『走れ走れはしれッ!!』
流れる汗。
夕焼け色の砂漠に、重低音が響く。
ズゥゥン、ズゥゥンと音がなるたびに体が持ち上がるほどの衝撃が地面を揺らす。
対、魔王戦。
最終局面。
魔王に致命打を与えたルークとギャレヲンは現在、汗を垂らしながら必死で蠍の両手と、街の胴体。八本の馬の脚という、数キロメートルの化け物に変身した魔王から逃げるところだった。
『街まで、あと、少しっ、走れェ!!』
夕焼け色の髪をばさばさと風に揺らしながら、女傑が叫ぶ。ルークの少し前を三人の気を失った兵士を担いで走る姿は頼もしさがある。だが、いつも飄々としてそうな顔も今は歯を剥き出し、魔王から逃走を続けていた。幸い、パンデモニウムは移動速度自体はそれほどのようで、すでに距離は離れつつあった。しかも、途中でギャレヲンが地面を陥没させていたようで、魔王は足を取られ移動が更に遅くなっている。
「カランコエっ! 魔力は!?」
『ほとんどない』
「あぁ、くそっ!」
ルークが、ぞふ、と砂を踏み締める。砂漠は力が伝わりづらい。足から伝えたい力が幾万もの砂に分散されて消えてしまう。背後では蟻地獄のようになった砂地から脱出しようともがくパンデモニウムの気配がする。
「はっ、はっ……!」
勇者は、息を切らしながら、いつもの何倍もの力で地面を踏み締めて走った。ミルシットの街へ。もう脳に酸素が足りなくてチカチカしてくる。乳酸の溜まった脚は溶けた金属のように重たい。一歩一歩に多大なる意志が必要になる。
「攻城っ、兵器はどこですか!」
迫る巨大な街を背景に、気を紛らわせるようにルークはミルシットの街に逃げている理由のありかを尋ねた。暴走したパンデモニウム。とても真っ当な方法では倒せそうにないほどの大きな相手。それを倒すための攻城兵器が街にあるというので向かっているのだ。
『城壁のっ、上に、ある!』
大柄な英雄は時々地面にある岩を避けながら、転げるように街へ走る。あと1キロにも満たない距離。走る髪が風圧に靡いている。ルークも走る。息が切れて、頭が痛い。ぼうっとしてくる。
『アタシの──溜めが、──あるしお前の──』
ぼんやりと、目が霞んでくる。
砂漠の蜃気楼のように。疲労が全身を流れている。
『──で──、をして──!』
だからだろうか。ふと。前を走るギャレヲンの姿が過去の映像と重なった。
──私が対処する、脚を止めるなァ!
トァンと特徴的な金属音が響き、前方の魔物の腹に孔が空く。
きらめく、彼女の細剣術だ。鋭く、夜空に閃く流星のようだった。
走る。近くにいた彼女専用の肩代わりの団員が5人、それぞれ口と鼻と目と、そして腕が変色して疱瘡が発生するがすぐさま治療術が飛んできて治る。
走る。
走る──
『──走れ!』
「っ、は!」
果たして、いま響いた言葉が現実のものなのか、記憶の中のものなのか、判然とはしなかった。茹るような砂漠を走るルークは、すでに連戦に次ぐ連戦でふらふらの頭で足を動かしていた。
ぞふ、ぞふ、と砂に足を取られる。
走る。走る。
『GA G G G G G AAA !! !』
背後でパンデモニウムが咆哮して、周囲の砂が震えた。蟻地獄は小さな穴を開けておくだけでいい。あとは相手がもがけばもがくほど大きく広がっていくのだから。そんな、蟻地獄をなかなか脱出出来ないパンデモニウムが苛立ったように右の鋏が振り下ろされる。
