どうやら俺の友達は異世界転移に巻き込まれているらしい 作:papaiyaiyaiya
おっと、楽しんでいる場合じゃないな。第三者としてはもうべたべたの展開過ぎて笑ってみていられるが、当人たちはそうはいかない。佐藤君は今しっかり傷ついているはず。
「なあリン」
「どうしたいっちゃん」
後ろではなおもこの処遇に関して佐藤君やゲドウ、そして王様が言い争っている。控えめに言って佐藤君が圧倒的に分が悪い。このままでは佐藤君が本格的に追放されてしまうのも時間の問題だろう。
「ゲドウ、ムカつくな」
「うん、俺マジで嫌いだわあいつ」
「異世界系ってさ、ああいう小悪党絶対に痛い目みるんだよね」
「なにそれ最高じゃん」
「んで、佐藤君みたいなやつが報われんの」
「じゃあもう決まりだね」
さすが、伊達に10年以上俺の友達やってない。言わなくても考えは一致するらしい。
「よし、じゃあ佐藤君助けて、ゲドウにはちょっぴり痛い目に遭ってもらうとしよう。異世界の厳しさ、しっかり教えてあげねえとなあ」
さあ、行くぜ作戦「パシフィック・リン」だ。
「そんな……」
佐藤君がうなだれる。実際には見えないが、それでもうなだれていると分かるくらい声に元気がない。今すぐ助け船を出してあげたいところだが、今じゃない。もっとタイミングを見極めないと。
「いやー俺もクラスメイト相手にこんなことを言うのはとぉーっても心苦しいんだけどねぇー。しょうがないよね。王様だって役立たずまで優遇するわけにはいかないんだから」
ゲドウは懲りずにまだ佐藤君を侮辱する。ところどころでわざとらしい含み笑いまでつけるオプション付きだ。もはや小悪党が板につきすぎていてもはや笑えてくる。
だがまだ、まだ引き付けないと。
「王様ー、もうビシッと言い切っちゃいましょ。こいつをどうするのか、じゃないと余計な希望もたせちゃ可哀そうでしょ」
そう笑いながらゲドウは王様に告げる。
そして非常にも王は佐藤君に向かって言う。
「うむ、それでは。サトウ・リアル殿、お主を追放――」
今だ。
「その追放、しばし待たれよ!!!!」
絶叫が、大広間に木霊する。声の主はもちろんリンだ。が、セリフを決めているのは俺。異世界での会話を聞き、異世界マスターである俺が指示をだす。通話という俺たちのアドバンテージを生かした最強の作戦だ!
「ああ、王よ。かような者の戯言になど惑わされず、冷静になって下さい。あなたは本来賢く民を思いやれる良き王のはずです」
間は空けず、一気に畳みかける。こういうのは勢いが一番大事なのだ。
しかし、ゲドウは急に出てきたリンが気に食わなかったのか、声を荒げる。
「なんだよ鐘井、空気読めよ。今そういう感じじゃなかっただろ!」
「だまらっしゃい!!!!」
普段静か目なリンのクソでかボイスが再び響く。それに驚いたのか、ゲドウも口を閉じる。
完全な沈黙。やばい、人操って場をめちゃくちゃにすんのすっげー楽しいな。癖になりそう。
「追放を待て、とはどういうことですかな、カネイ・リン殿」
沈黙を破ったのは王様だった。
こいつ全員の名前覚えてんのかよ、律儀なものだ。
「そのままの意味ですとも国王よ。この者の追放は辞めるべきでございます」
「ふむ。それはなぜでしょうか。私もなにも個人の好き嫌いで追放しようとしているのではありません。魔王と戦うのにスキルの力がないのはあまりに不利、だからそのような者に渡す支援金など、国にあろうはずもないでしょう」
「その考えが間違っておられるのです!!」
思っていたよりもシンプルにド正論をぶつけられてきて焦る俺。何が間違ってるだよ、一個も間違ってねえよ!
が、そんなこと考えている場合ではない。とにかく何でもいいから理屈こねねえと。
「スキルとは、神がこの地を救うべく勇者に授けた神秘の力。他の魔法とは一線を画す強力無比な能力にございます」
「ええ、その通りです。ならば――」
「が、しかしこのスキル。ものによっては只人には扱えない物もあるのでございます」
「なっ!そんなもの聞いたことがありません!」
でしょうね!俺も知らねえよそんなの!
が、言ってしまった以上これで押し切るしかない。適当な言葉をひねり出せ、俺の脳みそ――
「先ほども申した通り、スキルとは神の贈り物、この世の力ならざる神秘。普通の魔法とは一線を画す力。違いますか?」
「その通りです」
そうなんだ。
「では、勇者は何故そのような強力な力を使うことができるのでしょう」
「何故……ですか」
王様は思ってた以上に食いついてくれる。これならやりやすい――!
「神秘の力を勇者が使える理由、それは勇者の肉体にはその強力な力に耐えうる特別な素養があるからです」
「特別な……素養」
「勇者はその素養を戦い、学ぶことで高め、その力をさらに伸ばしていく……だがもしも、もともとの力が強大すぎて、まだ成長しきっていない素養では扱いきれない力があるとしたら?」
「――!それが佐藤殿のスキルだとおっしゃりたいわけか」
「左様にございます」
俺(リン)の言葉にざわつき始める王様サイド。まさか、とかそんな、の声がこちらにも聞こえてくる。
よしよしよし!なんとかごまかせそうだ。あとは適当な理由つけてゲドウを批判してやれば異世界系としてこれ以上ないくらい完璧なシナリオの完成だ。
「う、嘘だろそんなの。でっち上げだ!そもそもなんでお前がそんなの知ってるんだよ。ただの現代人だろうが!」
「そ、そうです。なぜあなたがそのようなことを知っておられるのですか」
自身の立場が脅かされる危機を敏感に察知し、ゲドウが突っかかってくる。本当、この周りを読むスキルの高さだけは一流だよなこいつ。
だがもはやここまで来てしまえばこちらの物。適当に大物っぽい雰囲気でごまかしておけば、あっちが勝手に脳内補完して納得してくれるはず!
