おつかれ勇者とつるぎの魔女   作:調味のみりん

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本日中に後編であるもう1話が投稿されます。


21話 まるで、星が輝くみたいに 【前】

 

 

 

 

 ──08:39:55

 

 最初は魔王の外殻を担当するタポールが動いた。

 大きく一歩、彼が踏み出す。地面がずん、と陥没する。

 

 そして、2メートルある彼の身長ほどの斧を思い切り振りかぶり、地面に突き刺した。

 

「ぬ、おぉぉぉッ!」

 

 そのまま持ち手を撓ませる勢いで斧を振り、地面がゴリゴリと削れていく。まるで小麦の生地をカットするように、大地を切開していく。

 

 ある程度の形ができると、斧の持ち手を血管を浮き上がらせながら持ち、助走をつけて切り分けた地面をぶん投げた。

 

ジュレイビー・リェーザチ(地層抉り)ッ!」

 

 切り取った大地は、土や砂の層をぶち抜き、石灰岩層までがひっくり返っている。

 

『ソ 

  コ

    コ

   カ

     ヨ』

 

 

 当然、魔王も気が付き、迎撃のために骨と皮の触腕を振るう。ばちんばちんと空気を震わせる振動音が響き渡り岩の塊は次々に粉々に砕かれていった。

 

 だが、それはデコイ。

 本命は斧を振りかぶったタポール。

 

「うはははははッ!」

 

 未だ飛来を続ける大地の破片を背後に背負い、刃の先端に空気抵抗の景色の歪みを纏わせながら、右手を引き絞り、ぶち当てる。

 

 

 ──土の重さは、1㎥あたりおおよそ1.6tある。

 タポールが切り分けたのはおおよそ全部で7㎥。必要な力は最低でも11.2t。それに加えて彼は岩盤層もひっくり返した。片手で。

 

「遊ぼうぜぇ! 魔王ぅ!」

 

『ア

  ア

    ア

       ア

           ア』

 

 木を伐採するように魔王に食い込んだ斧は、もはや爆発音と同じだけの音を奏でた。

 

血煙立ち昇る我が膂力(グラニオゥズ・ニキティチ)

 

 膂力は依然、上昇を続ける。

 

 ──08:25:47

 

『ジャ

   マ

    ス

     ン

    ナ

       ヨ』

 

 大人3人が両手を広げたくらいの幹は、半ばまで斧の刃が入り、魔王が絶叫を上げながら身を捩らせる。傷口から紫色のドロドロとした体液が勢いよく吹き出す。

 

「それも攻撃かぁ!?」

 

 上半身をそらしながら、タポールは斧を引っこ抜き、慣性を殺さずもう一発。いよいよもって堪らなくなった魔王は十本以上の触腕を根元付近にいるタポールに殺到させた。一つ一つが街灯の柱のように、太く重たい触腕が地面を粉々に砕きながら叩きつけられる。

 

 そして、極め付けとばかりに、がばりと魔王の幹の中間あたりが縦に裂け、神経の束が電撃を撒き散らしながら垂れ下がってきた。邪魔者の神経系を麻痺させ、粉微塵にしてやるとの魂胆だった。

 

()()()()?」

 

 だが、英雄には悪手である。

 タポールがぶん投げた土くれに混じって飛来したのは、土や砂、岩だけでない。

 

 ──08:12:04

 

 錐揉み回転に斬撃を乗せて、接近していた勇者が魔王の内部に侵入する。アスナヴァが魔王の体表を軽やかに駆け上がり、開いた魔王の腹から飛び込み、刺突で何本も同時に神経束を貫いていく。

 

「はっ、メチャクチャにしてやれ」

 

 作戦通りのその光景を、下から斧を振り回しながら見ていたタポールは、歯茎を剥き出して笑った。

 

 

 ◆

 

 

 魔王の内部に飛び込むと、まず感じたのは異様な臭気。おおよそ普段の自然界では嗅ぐことのない濃度の、腐ったような酸っぱいような。そんな鼻と目の奥を突き刺すような臭いが襲いくる。

 

「フッ──ッ!」

 

 魔王が攻撃に用いてる神経束は中心を貫くように伸びていて、何本も途中で枝分かれをしていた。それらをルークはまとめて断ち切りながら状況を把握する。

 

