おつかれ勇者とつるぎの魔女   作:調味のみりん

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26話 黒勇狐共


 

ダンスを習えば、観劇の時に踊りの凄さを理解できるように。

死を感じれば、生のありがたみを大抵は噛み締める。

 

──いちど死にかけた人間は、当たり前の日常の中にも死があると知っている。

 

 

でも、そうならない人がいる。

 

 

生に、生きることに魂が疲れてしまった人だ。

身体の問題ではなく。問題は奥底の魂なので、回復に時間がかかる。

 

そして、大抵はその前に、終わってしまうものだ。

留意せよ。

 

 

──魔術学院第96代賢者『ワイズノール』

 のちに、尖塔から飛び降りる。

 

 

 


 

 

 

「じゃあひとまず彼女に事情を聞こうか、詳しくね」

 

 ルークは食事が消化され始めた腹を撫でて言った。

 

 シュンカに、なぜ自分の遺品である瞳を届けて欲しいのか。その理由を聞くこと。そして、彼女が命を失う事態を止めること。

 それがルーク達の新たな目的であった。

 

「そうした方が良さそうだ」

 

 アスナヴァは銀の髪を揺らしてあたりを見渡し、相変わらず人気のない店内を一望した。出入口は、正面に一つだけ。

 

 シュンカは厨房の方に入って行った筈だ。なら、そこにいるのだろう、と。

 

 

 

 ルーク一行には目隠しをしたあの少女の事情が分からない。だが、分からないだけで、明らかに面倒だからというだけで切り捨ててしまうようなことは、人間のもつ当たり前の感情ゆえに出来なかった。

 

「厨房の入り口は、あっちかな?」

 

 ルークが言えば、アスナヴァが軽く顎を引いて頷く。

 腰ほどの高さのカウンターには、一箇所跳ね上げ式の蝶番が付いていた。今は水平になっているが、掴んで引き上げれば厨房に入る入り口になるだろう。ルークは軽く椅子を引いて、立ち上がった。

 相変わらず店内はすこし暗く、冷たい。

 

 厨房までの数歩の間に、よくよく店内の壁を見れば、共通語でメニューが書いてあった。しかし、内容は料理名であるため、この国の料理をほとんど知らないルークには何がどのようなものなのか理解できなかった。それでも人の生活が、形は違えどここにもあると知って、すこし嬉しく思った。

 

 ややもしないうちにカウンターに辿り着く。

 カウンターの奥を覗けば、木の床に剥き出しの土間、そして調理器具がならぶ厨房と、その奥にさらに繋がる廊下が見えた。ルークは可動するカウンターの端を掴んで、動かし、『すみません』と言って一歩、踏み出した。蝶番は軋んだ音を出して、動く。

 

 

 瞬間。

 

 

 ばきゃり、と正面入り口からした乾いた木がへし折れる音がした。

 明らかな異音に、空気を伝わる揺らぎ。勇者は一瞬で表情を消し、振り返りもせず咄嗟に近くにあった椅子を引き寄せて、飛来したものを防いだ。

 

 ごばん! と破壊音がして、土煙と木片があたりに飛び散る。逆光となる壊された入り口からは細身の影が覗いていた。

 

「おっほー、やるぅ」

 

 聞こえてきたのは若い男の声。

 彼が、この妙来軒の入口扉を蹴破り、攻撃を加えてきた張本人だ。ルークは確信するとともに、めちゃめちゃに砕けた椅子の欠片のうち鋭いものを掴み、正面に構える。

 

「判断は悪くねぇ。──だが、遅いな」

 

 後半の言葉は、すぐ近くで聞こえた。

 男が一歩でルークの懐に入り、ナイフを巨大化させたような湾曲した構造を持つ青龍刀を振りかぶっていた。

 汗が逆立つ。薄皮一枚まで冷たい刃が迫る。

 

「カランコエッ!!」

 

「──ぇえ」

 

 絶体絶命の最中、ルークが選んだ選択肢は、慣れ親しんだ彼女を呼ぶことだった。さっきまで席に座っていた筈の魔女は、すぐそこにいた。

 アスナヴァとカランコエ。二人は扉が吹き飛んだ時点で動き出していたのだ。アスナヴァは細剣を抜き去り、闖入者へ刺突を繰り出す。襲撃してきた相手の実力はかなりのものなのか、当たらずにかわされるが隙は出来た。

