おつかれ勇者とつるぎの魔女   作:調味のみりん

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91話 さよなら、ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鍛造すべきものは──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ない。最初から、鍵はここにあったんだ」

 

 

 

 

 ◆

 

 

 疲れた顔で。それでもニヤッと笑って、口の端を血で汚しながら、ルークは言った。青年は迫り来る魔王を見ながら、地面に落ちた剣を拾って肩に担ぎながら、首だけちょっと後ろに向けて問いかけた。満身創痍。無事なところなんてない。身体は相変わらず、重たかった。

 

「ねぇ、アルタニャ。この砂漠を、魔王にボロボロにされた街を、どうする?」

 

 目の前には、魔王に破壊されて、そして今も破壊され続けて、原型を留めていない街が広がる。変わり果てた廃墟があった。

 

 気楽に、まるで友人に冗談を聞くように。

 アルタニャは怪訝な顔をする。ルークは笑みを崩さず、面白いことを聞くかのように続け言った。

 

「諦めて、()()()()()()()()()()()()?」

 

 ルークの隣でふわふわとしていた魔女は、勇者が何考えているのか合点がいって、珍しく、虹色のオーラを漂わせたまま、眉をちょっと下げた。

 

「あなた、それ、ふふ」

 

 そんな風に笑いながら。

 アルタニャは半開きになった口を閉じて、眉を寄せる。

 

『あぁん? そりゃ、諦めるかって言ったら──』

 

 違えけどよ、と当たり前のことのようにアルタニャは言う。

 

 

 

『──えぇ、……そう、です……』

 

 禿鷹に同意する、新しい声はルーク達の少し横から聞こえた。折り重なった瓦礫の下。潰された空間の中から這い出してきたのは、ボブカットのクリーム色。帯のような飾りがいくつもついた神官服をズタズタにしながら、あちこちに打撲の傷をつけながら、生きていた少女、スゥだった。

 

『私たちは……決して、あき……』

 

 少女は片目が潰れている。

 祈ることしか出来ない下級の神官。だけど、戦場において祈りは何より重要だと考えた。出来ることがあるのならば、役に立ちたいと思った。だからこっそり自身のボロ家に隠れて戦場にやってきた。実際、隷属民や、末端の兵士は大喜びで彼女の祈りを受け入れた。自分たちのことを願ってくれる人がいるだけで、次の瞬間命が消える場所ではなにより嬉しかったから。だから彼らは笑って逝っていった。

 

 

 

 ズゥゥン、ズゥゥン──。

 パンデモニウムは確実に近づいてくる。ここにいる全員が、等しくあと数分間の命。

 

 

 

 彼女は咳き込みながら、壊れた家のかけらを杖にして、ふらふらと立ち上がろうとする。ルークが咄嗟に彼女の腰のあたりに手を回して支えた。腕にかかる体重は、びっくりするほど軽くて、でもしっかり肉体があった。生きている温度と湿度と感触があった。

 

『あきらめ……ませんよ。だって……そうじゃないですか』

 

 スゥが生きていて、尚且つ出てくることはアルタニャも予想していなかったようで、眉を上げて驚いた顔をしている。神官の少女はぜいぜいと息を繰り返し、腰を支えていてくれたルークの手をそっと押しのけた。そして自分の脚で立つとキッと前を睨みつけ、凜然と告げた。

 

『私たちはっ、あきらめない……必ずっ、この地に戻り、()()()()()()()()()()!』

 

 その啖呵は無謀な未来予想。

 だけど勇者だけは満足げに、眩しいものを見るように目を細めた。何故なら、ルークはこの答えを知っているから。彼らが立ち上がることは、絶対に()()と言えるから。

 だから、ちょっと身を屈めて、少女と同じくらいの目線にして、勇者は聞いた。

 

()()()()?」

 

 問いかけられた少女は、蒼い瞳で迷いなく頷く。

 

『えぇ、約束してみせます。あんなバケモノに、泣くだけは、ダメです! それだけは、やってはいけない!』

 

 

 ルークは知っている。

 この結末を。

 この国が、八百年ものあと。大森林が広がる国と呼ばれることを。

 砂森の多種族国家、『チャマ・ワイラ』または『チャマ・ワイラ・マルカ』となることを。

 

 因果の逆転。

 もしかしたら未来の都市は、パンデモニウムが来なかったから発展したのかもしれない。あの魔王のせいで未来が変わるかもしれない。

 

