ルークがウカマスティのトップであるゲンマと対面した同日、昼過ぎ。
ウカマスティの保有する、廃教会の地下室。十人を超える人数が楽に動けるほど広い部屋ででは十五人の構成員たちが椅子を並べて座っていた。
埃っぽい部屋に、ざわめき。
着席している年齢層は幅広い。彼らを照らすランプの火は強めに調整され、どこかそわそわとした彼らの頬を橙色に染めていた。
これから何が起こるのか。何のために集められたのか。
彼らは知らない。ただ、直属の上司であり、所属する組織を取り仕切る女傑であるゲンマに直々に指名されたのだ。
“すべての荷物を置き、今行っている仕事を切り上げ、誰にも挨拶せずに地下室へ行け”、と。
彼らは知らない。
これから何が起こるのか。だから隣同士、集められた同士で口々に推測や噂話をする。なぜ集められた。なぜ、わざわざゲンマが指名をして来た。何が起きる。何のために──地下室の階段が軋む。
「失礼、待たせたな」
彼らの疑問に満ちた頭は、ただ一つの声によって集約された。
誰も彼もが隣の人間と顔を見合わせて話している中を凛とした声が通り抜けたのだ。ギッギッと木を踏む音がする。全員の注目を集めて、地下室に幾つかの紙を抱えてやってきたのは、殆どの者にとっては正体不明の異国風の女性。ウカマスティに最近やってきた、アスナヴァ=ニイその人だった。
「少し楽に待っててくれ。準備をする」
彼女は銀の髪を払う。
彼らは黙り、答えを求めるようにアスナヴァに視線を集めた。しかし彼女は悠然と抱えた紙を近くのテーブルに置き、何枚かをピックアップしている。
構成員達が座っている椅子は一つの方向に向かって置かれている。正面には紙が二〇枚は楽に貼れそうなコルクボードがあり、教室のような形になっていた。
アスナヴァはそのボードの正面で、教師のように構成員たちと向かい合うように立つ。
教室でいう所の出入り口がある場所には、いつの間にか──おそらくアスナヴァと一緒に降りて来たであろう地味な印象の青年が椅子を持ってきて座った。その横には一回り小さな椅子が置かれていて、白髪の少女が気だるげにちょこんと座っていた。
誰だ。小声で彼らは横に尋ねる。
知らない。口々に皆答える。
白髪の少女は真っ赤な血のような瞳に、脱色したような白い髪を腰の辺りまで伸ばして、椅子に両膝を抱えるように座っている。あまり見ないような姿格好だ。何より目を惹くのが、彼女の周りにある雰囲気とも言うべき空気の流れ。周囲の景色の中で彼女だけが不思議なほど浮いて見えた。何か、変なのだ。
彼女は一体誰だ。何が始まる。彼らは周囲を観察する。
「──よし。では、始めよう」
あちこちに集中を飛ばす構成員たちの意識が、自然と一点に集められる。アスナヴァが腹から声を出すとよく通るのだ。
数多の困惑する者たち。謎の資料を手にするアスナヴァ。それに見たこともない少女。地下の一室はいよいよもって秘密結社めいてきていた。室温が少し上がったように思えた。冬だというのに、肌の下はうっすらと汗をかいていた。
「気をつけっ、休め──では、これより“魔王討伐作戦会議及びその認識統一”を実施する」
聞き慣れない言葉に構成員たちは戸惑ったように視線を彷徨わせる。
彼らは知るよしもないのだが、アスナヴァの“コレ”は癖のようなものだ。長らく小隊長をやっていた時の。
ただ、意識の切り替えには便利なのであまり直す気もない癖である。
「は? まお……一体何を──いや、ちょ、ちょっと待ってくれ」
ひと通りアスナヴァの動作に意識を取られたあと、ハッと冷静になった構成員の一人が素っ頓狂な声を上げた。藍色の髪を短く刈った細身の青年だ。彼は両目を一度ぎゅっと瞑って、頭痛を堪えるように、同じ言葉を繰り返す。
「魔王だって?」
「そうだ」
アスナヴァは表情ひとつ変えずに頷いた。
「まずは、よく集まってくれた。ゲンマ殿に人員の要望を伝えて、やって来てくれたのが君たちだ。いくつか基準があるのだが、挙げるとするならば、潜入に特化した技能を持つ、であったり、人脈があったり、何かしら技能があるものだ」
