堀北と櫛田で『百合』   作:百合ξ紳士

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ヒンニュー教は、いつでも貴方を待っています


第4話

「きりーつ。きょうつけー。れい!」

 

 今日もまた中学校生活が始まる。

 

 一日の挨拶を、”学級委員”の俺が導く。

 皆がそれぞれ立ち上がり姿勢を整え礼をした。

 

「はーい。じゃあ皆さん、今日からは前期中間試験の二週間前です。このテストによって、成績が決まっていくので、しっかりと勉強するようにね。以上」

 

 担任の先生がそんなことを言って、ホームルームを素早く切り上げる。

 

 生徒たちの反応はそれぞれで、「余裕っしょ」とか「私、数学苦手だからどうしよ〜」など多種多様。

 これぞ、まさに青春といった感じで素晴らしい。

 

 とはいえ俺は、試験とか大っ嫌いだったので、前日に詰め込み勉強をして、付け焼き刃でしのいでいたのを、ふと思い出す。

 

 まあ最悪、中学生はノー勉でも卒業させてくれるから、多少はね……遊んでても良いんじゃないかな。

 

 そんな考え事をしていると。

 

「ちょっとあなた……相沢くん」

 

 俺の席の目の前に、黒髪の長い少女。

 堀北鈴音が、こちらに声をかけてきた。

 

「ん? どうかしましたか堀北さん」

 

 彼女は周囲をチラチラと気にしながら、自分に視線が集まっていないことを確認すると。

 

「相沢くん、次回の試験のことなのだけど。……あなた勉強の調子は大丈夫なの?」

 

 まるでお母さんか、とでも言いたくなるような質問を問いかけてくる。

 

 俺は姿勢を正してから、微笑んでみせる。

 サムズアップをして、ニヤリと答えた。

 

「俺は……ノー勉で行く!」

 

 俺の自信たっぷりな宣言に、堀北はため息をつく。

 

「はあ……まさかあなたまで、他の幼い男子たちと同じことを言うとは思ってなかったわ」

 

 すると、彼女は手で髪をさらりと払うと。

 

「その……だけど。相沢くん、勉強は必要だわ」

 

 どこか真剣な表情でそんなことを言ってくる。

 

 まあそれは、おっしゃる通りだ。

 勉強という言葉は嫌いだが、その重要性ははっきりと理解している。

 この日本では、成績の良し悪しによって、進む方向や、未来の可能性が大きく決まり、拓かれていく。

 まあ、俗に言う『レールの上』を、大多数の人々は走るわけだが、中学校というものも、また然りレールの上である。

 

 だが少し言い訳させてほしい。

 

 俺は黒塗りの高級車に追突されて、前世をあっけなく終えてしまった。

 レールの上を走っていたところ、輪廻のレールを再走させられているわけだ。

 前世に学んで……とまでは行かないが、今世は別にゆるーくやっていければいいかなと思う。

 

 つまるところだ。

 俺は勉強は必要最低限しかやらないぞ!

 

 ていうか、俺の今世の目的は今のところ。

 ——『百合』を咲かせることだ。

 

「別に……そんな勉強、頑張んなくても良いんじゃないか、な?」

「いいえ、ダメよ。相沢くん、あなたはしっかりと勉強をして、良い成績を取るべきだわ」

 

 もう、耳が痛くなるような正論。

 

 とはいえだ。

 やたら無闇に言い訳を述べても、堀北はさらに正論の雨を降らせてきて、俺の心をずぶ濡れにして来ることに違いない。

 

 通り雨ならぬ通り堀北。

 諦めて、同調して事なきを得よう。

 

「うん、そうだね。堀北さんの言う通りだ。俺が間違っていました。勉強、頑張るぞ〜!」

 

 そう言うと、堀北はふふっと微笑んだ。

 そして再び、誰の視線もないだろうことを確認するそぶりを見せると、そっと静かに耳打ちする。

 

「じゃあ相沢くん。今日の放課後は図書館に残って、その……一緒に勉強しましょう」

 

 俺は驚いた表情を浮かべて、彼女を見る。

 

 まさかあの孤高の堀北が、人と一緒に勉強しようなんて言うとは、夢にも思ってもいなかったからだ。

 自分から誘うなんて、そんなことがあり得るのか。

 

「何よ……そんな変なものを見る目で」

「い、いや? そのー、なんというか——」

「私があなたを勉強に誘ったら悪い?」

「いいえ! そんなことはございません! 喜んでお引き受け致しましょう‼︎」

 

 そう言うと、堀北はこくりと頷いて自分の席へと戻っていってしまった。

 

 ……一体、何が起きると言うんです?