 でも、ルークは知っている。

 少なくとも、ルークの知っているその国は、八百年後、ソラナム王国の12倍ほどの国土を持つ、大陸の中でも大きな国になることを。

 少なくとも、ルークはその未来からやってきた。

 だから、ルークは知っている。

 

『約束しましょう! ──私たちはっ、この不毛の()()()()()()()して、みせる!!』

 

 

 絶対に、彼ら彼女らが立ち直ることを。

 遼遠なる道を、何年掛かっても、何十年何百年掛かっても。また、歩き出すと。

 

『やくそく、します!!』

 

 彼女が言い切る。

 同時に、カァーン、と澄んだ鐘の音が鳴って、無色透明の振動が周囲を一瞬撫でるように駆け抜けていった。魔力の扱えないアルタニャにも感じ取れるほど、世界が動いていた。ルークの身体が煌めきだす。翠、紅、黄金の粒子が次々と立ち昇り、勇者の髪をはためかせた。

 

『それは──』

 

 スゥが驚いたように問い掛ける。ルークは笑った。

 

「ありがとう。歩き続けることは難しいのに、やったんだよね、スゥ」

 

 辿り着けるかも分からないものを、未来を信じて歩き続けることは難しい。多くは途中で挫折してしまうような、途方もない繰り返し。だけど、人にはそれが出来る力がある。ときどき、びっくりするくらいの事を成し遂げる。

 

 夕暮れ色の瞳が輝いて、翠の耳飾りが揺れる。ルークの三色の粒子が混じって、螺鈿色の霧に包まれた魔女は口元を隠してくすくすと笑った。二人の色が混ざって揺れる。なんて、やり方。なんて、デタラメ(グリッチ)。でも、聞くだけならタダ。だから試した。この勇者は確信を持って。

 

 ルークは手を握ったり開いたりする。

 もう、とっくに空っぽになった身体の外側に、誓約を履行した結果の何万ものエネルギーが渦巻いている。

 

 ──指切り約束の加護(ディア・マイ・ユー)

 

 それは、この旅で勇者ルークが得た、三つ目の加護。

 誰かと共にあれという、願いの結実。

 

 人としか結べない誓約を履行することで、難度に応じた力を得る誓約の力。

 

 誓約は、八百年の時を超え、この不毛の砂漠を森にし、国を再興するという馬鹿げた難しさと馬鹿げた規模の約束を聞き届けた。

 

『 な ン だ そ れ は 』

 

 パンデモニウムが近づいてくる。

 

 

 見れば、バリスタは既に引かれていた。

 光学迷彩か、何かで姿を消していたギャレヲンが、荒い息を吐きながら、最後に僅かに溜められたチャージで、弦を引いていた。

 

『ハアッ……くそ、大分飛ばされちまった』

 

 彼女もあの石礫の雨を凌ぎ続けてくれたのだろう。そしてずいぶん遠くまで吹き飛ばされて、戻ってきてくれた。証拠に額からは真っ赤な血が流れている。だけど過去の大英雄はペロリと垂れた血を舐めとって、挑発的に歯を剥き出した。

 

『掴めよ、イケ男。ちょっとそこまで、乗っけてってやるぜ』

 

 ギャレヲンが目線で示すのは、バリスタに装填されたボルト。

 ははっ、とルークは笑ってボルトを掴んだ。

 あり得ない物理と魔力の力を込められた攻城兵器が、攻撃準備の完成に軋みをあげる。引き絞りに引き絞られた機構は今か今かと込められたエネルギーを溜め込んでいる。正真正銘、最後の一撃。

 ルークは前を見る。瓦礫の山。何も残っていない残骸の街。そして、立ち塞がるパンデモニウム。いつの間にか距離は近くなっていて大通りを少し進んだ場所まで入ってきていた。

 

『角度、十分。距離、イイだろう! そら、行くぞっ!!』

 

 大柄の英雄は、その手を大きく振りかぶり、バリスタのロックに手を掛けた。もう後はない。ルークは手を離さない。事態を理解したアルタニャも笑って、ルークの背中をばしんと叩いた。

 行け。

 

『行って、こい』

 

 行け──! 