澱みなく説明は進む。
藍色の青年は分かったような分かってないような声を漏らすばかりだ。周囲の人間もそうで、まだ状況が掴めていない者がほとんどだった。
アスナヴァが何か資料を集めていたのは知っていたが、それが魔王? 初耳である。彼らの気持ちはそんなものだった。
「冗談だろ?」
「冗談ではない」
集団から少し離れた所に座る茶髪の青年は微妙な顔を浮かべている。何人かは彼のことを知っていた。地下水路を彷徨っていて、助けられた奴だ。
青年はこの部屋に入ってきた時と変わらず、ほほんとしているように見えた。
「いきなり集められたと思ったら、は、何言ってんだ」
「そうだ、何言ってんだアンタ」
別の所から男ががなり立てる。当然の疑問だった。全てがいきなりだったのだから。
いきなり、さぁみんなで魔王と戦いましょうなんてすんなり理解する方がおかしい。
だが、皆の前に立つアスナヴァは眉ひとつ動かさず、氷のような視線のまま頷いてみせた。彼女は一切ふざけてなんかいなかった。
「説明してくれ」
「勿論」
──一般的に、魔王に対する認識というのは災害に近い。
圧倒的な力を持つもの。それは時に商売ルート上の山を山ごと割り、見知った村のある平原を海の底に一晩で沈めてしまうような人知の及ばない相手。
出会う確率は決して高くはないが、二つ隣の国で魔王が出たらしいだとか、あそこの大穴はかつて魔王と聖騎士が戦った跡地であるとか、そんな風に伝えられる。家を吹き飛ばす竜巻と同じくらいの感覚だ。
故に、これから発生する大竜巻に向かっていって、倒しましょうなんて言われたら正気を疑うだろう。アスナヴァが言っているのはそれと同じだった。
「聖都で行方不明者が増加しているのは知っているか」
銀の麗人は唐突に問いかける。
訝しげな顔をするウカマスティたちをよそに説明が始まった。
腰を浮かしかけていた何人かが動きをひとまず止める。頭のおかしな事を言ってる自覚が無いのか、だとか、出鱈目を言うな、という言葉は喉の奥で止まる。
彼らの様子を肯定と受け取ったアスナヴァはまた、一拍をきちりと置いて、抑揚をつけながら話しはじめた。
「行方不明の人数は五人、十人と増えて、現在はおおよそ五十人程度だと推察されている。また、この“ウカマスティ”でも所属している者が帰ってこない事態が発生していると。確か、八名ほどか」
「なんでそれを知って……あ、アンタが集めてた資料って」
「決して無関係ではない」
アスナヴァは手元の紙に視線を落としながら告げる。
行方不明者がいることには誰も異論を挟まなかった。
事実だからだ。それに、ウカマスティで知らぬものは居ないトピックだったから。昨日まで話していたやつが、次の日に帰ってこない。何か前兆があったわけでもなく、帰ってこない奴らに共通点があったわけでもなく、ただ突然に。借金があったやつも無くて倹約家なやつも。豪快なトラブルメーカーも、物静かで寡黙なやつも区別なく消える。
相当な異常事態である。
ここのところその話題で持ちきりになるほどに、ウカマスティには、訳のわからない不安が立ち込めていたのだから。
「それと魔王に何の関係があんだよ」
「ある。断言しよう。これは不可解な現象など
アスナヴァが力強く言い切る。
彼女の一挙手一投足に注目が集まる。
「この事態は
語る。
地下室は徐々に熱を帯び始め、誰も喋らなくなった。
重ね着をしていた服が暑くなる。
ただ、皆、話を続けるアスナヴァの次の言葉を追う。それだけ彼女の言葉には重さがあった。真剣さがあった。
ランプが燃える。ジジ、と音を立てる。オイルか紐が燃え尽きようとしているのか。
「ゲンマ殿はこの行方不明者が増加している事態を喫緊の課題と捉えた。敵対勢力による攻撃だと。解決すべき事態だと。そこで私達は共通の目的により手を組んだ。具体的には、“魔王討伐”の為に専門家として外部の我々と協力関係を採ることにした」
トン、とアスナヴァは軽く紙を弾く。
オレンジ色の光で、部屋はまるで夢の中みたいだった。
見慣れない姿の人が、荒唐無稽なことを話している。
