Welcome to New Kowloon Walled City. 作:こんこんВерныйカワイイヤッター
「ふん……まあいいだろう」
意外にも非難されなかった俺達は席に座っていた。
「わざわざ用意してきたのだ……拒否することはあるまい?」
そう言い彼女はシャンパンを注ぐ。
「クイーンちゃーん……堅いぜ?」
「クラックか……お前はもう少し礼儀というものを知るべきだ」
そうクイーンは目線で咎めながら答える。
「おいおい、礼節はちゃんとしてるだろ?」
そう言ってクラックは言動からは想像もつかぬ手際でテーブルの上のグラスに注いでいく。
「そういうところだ、クラック」
「フレンチどこがだよ」
「……お前というやつは」
フレンチと呼ばれた白人は溜息を吐き席に座る。
「よし、皆席に座ったな。クイーン、どうぞ?」
そうクラックが言うとクイーンはシャンパンを手に取る。
「ここに我らがバトラーズがドギーを祝おう……我らに、自由を」
「口に合わなかったか?」
窓際で煙草に火を付けているとクイーンが現れた。
「いや、煙草が恋しくだけだ」
そう言うとクイーンはポケットから煙草の箱を取り出した。
「……吸うのか?」
「Newkじゃ未成年喫煙程度は序の口だよ」
そう言うと箱から茶色の煙草を出す。それを横目で見るとさっきまで握っていたライターを差し出す。
「ほらよ」
「助かる」
ライターで彼女の煙草に火をつける。
「うちには慣れたか?」
「まあ、それなりには」
こういうことは慣れている。というかNewkに流れ着く奴らはこういったことは日常茶飯事だろう。
「それは良かった」
携帯灰皿を取り出し灰を落とす。流石に人の家を汚すわけにはいかない。
「珍しい煙草を吸っているな……どこのだ?」
「自家製だよ。母がこういうことが好きでな……一本どうだ?」
そう言って彼女は煙草を差し出してくる。
「今はいい」
「じゃあ貰っておけ。また今度吸っておいてくれ」
それから2人は話さなくなった。ただ黙って煙草をふかす。しかし数分後ある一声で静寂は破られた。
「おい、ケーキ無くなっちまうぞ」
ヴェイダーが両手にカットされたケーキを持って現れた。
「すまない……ああヴェイダーは残ってくれ。ドギーもだ。ケーキを食べ終わったら仕事の話をしよう」
「よし、じゃあ始めようか」
そう言ってクイーンは書類を渡し俺はそれを手に取る。
「依頼主はUniMediの上級幹部マイザー。内容は護衛だ」
横に置かれた物をちらりと見る。
「場所は?」
「北部……つまり企業統治区画だ。西側の検問にマイザーが居る。話は通してあるから行けるはずだ」
話ねぇ……と相槌を打ちながら聞く。クイーンが続ける。
「企業合同の交流パーティらしい。考えなしに動くなよ」
黙って聞いているとヴェイダーが口を開く。
「今回の人員はどうするつもりだ」
「全員だ。ヴェイダーとマックスは会場の外で監視、クラック、フレンチはウェイターに変装してもらう。ドギーは密着警護だ」
「待て、クラックがウェイターなんてできるのか?」
口まで出かかった言葉がそのまま出てしまった。
「クラックはああ見えて空気がわかる。一番そういったことに慣れてるのもクラックだ」
「そんなもんか……なあさっきから思ってるんだが」
そう言うとクイーンは肩を上げ疑問を問うような仕草をする。
「そこの……なんだ?服と無線機は」
「仕事用具だが?……ああそうか、ドギーは初めてだったか」
「ほう?なかなか似合っているじゃないか。馬子にも衣裳、といった具合か」
着慣れていないことがすぐわかるスーツ姿で腕をぐりぐりと回す。
「Newkの外だとこんなの着たことが無かったぞ」
「じゃあ初の晴れ姿ということか。胸を張れよ」
そう言ってクイーンは背中を叩いてくる。
「無線機はどこに入れるんだ?」
「背広の内側だ。……そうそこのポケットだよ」
「助かる」
そう言って無線機を服の中に入れる。するとクイーンは小さな装置を渡してきた。
「インカムだ。既にそれに接続されてある」
彼女からそれを受け取り右耳に取り付ける。
「よし。マックスとはあったことが無かっただろう?彼とも会っておけ」
静かな廊下を少しばかり行く。重い金属の扉に手を当て、何回か打ち付ける。