 

『バリスタ、射──出ッ!!』

 

 瞬間、バツンという音と共に込められていた幾万もの力が一気に解放された。

 

 凄まじい重力と慣性の力がルークの身体にのしかかる。弓なりに、上空へ。耳にごうごうという音だけが残って、体が引きちぎられそうなほど引っ張られて、吹き飛ばされて。手の感触だけは決して離さずに堪えて。

 

「ぐ ぅぅぅ……!!」

 

 そして、ほんの一瞬ののち。

 

 

 

 全ての重力が消失した。

 ふわりと浮かび上がる勇者の身体。目を開ける。既に場所は上空八〇〇メートル地点だった。パンデモニウムを見下ろせる場所。ルークはバリスタのボルトをパッと離した。ここが最高到達地点。

 

 ここまでルークを運んだバリスタはそのまま滑空を始める。

 

 

 そこはまるで空と地上の境目。 

 地上に最後の陽光が隠れて消えて、地平線の端だけが橙色を残している。上には大きく夜空が広がって、星が瞬き始めていた。腰の短剣から、いつもの剣の状態に変化したカランコエを空中でルークは掴む。彼女は星に注意を向けていた。ルークの身に纏わり付いた過剰な魔力の影響か、落下はいつまで経っても始まらない。ふわふわと浮かんで、まるで空を泳いでいるようだった。

 

『なっ、ぐぅぅぅ!!』

 

 先にルークから分離したボルトは勢いをつけて、火の玉のようになって一撃を、パンデモニウムから見たら小さな一撃を、魔王に叩き込む。

 パンデモニウムは防壁を展開することでなんとか防ぐ。炎の玉と、薄紫の防壁が音を立てて拮抗する。

 

「カランコエ」

 

『ふふ』

 

 ルークはカランコエの白銀の剣を握り、ゆっくりと頭上に掲げた。七色に移り変わるオーラを纏い空中を踏み締めて。あまりに強いエネルギーが力場を形成するという偉業を成し遂げていた。

 

『はあっ! バカめ! こんなもの!』

 

 バチィンとバリスタの矢は弾かれる。そしてパンデモニウムは蠍のハサミを高々と威嚇するように構え、勇者ルークを見るなり大音声で叫んだ。

 

『こんなもので、我輩がァ!!』

 

 ルークの剣が、全ての誓約の力を収束させ、圧縮して、大気に現れたオーロラのように目も眩むような輝きを放ちはじめる。

 あまりの力に周囲の景色がルークの剣を中心に歪んでぼやけた。

 

 

『ハッ、一撃に全てを賭けるか。──だが、勝てる訳がない! 貴様の攻撃も、確率だ!! 捻じ曲げられる!!』

 

 パンデモニウムは叫びながら両の鋏をルークに向ける。魔王の力を全て使って、この一撃を逸らす。直撃をさせない。そうすれば、あの一撃は無駄に終わる。ルークは力を使い果たす。分かっているのだ。互いに限界だと。だから、この一撃だけ。

 この一撃だけを凌げば──

 

 

 ピィーと甲高い鳴き声が大地に響く。

 揺れる砂漠。

 

 

 パンデモニウムは気にも留めなかった。上空を飛行する、小さな小さな龍種の子供を。霞色の龍を。目の前の、神代もかくやという力を束ね始めている勇者にかかりきりになっていたから。

 

 

『おわり、だ! 貴様の攻撃は当たらず、我輩が、すべてを、終わらせる!!』

 

 だから、パンデモニウムは気が付かなかった。

 この、小さな龍が何を引きつけてきたのかを。

 

 地面が揺れる。パンデモニウムの左側。街のすぐそば。そこの地面が生きているように畝る。盛り上がる。

 

『貴様らでは! 勝てな──』

 

 

 爆発する間欠泉のように、砂を吹き飛ばして現れたのは大いなる巨躯。映るのは肌色の肉の壁。

 

『Ge Ge Gu Gu !!』

 

 動く肌色の壁が、噴火のように天を目指してルークの前で屹立していた。

 それは砂漠の支配者。

 ただ大きい。それだけで圧倒的な脅威として君臨し続けた魔物。

 想定外の事態に魔王は反応が間に合わない。

 

 

『サンド、ワームッ!?』

 

 

 素っ頓狂な声を上げて、間に合わない。

 蛇のような体の直径は8メートルを超え、体長に至っては100メートルを越す砂漠の覇者が。あまりに危険すぎてミルシットの街ではナンバリングしているバケモノが。

 

『バ──カ──な ! !』

 

 ()()

 それも、一〇〇メートル級、三〇〇メートル級、そして一番背後から現れたのは、この砂漠で最も大きい一〇〇〇メートル級。

 パンデモニウムの傍から飛び出して、海から飛び出す鯨のように、街に覆い被さろうとしていた。

 

『お、おぉぉぉぉ!?』

 