「ギャレヲンさんっ、右ッ!!」
『なっ、うぉぉぉ!?』
ズズゥンと大振動。鋏は周囲の砂に落ちて、間欠泉のように砂を巻き上げた。狙いがかなり逸れたらしい。もはや景色がブレるような異常な光景で、鼓膜に痛みを感じながらもルークは鉛のようになった足を進めた。
『あそこだ! あそこから街に入れる!』
数メートル先を達むギャレヲンが、ミルシットの城壁の一部を指差した。かつて堅牢だった赤茶色の砂と同じ色の壁は、あちこちが窪み、凹み、ヒビが入っている場所もある。正規の門は崩れ塞がっていた。入り口はない。ずいぶんな攻撃を受けた鎧のようだ。
街まではあと十数秒で着く距離。勇者は頷いて進路を少し調整する。
一部だけ、ギャレヲンが指し示す小さな連絡口だけがかろうじて崩れずに残っていた。
『入れぇ!』
3メートル近くある城壁の門は扉が外れて、街の内側に転がっている。アーチ状の右上が潰れて、一部が崩れていた。連絡口はその隣にある。地面には瓦礫。ギャレヲンが隙間を通った瞬間、パンデモニウムの振動のせいで崩れかけの隙間が崩れ始めた。
上の瓦礫が砕けて、穴を塞ごうとしているのだ。連絡口まではあと20メートルほど。間違いなく間に合わない。あと1秒足らずで入り口は塞がれる。このまま走ったのではもう、追いつけない。瞬間、頭の中で鎌首をもたげたのは、“仕方ない”とか“無理だ”とか、“頑張った方じゃないか”という言い訳たち。身体が弱って、心が弱っている証左だ。
「む ぐぅぅぅッ!!」
だが、ルークはキッと歯を噛み締めて、残ったほんの僅かな魔力を身体強化、脚の指先、母指球だけに回した。切れかけの魔力を無理やり絞り出した反動で、ひどく心臓の奥が針で刺されたように痛む。鼻から血が吹き出す。だが、一歩。前屈みになる。
『──ほらっ』
ルークの意思を汲んだ魔女が、地面に手のひらくらいの小さな短剣を鍛造する。彼女もきっと無理をしている筈だ。二歩、短剣を足場に踏み締める。もう、穴は塞がりそうだ。既に人一人分の隙間は空いていない。スローモーションになった視界の中で3歩。剣を足場に飛び出す。空中に幅跳びのように。
「っ、! ぁぁあ!」
そして空中で姿勢を変え、足を前に出し飛距離を伸ばすと同時にスライディングの姿勢。
地面に触れる。ジャッ! と砂が飛び、数十センチしかない隙間をルークはするりとすり抜けた。髪の毛一本分の隙間を開けて背後で瓦礫が崩れ落ち、穴を完全に塞ぐ。舞い散る砂埃に咳き込みながらルークはスライディングの勢いのまま姿勢を直し立った。間一髪だった。
ひゅーっと口笛が聞こえて、そちらを見るとギャレヲンが周囲を警戒するように腰を落としたまま、驚いたように目を大きくして顔だけルークの一連の動作を見ていた。戦闘中にも関わらず、軽い彼女の態度にルークは苦笑が漏れる。
風の音がする。砂埃が晴れて、街の姿が露わになった。
「……」
空気が、変わっている。
城壁の内側に入ったから、パンデモニウムの足音が少し遠くに聞こえるからだろうか。
街の中は、戦場の喧騒でもなく、魔物達の狂宴でもなく、しずかだった。怒号も悲鳴も、壊れる音も、すぐにはしなかった。
そう、静かだったのだ。
街は、ルーク達の囮となるために残ったミルシット兵が戦っている筈なのに。
「……ぅ」
代わりにやってきた、夥しい、死の匂い。
腐った匂いはしない。血と、内臓と、鉄と泥の混じった鼻から脳まで詰まるような匂いだ。