 中の広さは人二人が両手を広げた程度。蠢く毛細血管と、拍動する臓器が壁を成していた。まるで気味の悪い尖塔の内部に足を踏み入れたようだ。

 

 壁から飛び出した肋骨は、竹の節のように足場になっていて、二人は着地と同時に四方に攻撃を仕掛ける。ログハウスに使う丸太ほどの太さのある白く象牙のような骨は格好の戦闘場所だ。

 

「セイッ──!」

 

 船を係留するロープのような太さの神経束や、得体の知れない臓器を切るたびに魔王の内部が揺れ動く。このまま倒し切る。

 

 そして、勇者が攻撃の切れ間に息を吸った瞬間、襟首を掴まれ、引き倒される。

 

 ぐぇ、と声を上げる勇者の頭の直上を、空気を裂く音ともにピンク色のぬらぬらとしたヒモのようなものが通り過ぎていった。ぴしゃりと汁が飛び散る。

 

 ──07:49:55

 

「内臓に刃が付いてるッ!?」

 

 自身の上を掠めていき、壁に突き刺さったピンク色の鞭を見てルークは目を見開いて叫んだ。

 

「正しくは()だ! 犬歯が腸に付いている」

 

 速攻型の剣士であるアスナヴァは、自身が残像を残すほどの刺突を繰り出す以上、動体視力も並大抵を外れていた。それは風で一斉に舞い上がる落ち葉の枚数を正確に把握できるほどの銀の瞳。

 

 彼女の瞳は攻撃の軌道と、その発生起点を正確に見抜いていた。

 

「右下に付け根があるっ!」

 

 神経束が電撃を纏いながら突撃してくる。外に露出しなかった分だ。大部分はタポールが引き付けているとはいえ、神経束の電撃はそれだけで身体の自由を奪い、脅威であった。そんなものが、ルークを打ち据えようと迫ってくる。アスナヴァは刺突でそれらをまとめて壁に縫い付け、下方を指差した。

 

 返事はない。

 だが、勇者は装備の外套を翻し下に飛び込んだ。建物の1階分の距離を壁を伝って加速しながら降り、勢いのまま内臓の根本を断ち切った。

 

「よし!」

 

 と声を上げ、上部にいるアスナヴァの方を見る。

 すると、彼女の背後で、内壁が人の腹ほどに膨らんでいるのが見えた。赤紫色に、まるで風船のように。アスナヴァは別の神経束を対処していて気が付いていない。ちょうど死角の辺りだった。

 

 その爆弾のような膨らみを認識した時、丁度彼の耳元近くの壁に口が出来て、けたけたと笑った。

 

『シ

 ネ

  ヨ』

 

 勇者は駆け出す。

 ぶにぶにとした人を踏むような感覚が靴裏に返ってくるのを感じながらアスナヴァの元へ。

 

「どうし──」

 

 

 有無を言わせず、彼女の腕を掴み、位置を入れ替わるように引っ張る。

 ぐるりと二人の位置が入れ替わり、ルークの背後にあの膨らみが来る。そして、次の瞬間。

 

「がぁっ──ッ!!」

 

 水気のある破裂音と振動が魔王の内部を揺らす。強烈に漂ってくる一層の濃い腐敗臭、そして肌を焼くほどの熱。

 

 ルークはびちゃびちゃと口から押し出された血を吐く。背中側から白い煙が上がる。背筋が文字通り溶けて異臭がしていた。あの“膿疱爆弾”とでも言うべき攻撃は、酸も含んでいるようで、勇者の背中を破壊し、組織を露出させた。いまも傷口からじゅわじゅわと音がする。

 

 ──07:21:41

 

 アスナヴァが息を呑み、勇者を掴んで下がらせた。ぐしゅりと肉片が溢れる音がした。

 そして。

 

『鍛造』

 

 その言葉とともに勇者は回帰する。

 万全な状態へ。傷ひとつない、先ほどと変わらぬ姿に。

 

 王国の勇者は、即死しない限り戦い続ける。

 

 鍛造の隙を埋める間、一人で触手のような内臓の鞭や神経束を相手取っていたアスナヴァの肩をルークは掴み、前に出る。

 