「ゲンマ殿が助けを必要としている時に、我々も君たちを必要としていた」
彼女の髪が揺れる。
銀色が地下室の中で浮かび上がる。
「話が長くなった。つまりは、だ」
ここにきて銀の麗人は初めて肩を少し緩め、手をひらひらと気安く振る。そして表情をほんの少し緩めてみせた。
滅多に彼女が対外に見せない笑みだった。
「攻撃を仕掛けて来ているクソッタレな魔王を私達でブン殴らないか──と言うわけだ」
しばしの沈黙。
誰かが小さく喉を鳴らした。
「組織を編成する。総員はここにいる者で全てだ。基本的に補充はない。失敗すれば、そこで終わりだ。ウカマスティは聖都から離れ、別の場所に移る。全ては君たちの手に掛かっている」
聞こえ方によってはプレッシャーをかけるようにも聞こえる言い方。
だが、不思議とアスナヴァの口から語られる言葉には期待と信頼が乗っているように聞こえるのだ。
ただただ、熱が。君たちが必要だと訴える熱が。
「協力を、お願い申し上げる」
白銀の彼女には、熱があった。
「この時点で抜けたいと思った者は抜けてもらって構わない。正直、いきなりの相談だからだ。ただし、私たちの存在を外に漏らすことだけはやめてくれ。それだけを守ってくれるならば何も言わない。卑怯だとも思わない。隠さずに伝えると、私たちは出来る限り君たちに被害が及ばないようにするが、危険は少なからずある」
彼女は地下室の出入り口を指し示した。
今から行われる事に関して、無闇矢鱈に危険に巻き込む真似はしない。
命を天秤にかける兵士という役目の者たちなら話は違ったが、彼らは枠でいえば市民なのだから。今の状況では他に頼れるアテはない。魔王を放っておけば被害は拡大する。だからアスナヴァは願うしかない。
不躾だと分かっていて、その上でどうか、と。
ウカマスティの彼らは誰一人として口を開く事なく、ただ前を見ていた。そこに狂乱も、先ほどの浮き足だった雰囲気もなく、崖の前で躊躇うような薄い緊張感があった。
「三分待つ。なんの負い目もなく立ち去って構わない。逆にここに残り、説明を聞けばもう、後戻りは出来ないんだ」
アスナヴァがもう一度念押しをする。真剣な目で。
彼らが周囲を伺うと、アスナヴァの仲間らしき座っていた地味な青年も、白髪の少女も、何も言わずに彼らの決断を待っていた。
目の前に現れた崖が、より鮮明になった。地下室にはいま、風すら吹いてきそうだった。
「……すまねぇ。俺は抜ける。妹が居るんだ」
やや間があって、一人の若者が手を挙げた。
彼は申し訳なさそうに目を動かし、アスナヴァを見る。
「構わない。むしろその勇気に敬意を表する」
だが、彼女は真摯に目を合わせて彼を見送った。
彼はペコペコと腰を動かし、足早に地下室を出ていく。落し戸を開閉する音がやけに部屋の中に響いた。
その後に動いたのは、椅子により深く腰掛ける為に位置を調節した男くらいだ。アスナヴァはたっぷりと周囲を見渡したあと、十四人になった面々を見やる。
「誰もいないか?」
もう一度尋ねる。
すると集められた者の中で最年長の、40くらいの男がおずおずと手を挙げた。
「なぁ、ひとつ聞きたいんだが」
「何だ」
「何か勘違いしてやいねぇかって事を、だな」
勘違い、とアスナヴァが繰り返す。
男は頷いた。
「アンタは、俺らを頼って来てるんだよな? その、魔王が……いるとかなんとかで」
「ほぼ確実な情報だ」
「うん、まぁそりゃいいんだよ……いいんだが」
彼は何か言いづらそうに頬をぽりぽりと掻く。
視線をあっちにやったり、こっちにやったりして口を動かしたあと、低い声で告げた。
「頼ってもらったトコ悪いんだが、俺たちゃそんなすごい存在じゃねぇ。社会のあぶれものが風に飛ばされねぇように身を寄せ合ってるだけだ。それが魔王討伐? 無茶言わないでくれ」
男は何度も唾を飲み込みながら言う。言葉は震えていたが、澱みはなかった。
ポカンとしていた周囲の者たちも男が何を言っているのかを理解するとうんうんと頷くように同調をし始めた。
普通は考えもしない。魔王が倒せる、などとは。魔王を倒しましょう、なんて。