 超巨大サンドワームが地面から抜けた事で発生した隙間に砂が流れ込み、地形は変化する。

 パンデモニウムが姿勢を崩しながら、大きかぶさってくるミミズを必死に対処する。バチバチバチ! と防壁が音を立てて唸り出す。それもそのはず。サンドワームがただ覆い被さってくるだけで、一千万tを超す大質量の攻撃なのだ。

 

『な、なぁぁ! なにを!』

 

 そんな危険な魔物を。

 現れただけで街が終わりかねない魔物を。ミルシットの街が位置を把握していない訳がなかった。

 

「シュンカちゃん!!」

 

『ルークさまぁぁ!! やりました! シュンカだって、やりましたよ!!』

 

「ああ──最高だ!」

 

 現在位置を把握している魔物ならば、誘き寄せ、連れ出し、パンデモニウムの横っ腹にぶつけるという事も可能。

 そんな理論上出来るというだけの荒技を選択し、成し遂げたのは龍の少女。見れば、地上ではアルタニャが大笑いをしていた。サンドワームの場所を教えたのは、きっと彼だったのだろう。

 

 戦闘能力こそ低いシュンカであるが、忘れてはいけない。

 

『私だって、許せませんから!!』

 

 彼女とて、魔王の地獄を生き抜いた、戦い抜いた歴戦の猛者であることを。

 

 上空からみたサンドワームはやはり規格外に大きく、重量があった。体を地面の砂を巻き上げながら出す目は退化していて、円形の、樽の内側に肉と刃物を敷き詰めたようなグロテスクな口が広がってパンデモニウムの防壁を削り続ける。

 

『お、 おォオォォォッ!!』

 

『Ga Ga Ge Ge!』

 

 空気が揺らぐと錯覚するほどの声。

 そんな中で力を込め続けた青年が叫ぶ。

 

「カランコエッ! この剣に全てを、載せろ!!」

 

 逆さまの滝壺の真下にいるような、莫大なエネルギーを剣に込め続ける。通常の刀身であれば力に耐えかねて砕け散るものを、この魔女ならば保たせることが出来る。毎秒ごとに鍛造し続けるという戦い方で。

 バチバチとルークの虹色の誓約のエネルギーに触れた空気が弾けて音を発しはじめる。光が集まる。まるで妖精が遊ぶかのように色とりどりの火花が、世界の限界値を知らせるために踊りはじめる。

 

 何とかサンドワームをいなした魔王が声を大きく叫び出す。

 魔力は大きく消耗していた。このままでは詠唱や儀式を省略した、確率の操作は出来ない。

 

 

『待て! 話し合おう! 我輩に降れば、世界の半分をやる!』

 

 ルークは反応しない。

 虹が煌めきを増していく。空と大地、昼と夜の境目に立つ男はたくさんの色彩を纏って剣の勢いを増していく。

 砂に潜って消えていった大蚯蚓が、さいごに巻き上げた赤茶色の砂が空にキラキラと舞う。

 

『分かった! 貴様の仲間も生き返らせてやる! 我輩には出来る! 我輩の力なら!』

 

『万

 

⠀ ⠀象ッ

 

『クソォォ! この時代は、もう、ダメだ! 時間よ! 巻き戻──』

 

 魔王が展開するのは、反則に近い奥義。

 パンデモニウムの頭上に繊細な、時計職人のような、細かで何百何千もの術式が展開される。それらは機械仕掛けのように組み合わさり、半透明の文字と図式が踊り出した。

 

 

 あらゆるものを複雑に組み合わせた時間跳躍。

 ほんの僅かでも綻びが起きれば失敗する魔術を、通常なら術式構築の邪魔を防ぐ為に何十もの防壁を展開してから組み立てる魔術を、土壇場の火事場の今際の際の集中力で裸のまま組み上げていく。 

 

『あ──?』

 

 そして、魔王は何か嫌な予感を猛烈に感じ取り、地上に意識を向けた。すると、ミルシットの街の大通りの、かろうじて崩落を免れた建物の屋根に、何人かの人間が立っていることに気がついた。

 それはあの石礫の雨をかろうじて生き延びていた獣人、兵士たち。彼らは至る所から血を流しながら、己の足と手を組み合わせた奇妙な形を作っていた。まるで、ジャンプ台のような──

 

『──!!』

 

 低いながら、空中にいたもの。

 両脚を失った森人。

 

 彼女が狙いをつけていたもの。

 矢をつがえた状態で、森人は、べ、と魔王に舌を出してみせた。そして──

 