『キ

  カ

   ネェ

    ノカ

  ヨ

    オ』

 

 魔王の内部全体が振動して、至る所に口が出来た。

 忌々しそうに歪められたそれらの穴から、恨み言のような音が垂れ流され続ける。何重にも、重なり増幅し合うように。超音波のように高まる。反射的にルークとアスナヴァは耳を押さえた。

 

「ぬぐっ!?」

「ゔ……」

 

 目の前の輪郭がぼやける。ものが何重にも重なって震える。視界が赤く染まる。

 目と鼻と口から血を流し、口の端から鉄臭い液体がこぼれ出した。

 

 ──07:00:41

 

『アハハヒヒヒ!』

 

 

「……あぁ!」

 

 

 アスナヴァは被弾覚悟で、耳を押さえていた両手を離すと、破壊音を奏で続ける口を破壊し始めた。すぐさま襲いくるけたたましい高周波。目の奥から血がドロドロと流れ続ける。彼女の銀の髪を赤色で汚し続ける。それでも剣を振ることを止めなかった。

 

『シヌカ オンナァ』

 

 “献身術式”の対象は主に“病の押し付け”に対してだ。この攻撃は防げない。

 物理的な攻撃には無力である。実際にタポールも左腕を持っていかれているし、ルークの先ほどの爆傷はしっかりと本人が負っている。

 

 三半規管を引っ掻き回されるような不快感に眩暈を覚えながらもひたすらに潰していく。

 

 ──06:45:33

 

(耐えろ──! 震えるな、気を抜くな、一瞬でも!)

 

 ほんの少しの手元の狂いが致命的な隙に繋がる。

 横では同じくルークがそれ以上の勢いで口を破壊していく。

 

『コ

  レデ

  シ

 ン

  デ

   ク

    レ』

 

 

 そして、ようやく周囲の口を破壊し終えたと思った時。

 ぞわりとする感覚とともに、すべての内壁に膿疱が膨らんでいるのが見えた。その数、目測で凡そ50以上。これは、避けれない。死んでしまう。ルークは助かる可能性があるが、治癒能力を持たないアスナヴァはここで終わりだ。

 

 

『アバヨオ』

 

 

 全ての膿疱が大きく膨らみ、弾ける瞬間。

 ルークに手を引かれ、抱きすくめられた。ちょうど彼がアスナヴァの身体を全ておぶさるように、地面に伏せる。

 

 

 そして、衝撃。

 空気を壊すような爆音。肌を焼く熱射。

 

 

 

 ぐちゃぐちゃになった魔王の内部は、身体を内側に抱え込むように蹲る、溶けかけた勇者だったものだけがあった。

 

『シンダ?』

 

 口が勇者のそばまで生えて、やってくる。

 生死を確認しようと近づいてくる。

 

 

 ──06:12:03

 

 その中から、勇者の血を浴びながら、アスナヴァは飛び出した。

 勇者は爆発の最中、アスナヴァを体の下に庇い、自分自身は負傷し体が弾け飛ぶ直前に鍛造を繰り返し、繰り返し。気の遠くなるような耐久を経て、守り切った。

 

「ああああッ!」

 

 刺突の最中ですら、アスナヴァは目の奥が熱かった。

 それは先ほどの爆弾の熱の影響なのか、それともルークに対しての感情によるものなのか、本人にも分からなかった。

 

 

 君、こんな自分の身を顧みない戦いを、平気な顔して。

 

 

 勇者は身体を丸めた状態から動かない。煙を上げる赤色の体は徐々に回復をしているが、全て一気には回帰しない。

 魔力が弱まっている。ダメージを負いすぎた。回復が鈍っている。

 

 ──06:02:38

 

「シイッ──!!」

 

 手は止めない。躊躇いも決して剣に乗せない。

 今この瞬間も、戦えているのは命をかけて術式による肩代わりを実行している仲間のおかげだから。あの術式自体は簡単で、魔術の覚えがあれば誰でも使える代物だが、効果を知って誰もが使えるほど易しくはない。人は簡単に、自分の臓腑が病んでいくことを受け入れられない。だが、彼らはそれを行使し続けているのだ。

 

 

 

