どうやら俺の友達は異世界転移に巻き込まれているらしい 作:papaiyaiyaiya
意外にも、突然の変態出現速報を聞いた俺の心は冷静だった。思考を放棄することなく、目の前の現実を真正面から受け止める。
そうできたのは、直前に頭をぶん回して脱出方法を考えていたことやそもそも焦りすぎてそんなことでいちいち驚いている暇がなかったからであろう。人は時にスケベな好奇心を抑え、立ち向かうべき問題に集中できる生き物なのだ――
「何っ!水玉水着の女忍者だって?おっぱいは大きいか、巨乳か!?」
「今絶対いらない情報でしょ!」
佐藤君が必死の声で反応。
なんだと……俺としたことが。絶対に冷静になり切れたと思っていたのに。恐るべし、男子高校生の思春期パワー。おっぱいはいつの時代も青少年を狂わせる。
「D……?いやEはある。げに素晴らしきおっぱいだ」
「だからそんな場合じゃないでしょって!!」
さすがのリンもおっぱいには敵わないらしい。さすがの俺もドン引きの変態観測でその柔らかな双星の規模感を伝えてくれる。Eカップですか。無論俺とて一人の男の子なのでいけないビデオでそのサイズを目にしたことはある。しかし、悲しいかな彼女いたことない歴=年齢の俺は実際にはEカップどころかおっぱいすら目にしたことがない。
つまり何が言いたいかというと……
「なんで俺はその場にいないんだ……!!」
「そんな悔しそうにいう事じゃないって!!」
佐藤君が律儀に突っ込みを入れる。おかしいな、佐藤君も実際に現場でおっぱいを目撃しているはずなんだが。何でここまで冷静でいられるんだ。もしかしてこいつには可愛くておっぱいの大きい幼馴染彼女でもいるんじゃないだろうか。
「ねえ、ビデオ通話にできたりしない?」
「お前、天才かよ。ちょい待ちやってみるわ」
突如頭に降ってわいた天啓。もしかしてビデオ通話にすればおっぱいのみならず異世界の様子も見れるようになるのではないだろうか。おっぱいという強烈に見たいものがなければこのアイデアは生まれなかったはずなのでやはりおっぱいは偉大である。
このおっぱい談義が終わるまでの10秒弱。その間目の前のくノ一らしき女とこちらを包囲している兵士たちに動きはなかった。圧倒的な数がいるのに、たった一人の新手に対しての反応にしてはいささか慎重すぎる気もする。
しかしそこでようやく今まで微動だにしなかったくノ一に動きがみられた。大きく息を吸い、そして叫ぶ。
「おーほっほっ。美少女すぎるくノ一ことネネ、ここに見・参ですわ!!」
名乗った。名乗りやがったあのくノ一。忍びなのに全然忍んでねえ。
「お、きたきた。行けるぞ!感謝して目に焼き付けろよ!」
そんなご挨拶な自己紹介の間にリンは何か普通にビデオ通話に切り替えることに成功していた。どうやらスマホのカメラを通しての映像ではないらしく、リンの見ている光景がそのまま映されているようだった。他人のスマホでも通話ができていることといい、意外と適当なところの多いスキルだ。
「おお、これが異世界……」
疑っていたわけではないが、正直まだピンと来ていなかった異世界転移という現象が、視覚的に知覚できたことによって一気に輪郭がはっきりとしてくる。リンと佐藤君の目のまえには女忍びが、そしてそのまた向こうには取り囲むように立ちふさがる兵士の姿が、確かに存在していた。
しかしそんな感動に浸る暇はもちろんなく。
「騎士達よ、少々待っているがいいですわ!!今はそこの、人生そこそこなんでもうまくいってますってイキッた顔してるほうの男に用があるのですわ!!」
念願見ることが叶ったEカップの持ち主はビシっ!!と効果音がしそうな、いや実際してたような気もする。とにかくそんなキレのある動きでリンの方を指差し、悠然とこちらに向かってくる。
「え、なんかこっち来たんだけどあの変態忍者」
堂々たる歩みで近づいてくるくノ一は、黒い布で口元を隠しているため表情が分かりにくい。何の目的でこちらに近づいてくるのか、それが全く想像もできないままリンの手前1メートルほどの場所まで近づき止まる。