「マックスは居るか?」
……返事は無い。また何回打ち付ける。
「マックス!居るか?」
……やはり返事は無い。また何回か──。
「居ますよ」
そう言って急に扉が開け放たれる。中から出てきたのは如何にも中庸といったような青年だ。
「……まぁ、取り敢えず入ってください」
中に入り部屋を見渡す。確かにベッドや机といった物が置かれてはいるもののその様相は異質だ。
「何の用ですか?」
「挨拶に来た」
そう言うと彼は少しばかり考え込み、突然納得したかのように声を出した。
「ああ!てっきり配達の人かと思いましたよ」
「勘違いさせてしまったか。すまない」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
急に柔和な態度を見せながら急いで床に置かれていた工具を片付け始める。
「うちには椅子は無いんですよ。代わりに座布団を出すのでそれで我慢してくださいね」
そう言って片付けて空いたスペースに座布団を運んでくる。
「さて、自己紹介がまだでしたね。マックスと言います。電子戦とエンジニアリングを担当してます」
「ドギーだ。新入りだから迷惑は掛けるかもしれない」
そう言って握手をする。
「にしても工房みたいだな。ノーマッドのカスタムヤードを思い出すよ」
「僕の好きな物だらけのいい部屋ですよ。あ、これハックギアって言うんですよ」
そう言って何かを持ってくる。ヘルメットのようにも見て取れる、おおよそ戦闘には向かなそうなそれが手の内に収まっていた。
「ハックギア……」
ある程度類似した物は知っている。ヘッドギアという頭に付けるタイプのパソコンが丁度こんな感じだった。
「で、それは何をするものなんだ?」
「ハッキングです」
入れ食いかのような勢いで答える。余りにも早い返答に少しばかり啞然としながら見る。
「操作自体は普通のヘッドギアと大体同じですよ?UIはOSがハッキング用のMk.Ⅵなので違ったりしますが──」
頭が痛くなりそうだ。早めに断っておこう。
「すまない。どうにもそっちは向いていないようでな、別の機会で話してくれ」
「ああ……すみません……あと話しておくことは……」
そう言って少し悩む仕草を見せて机の上からロボットのようなものを床に降ろす。何やら背中に物騒な物が乗った4足の機械だ。
「ドッグスです。9mmガトリングが付いているので攻撃もできます。まあハッキングなら任せてください」
「わかった。こっちは機動戦が得意だ。……それにしても腹が減ってきたな」
そう言うと彼は少し考える。そして紙に何かを書いて渡してきた。
「近くのアジア風の店があります。蒟蒻麺が美味しいんですよね。テイクアウトもあるのでついでに買ってきてください」
「わかった」
それにしても絆されたものだ。そう思いながらブンボーフエなる麺料理を食べる。しっかりとした牛肉の出汁にレモングラスの爽やかな風味が口いっぱいに広がる。一通り歯応えの良い麺を咀嚼し、呑み込む。確かに旨いわけだ。俺のNewKに対しての観察眼の無さに辟易しつつため息をつく。机の上にあるヌーニーホンなる果実酒を淡く飲み込む。すっかり汁しか残っていない器を見て食事を終わりにしよう、そう思った。マックスが蒟蒻麵を買ってこいと言っていたな。軽い炒めたそれならあった。早めに買って帰ろう。
NewK観光案内板
<ランドマーク>
企業統治区画…一般には北部と呼称される主に企業所属の人間が生活する区画。巨大な壁によって守られており内部は特別治安が良いとされている。
Asian24…アジア料理を売っているクイーン邸宅の近くにある店。麺料理に定番があるが文化は大して重視していないらしくオリジナル料理も時折出されることがある。やや高めながら庶民に愛される店である。
<文化>
食文化…NewKには三大企業によって食文化がもたらされた過去がある。アジア料理から欧州料理まで何でもあるがそれなりに良い物を食べるには金が掛かるものだ。
ヘッドギア…視線で操作できる頭に被るタイプの機械。携帯端末のような役割を果たすものの視界は悪く戦闘には向かないだろう。派生としてハックギアが存在し電子戦に特化している。