 そして、見えた。今戦っている地上から15メートル地点の場所からでも輝く一つの場所。地表近くの場所にある、魔王の弱点。

 

 

 魔王自身が膿疱爆弾の絨毯爆撃で内部を更地にしたからこそ見えた、ひときわ輝く、おぞましき臓器。

 ドクンドクンと拍動を繰り返す、人の胴体ほどもある赤い臓器。心臓。

 

「カランコエッ、取り出せ!」

 

 ──05:55:24

 

 未だダメージが残るが、ルークが顔を上げて叫ぶ。

 空中に出現したのは二本の短剣。捻れた螺旋のような機能的でありながらも美しい装飾がある、紅玉のような短剣。そして、白く真っ直ぐな中央に溝のあるシンプルな短剣。

 

 二つの間にはプラズマのような電撃が走り、間にある隙間は大気が歪んで捻れていた。

 

『いちぶ、溶解。精錬、再鍛造っ』

 

 剣の状態のカランコエが震え、名前を呼ぶ。

 剣となった二人の名前を。同郷の、幼馴染同士であった二人の名前を。

 

『フルークト&ウカーザチェリ』

 

 高く澄んだ金属音が響く。

 魔王のおぞましい体内に清涼な金属音が連続する。二つの剣が空中で一つに重なり合い、融解し、新たに一本の剣を形どる。

 

『鍛造完了──【導く熾火の剣(スヴァローグ)】』

 

 ──05:49:36

 

 誕生したのは、赤熱した熾火のような輝きを持つ両刃の短剣。白と赤の螺旋状に捩れた形は、途中に空気孔のような構造を有していた。

 

「──起動」

 

 空中に浮いた短剣をルークが掴み取り、合言葉を口にすると、短剣の空気孔から勢いよく空気が吸い込まれていく。熱量が一秒ごとに増していく。あたりの大気に焔の香りが混じりだす。

 

 

『サ

  セ

 ル 

 カヨ』

 

 明らかに高エネルギーを有した武器の存在に、魔王のドス黒い声が響き、勇者の行動を阻止しようと動きだす。焼けこげていた臓器の塊をハンマーのように振りかぶり、神経束に電撃を纏わせ突撃させ、針のような犬歯を生やして仕留めようとした。だが、それら全てがアスナヴァの細剣によって撃ち落とされる。勇者は麦色の瞳で着弾地点の心臓を見据え、細く、長く息を吐いた。身体の力を抜き、無駄な力みを排し、ただひたすらに鋭い投擲を放つために。

 

 足場にしていた肋骨が変形してトラバサミのように口を勢いよく閉じた。アスナヴァは別の対処でかかり切りになって、避ける暇もなかった勇者の下半身ごと持っていかれる。

 

 ──05:37:11

 

 

 支えを失った上半身が肉の床に落ちて、じゃばじゃばと赤い生命の源がこぼれ落ちる。

 

 だが、即死さえしなければルークは戦い続ける。

 

『鍛造』

 

 下半身が装備を伴って復活する。身を守る防具も含めた勇者ルークの元の姿は、飛んできた犬歯の腹を防ぎ、腰に付けた鎖帷子が火花を散らした。

 

 

 

 

 

「起動──完了」

 

 

 右手を振りかぶった勇者。その背中から魔王の腸が横隔膜を突き破って貫く。人の腕ほどの太さもある動脈が槍のように何本も飛んできて、罪人をつなぐ鎖のように勇者を突き刺す。全身、まるで不恰好なマリオネットのように、串刺しにされる。それら全てに臼歯がせり出して、ソードブレイカーのように勇者の肉体をズタズタに引き裂いていく。

 

 全身の部位が断裂し始め、電気信号の途絶えた場所が力をなくしてくたりと重力に伏せる。

 

 

「──終わりだよ、病体の魔王」

 

 

 だが、右手だけは守り切った。

 収束が終わる。短剣からカチ、と音がする。

 

 周囲の景色を歪ませるほどのエネルギーを持った短剣の準備が終わった。

 ルークは全てを集めた右手で短剣を投擲した。

 

 短剣は火の粉を軌跡に残しながら直下に飛翔し、寸分違わず魔王の心臓に突き刺さる。

 

