どうやら俺の友達は異世界転移に巻き込まれているらしい 作:papaiyaiyaiya
「「やばいやばいやばいやばいやばい!!」」
「とにかく逃げろ!全力で!」
電話の向こうで悲壮感漂うセリフが重なる。追いかけてくる足音の数的に相当な人数に追い回されているようだ。この時ばかりは自分が異世界にいなくてよかったと思ってしまう。ただ無事に逃げ切れることを祈るしかできない。
「逃げるって言ったってどこに逃げればいいの!?」
「とにかくまずはまっすぐ出口に迎え!今ならまだ他の兵士にリン達がお尋ね者だって伝わってないはずだ。うまくいけばすり抜けられる」
「わかった!」
できるだけ簡潔に、かつ聞き取りやすいよう気を付けて話す。リン達も全速力で走っているらしく、息が上がっている。もうこれ以上走りながら話すのは不可能だろう。
さっきのリンの話では兵士は鎧を着ていると言っていた。なら異世界特有の不思議フィジカルの兵士がいないかぎり、走って逃げるだけならこっちが有利なはず――
「王城内の全兵士に告ぐ。召喚された勇者のうちカネイ・リンとサトウ・リアルは悪神の手先である。城内を逃げる曲者を発見次第直ちに捕らえよ。生死は問わない!」
「伝達手段あんのかよ!」
普通情報の伝達って現代人が来るまでは発展してないもんじゃない!?これじゃマジでリンのスキルの存在意義ゼロじゃん!
「お、おい。あそこにいるのってもしかして」
「まちがいない。放送にあった曲者だ!」
「最悪のタイミングで見つかっちゃたんだけど!」
「すまん、もう俺にできることはない。頑張って逃げてくれ!」
放送の直後に運悪く兵士たちと接敵してしまったらしく、リンが絶叫する。
ここまでされるともう俺には手に負えない。視界がないから見てアドバイスはできないし、なにより全兵士に敵とした認識されてしまったことが痛恨すぎる。俺たちはどこから来るかわからない兵士たちに怯えながら、出口を探して走り回るしかなくなってしまった。
「見つけたぞ!」
「よし、囲め囲め!絶対に逃がすな!」
「くそっ、やっばいな」
「どうした、なにがあった」
もはや嫌な予感しかしないが、一応状況を尋ねる。
「まっすぐな通路で挟み撃ちされた。もう包囲されてる」
「マジかよ……」
捕まらずに逃げ切るのが生き残る唯一の手だった。あちらの二人は先頭に役立ちそうなスキルを持っていない。戦闘になったら敗北はもう目に見えてる。
一気に体に緊張が走る。現実離れした状況に追いついていなかった冷静さが怒涛の勢いで脳みそに流れ込む。そうだ、これは漫画やラノベの世界ではない、現実に起こっていることなのだ。最悪の場合があり得るのだ。最悪、投獄、死――
「ごめん……俺のせいだ……」
気づけば口からは謝罪の言葉が漏れていた。頭は今ここで謝ったところで何の意味もないことを理解している。だけど心が、感情がそれを許してくれなかった。
「俺がアホな提案したから……」
「ちょっと今そういうの良いから!!」
が、謝罪の言葉はリンの乱暴な声にかき消される。
「そんなに謝りたいなら後でたくさん聞いてあげるから!やっすい自己憐憫に浸ってないでちゃっちゃと解決策考えてくれないかなあ!」
「お、お前なあ……俺が言うのもなんだけど今結構ピンチでシリアスで大ピンチなんだぞ。もっとシリアスな感じをだな――」
「だからこそでしょ!俺らはいっつも崖っぷちで、それを何とかするのを考えるのがいっちゃんの役目じゃん!!」
その言葉には先ほどまでの言葉よりもいっそう力がこもっていた。
どんだけ昔のことを持ち出すんだよ、こいつは。
そうだ、こいつは昔っからこうだった。やらかして、大人に大目玉喰らって、そんで俺に泣きついてきて。そしてそれを二人でどうにかする方法を考えるのが、死ぬほど楽しかったんだった。
さんざん煽られて、さすがに俺のケツにも火が付く。考えて、思考して考慮して熟慮する。今この瞬間を抜け出す方法を、今この一瞬を面白くする方策を。
「で、作戦は立てられた?」
「あーもうダメ元だ!通話スピーカーにしろ!」
作戦を話し、通話をスピーカーにさせる一回限りしか使えないびっくり技だが、決まればここは抜けられる。
「ねえねえ、兵士さんたち。そんな近づいていいの?」
「全員気を抜くな!奴らは勇者候補だったものだ、何らかの異能を使うかもしれん!」
相手の兵士の一人が周りに警戒を促す。
はっ、そりゃあ警戒するよな。佐藤君はともかくリンの手札は割れてないんだ。だからその警戒を逆手に取らせてもらう――!