 その隙に、走り込んできたカランコエが勇者に手を伸ばし、彼もまたカランコエの手を掴むと、しゃらんという音と淡い白光とともに手の中に一本の剣が収まっていた。

 

「ぜッ──アァ!」

 

 下段からの切り上げ。

 椅子ごと切り裂く一撃。

 耳障りな金属同士の擦過音が耳をつんざき、相手の青龍刀は弾かれた。ルークはその瞬間、体重を乗せた前蹴りを放ち、相手の鳩尾を撃ち抜く。確かな感触と共に店外に吹き飛んでいった相手に、勇者は改めて剣を正眼に構え、迎え打つ姿勢を取った。

 

「カカカ、やるなぁ、意外と、おぉ」

 

 向かいの木造の建物に突っ込んだ襲撃者の男は、ゆらりと立ち上がる。昼過ぎの少し傾いた陽光の下、木屑の舞う中、見えてきた姿は細身のギラついた目をした若い男だった。歳の頃はルークと同じか、少し上だろう。飢えた獣のような男だった。

 

「まぁいい。やることは変わらん。よぉ、オイ。お前。俺さまの事を蹴ったお前だよ」

 

 男は無造作に伸ばした赤黒い髪を振って、埃を落とすように体を叩く。無造作に伸ばされた髪は肩より長く、傷んでいるのにも関わらず、黒羽のような艶を放っていた。内から溢れる生命力の現れのようだ。しかし、その印象を男のぎらつく瞳がすべて上書きしている。

 

「見逃してやるからよ、女出せ。あのガキだよ」

 

 男ががらがらとした声で言う。

 店の外に弾き飛ばされたことをなんとも思っていないような態度で。

 

「……僕には君が誰のことを言っているのか分からないな」

 

 ルークが頬に伝う汗を拭いながら言葉を返せば、黒い男は歯茎を剥き出しにして怒鳴った。

 

「あぁん!? 分かんだろ、あの目隠ししてるガキだよ! おい、今なら、たまたま立ち会っただけの奴にしてやれる。出せや」

 

「いきなり攻撃を仕掛けてくるような相手に渡さない。断る」

 

 キッパリと勇者が断ると、黒い男の雰囲気が変わる。

 先ほどまで感じていたどこか軽薄な要素は声から消え失せ、ひたすらに低い声が残る。

 

「ほーん、それでいいのか。お前は。うん、なら仕方ねぇな、仕方ない。邪魔するんだ、仕方ない。だから……仕方ねぇから、お前を──切り捨てる」

 

 ゆらりと男の体が揺れたかと思うと、次の瞬間、ルークの手で握っていた剣に衝撃。偶然、偶然手を軽く引いたから防げた。

 

「っ、ぐぅ!?」

 

 想像以上に素早い。目で捉えきれなかった。しかも、黒い男はただ早いだけでなかった。残像を残して、緩急のある動きで迫ってきたのだ。

 

 青龍刀とカランコエの剣の鍔迫り合いが巻き起こる。ぎゃり、ぎゃりと剣同士が己の身で相手の刀身を削っている。

 

「ほぉ! 剣筋はなかなか!」

 

「む、ぅっ!」

 

 剣越しに瞳と瞳がぶつかり合う。ルークの麦色の瞳と、男の赤熱した炭のような赤い瞳が交錯する。

 

 思った以上にルークの身体能力が高かったのか、男が目を見開くと、ルークの瞳を深くまで覗き込んだ。そして、次の瞬間合点がいったように舌打ちをして吐き捨てた。

 

「……! その目、お前、勇者かよぉ!」

 

 だったら何だ、とルークが瞳だけで唸れば、男は苦悶の表情と嫌な感情を煮詰めたような歯をかち合わせる。

 

「くそ、想定外だ、こんな所で勇士……勇者に会うなんてよ。くそ、クソ……勇者かよ……!」

 