 アスナヴァが魔王の体内から、ルークとともに脱出しようと手を掴んでくる。だが、全身を貫かれたルークは間に合わない。脱出は出来ない。彼はアスナヴァの手を振り切って、先に行けと目で合図をした。

 

 大気に火の魔力が満ちる。

 

 ウカーザチェリの白い螺旋が空気を導き、空間ごと引き寄せられる感覚。最後の酸素を短剣が吸収した。

 

 フルークトの赤い螺旋に閃光が走り、爆音と猛烈な風圧が、全てを燃やす熱気を伴って弾けた。

 

 

『ア

 

  ア

 

   ア

 

     ア

 

 

        ア

 

 

               ア』

 

 勇者は極限まで高められた集中力の目で、迫り来る爆炎を捉えていた。周囲全てを埋め尽くし、下から魔王の体内を蹂躙しながら行き場を求めて上がってくる焔。

 

 目が熱い。眼球の水分が燃えている。

 肌に感じるのは、ただただ熱だけ。勇者は静かに目を閉じた。

 もうすぐ、終わる。

 

 

 

 

『──! きんきが、やぶられ──』

 

 

 だから、カランコエの咄嗟に放った驚愕の声だけが脳内に響いた。

 

 

 

 そして──

 

 

 

 

 景色が歪んだと思ったら、ぱっと、目の前に外の風景が広がった。先ほどまで魔王の体内にいた勇者は空中に投げ出された。

 

 

「はっ?」

 

 

 爆風は残っている。

 なす術もなく吹き飛ばされながら、勇者は見た。

 

 30メートルほど先に、魔王が移動していたことに。

 

 いや、移動したのではない。元々そこに居た、と世界を書き換えたのだ。

 

 

 

 発生したのは世界の上書き。

 第五の禁忌。

 

 

 

 

 

 ──04:49:12

 

 

 

 

 

 島を丸ごとひとつ環境を変えてしまう“氾濫”を引き起こすクラスの魔王である病体は、禁忌を二つ犯していた。多くの魔王が破る禁忌である、第十の禁忌、虐殺をするな。そしてもう一つ。第五の禁忌。世界を上書きするな。予想はしていた。実際に、空の色が変わり、環境ごと攻撃になったのは世界を書き換えたからだ。

 だが、こんな所で、こんな手段で。

 

 

(くそ、畜生、畜生!)

 

 上下左右が反転する世界でルークは悪態をつく。

 こんな事があってたまるか。こんな、こんな! 

 

 

 

 

 

「あ」

 

 

 

 

 そして気がついた。爆風に飛ばされ、クルクルと回る視界の中で見えた魔王()()。そう。白い骨と皮の巨木は、()()()()()()()()

 

 

「は? は?」

 

 そんな馬鹿な事が。

 こんな出鱈目な。全ての状況をひっくり返すような、インチキ。

 腹の奥から熱いものがせりあがって、喉を焼いた。胃液が逆流してきて内臓全てがひっくり返ったかのような不快感が最高潮に達する。

 

 

 魔王は先ほどの世界の上書きで自分の位置を書き換えたのではない。

 

『魔王は初めから、三体いた』と書き換えたのだった。

 

 

 たしかに、出鱈目な能力だ。消耗も激しいだろう。禁忌を破る、世界の上書きで魔王は大部分の魔力を消費している。実際に魔王の内から感じる魔力の貯蔵量は先ほどから大幅に減っている。

 

 世界の上書きは及ぼす影響によって消費する魔力が大きく変動するため、『敵対者を殺す』なんて上書きは出来ないだろう。せいぜい、病体の魔王は自分の存在を上書きすることしか出来ない筈だ。

 

 

「ぁぁぁ!!」

 

 勇者が短く絶叫しながら吹き飛んでいく。カランコエをきつく握りしめたまま、全てをひっくり返しやがった怨敵を捉え続けている。

 

 

 魔王は確かに大幅に消耗した。

 だが、いま切り札をいとも簡単に無効化された状態で、それが何の慰めになろうか。

 

 

「──ッァ!」

 

 地面に叩きつけられる前に、勇者は喉を切り裂くような声をあげた。実際に喉は裂けていただろう。それだけの感情が身を焦がしていた。

 

 

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