かつて出店や屋台で賑わっていた、砂の積もる道の上に何かがたくさん転がっていた。質量感のある何か、丸い輪郭を持つものが。
「…………」
道端にあったのは、数十の倒れる魔物と、同じくらいの人のからだ。むわりとした熱気。臭気が遅れて知覚できた。
『城壁の上の
ギャレヲンが周囲を見渡しながら叫ぶ。文字通り動く
ルークは言われた通りに素早く視線を動かし、城壁の上を見た。そこには崩れた岩と、折れた矢、壁に突き立つ旗に引っかかった誰かの弓が寂しく揺れているだけだった。
『前面はダメかもだ! 街の側面を探せ!』
ギャレヲンも同じものを見たのか、ぐるぐると、視線を動かす。街の建物で一部が隠れて見えない場所もあるので移動しながら。ぬるい夕暮れの風が吹く。鉄臭い、生臭い匂いが街を巡る。
パンデモニウムの振動が響く。
近づいてくる。
「はっ、はっ……!」
魔王の足音を聞きながら、ルークは息を切らし走り回った。ばしゃんと水たまりを踏む。飛沫が上がった。ルークは気にもせず走って、頬にかかった水が妙に変で、首だけ一瞬振り返る。そしてすぐに進路に視線を戻し、バリスタを探す作業に戻った。
『…………』
カランコエは無言で、ルークが踏み抜いた“水溜り”に意識を向けている。
地面に水溜りが出来ていると思った。でも、違った。
近くに中年の男がうつ伏せで倒れていて、水溜りは彼の腹から生まれていた。
泥と、鉄臭い赤色が混じった窪み。
『あったか!? くそ、破壊されてやがる! そもそも魔物はどこに行った! いねぇのか!』
この街に入った時に、感じた、思ったよりも静かという評価は。
それはそれはなんとも可笑しな評価であり。
「……くそ」
勇者は街の中を、魔王を殺す兵器を探しながら悪態をついた。
街が静かなのは。
魔物が跋扈していないのは。
ルーク達がパンデモニウムに侵入し、魔王と戦っている間。
ずっと、魔物の軍勢を受け止め続けていたという単純な事実が答えをくれていた。
兵士は十分に戦ってくれたのだ。
『どこだ、どこだ! もう、あと十分もすればあのデカブツが来ちまうぞ!』
ミルシットの街の家は赤砂を固めたもので出来ている。オアシスの水源近く、底の方にある比較的大きな砂を水を加えて、練って火を通して、焼いて。それで、砂嵐にも強くなるよう屋根を平らに、箱のようにする。
『どこだ』
オアシスを中心に出来た街は人が増え、家々は増築に増築を重ねて、箱は行商人の売り物のように積み重なっていった。まるで迷路のようだ。階段と高低差と家の組み合わさった砂漠の街。
『どこだっ!』
それが、今や。
押し寄せた魔王軍との戦闘で、瓦礫に変わりつつあった。
この街で育ってきたギャレヲンは何を思うのだろう。見知ったものが粉々に砕けて、足元で転がっているさまを。
見知ったひとたちが足元に、何かの臓物と一緒に砂に塗れているのを。
『ルーク! 早く見つけろ! 早く!!』
視線を高速で動かす。頭を限界まで動かして情報を処理する。だけど見つかるのは物言わぬ肉だけ。
人の命は儚い。
魔物は強い。人は脆い。
いけない、とルークは思う。
魔力切れで更に魔力を使ったから、頭がひどく痛む。ハンマーで殴られているようだ。思考が二つに分裂して離れて行こうとする。
必死に繋ぎ止める。バリスタを探す。地面に落ちてないか、まだ使えるやつはないか!