 

 

---

 

 

 さて、冒頭で起立の挨拶をしていたように、俺は数学係の他に、学級委員という役職も兼任している。

 

 これは単に、授業前後の挨拶をすればいいのと、担任の先生からの軽い雑用をこなせば良いだけの、隠れ楽仕事だからである。

 

 そして、学級委員はクラスに俺含め二人いる。

 

 まあ、こんな目立ちたがりというか、否が応でも目立ってしまう役割に立候補するのは、大体クラスの人気者がセオリーだろう。

 

 つまるところだ。

 

 そんな損得勘定でやっている俺を除いて、こんな学級委員という役職に立候補する物好きは、まあ言わんでもわかる。

 そう、それは——。

 

「相沢くんっ! 先生の荷物取りに行こっ!」

 

 ——櫛田桔梗、彼女に他ならないわけだ。

 

 クラスの人気者となるべく、自己承認を満たすには学級委員がまさにピッタリの存在。

 誰もがやりたがらない学級委員に、いち早く名乗り出たのが櫛田だ。

 他の生徒たちの目には、まさに彼女こそ『優等生』と映ったことだろう。

 

「ああ、そうだね。一緒に行こうか」

 

 自己承認欲求が先か、優等生が先か。

 それはコロンブスの卵なのでわからないが、今のところ裏の顔は見せていない。

 もしかしたら、”綺麗な櫛田桔梗”なのかもしれないとの淡い希望を抱きつつ、俺は席を立ち上がった。

 

 二人で階段をコツコツと鳴らしていく。

 職員室に到着して、中に入り、担任の先生から書類を渡される。

 それを俺が少し多めに持ち、今度はコツコツと階段を上がる。

 

 すると、櫛田がこちらに声をかけてきた。

 

「ねえ、相沢くん? 今度の試験なんだけどさ、自信はある? 私は不安でドキドキしてるよ〜」

 

 胸の間に両手を寄せて、そこに皺ができる。

 まだ中学一年生だというのに、意識か無意識か、男を魅了するような仕草が上手である。

 

「いやー俺はねえ。ノー勉で行こうと思ったんだけどねえ。”友人”に誘われたし、少しはやろうかな?」

「ノー勉……ふふっ。相沢くんは冗談が上手だなあ」

 

 いや、結構本気と書いてマジだったんですけど。

 

 窓から差し込む朝日が彼女の顔を可憐に咲かす。

 頬に光があたり、健康的なツヤのある肌が照る。

 

「ちなみにさ……その友人って誰か、私当ててみてもいい?」

 

 にこりと微笑んで、可愛らしく言う。

 俺は別に構わないので「どうぞ」と一言だけ。

 

「ふっ、ふーん! それはずばり……ジャカジャカ——堀北鈴音さんでしょう!」

「お見事、正解」

「やったっ! 私の予想通り〜!」

 

 櫛田はくるりとその場で器用に一回転して、喜んだ表情を浮かばせていた。

 

 そして、わざとらしい声音で、こんなことを呟く。

 

「いいなぁ〜相沢くん。堀北さんと仲良いよね〜。私も……その勉強会参加できたらいいのになあ?」

 

 これは一体どういう目的なのだろうか。

 俺は、沈黙し……彼女の脳内を勝手に想像する。

 すると、とある数式が浮かび上がった。

 

 堀北×俺×櫛田=?

 

 このクエスチョンに至るには、そもそも存在が?な俺を/して消すことによって簡単に求まった。

 

 つまり、『堀北×櫛田=?』

 

 ……な、なんだってえ⁉︎

 これは——もしかすると、あの彼の万物の天才、ガリレオ・ガリレイが晩年に書き残したとされる、『聖数』と全く同じ結論に至るではないかっ!