「俺の能力は『呪い』、この呪いの長方形から流れる呪詛を聞いた人間は、例外なく3秒で死ぬ」
「なんだとっ!」
「ま、まずいぞ、こんなに密集していては一網打尽だ!」
周りの全員が理解できるよう、ゆっくりとはっきりとリンは言葉を紡ぐ。
そして案の定警戒する兵士たち。
「ほーれ。あなたたちに呪いのボイスをプレゼント――」
セリフが少しずつ小さくなっていき、コツンと何かにぶつかった音がする。
今だ。
「南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経……」
「ぎゃあああああ!!」
「マズイ、離れろ。離れろおおおおお!!!!」
俺の渾身の読経により恐慌に陥る兵士たち。作戦がうまくいっていれば、あいつらも逃げられたはず。
数秒後、ジャギッと鋭い音が鳴り通話が終了する。おそらくスマホが破壊されたのだろう。これで呪いは偽物だとバレたはず、もうこの手は使えない。あとはこのまま逃げ切るだけだ。
10数秒後、再び通話がかかってくる。確認するまでもなくリンであるのは間違いないのだが、なぜか通話の相手は今度もしっかりと「リン」と表示されている。リンのスマホは破壊されたから相手が「リン」なのはおかしいはずだが――
が、考えている暇もないのですぐに出る。
「もしもし、うまくいったよいっちゃん」
「よし!これでお前の土下座を拝めるぜ!」
「だからそれはしないから!」
またしても二人で笑い合う。なんにせよ、うまく言ったみたいで何よりである。
「鐘井君、あっち出口じゃない!?」
唐突に佐藤君がそう話す声が聞こえてくる。ちなみにこの通話は佐藤君のスマホを貸してもらって行われているはずだ。佐藤君がいなかったらこの案は思いつかなかったので、ひそかに感謝している。あとでちゃんとお礼言わないと。
「うん。どうみたって出口だね。いかにもお城の入り口って感じのでっかい門だ」
リンは俺にも状況を伝えようとしてくれたのか若干説明口調でそう答える。
だが、なんにせよ出口だ。城を出てさえしまえば追う方の難易度はぐんと上がる。城下町が広がっていればほぼ見つけるのは不可能だろう。これで希望が見えてきた。
だが、世の中はそこまで俺たちに甘くはないらしい。
「やばい、また囲まれた!」
「嘘だろ!?ここまで来て」
出口から抜け出す直前に、出口に待機していた兵士に出口をふさがれてしまったらしい。言われてみれば当然の作戦だ。敵は出口から逃げるのだから、そこに人を置いておけば勝手に逃げ道をつぶせる。簡単な作戦だが、今の俺たちには効果てきめんだった。
「やばいなー。まだ作戦ってあったりする?」
「今死ぬ気で考えてる!!」
だがさっきさんざん考えてあれしか出てこなかったのだ、今更新たに考えつくはずもない。ここまで来て、今度こそ完全に詰み、だった。
だが、最後の最後まで考えるのは辞めない。逃げ道を探し続ける。
「ここまで来て諦めてたまるかよ」
とはいっても状況は依然最悪。もはや座して死を待つのみであった。
しかし、しかしである。
そんな最悪大ピンチの時に、奇跡が起こるのが物語だ。ご都合主義でもなんでもなんとでも言え、異世界系というのはそういうもんなのだ。
ボフン
大量の小麦粉をぶちまけたような音がし、直後に兵士たち、そしてリン達の困惑の声がする。
「どうした、なにがあった!?」
思わずリンに尋ねるが返事がない。もしかして今のは敵の攻撃か?でも敵の困惑の声も聞こえたぞ。
疑問に思いながらも再びリンに声をかける。
「なあ、どうした!?なんか答えろって!!」
「あー……」
「無事か!?何があった?」
二度目の質問でようやくリンの反応が返ってくるが、なんだか歯切れが悪い。何かまずいことがあって言い淀んでいるような、そんな雰囲気をひしひしと感じる。
少し間をおいて、ようやくリンは口を開く。
「なんかね……顔を忍者みたいに布で隠して、そのくせ全身水玉のビキニで体を全く隠す気のない変な女が煙幕と同時に登場してきた……」
どうやら俺の友達は異世界で変態に遭遇してしまったらしい。