翌朝。
俺はなぜか、台所に立っていた。
「ほれ、手を止めるでない。我は腹が減っておるぞ」
魔王はソファーに寝転がり、凛の頭をぽんぽん撫でながら偉そうに命じてくる。
「……勇者に何作らせてるんだよ、魔王様」
「ふむ? 勇者ならば働くのは当然じゃろう。人の世を救う使命を持つ者は、まず我らの胃袋を救わねばならぬ」
「胃袋を救えってなんだよ……」
「勇者よ、味噌汁の味はどうじゃ?薄いようなきがするぞい。」
「匂いのみで味がわかるのか?――いやいや、まてまて、俺は勇者だぞ!? なぜ魔王達のために飯作らないといけねぇんだ!」
「お主……野宿生活が長かったじゃろ。せめてご飯ぐらい美味いほうがよいじゃろ?」
「そういう問題じゃねえ!」
おたまを片手に悪態をついていると、凛が机に座りながらケラケラ笑っていた。
「ねえ勇者さん。エプロン似合ってるよ?」
「……黙るんだ」
「似合ってるって!おじさん、顔はちょっと怖いけど、主夫みたい」
「勇者だっつってんだろうが!」
凛は笑いながらも、炊飯器のふたを開け、茶碗によそい始めている。
完全に俺のことを家の人扱いだ。
「凛よ、皿を並べるのじゃ」
「はーい」
素直に返事をした少年がテーブルの上に皿を並べ始める。
その様子を見て、俺は思わず口を開いた。
「……俺のこと勇者だと思っているの?」
「さぁ、どうかな?……魔王がいたら、勇者もいると思うし」
「…その、魔王は怖くないの?」
「我は怖くなどないぞ?ただの魔王じゃ」
「その“ただの”が怖いんだよ!」
魔王は「ふふん」と満足げに鼻を鳴らし、ソファから片手をひらひらと振った。
「我は、もう三日も風呂に入っておらぬぞ」
「それを誇らしげに言うな!」
思わず包丁を置いて叫ぶ俺。
凛がくすくすと笑いながら、
「魔王さま、勇者おじさんに怒られてる〜」
などと茶化してくる。
「ふむ、我は叱られるのは嫌いではないぞ」
と平然と答えていた。
……なぜ俺は魔王とこの少女の家で飯を作ってるんだ。
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結局、朝食は俺が全部作らされた。
食卓には味噌汁と焼き魚、卵焼き、漬物。
……今までの経験が役にたった。
魔王と凛は美味そうに頬張っている。
「おいしい!」
「良い腕じゃの。勇者、余生は料理人でもやっていけそうじゃ」
「誰のせいで余生に入りそうなんだよ……」
俺は一人ため息をつきながら、自分の味噌汁をすする。
世界の命運を背負った勇者のはずなのに、今の俺は完全に“家政婦”だった