 黒い男はぶつぶつと唸り始める。苛立ちが髪に現れているのか、赤黒かざわざわと揺れる。ルークが疑問のまま、何か相手に痛打を与えたか、と表情を捉えようと、すこし顔を近づけると、男は眉間に寄せた皺の表情を、パッとウソのように変えてバカにするように笑って言った。

 

 

()()、だよ」

 

「は」

 

 次の瞬間。

 吹き飛ばされたのは、ルークの方だった。

 

「ご、アァッ!」

 

 バキバキと肋骨が折れる感覚。目の前が何度も反転して、ぐるぐると周り、止まった。しゅうと煙が上がる。身体が妙来軒の壁にめり込んで、うつ伏せに地面に倒れ伏した。硬い床が頬に刺さる。

 逆光の位置に男は立つ。そして倒れ伏すルークを見下ろして、青龍刀を下段に垂らし、歯茎を剥き出し言った。

 

「俺さまはカン・ミョウメイ。蒼燕の勇者だ、覚えとけ」

 

 黒い男の力強い言葉。

 絶対的強者の発する、揺らぎのない声。

 ルークには、自分が一体どんな攻撃を喰らったのか分からない。相手の加護の詳細も分からない。勇者対、勇者。

 茶髪の勇者は力の入らない手を付いて、支えにし、なんとか立ちあがろうとして口から粘ついた血を吐いた。

 

「おいおいおい、無理に動くと死ぬぜ。寝とけよ。……あ、それと、見つけたぜ」

 

 歯が落ちる。へし折れた歯が、血溜まりに白色を飾った。耳鳴りが止まない。

 

 

 ──歴史上、勇者同士はときおり衝突することがあった。

 

 女神さまはあくまで加護を与える存在。そして、手助けをしてくれる存在。勇者の行動自体は勇者自体に委ねられている。大雑把に言えば、商会のスポンサーのようなものだ。女神は人の行動を縛らない。

 女神は人の意思を縛らない。

 ただ、見て、支え、加護を与える。

 

 

 だから、勇者同士でぶつかることもある。

 そして、こういうとき、大概は──

 

「──や、やめて下さい。離して下さいませ!」

 

「このガキ、貰ってくぜ、地味勇者」

 

 力の強い方の正義が、押し勝つ。

 ミョウメイの手には、抱えられた目隠しの少女。どこに隠れていたのか、しかし見つかってしまった彼女は嫌がるそぶりをする。しかし、それでふり解けるほど蒼燕の勇者は優しくはなかった。帯のところを掴み、空中にぶら下げている。

 

「じゃあな──」

 

「させるか」

 

 笑う黒い勇者の背後から刺突が迫る。気配を殺していたアスナヴァがミョウメイの首筋に狙いを定め、刺突を放ったのだ。だがミョウメイは振り向きもせず、体の力を抜くようにしゃがみ、アスナヴァの攻撃を躱す。そしてそのままぐるりと体を回転させ、彼女の足首を掴んで店外に投げ飛ばした。

 

「あぶねぇなぁ、おっかねぇなぁ。……あ?」

 

 黒い勇者は冷や汗を拭うような真似をして、地面に転がるルークの方へ振り返る。

 そして気づく。目の前にいたはずの勇者が消えていることに。血溜まりだけがそこに居たと知らせていることに。

 

 

 “何処だ? ”と一瞬視線を素早く走らせ──真横のテーブルが吹き飛んで剣を振りかぶったルークが出てきた。死角を利用した不意打ち。ルークの無駄を削ぎ落とされた上段からの唐竹割り。反応がごく僅かに遅れた黒い勇者は、その一瞬こそが命取りとなる。

 

 入った。

 そう、ルークが確信した瞬間。

 

「──符式、貘效拘束一式」

 

 歌うような幼い声が聞こえて、空中が波打ち、そこから射出された鎖がルークの体を絡め取った。勢いの乗っていた身体は縛られ、ギャリギャリと音を響かせて、剣は止まる。ルークは攻撃の最中で静止した。

 

「な、にを……!」

 

 この攻撃をしてきたのは、ミョウメイではない。実際、攻撃の瞬間までミョウメイはルークの攻撃に反応できていなかった。それだけ渾身の不意打ちだった。だから、()()ルークを拘束した存在がいる。

