どうやら俺の友達は異世界転移に巻き込まれているらしい 作:papaiyaiyaiya
充電なくなったらまずいから、必要ないときはできるだけ通話を切っておこうという話になったため、今のうちに軽く朝の身支度を整えることにする。ついでに何か学校側からの連絡がないか確認してみるが、一つのクラスの生徒が一人を除き行方不明になったのだ、ニュースになることは間違いない。それなのになんの報告もないのは、まだ学校側が異変を察知していないのだろうか。
……一応電話とかしといたほうが良いかな?
そこまで考えたところでちょうどよくリンから通話がかかってくる。
うん。いつかはわかることだし俺一人がそんなに慌てなくてもいいな。今はこっちの方が大事だ。
秒で意識を切り替えた俺はすぐさま通話に出る。
「こちらイト、状況を説明せよオーバー」
「他人事だからって呑気に……こちらリン、今ちょうどクラスメート全員が集まる大広間的なところに着いて、王様的な人がいかにも今から話し始めますよって感じぷんぷんに出してるところ。オーバー」
「おっけ、もうちょい詳しく頼むわ」
「いや、ノれよ」
混乱してるかとも思ったが、俺の変なノリにノるぐらいには冷静らしい。とりあえずは一安心。
「詳しくって言ったてなあ。どういうのが知りたいわけ?」
「とにかく何でも、部屋の様子とか、どんな人がいるかとか。目についたものはかたっぱしから教えてくれるとありがたいな。どんな些細な情報がこの先の展開につながってくるかわからないからな。伏線は見つけておかねえと」
「そんな都合よくないと思うけど」
あきれたようにため息をつきながらもリンはじぶんがいる大広間の様子を詳細に教えてくれる。
「今いる部屋、大広間って言ってたかな、は大きさはバスケットコートの1.5倍ぐらいかな。入口すぐの場所に俺とクラスメート、背面以外は鎧着た兵士がズラーっと並んでて、正面の王座に王様が座ってるって感じかな」
「なるほど」
あんまわからん。意外と言葉だけで情景を伝えるのって難易度高いんだな。1.5倍ってどんぐらいだよ。
「あ、王様話始めるっぽいから一旦静かにね」
王様が実際に話始めたらしく、誰かが遠くで話しているような声が聞こえてくるが、音が小さすぎるのと、話し手の声が低すぎてなんて言ってるかわからない。
おい、今なんか重要そうなこと言ってる雰囲気あったぞ!あ、なんか周りガヤガヤしてる、やっぱ重要だったのか!?あーじれったいー!直接聞きたいー!
「やっぱりう゛ら゛や゛ま゛じいー」
「ねえ、ちょっと静かにしてって」
「国王の何か企んでいそうな顔とか、不敵に笑うクラスメートとか、思わせぶりな伏線を肌で感じだいー」
「そんなん無いって、マジで」
「イ゛ーー」
「ッチ」
異世界へのあこがれで、またもや体のどこかから変な声が漏れ出てくる。電話口から舌打ちが聞こえた気がするが気のせいだと思いたい。気のせいだと思うけどもう変なこというのはやめましょうねー。
「お、話終わったっぽいよ」
「マジ?なんつってた?」
そこそこ長かった話だがようやく終わったらしい。これ以上何も聞こえない時間が続いていたら俺は友達を一人失っていたかもしれないからナイスタイミングだ。
「魔王?ってやつを倒してほしいらしいよ。なんかド〇クエみたいだね」
「そんな一言で片づけられることしか言ってなかったわけねぇだろ!」
「いや、だいたいそういう事だったと思うけどなー」
こいつ、さてはまた適当に話きいてやがったな。
リンはこういう適当なところがあるから不安なんだよ。連絡事項はたいてい聞いてないから毎回俺に後で聞いてくるし、教科書だって、一つも忘れずに持ってきたことの方が少ないぐらいだ。
この先大事な情報を聞き漏らさないか、非常に不安だ。
「お、今からスキル?の確認するってさ。マジでドラ〇エみたい」
「スキル確認来たー!!!!!!」
「おわっ、うるさっ」
「こんなもんうるさくならないでどうする。この瞬間がお前のこの先の異世界生活のすべてを決定しうるんだぞ。テンション上げてけ!」
「いえーい」
リンは心底面倒くさそうに答える。テンション上がってねえな。
スマホの向こうからピッピッという何かを操作するような電子音が聞こえる。もしかしてゲームみたいなステータス画面を表示できる形式なのだろうか。そこも後で確認しとかないとな。
少しの時間をおいて、ようやくスキルの欄を発見したのか、あったあったという声が聞こえてくる。
「それでは発表します。俺のスキルは――」
ごくり。
「『電話』でーす」
「……え」
「任意の相手と通話できます、だって。ははっ、どうみても外れじゃんねこれ」
さすがのリンもちょっとは期待していたのか、少し落ち込んでいる様子だ。そりゃそうだ、電話なんて現実世界でも普通にできていたことだ。そんなん貰ってもうれしくもなんともないだろう。