「何故知っているか……ふふふ、そんなのは簡単な理由ですよ。それは私が、この世界と現実世界をつなげる神、伝説神ハイパーレジェンドゴッドオブゴッド・アマテラスゼウスの使いだからです!!」
「「「伝説神ハイパーレジェンドゴッドオブゴッド・アマテラスゼウス!?」」」
決まった……周りの驚いている反応、聞いたこともない神の名前が出てきて困惑しているのだろう。完全に混乱しているのが手に取るようにわかる。
アマテラスゼウス?俺だって知らないんだ、誰も知っているはずがない。せいぜい迷え、考えろ。今のうちに俺はこの場を支配する!
「そして、このゲドウという男は――」
「貴様、あの悪神の手先か!!!!」
え。
どどどどういうことだ。なんか王様が急に血相変えて切れだしたんだけど。なんかやばいこと言ったのか、俺。
「おい!何やってるんだよ。なんか相手さんすっごい怒ってるんだけど!」
「知らんって!俺だってどこが地雷だったかわかんないんだよ!」
途中までは完全にうまく言っていたのに、まさかあの神様の名前が良くなかったのか――?
「全員、その悪神、アマテラスの手先を捕らえよ!」
先ほどまでの丁寧な対応を忘れるぐらい、王様が語気を荒げて部下に命じる。それに準じて部下たちの足音がどんどん近づいてくる。
「ねえ!どうすんの!!」
「とにかく……佐藤君連れて逃げろ!!」
「ふざけんなボケェーーーーーー!!!!!!」
作戦「パシフィック・リン」は、完全に失敗に終わった。
今まで生きてきた中でも、とびきり最悪の状況だった。いきなり連れてこられた異世界で、一人だけスキルがもらえず、一人になろうとしている。
現実世界でも、昔から名前のせいでいじられたばかりだった。ほとんどがからかってくる程度の軽いいじりだったけれど、中には泣きたくなるくらい、つらくてしんどいことを言われることもあった。だけど、周りの大人は何をいっても僕の意見にまともにとりあってくれない。仲良くなりたくてからかってきているだけ、男の子なんてそんなもんだ、両親からもらった名前なんだから大切にしろ。どれもこれもが乾いた綺麗ごと、一人として僕の痛みによりそってくれた人はいなかった。
だから、この異世界への招待が来た時、僕は少し期待していたんだ。違う世界の人ならば、僕を対等に見てくれるんじゃないかって。でも違った、世界が変わっても、人は変わらない。世界の中にも、外にも、僕の味方はいない。
「その追放、しばし待たれよ!!!!」
そんな僕の追放に待ったをかけたのは、まだ一度も話したことのないクラスメートだった。
正直僕は彼のことをよく知らなかった。まだクラス替えがあったばかりだし、彼はそこまでおしゃべりなタイプではなかったから。たまにもう一人の友達と話しているところを見ることがあったぐらいなものだ。
「その考えが間違っておられるのです!!」
だから、なんでこんなにも僕を助けようとしてくれているのかが分からなかった。何が目的なのか理解できなかった。
「何故知っているか……ふふふ、そんなのは簡単な理由ですよ。それは私が、この世界と現実世界をつなげる神、伝説神ハイパーレジェンドゴッドオブゴッド・アマテラスゼウスの使いだからです!!」
なんでこんな大勢の前でこんなにも堂々と振舞えるのか。怖くないのだろうか、不安じゃないのだろうか。だって、この人数に批判されたら、バカにされたら、きっととてもつらい。苦しくて、悲しくて、とても怖くなる。
「全員、その悪神アマテラスの手先を捕らえよ!」
不安通り、彼はみんなに敵意を向けられてしまう。こんな大勢の中で、たった一人孤立、周りは敵だらけ。怖くて辛くて仕方がない。はずなのに――彼はうっすらと笑っていた。まるで友達とばかやって失敗して、その失敗に文句を言いながらも友達と笑い合う。そんな小さな笑みだった。
「ふざけんなボケェーーーーーー!!!!!!」
そう言って彼はこちらに向かって走ってくる。僕を通り抜け、後ろの大扉から外に逃げるつもりなのだろう。
そう思い、ぼーっとしていたら、すれ違いざまに腕をつかまれる。
「佐藤君。逃げるよ!」
何を言っているんだ。今追われているのは君。僕は関係ない。ここで一緒に逃げたら、追放されるよりももっと処遇が悪くなってしまう。
頭では痛いぐらい警告音が鳴り響いている。しかし体は勝手に動き出し、彼、鐘井鈴君と走り出していた。
「ははっ。これで俺たち二人ともお尋ね者ってわけだ」
鐘井君はそういって笑う。その笑みは先ほどと同じ、友達とバカをやっているときの笑みだった。
その笑みに、僕もうなずいて笑い返す。
ずっと自分の名前が嫌いだった。僕をバカにする人は必ず僕を名前で呼んだ。だから、同級生に苗字を呼ばれるのは久々だった。
なんだか久しぶりに、笑えた気がした。