堀北と櫛田で『百合』   作:百合ξ紳士

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ツンデレと平和が好きです


第2話

 あの日から。

 俺はクラスメイトの格好の的となっていた。

 

 あの宣言の影響は予想以上で、翌日から教室の雰囲気が変わった。

 

 みんなの視線が俺に集まり、好奇心の塊のような目で見られるようになった。

 

「おい相沢! 連れションいこうぜ!」

 

 授業合間の休憩時間。

 

 俺が教室の外に出ようとすると、必ずと言っていいほど男子からはトイレのお付き合いを提案される。

 彼らはニヤニヤしながら、俺の恋バナを聞き出そうとする。

 

 おかげさまで、ボッチは卒業したがこれいかに。

 

「ねえ相沢くん! 桔梗ちゃんに教えた人、私にも教えてほしいな……?」

 

 女子からは、たびたび同じ質問を繰り返される。

 彼女たちは目を輝かせて近づいてくる。

 

 俺は、曖昧に微笑んで見せて「その髪飾り綺麗だね」とかいって華麗に話から逃れる。

 

 気づけば俺の周りには、男女豊かに集っていた。

 休み時間になると、自然と輪ができる。

 

 だが一つ聞きたい、どうして他クラスの生徒までが俺のことを認知して、教室に来訪するんだ……。

 

 噂が広がる速度が恐ろしい。

 

 校舎の廊下で知らない女子に「相沢くん!」とナチュラルに声をかけられた時は、流石にびっくりした。

 

 とはいえ、学生生活に支障が出るわけでもない。

 彼、彼女らをのらりくらりして俺は過ごしていた。

 

 さて、自称『百合の花』計画。

 

 これを遂行するには、櫛田と堀北の二人を親密にさせていく必要がある。

 

 まずは二人の性格を分析した。

 

 櫛田は社交的でみんなと仲良くなりたいタイプ。

 堀北は内向的で一人を好むタイプ。

 

 つまるところだ。

 自然体では二人が仲良くなることは決してない。

 

 なぜなら、性格が元気系と静か系では致命的に合わないからだ。

 

 櫛田の明るさが堀北を圧倒し、堀北のクールさが櫛田を遠ざけるだろう。

 

 もちろん、何の因果かそれでも仲良くなる人たちがいることは承知している。

 この広い世の中、意外な組み合わせが上手くいくケースは多々しばしばある。

 

 だが今回の場合。

 静か系……堀北が一匹狼なので、厳しいだろう。

 原作の記憶から、彼女は人付き合いを避けがちだ。

 

 中学時代にそれを変えられるか。

 

 そこで俺、考えました。

 

 まずは”堀北の心を開こう”、です。

 

 彼女は孤高の存在とはいえ、まだ中学一年生。

 それ相応に人としての成熟はしていない。

 心の壁が薄い今がチャンスだ。

 

 だから、俺は堀北が成熟しきる前に、俺という存在を、”普通の男友達”という概念を染み込ませるのだ。

 

 ぐへへ、堀北を俺色に染め上げてやろう。

 ……というわけではなく。

 

 あくまで橋渡し役だ。

 

 俺は中継点として、二人を繋げる。

 

 

 これが当面の目的というわけである。

 まずは堀北に近づき、次に櫛田を巻き込む。

 

 

---

 

 

 授業と授業の合間の休憩時間。

 

 教室はざわついて、みんなが次の準備をしている。

 俺はタイミングを見計らい、堀北の席へ近づいた。

 

「堀北さん」

「何のようかしら?」

 

 長い黒髪を揺らして、彼女が反応する。

 視線の先は机に向けられたままだが、耳は傾けているようだ。

 

 横顔は整っていて、将来の美しさを予感させる。

 

 彼女は次の授業の教材を取り出して、整えていた。

 几帳面な性格が表れている。

 

「今日、”数学係”の日じゃん」

「それがどうかして?」

「いや、我々。一応、同じ数学係ですよね」

「そうだけど、何か?」

 

 ツンツンとした対応でこちらに返答をしてくる。

 

 声は低めで、落ち着いているが、少し警戒心が混じっている。

 

「先生から職員室までプリントを持ってくるよう言われてるんだけど、そろそろ皆の集めて行かない?」

 

 そう、実は俺。

 堀北と一緒の数学係に狙って立候補したのでした。

 クラス会議の時、彼女が手を挙げたのを見て、即座に追従したのです。

 

 全ては計画のために……。

 

「……そうね。では、あなたが集めてちょうだい。先生のところまで運ぶのは私一人でやるから」

「了解しました」

 

 まるで嫁の尻に敷かれた夫のようだ。

 とはいえ職務は全うする。

 俺はクラス全体に声を通す。

 

「はーい、みんな注目〜! 今からプリント集めに周るから、できてる人は出して、できてない人は今やるか友達の急いで写しちゃってねー」

 

 俺の言葉に皆が気づき、ある者は「はい、よろしくねっ相沢くん」と渡してきて、またある者は「やべえ相沢! あと一分で写すから俺は後にして!」と時間稼ぎをしてから渡してくる。

 

 そして授業の合間の時間にそれらが全て集まり。

 プリントの束が重たくなる。

 

「じゃあ堀北さん、数学の先生のところまで”一緒に”行こっか」

 