だが、それは異世界系に触れたことのない奴の感想だ。
「分かってない、分かってないね。君は異世界というものがあまりにも分かってない」
「なんだよ、クソ雑魚なのは変わりようがないでしょ」
分かってない、と言われたのが気に障ったのか、はたまたただ俺がうざかったのか、リンはムスッとした態度で答える。
「ああ、クソ雑魚なのは俺も同意だよ。電話、なんてわざわざスキルにしなくてもいいだろって感じだしな」
「やっぱり雑魚なんじゃん。ダメじゃん」
「違うね、雑魚なのがいいんだ。この『こんなスキルでこの先どうやって行けばいいんだよー』てな感じなのが良いんだ」
「うん?」
「異世界系ってのはな、最弱スキルだと思われてたけど実は最強スキルでした!てのがお決まりの流れなんだよ。つまり最初はスキルなんてものは弱そうであれば弱そうであるほど良いんだよ。その点このスキルは最ッ高に弱そうでとてもいいな!」
そう、最初のチートなんて強すぎてもしょうがないのだ。今のトレンドは追放もの、再序盤は舐められるぐらいでいい。
「それ本当?他の人たち『火炎』とか『雷撃』とか見るからに強そうなのばっかだけど。それよりも当たりなわけ?」
「当たり前だろ!なんなら周りがオーソドックスな能力の方が、下克上のパターンが多い。こりゃあガチで最強能力の可能性出てきたぞ」
「そ、そうかなあ」
ようやく俺の熱意が伝わってきたのか、徐々に声に覇気が灯されてくる。
「そうだって。それに今俺らが通話できてるのも多分その能力のおかげだし。世界をまたいで話せるんだ。どう考えても便利だろ」
「そうじゃん。確かにこれのおかげか」
異世界にいるはずの相手と電話がつながるのが今の今まで疑問だったが、何のことはない、それがリンのチートだったのだ。
元の世界とコミュンケーションをとる能力か。あんまり聞かない設定だけど、現代知識無双とかには役立ちそうだ。案外普通に強チートかもしれないな。
「おいおい、みんなこれ見ろよ!」
突然、リンの声ではない、他人をバカにしたような気分の悪い声が届く。
「なになに、急に誰?」
「ごめん、なんかスキルのところに耳みたいなマークあったから押してみたんだけど、それが聞こえる範囲を広げるやつだったぽい。」
「なるほど、そんな便利な機能が」
それに早く気が付いてほしかったところだが、仕方がない。今から周りの情報を聞き取りやすくなるだけマシだと思おう。
そんなことよりも今はさっきの声のことだ。声の感じとあの鼻につく話し方的に、おそらく声の主はゲドウだろう。
ゲドウユウト、外道な優人と書くこの人物も俺やリンと同じクラスのクラスメートだ。その名の通り性格の悪い外道なやつで、よく他人をバカにするような発言をしているが、徒党を組むのだけはいっちょ前にうまく、クラスカーストのトップに位置している非常に気に食わない奴だ。
「ちょっと、やめてよ!」
嫌がる声を上げるのは佐藤君だろうか。佐藤現実、現実と書いてリアルと読むいわゆるキラキラネームの男の子。その名前のせいもあってゲドウによくバカにされがちな子だ。
異世界転移という常識外れの状況においても人を下げることを忘れないゲドウにはほとほとため息が出るが、この状況にあのゲドウの発言、もう展開が見え見えで仕方がない。
「見ろよ、こいつのスキルの欄。真っ白、空白だぜ。みんなは『火炎』だったり『雷撃』だったり何かしらかっこいいスキルもらってるのにい。こいつは何もなしだぜ。ひゃはははは!」
あはははははは!
ゲドウの取り巻き連中の、無駄にでかい笑い声が木霊する。
「相変わらず性格悪いね、ゲドウのやつ」
リンが声を低くしてそうつぶやくが完全に同意だ。そんなのわざわざ人前でいう必要はない。他人をバカにすることで自身の地位を維持しようとしているのだろう。吐き気がする。
「なあ王様ー。俺たちは魔王討伐のためにそれぞれ補助金が出るって言ってたけどさ、こんなスキルもなにもない奴にお金渡したって無駄だよな。こんな奴が魔王なんか倒せるわけねえし。だからさー、俺らにこいつに渡す分の金分けてくれよ」
「なっ!」
「いいじゃん!ユウトてんさーい」
「ガチそれな!」
佐藤君が驚く暇もなく、ゲドウの取り巻きが反応する。
ふむ、もう完全にルートが固まってきているな、後は王様がどう反応するかだが。
王様はうーむと少し考えるようにした後、大した時間もかけずに答えを告げる。
「確かに、ゲドウ殿の言う通り、スキルも使えないものに渡す金など必要ないな」
「そんな!」
非常にも王はゲドウの提案に許可を与える。
この時の佐藤君の気持ちは想像に難くない。裏切られ、追放され、見知らぬ人ばかりの異世界で一人ぼっちになる。
こんなの、こんなの……
「追放ものだ!!!!」
俺は夢にまでみた追放シチュに実際に立ち会えたことへの喜びで、また一人部屋で叫ぶのだった。