『……クソッ、クソクソクソッ! このままじゃっ』
大事にしてきたものも、作るより壊す方が一瞬で、なんと容易いのか。
この世は基本的に不条理に出来ている。肉だけしか、転がっていない。
『あのバケモノが、街を出て避難してるヤツの元まで届きかねない!』
こうしてまた、もろく、弱く、蹂躙される側の存在である人間は、住む場所を失っていくのだ。瓦礫に挟まれた手が天に伸びている。1秒もしないでルークは視線を切って別の場所にぎょろりと視線を向ける。壊れた子供のおもちゃ、荷車の模型のようなものがばらばらに道路に散らばっている。
脆い。なんて、脆い。
『あったか!? あぁ、ぁあ!』
守っても守っても、やわらかなゼリーのように、守っている後ろで潰される。
なんと、なんという──
『そこだッ!! 突破しろォ!!』
ドカァンと音がして、目が痛むほど凝らしてバリスタを探していたルークの近くの家の壁がぶち抜かれた。勇者は驚いて視線を向ける。もうもうと立つ砂埃が立つ中から、無数の音が連なって迫ってきていた。
『ここが正念場だぞ、いいか、脚ィ止めたら死ぬからな! はしれ、走れぇぃ!』
ざらざらとした声。しかし戦場によく通る。
人影が砂埃の向こう側に現れる。そして、砂塵を掻き分け、勢いよく飛び出してきたのは、何十人もの人影だった。
彼らは砂塵に塗れて、ボロボロで、それでも列になってしっちゃかめっちゃかに進んでいた。
『いけ、いけ行け! そこだっ!』
先頭で指揮を取っているのは、ボサボサの黒髪。デタラメな行進の頭となって、濁流のように進んでいる。
『右っ、右ッってんだろ、アホが!!』
彼は肩から血を流し、粗末な布で止血しながら、何人かの体格のいい狼獣人と禿頭の人間に担がれた木の台に乗って指揮をとっていた。
ざらつく、灼けたような声。
二日酔いの人間の声のような。とにかく目の前の男からは血と狂乱の世界にいる声。
「アルタニャ!?」
『あ゛ぁん!? おい、
素っ頓狂な声を上げたルークに、
「なんっ、で!」
なぜ、隷属民が街に残っているのかルークは知らない。加えて、アルタニャ一行の更におかしいところは、五十人ほどいる彼らの列の中に、隷属民と正規の鎧を纏ったミルシット兵が混じっていること。鎧と誇りの紋章を装備している彼らの装備はべこべこだ。それでも血走ったような目で、隣にいる隷属民と罵声を浴びせながら走っている。普段なら話すことすら、目を合わせることすらしない隷属民と肩を並べて、折れかけの剣を振っている。
『右手、子鬼10! 突っ込めぇえ!!』
おおぉ! と人の威勢がびりびりと伝わる。
『おらっ、兵隊さんよ、普段金もらってんだからへばんなよ!』
『うるっせえ! 犬っころが! お前ぇらとは食ってるもんが違ぇんだよ! 体力が違えんだよ! カスが!』
列が更に加速する。ルークは慌ててその中に加わり、並走した。すると先頭で指揮を取るアルタニャの言葉の通り広い道の奥から小鬼が出て、
『お るぅぅぅああぁ!!』
物量にそのまま轢き殺された。
先頭の男達が槍を構えて、そのまま突き刺し、後続の森人が撃ち漏らしを矢で直接ブッ刺した。
『ははは! はははは!』
誰かが笑う。
つられて他の者も笑う。
『さぁ! どんだけ走れる! 最後だぞ! 根性みせろよ! さもなきゃ──死ね!』
がはは、がははと疲労と興奮と、やけくその混じった笑い声が響く。
人間も、獣人も。兵士も、隷属民も。男も女も、森人も小人も、だれも彼もが拾った剣やら、折れた弓、果てはそこら辺の瓦礫を手に持って走っていた。
ルークは思わず先頭で、集団の行き先を決め続ける男に目をやった。彼はルークが見ていることに気がつくと、ニンマリと笑って、歯を剥き出して、壮絶な笑みを浮かべた。
『残った兵力あつめて、最後の最後にかき回してやるんだよ』
アルタニャがざらざらの声で笑う。
応! と声が上がって、集団の中腹あたりで大柄な犬の獣人に肩で担がれている人を見つけた。
ひらひらとした布の飾りに、フードがついた服装。そして揺れるクリーム色の髪。
「スゥ!?」
今度は一段と大きく素っ頓狂な声を上げた勇者に、片耳の削げた犬獣人は気づき、肩のスゥを掲げて笑う。
『どぉだ! いいだろ、拾った!』
「えぇっ!?」
『折角だから祈ってもらってるんだ! おら、神官サマだぞ、お前も祈ってもらえ!』
