どうやら俺の友達は異世界転移に巻き込まれているらしい 作:papaiyaiyaiya
絶叫から三分後、とりあえず俺はトイレで用を足すことによって落ち着きを取り戻し、再びスマホに向き合った。ちなみにトイレ中はミュートにしていたのでそこは安心してほしい。
「話を整理すると、お前はクラスメートと一緒に謎の異世界に転移してしまった。スマホの電波は圏外だけど、なぜか俺への電話だけつながる。ってことか?」
「うん、それでだいたい合ってる」
「むきー!!何度聞いてもうらやましいことこの上ないー!!」
「なんもうらやましくないよ……」
何回聞いても信じられない話であるが、とりあえずうらやましくて腹が立つのでその気持ちを隠さず伝える。異世界に転移させてもらえるとか、正直宝くじ一等あたるよりうらやましいぞ。
しかし当の本人にはそのすごさが理解できていないらしくテンションはダダ下げだ。
「なんでだよ!異世界転移だぞ、チートだぞ。俺最強無双だぞ。テンション上がらねえ奴がどこにいるよ!」
「何言ってるかいっこも分かんないんだけど……」
「ははん。さてはお前シリアス世界の可能性を危惧してるな?なるほど確かに興奮のあまりそこ失念してたわ。まだそこの判別はつかねえもんな」
そうだ。確かに異世界ものといってもチート無双系とシリアス系の二種類がある。シリアスは怪我したり死んだりも可能性があるためうかつに喜んでばかりもいられないわけだ。にしたってクールすぎるだろう。本当にこいつ同じ高校生男児か?非日常にもっと興奮しろよ。
「ったく、そんなに嫌なら変わってほしいぜまったく」
「俺だってできるなら変わってほしいよ!」
心底嫌そうな声でリンは答える。
「そもそも異世界転移ってなんだよ!何がそこまでいっちゃんのテンションをあげてるわけ!?」
「な……お前まさか、異世界転生系の作品見たことないのか……?」
「え……?まあ、たぶん……」
「なん……だと。近年急速に力を伸ばし、最近ではもはや異世界系をアニメでやってないシーズンなどないほどマーケットを拡大している異世界系を知らない、だと」
「けっこう有名なの?」
「有名なんて話じゃねえよ!アニメや漫画業界ではバトルやラブコメなんかと同じようにもはや異世界系という枠で一つのジャンルとみられるくらい存在感あんだぞ、さすがに知らないじゃ通せないって」
「あー俺あんまそういうの見ないから」
「まあそういう派閥もいるよね!しょうがないね!」
しょうがないみたいだった。俺は分別のあるオタクなので、興味のない友達に無理な布教とかはしない。その気遣いが裏目に出てしまったわけだな。
まあいくら大きなジャンルになったからといって全人類が知っているはずもない。異世界系を知らないなら、この展開についていけないのも当然と言える。
そう考えていた時だった。突如、木製のものを小突く乾いた音が耳に入る。
「リン・カネイ様、国王様がお待ちです。他の勇者様も集まっておりますので、広間にお集まりください」
ノックの後に続く声は若い男の声。明らかにリンを呼ぶ内容だった。
「何。そう言えばお前今どういう状況だったわけよ」
「えーと、異世界転移?した後、突然のことで混乱しているでしょうから別室にてお待ちください。って鎧つけた人に言われてたんだ。そんで一人一人部屋をあてがわれて、そこでどうにかしなきゃっていっちゃんに電話をかけたんだ」
「なーる。じゃあほんとに転移についての説明とか一切なかったわけだ。そりゃ混乱するわ」
「でしょぉ?さらに呼びに来るまで部屋から出ないように、とか言われたせいで他の友達には会いに行けないし、マジでやばかったから」
今までの気持ちを分かってもらえたうれしさからか、とめどなく愚痴があふれてくるが、正直そこまで耳には入ってきていなかった。
今までの状況だけでもわかったことは沢山ある。日本語が通じること、これは転移系ではありがちな設定だが、おそらく異世界補正がかかっていないであろう俺も聞き取ることができたのが面白い。翻訳の魔法とかじゃなく普通に日本語を話している可能性が高いな。それにさっきの声の主の勇者という言葉。その単語からして十中八九魔王やら魔族やらの敵がいて、それを倒す役割が与えられるのだろう。
あーくそ。ワクワクがとまらない。好奇心が湧き出続ける。俺が今までどれほど、どれほどこんな状況を妄想してきたか。こんな体験、もう二度と俺の人生では起こりえない!
親友とも呼べる友の緊急事態に俺は不謹慎にも胸の高鳴りが抑えられないでいた。むしろこの状況だからこそこんなに興奮できていたのだろう。実際に転移に巻き込まれたら俺だって多少は動揺して、冷静ではいられなくなっていただろう。この状況が、この状態がベストなんだ。異世界という非日常を、なんの心配もなく楽しめるこの環境が!
「あーそろそろ俺も移動しないと……」
「なあ、リン」
俺はリンの言葉をさえぎって言う。
「元の世界に戻りたいか?」
「そんなの、当たり前じゃん。まだそっちでやり残したことめちゃくちゃあるし」
「そうだよな……」
自然、口角が上がっていくのを自覚する。
ああもうほんと、本当に最低だ俺。この期に及んでまだにやにやが止まらない。友達の緊急事態を、不安でいっぱいだろう気持ちを、なんだと思っているんだ。
でも、しょうがないじゃないか。こんな楽しそうなこと、俺だけ仲間外れなんて耐えられない。
「俺に任せてくれ、リン。俺がお前をサポートして、この異世界転移を完全クリアさせてやる」
ああ、もうにやけが収まらん。
異世界に転移した友達を、通話での指示だけでなんとか魔王討伐させます。うんタイトルはこれで行こう。
俺流の異世界物語、スタートだ!