そして、
「何をじろじろと妾の体を視姦しているのですわこの無礼者めが!」
「ぶっっっ」
徐にリンの左頬をその細い右腕で思いっきり引っぱたいた。
「リーーーーーーーーーーーーン!!!」
俺の悲鳴混じった絶叫と共に、パァァンッッという乾いた音の後、リンが誇張抜きに2メートルほど横に吹っ飛ぶ。画面越しでもわかるくらい遠慮なしの本気ビンタ。
うわ~痛そう~……
「いくら妾の肢体がこの世の物とは思えぬ肉体美を持っているからとはいえ、物事には限度がありますわ。そのいやらしい視線、妾が気づかないとでも思ったのかしら!」
その端正な顔に鬼のような形相を浮かべた水着忍びは、その表情にはあまりにも似つかわしくない透き通った声を張り上げる。
リンと佐藤君、あとついでに取り囲んでいる兵士たちも何が起こったか分からず呆然としてしまっていた。
ビンタして未だ怒りは収まらないのか、なおもネネと名乗ったくノ一は転がる凛に向けて続ける。
「どうせあなた女の子とまともに話したことないのでしょう。かわいそうに、だからこうやって遠巻きに女の子を眺めることでしか女性と関わることができなくなってしまったのですわね。お詫びを申し上げますわ。悪いのはあなたではなくこの世界だったのですわね」
「誰が女の子と話せないシャイボーイだ!それはどっちかというといっちゃんの方――」
「ローアングルからこっちを見るなですわ!!」
「ぶべらっっ!!」
さんざん言われて我慢できなくなり顔を上げ立ち上がった所に顔面目掛けてハイキック。リンは再び床に沈み込む。さんざんだった。散々なやられよう。
……いや、でもリンの奴さっき俺の名前言いかけてなかったか?
あまりにも理不尽な仕打ちを受けてたからスルーするところだったけど、リンの奴結構ひどいぞ。うん、なんか蹴られて良かったかも。
鋭い蹴りを受けてダウンしたリンを横目に、ふんと軽く息を整えてから今度は佐藤君に向き直るくノ一。それに向き合う佐藤君の方と言えばもう完全にビビり散らかしていて、さっき王様に追放喰らいそうになった時よりもひどい顔をしていた。恐怖に震える佐藤君に対しくノ一は口を開く。
「あなたは、リアル・サトウですわね」
「どうして僕の名前を!?」
「先ほどの会話は全て聞かせていただいておりましたの。そこの男の他に、遠隔で通じている仲間がいることも把握していますわ」
最後の言葉は周りの兵士に聞かれないためか、少し小声でささやくネネ。
やはりこのくノ一は今急に王城に忍び込んできた侵入者ではなく、明確に目的をもってこの場に現れた、つまりは俺たちを助けに来てくれた忍者の様だった。口ぶりからして広間での会話から全て盗み聞きしていたのだろう。
佐藤君は俺の存在もバレていることに驚きを隠せていないようだったが、考えてみれば広間の時はさておき、逃げて走っているときは俺の声完全に漏れていたしな、盗み聞いていたならば察せられても不思議ではない。
「じゃあ、僕たちを助けに?」
「ええ、もちろん。そのつまりで参上したのですわ」
その言葉を聞いた途端、佐藤君の顔には安堵の表情が浮かぶ。勿論、俺もほっと息を撫でおろした。リンが吹っ飛ばされた時はどうなるかとも思ったが、やはりこの女は味方のようだ。
「ただ、一つだけ確認させてくださいな。あなたたちは本当にアマテラス信仰徒なのですわ?」
周りの兵士たちもそろそろ様子見をやめこちらに動き出そうとしていたため、手早く質問してくるネネ。一応ただの確認とばかりにあまりに自然に尋ねてくるものだから、佐藤君は警戒を解き、軽く答える。
「う、うん。そう――」
「違う!!俺たちはアマテラス信仰徒じゃあない!!」
気が付けば俺はもう周りに声を聞かれることも厭わず大声で答えていた。
佐藤君が目を見開く、だけど今回は確信を持って言える。これが、正解だと。
佐藤君が驚いた顔でリン、というか音が発せられたスマホの方に目を向ける。それに従うようにくノ一の目線もこちらに向いた。