「いや、えぇ……」
掲げられたスゥの顔は真剣そのものだ。揺れる肩の上で多少顔色が悪く、服も埃に汚れてあちこちボロボロだが、彼女は目を閉じて祈っていた。時々振動で肩が鳩尾に食い込み、なかなか苦しそうな声を出すのだが、すぐに澄ました顔に戻っている。
『おい、あんまし揺らすな! 折角祈ってくれてる神官サマだぞ!』
『これでもやってるって! ほら、行くぞ!』
場はカオスだ。
なんでこんなところにスゥが居るのかだとか、なんでこんな崇められてるのだとか聞きたいことは山ほどあった。だが、最初に尋ねるべきは──
「アルタニャ! 生き残っている
街の中で抵抗を続けてきた彼らならもしかしたら知っているのかもしれない。地面に落ちている瓦礫をスピードを落とさずにジャンプしながらルークは叫んだ。
バリスタさえあれば。今も迫るパンデモニウム攻略の糸口になるかも知れない。最後の希望だった。ルークは黒髪の男に賭けた。
『あ゛ぁ!? ンなんもんもうねぇよ! 街は何処もメチャクチャだ! もう、オシマイだよ!』
「っ! 本当にか! 本当の本当にもう、無いか!?」
『無いっつってんだろ! うるせぇぞ! あったところで何になる!』
走る。
人混みの中、先頭のアルタニャを見上げながら、唾を飲み込んでありったけの意思を目に込めて。
「──魔王を、倒せる」
一瞬、静寂が襲った。
みんながちょうど少しだけ黙ったのだ。すぐにざわめきを取り戻した集団の中、神輿に担がれるアルタニャは髭だらけの顎をじょりじょりと触り、何か考えているように上を向く。そして、野生の獣のような鋭く、熱を持った瞳を勇者に向けた。
『そりゃ、マジだろうな』
「──っ、ああ! 本当だ!」
正確にはギャレヲンが立てた策だ。だが、他に手はない。ルークは大きく、なるべく説得力を持たせるように頷いた。アルタニャは考え込む。
『そうか、そうか、それがありゃ、あのクソデカブツを倒せるか……』
ぶつぶつと何か呟きながら。きっと高速で演算をしているのだろう。あの、未来予知にも似たアルタニャの指揮能力。それはすべて彼の頭の中で組み立てられた無数の選択から成り立っている。アルタニャはその頭脳が、考える力が人外なのだ。
『──で、──か……で……』
「アルタニャ、アルタニャ! 何かあるのか! 何か分かったのか!?」
一人の世界に入り込む禿鷹にルークは叫んだ。しかし声は届いていないようで、アルタニャはぶつぶつと呟き続ける。
「アルタニャ!」
そしてルークの最後の叫びに、ぱっと顔を上げると、にやぁと意地悪げに両の口角を吊り上げた。彼はそのまま、ちょいちょいと親指を立てて、集団の最後方を差し示した。
『後ろ、見てみろ』
あんまりにも楽しげに言うアルタニャに、ルークは走りながら、首だけを後ろに向ける。するとそこには体格のいい兵士や隷属民。戦闘の中で武器を落とすか破損するかで手持ち無沙汰だった者たちがやけに形の揃った角材や金属パーツを抱えていることに気がついた。
「まさか」
アルタニャはけらけらと笑い、楽しそうに。それはそれは楽しそうに、指で進路上にふさがるトロルや小鬼を倒す道を示しながら言った。
『役に立つかと思って、解体して担がせといたら、大正解だ』
「──!!」
形の揃った角材。振り回せば武器になるようなそれら。
ルークは目を見開いた。アルタニャは悪戯小僧のように、列の兵士が倒した魔物の血を浴びながらニタリと笑った。
『そうだよ。一式揃った、──バ・リ・ス・タ』
それは、ルークとギャレヲンが探し求めていた攻城兵器。
組み立てさえすれば、魔王にも届きうる一撃とギャレヲンが言ったもの。
呆然とするルークに、横の若い片手を無くした兵士がげらげらと笑って、肩をバシンと叩いた。
──この世は不条理だ。
全て脆くて、すぐに崩れる。
『おい!』
兵士が笑う。荒々しく、血まみれ砂まみれで。
目だけは蝋燭の最後のように輝いて。
この世のすべての怒りと恨みと、無力感をブチ破るのに必要なことはたった一つ。たった一言だったのだ。
砂漠の、街が攻めてくるどうしようもない袋小路で、ボロボロの行進の中、ルークは知った。
必要なのは、燃えるような熱でただ、ひとこと。
『さぁ、──ブチかましてやろうぜ!!』
折れず諦めず下を向かず。
呆れかえるくらいの、生きる意思だ。