いきなり現れて、期待をかけられて。信じられない方が理にかなっている。だから男は、まるで世間知らずの子が悪徳商人に騙されているのを嗜めるように、含めるように言う。
「な、なぁ。俺たちゃ戦う力もねぇ。意気地も矜持もねぇ。ただ目の前を生きるだけだ。日の光を避けてドブに棲むネズミだよ。唯一、アンタたちの話を聞いて、適任だと思ったのは俺の後ろに座ってるヴァルくらいのものだ」
男の背後には、痩せていて手足が長く、黒に近い灰色の髪を持った青年が座っていた。彼はふん、と鼻から息を吐き出しそれきり何も反応は見せない。中年の男は続ける。
「期待してもらってる上で申し訳ねぇが、俺らにゃ無理だよ。アンタらの希望には添えない」
そうだ、と声があがった。
俺たちにゃできないと呟くように誰かが言った。
ぽつぽつと、言葉は伝染していき、無理だ、無茶だとざわめきは広がっていった。
アスナヴァは何も言わない。ただ、言葉の小雨を受け止めるように目の前で真っ直ぐ目を見開いていた。
「じゃアなんで座ってんだよ」
そんな中を、切り裂くような声は、不躾に響いた。
全員が言葉を止めて、不機嫌な男に目を向ける。彼は両手を組んで、足も組んで、苛立たしげに前の椅子を蹴った。前に座っていた男が小さく抗議の声を上げる。
「黙れ。このままじゃ、ジリ貧だぞ。分かってんのか」
くしゃくしゃの髪の隙間から髪より濃い色の瞳でヴァルは告げる。
絡まった海藻みたいな、ひどく暗い視線で。
「意味不明に人が減ってく。対策は分からねぇ。なら、知ってる奴に付いてくのがやり方ってもんだろ」
彼の言葉は、先ほどまで喋っていた中年の男に向けて発せられていた。
男は口を引き結んだまま椅子からガタリと立ち上がり、ヴァルを見下ろす。その姿を見て、ハッとヴァルは鼻で笑ってみせた。
「
それきり興味をなくしたように彼は前を向く。ニュッケルと呼ばれた男はぶるぶると震え、拳を振り上げた。そして頂点でグッと握ると、歯を食いしばり、二秒ほど堪えた後に力無く、ゆっくりと拳を下ろした。
「分かってる……」
「なら最初からそう言えや」
「……分かってるさ」
荒事の気配に腰を浮かしていた青年は姿勢をまた元に戻す。拳を振り上げた男から闘志が消えた事を確認したからだ。
彼は項垂れるように椅子に座り、地面を見ていた。周囲の人間も心配そうに、それとなく彼の様子を窺っている。
「すまん、お嬢さん。話の続きを、聞かせてくれないか」
やがて、ニュッケルと呼ばれた男は顔をあげ、再び椅子に座り直すと、疲れたような眉を下げた顔で言った。アスナヴァは考え込んで、ひとつ首を振ってみせた。
「では……協力感謝する。あなた方を無闇に危険に晒すような真似はしないと約束しよう」
「助かるよ」
こうして話はまとまった。
「話を聞いて……分かった。うん、ゲンマさんに言われたんだもんな。やるのか、……うん、やる」
「──ありがとう」
話を聞くとは、協力する事。アスナヴァはそう宣言した。その上で彼らは残ると頷いたのだ。
孤立無援だったルークたちは十四人の協力者を得て、魔王に対する調査を開始できる事となったのである。
増える行方不明者に頭を悩ませていたウカマスティは解決の糸口を見つけたとも言える。
「改めて、私たちの自己紹介から始めさせてもらう」
世界に名を馳せる女神教の総本山、聖都の外れで。
部屋の空気を入れ替えるように、彼女はトーンを少し高くする。
「便宜上、このチームのリーダーをやらせてもらうアスナヴァ=ニイだ。かつては北方の大陸にあるカフチェク共和国という国で小隊長を務めていた。組織全般の統制を行う」
あくまで、名義として、だ。と彼女は付け加えた。
この場において異論を挟む者は誰もいない。どう見ても彼女がこの場において一番の経験と知識を持っているように見えるからだ。
誰も見向きもしないような、地下の組織で、聖都のシンボルである聖堂に巣食う魔王の脅威に対抗するチームが、誰に祝福されることもなく始まったのだった。
「こちらが……おっと、シュンカそこだ。そこに立ってくれるか」
