

 ……私のことを、友達だと言ってくれました。

「君が死ねば、全部終わるんだっ!」

 ……エマなら、どうだったのでしょうか。

 エマはもし殺されたのがヒロであったとしても、私のことを信じてくれたのでしょうか。私を責めずに、私を殺そうとは……しなかったのでしょうか。

 ……分かりません。

 もう、分かりません。でも。

 でも、私は。ヒロになら。

 大切な友達である二階堂ヒロになら。

 『ごめんっ、ごめんね! ユキちゃん、……ボクが、弱いせいで。……ボクはいつも見てるだけで、中途半端でっ! ヒロちゃんみたいに強くなれないっ‼』

 エマなら。

「だから死んでくれ! 月代ユキッッッ‼ 大魔女さえいなければ、私たちは」

 首が絞まる。首が絞まる。私の首が絞められます。

 もう、あと五秒で落ちる、死んでしまうと、経験から分かってしまいます。

 だから、私は。

 だけど──────私、は。




魔女図鑑
 証拠品
  ・ユキの見解① : ユキは触診によりエマの身体がまだ温かいことを確認している。故にユキはエマがまだ殺されて間もないと判断した。
  ・事件現場の状況 : エマとヒロの居た牢屋には鍵がかかっていた。シェリーが鉄格子を壊すまで牢屋の扉は閉まったままの状態であった。

 人物
  二階堂ヒロ
  囚人番号659。魔法は「死に戻り」。
  理由は不明ながら、現在四度目の牢屋敷に囚われている。エマの親友。

  夏目アンアン
  囚人番号660。魔法は「洗脳」。

  城ケ崎ノア
  囚人番号661。魔法は「液体操作」。

  蓮見レイア
  囚人番号662。魔法は「視線誘導」。

  佐伯ミリア
  囚人番号663。魔法は「入れ替わり」。

  宝生マーゴ
  囚人番号664。魔法は「モノマネ」。

  黒部ナノカ
  囚人番号665。魔法は「幻視」。

  紫藤アリサ
  囚人番号666。魔法は「発火」。

  橘シェリー
  囚人番号667。魔法は「怪力」。

  遠野ハンナ
  囚人番号668。魔法は「浮遊」。

  沢渡ココ
  囚人番号669。魔法は「千里眼」。

  氷上メルル
  囚人番号670。魔法は「治癒」。

  月代ユキ
  囚人番号671。魔法は「???」。エマとヒロの親友。

 マップ
  基本は原作参照
  本作オリジナルの要素がある場合は作中で明示します。例えばこの後の話で明示しますが、キャラクターが収容されている監房部屋は多少原作と異なります。(誰とペアなのか、どこの部屋にいるのかなど)

 規則
  原作参照
  本作オリジナルの要素がある場合は作中で明示します。

 記録
  ここに記されるべきことはない。



大魔女の十戒
 第一項:犯人が原作未登場のキャラクターであることを禁ず







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