『ばーか』

 

 こん、と何かがぶつかった。

 同時に小さくぽふんと爆発を起こす。

 矢だ。なんの変哲もない、普段なら意識すらしない矢が当たって、炸裂した。

 

『あ──』

 

 この術式は、気の狂いそうなほど繊細で複雑で、ほんの僅かな綻びで、崩れる。  

 だから普段なら。普段ならばこんな無防備に展開しないのに。防御があるはずなのに。

 

 がしゃ、と音がした。

 術式の、一番小さな部分がほんの少し、爆発のせいで欠けていた。ほんの少し──

 

『あ ぁぁぁぁ!!?』

 

 魔王の術式が、がしゃんがしゃんと連鎖的に、崩れる。

 何もなくなる。

 

 

 そして、

 

 魔王の前にあるのは、

 

 

 

「これで、終わりだ」

 

 

 天まで届く、全てを終わらせる一刀。

 空には何百年先も変わらない星空が広がる。

 

 

 ──みているか? 散っていったものたちよ。

 見ているか。志半ばで斃れたものたちよ。

 

 

 赤い光が揺れる。銀の光が揺れる。

 宵闇を切り裂く、一筋の眩い光が。

 すべての人たちの想いの結実点が、ルークの手に収まった。

 

 

 

 ──いま、君たちの犠牲は、残した道筋は、魔王の頸に届くぞ。

 なにもかも、結ばれるぞ。

 無駄じゃなかった。無駄じゃ、なかった! 

 

 

 

『あ ぁぁ ぁ ぁぁぁ!!!』

 

 まるで、星が昇るように。

 太陽が眠りにつくように。

 

 

⠀ ⠀ ⠀ 万

 

⠀ ⠀ ⠀ ⠀ 物!』

 

 

 全ての物語は、美しい結末を迎える。

 

 

「さらばだ! 魔王ッ!!」

 

『まて、待て待て待てェェェッ!!』

 

 

 いなくなったひとと、残ったひと。

 これから生まれる希望と、過ぎ去った絶望。

 全てをひとまとめに、螺旋のように絡み合った剣は振り下ろされ──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂漠は極光に包まれた。

 消えゆく刹那。魔王は思った。

 

 あぁ──

 

 上も下も分からなくなる中、妙にスッキリした思考で、思った。

 

(やるじゃないか、クソ)

 

 そう言って、悔しそうに笑って、全ては光に飲み込まれた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

『……? あれは?』

 

 

 先んじてミルシットの街を避難していた母親は、フードの隙間から差し込む光に脚を止めた。

 場所はミルシットの街から大分歩いた、見渡す限りの砂漠。周囲にはざわめく大荷物を持った大勢の人たち。

 

 夜の初めの時間帯。砂漠の空は、オレンジ色の夕日を飲み込んで、暗く深い藍に染まりだしている。

 

 誰かの吐く息が白くなり始めるころ。

 

 ミルシットの街の方から、天を切り開くような虹色の眩い光が夜空を撫でるヴェールのように広がるのを目にしたのだ。

 

『何だ、ありゃ……』

 

 周囲には、同じように脚を止めている避難民たちが多くいる。

 彼女の息子である5歳の少年は被せられたフードを外して、笑顔で飛び跳ねた。

 

『おとうさんだ!!』

 

 キャッキャッと笑う息子は、疑うことも無い様子であの、極光を父親だと言って喜んだ。母親には何が何だか分からない。休みの少ない逃避行でもう体も心もクタクタだった。

 だけどあの全てを照らす光を見ていると、涙が溢れてきた。感情が追いつくまえの、本能。

 

『ねぇ、おかあさん、ねぇ、見てみて! すごいよ! すっごくキレイ!』

 

 息子に手を何度も引かれて、彼女は頷きながら、光から目を離さなかった。ひどく懐かしい、子供の頃の記憶。寝床から覗いて見える居間で両親が、料理のために焚く火を見たときのような安心感を得て、涙を何度も拭って彼女は呟いた。

 

『そうね……』

 

 誰もが、避難してきた誰もが光の方をみて止まっている。フードを外し、兵士はヘルムを外して、ぼす、と砂に落としながら。

 誰もが、空を照らす光の帯から目を離さなかった。そして、言葉にし難い空気の変化を感じとり、理解した。

 

 全てが、終わったのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 ──魔王討伐、これにて完了。

 

 

 

 

 






次回、エピローグ。
魔王討伐のログが出ていないですが、倒してます。それは次回に。
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