ひょこひょこと、構成員たちから見て左側にある机によじ登ったのは、不思議な色合いの鱗を持つ、大人の片腕くらいの大きさの爬虫類だった。鱗は滑らかで艶を放っている。朝方の空に見えるような薄紫色。そのトカゲは翼を持ち、時々羽毛のような毛が生えていた。
よじ登った机の上で行儀良く前脚を揃えてお辞儀をする。
おお、とどよめきが広がった。
人の言葉を理解したように見えたからだ。
『イェン・シュンカでございます』
うわぁと悲鳴が上がった。人の言葉を喋ったからだ。
トカゲが喋った。みんな目を大きく見開いて、ある者は固まり、過敏な者はのけぞり、豪胆な者は両腕を組んでじろりと観察した。部屋の中の注目は一気に集まる。
シュンカは慣れっこなのか、もう一度お辞儀をするばかりだ。
また声があがる。『よろしくお願いしますね』
観察しようと近づいた男が悲鳴をあげて飛び退った。シュンカは内心相手の反応を見て楽しんでいるようだった。確実に悪い影響を受けている。主に彼女と仲のいい魔女と、カフチェクの元小隊長から。
「見ての通り、龍だ。だが話せる。賢い。それに加え、金色の瞳で過去を視る事が可能だ。だが、後ほど説明する魔王の特性により、今は迂闊に発動はできない」
『残念でございます』
「それと
彼らは相変わらずざわついて、シュンカの姿を見ながら何度も瞬きをしたり、遠巻きに観察したり様々だ。アスナヴァはそんな反応を意に介さず反対側を指し示す。
「次に、そこに座っているのが、カランコエ。
彼、と指差したまま横に指をスライド。
薄い茶髪の青年を指差す。
「そして武力担当、勇者ルークだ」
どうもー、と青年は片手をかるく挙げた。
勇者、と聞いて驚きの言葉があちこちから漏れる。
「確かに見た目こそ華がないかもしれないが──ああ、素直な反応だな。よく頷いてくれている。ルーク、へこたれるな。そうだ、確かにあんまりパッとはしないかも知れないが──実力は折り紙付きだ。アダマンスヌス帝国と同等の規模を誇る蒼燕帝国という国で、そこの兵士にひと触れもさせず膝をつかせたこともある。主に剣で戦闘や行う。彼が最後の大詰めだ」
彼らは改めて、武力担当と紹介された青年を見る。若い。まだ二十にもなってないだろう。穏やかな身のこなしに、のほほんとした雰囲気の青年。
それが、この場における暴力の担当というのは、にわかには信じ難いことであった。だって、勇者とは煌びやかなフィラリオンや、樹海の弓使いみたいなもののことを指すから。
「さぁ、紹介は終わりだ」
だが当たり前のように彼は受け入れているし、アスナヴァもそう紹介した。ウカマスティの彼らはなんだか歯に物が詰まったような顔でまた正面を向くのだった。
「以上が外部協力者としての四人だ。私たちに関して疑問や問題点があれば今言ってくれ」
喋る龍に、白髪の魔術師。そして優男風の勇者。
とんでもないメンツだ。
トンチキでもある。彼らは思った。
質問、と急に言われて、発言する者は居ない。
どこからツッこんでいいのか、何から聞けばいいのか分からないし、聞いてもいいのか分からなかったからだ。
「何もないか?」
誰も答えることはしない。
気まずいようなコソコソと話す声しかない沈黙が流れて、やがて一人の女性が周囲と顔を見合わせた結果、手を挙げた。
「どうした」
「えっ、と。小隊長、だった、って言ってたが、なんでそんな立場にいた人がこんなトコにいんだ?」
「私の所属していた救護団は、別の魔王討伐の際に多くが死亡したからだ。魔王はどうにか討伐したが、団としての体裁を保てないほどまで人数が減ったので解散することとなった。以上だ。他に質問は?」
ああ、なんてことだ。
今度は誰も、手を挙げなかった。
質問をした女性は、気まずそうに口を引き結んで俯いてしまっている。
この時ばかりはルークが、椅子に座ったまま頭を抱えるのだった。
カランコエは横で、ふぅんとだけ言っていた。
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