 

 俺はこれを知っている。

 そして、俺はこれを求めている。

 

 その聖数(?)とはずばり——『百合』。

 

「相沢くん? どうしたの急に立ち止まって?」

 

 不思議げに小首をかしげて、つんつんと、こちらの肩をつついてくる櫛田。

 

 俺は、そんな彼女に向かってdと親指をあげた。

 

「櫛田さん。一緒に勉強会に参加するかい?」

 

 俺の言葉を聞いた彼女は、天使の笑みを浮かべて、両腕を大きくあげてから喜びを全身で表現した。

 

「やっ〜たあ! するする‼︎  一緒に勉強する!」

「じゃあ放課後、図書館で集合ね」

「はーいっ!」

 

 櫛田は上手く行ったと言わんばかりの表情だ。

 

「って……もうそろそろで、授業の時間だよ⁉︎ 急ごっか、教室まで!」

 

 そして俺と彼女の二人は、走って教室まで駆け込み、なんとかギリギリ、各自、席につくのであった。

 

 

---

 

 

 放課後の静かな図書館。

 そこの端っこの机には三人の影があった。

 

「相沢くん……これはどういうことかしら?」

 

 内一人、堀北鈴音が静かにこちらを睨んでいる。

 

「どうも何も、堀北さんの言う通りに、一緒に勉強会をしようと参りました」

「違う。そうじゃないわ——どうして、”櫛田さん”がここに居るのか、それを質問しているの」

 

 俺は「ふむ……」と考えるそぶりを見せた。

 そして、言葉をゆっくりと紡ぐ。

 

「三人寄れば文殊の知恵、と言いまして……」

 

 バシン、と机の下から脚で脛をキックされる。

 

 おお、痛い。

 見事なまでのクリティカルヒットだ。

 

「あ、あはは……」

 

 そして問題の人物。

 櫛田桔梗は、その光景を見て苦笑いしている。

 

 現在、俺の対面には。

 堀北と櫛田の二人が座っている状態だ。

 

「私……帰った方が、いいかな?」

 

 櫛田がどこか申し訳なさげに声をかけてくる。

 俺がそれを引き止めようとする前に——。

 

「いいえ、その必要はないわ。だって、櫛田さんには非はないもの」

 

 堀北が、櫛田の辞退を止めた。

 そのまま、俺に鋭い視線を向けて言葉を続ける。

 

「相沢くん。私に、一言でも声をかけたかしら?」

「いえ、私の独断専行でございます」

「結構。なら、報連相という言葉を知っている?」

「はい、ビタミンCなど栄養が豊富な——」

 

 ——バシン。

 

「い、いたい」

「あら失礼。足が”たまたま”ぶつかったみたいね」

 

 俺の渾身のネタは通じなかったようだ。

 

 堀北は冷蔑の視線を送ってくる。

 それは凍えるような氷の瞳。

 彼女は、もう一度呆れたように言った。

 

「いい? 相沢くん。あなた、他の人を呼ぶならまず”私に”相談をしてちょうだい? 櫛田さんだからまだいいものの……他の猿みたいな生徒だったら、私は絶対に断っていたから」

「了解しました」

 

 短い沈黙が流れる。

 

「相沢くん?」

「はい、堀北さん。何でございましょう?」

 

 堀北がこちらをじっと見つめている。

 そして、ようやく口を開いた。

 

「……はあ。教材を机に出しなさい。今日は勉強会であって、説教会ではないの」

「わかりました」

「櫛田さんも……その、気にしないで。一緒に勉強を頑張りましょう」

「そ、そうだねっ! 勉強べんきょー」

 

 

 ——この日から、三人での勉強会が始まった。

 

 

---

 

 

 さて時計の針を進めてしまおう。

 試験前の二週間はあっという間に過ぎた。

 

 ——そして、試験を終え、結果が返ってきた。

 

 結論から言おう。

 俺たちは学年上位の成績を手に入れた。

 

 この二週間の濃密な時間……。

 

 結果として——俺は、二人の少女たちの距離を近めることに成功していた。

 

 今日は休日。

 我々三人は、近くのイタリアン系ファミレスに訪れ、祝勝会という名の食事を楽しんでいた。

 

「ねえ”鈴音”ちゃん! このプリンとか美味しそうだよ〜! 後で一緒に食べない?」

「ええ、”桔梗”さん。なら、このティラミスとセットのを注文しましょう。これなら両方とも食べられて、美味しそうだわ」

 

 そう、これこそが今回の戦果。

 

 堀北と櫛田は互いのことを下の名前で呼び合うくらいには、親しい仲へと急接近していた。

 

 うむ、実に結構。

 

 美少女二人が、楽しそうに料理やデザートを選んでいる光景の、なんと微笑ましいことか。

 

「相沢くんも、デザートは頼むかしら?」

「相沢くんっ! どれにする〜?」

 

 俺はトリュフアイスクリームを指差した。

 そして、それを紙に記入して、三人の料理をピンポーンと店員を呼び、注文する。

 

「鈴音ちゃん」

「桔梗さん」

 

 

 今はただ、この甘い空気をかみしめて——。

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