「それはよかったですわ!!ではここから脱出いたしますわよ!!」
「えっ!?」
見開かれていた瞳をさらに大きく見開き再び驚く佐藤君。
一方俺はといえば、こっちが正解だったようで一安心。一人ガッツポーズをする。
「なんで知らないが正解だってわかったのいっちゃん」
駆け寄った佐藤君に起こされながらリンが聞いてくる。なんだ起きてたのかよお前、完全に気絶してると思ってたわ。
「だいたい半分くらいは勘だよあんなもん。そんな威張って言えるほどの理屈はない。ただ、もしあのアマテラスうんちゃらが王国に危険視されているようなやばい宗教なんだとしたら、あんな質問はしないかなと思っただけだ」
現代でも宗教ってのはとんでもない力を持っている。代々栄えた王国に国教を持っていなかった大国は存在しないし、それが理由で国が亡びることもある。そんくらいやばいのが宗教だ。国が危険視しているような思想だ、まともなわけがない。仮に俺たちがあの場で信仰している的なことを言ったことを理由に助けに来たのだとすればこんな質問はせず問答無用で助けにきた可能性が高い。
だからこそあの場で確認してくるのは動きとして少し不自然だった。見方かどうかを測りかねているような動き。あんなもの警戒していますよと言っているようなものだ。
「ひゅ~冴えてる~」
「ふっ。まあな」
リンに褒められ速攻でいい気になる俺。いくつになっても褒められるのは気分のいいもんだね。
しかしいい気になってばかりもいられなかった。突然の乱入者により足を止めていた兵士たちがようやく落ち着き始めていたのだ。
とにかく突っ込んで捕らえるぞ!とか、物騒な指示が聞こえてくる。もう動き出すのも時間の問題だ。
「なあ、もうあちらさんはこっちに来る気配満々だけど、どうやって脱出するわけ?」
リンは質問するが、ネネはまるで梅干しかと思うぐらい顔をしかめる。
どんだけ嫌われてるんだリン……
「侵入者は殺して構わん!捕らえろ!」
その隙にこちらに突っ込んでくる兵士たち。多くを包囲に残しながら、こちらに向けて3人が槍を構え走ってきていた。
それに対しネネは丸腰。武器の一つすら取り出す気配を見せない。刻一刻と槍がネネのむき出しの腹部に迫る。
このままではネネは槍で腹を貫かれ、どす黒い鮮血をまき散らしながら死ぬ――
「と、お思いになられたですわ?」
ガギィン、と音が鳴り槍が弾かれる。いつの間に取り出したのか、ネネの両手には漫画や時代劇でしか見たことのない、黒鉄色に光る武器が握られていた。いわゆるクナイというやつだ
「華麗な乙女というのは、得てして内に秘めたる武器をもっているものなのですわよ」
そう言ってにやりと笑ったネネは、返しの二手三手で素早く兵士を切りつける。その小さな体でどうしてそんなに速く動けるのか、疑問に思うぐらいの早業で。瞬く間に三人を無力化した。
「すっげ……」
思わず声が漏れる。今まで生きていた中で一番速い動きだった。これが異世界。これがファンタジー。こんな奴がフィクションではなく、実際に存在する!
「怯むな!全員でかかれ!」
今まで号令をかけていた体調らしき男が、いち早く我に返り兵士たちに命じる。
だが、その命令が実行されるよりも、ネネの行動の方が速かった。
「そうはいくか、ですわ!!」
そう言った途端、ネネを中心に白い煙が発生する。煙は急速に周囲に広がっていき、一瞬で周りを囲み相手の視界を奪う。勿論リンの視界を通しているため俺にもほとんど状況をうかがうことはできない。
そう思ったのもつかの間、ネネは煙の中から急に現れ、苦虫をかみつぶしたような顔をしながらリンを肩に抱える。もう反対の肩には当然のように何が何だか分からないという顔をした佐藤君が抱えられている。
「それではハジマーリ王国の皆様、失礼いたしますわ。ごめんあそばせ!!」
そう言ってネネは煙の中を跳ぶ。
狼狽える兵士たちの声。それでも指示を続ける隊長らしき男。そのどちらの声よりも、ネネが高らかに笑う『オーホッホ!!』という声が鮮明に響いていた。