 俺は微笑んでみせてプリントを”半分”渡す。

 彼女の反応を観察する。

 

「運ぶのは私一人でやると言ったはずだけど……?」

 

 少し睨んだ様子でこちらを見てくる少女。

 眉が少し寄っている。

 

「いやなに、別に俺も時間あるから行くよ」

「勘違いしているみたいね……。作業は半分半分で互いに行わないと公平じゃないの」

 

 堀北は俺の手元にある残りのプリントも寄越せと、右手を出してくる。

 彼女の指先は細く、白い。

 

「いいや、その手には乗らないよ。早く一緒に行こう、次の授業の時間になっちゃうから」

 

 俺がプリントを天に掲げると。

 彼女は少し苛立った表情を浮かべる。

 

「はあ……まあいいわ」

 

 だが呆れたように、諦めたように席から立ち上がると、教室の外へとすたすた出ていってしまった。

 

 足取りは速い。

 俺も急いで堀北の後をついていって、横並びに階段を下りていく。

 

 階段の壁に反射する光が、二人を照らす。

 

「ねえ堀北さんってさ、何で数学係にしたの?」

「……」

 

 沈黙のまま無視される。

 だが予想通りだ、諦めずに続ける。

 

「いや俺はさ、役職二つ目だから楽そうなのを選んだんだけどさ……実際はちょっと大変だね」

「……そう」

 

 おっと、今度は少し反応があった。

 声は小さいが、会話が成立した。

 

「本当は生徒会もいいと思ったんだけど、放課後まで残るのが面倒でね。あれ? そういえば堀北さんって、生徒会立候補してなかったっけ? あれ結局どうなったの? 選抜制でしょたしか」

「……落ちたわ」

 

 暗いトーンでぽつりと呟いた。

 彼女の肩が少し落ちた気がする。

 

「おお失敬。でも来年があるからね、来年生徒会に入れることを祈るよ」

「はあ……それはどうも」

 

 そういえば生徒会には”あの人”がいるんだっけか。

 堀北も本当は入りたかったのだろう、”同じ道”を辿りたかったのだろう。

 だが今年はどうもダメだったようだ。

 

「おっ、着いたね。どっちがノックしようか——」

「失礼します。数学係の堀北鈴音です、○○先生はいらっしゃいますか?」

 

 こちらの話を聞く前に、彼女はノックをしてから職員室の中へと入ってしまった。

 

 素早い行動だ。

 俺も遅れまいとその後に続き名乗ってから入る。

 

「おや、堀北さんと相沢くん。確かにプリントは受け取りました。……ふむ、全員分あるみたいですね。素晴らしい、次回も頼みますよ」

 

 数学の教師が満足げに頷いてこちらを見る。

 

 我々もぺこりとお辞儀をする。

 

「はい、分かりました」

「任せてください。……では、失礼します」

 

 職員室の外に出て、急いで教室へと戻る。

 廊下の窓から外の景色が、青空が広がっている。

 

 互いに小走りで廊下を進んでいた。

 すると、堀北が俺に声をかけてきた。

 

「あなた……」

「ん? なんだい堀北さん」

「次回は私がプリントを集めるから。それで今回のはチャラよ」

 

 堀北が顔を背けながらそんなことを言ってきた。

 ので、おどけて反応してみせる。

 

「おおそれは頼もしい」

「……バカにしてる?」

「そんなまさか! 堀北さんが自分から集めるなんて、滅多にないことであろうと思いまして」

「はあ……? あなたは私が”できない子”みたいに言うわけね?」

 

 キッとこちらを睨んで威嚇してくる彼女。

 

 少し気分を害してしまっただろうか。

 俺は冷静に対処する。

 誠実に想いの丈を伝える。

 

「そんな意図はございません。むしろクラスの中で一位二位を争うレベルで俺は堀北さんの実力を認めていますよ」

 

 すると、階段を登っていた堀北が立ち止まる。

 息を整えながら、こちらに振り返る。

 

 若干頬を紅らめつつ、視線を逸らして問うてくる。

 

「そう……ちなみに私と争っているのは、誰?」

 

 決まっているじゃないか。

 俺は心の中でニヤリと笑う。

 

「ふっふっふ、それは”内緒”かなあ?」

「いいから答えて」

 

 すると真正面からこちらを捉えてくる。

 彼女の瞳が真剣だ。

 

「えっ、聞きたい?」

「……」

 

 無言の圧力で答えを促してくる。

 空気がほんのりピリッと張り詰める。

 

 おお怖い、まるで修羅場。

 俺は両手をあげて、降参のポーズを取る。

 

「それは——」

 

 し か し。

 

「あっ、二人とも! もう先生来てるよっ!」

 

 答えようとした矢先に、時間切れのようだ。

 ”クラスメイト”の声が階段の上から聞こえてくる。

 

「答えはまたいつか」

「そうみたいね……」

 

 堀北はこちらに渋々同意する。

 少し残念そうな表情をしていた。

 

 だがもう一度、こちらに向くと。

 

 恥ずかしそうに微笑んで。

 

「いいわ、認めてあげる。あなたのこと——いいえ」

 

 

 ”相沢くん”

 

 心をじんわりと氷解させた——。

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