 

「危ないところでございました」

 

 いつの間に出現したのか、ルークとミョウメイの間には場違いな少女がパタパタと走ってきていた。

 

主様(あるじさま)、ご無事でありますか?」

 

「おー、フゥリやるじゃねぇか、そのまま捕まえとけ」

 

 ミョウメイが笑いながら言う。

 氷河のような水色の髪をした少女の名前はフゥリと言うらしい。

 ルークの腰ほどの身長の彼女は、振袖の服を揺らし、空中に浮いた長方形の符を操作していた。特徴的なのは、彼女の頭の上に揺れる一対の三角。生物的な器官としての耳を形どっており、しかしそれは獣の狐がごとく毛で覆われていた。

 

「はい。……なので、そこの不届きもの。ジッとしてるんですよ」

 

 声も幼い。だが、術は本物だ。

 ルークが拘束をちぎろうと力を込めても、ギチギチと言うだけで空中から生えた鎖はびくともしない。初めて見るが、これが符術だろう。

 

「主様、もう帰投なさいますか? 目的も達しましたし」

 

「そうだなぁ。……あぁ、でも、少しいいか? この、甘ちゃん勇者にキチンと説明しねぇと、なぁ。じゃないと()()を取り返しに来るかも知れねぇ。そりゃ、面倒ってもんだろ」

 

「彼女を゛離せ」

 

 膝をつく形で拘束されたルークは、口の中の血混じりの濁音で、ミョウメイを見つめる。力を入れた全身の筋肉は音を立てて、軽鎧を鳴らし、それでも拘束に囚われたままで動くことは叶わない。

 

 

「……ぷ、あははははッ!」

 

 

 蒼燕の勇者は、赤毛混じりの黒髪を振り乱し、笑う。

 腹を抱えて、想定外のことを言い出した勇者に嗤う。そして、目の端に涙を溜めながら、ひーひーとルークに言葉を投げつけた。

 

「お前、()()が何なのか分かって言ってんのか? いや、分からねぇからそんな必死になってんのか!!」

 

 掲げるのは、手に持った少女。腰の帯を掴まれたシュンカは宙ぶらりんになり、いきなり掲げられたことで腹が少し締まり、短い悲鳴をあげた。ルークの顳顬(こめかみ)に血管が浮き上がる。それを見て、ミョウメイはいっそうおかしそうに笑った。

 

「だったら、お望み通り、今教えてやるよ」

 

 そして、手をシュンカの目隠し布に伸ばす。それまで抵抗はしていたものの、力の差を理解していたのかあまり暴れてはいなかった少女が、ミョウメイの手が布に伸びていると知ると、いやいやと頭を振って必死に逃れようとする。

 

「や、やめて……!」

 

 か細い、悲痛な声が喉を震わす。

 だが、赤黒の男を止めることは出来ない。バッと目隠し布が握られ、とうとうシュンカは声にならない音を上げた。

 

「コイツはなぁ! この店の看板娘とかそんな可愛らしいモンじゃねぇ!」

 

 ばさりと布が取り払われる。

 上品な装飾のあった藍色の布はひらりひらりと飛んでいって、必死に目を閉じるシュンカの瞼を黒い勇者は指で無理やり開けた。

 

「政略で殺されかけた、死に損ないの()()()()()()なんだよ!」

 

「あ、あぁ……」

 

 そこには、人の瞳はなく。

 無理やりこじ開けられて見えるは、人ならざるものの瞳。

 蒼燕帝国においては最も高貴なる獣の証左。

 

「……いゃ……み、みないで……っ」

 

 少女の瞳は、金に輝く、龍の眼をしていた。

 

 

「龍の寵愛を受けた愛し子。第七位のクセに次期女帝になり得る、争いのタネだ」

 

 ルークは、顔を上げて少女を見る。

 龍の瞳をもう隠すことを諦めた彼女は、ただただ怯え切った目で麦の勇者を写していた。

 

 

「分かってんのか? コイツに味方するってことは、お前、蒼燕帝国の政争に巻き込まれる事を意味すんだぜ、アホンダラ」

 

 黒い勇者の言葉に、シュンカの口元が引き攣る。

 みないで、みないで、と。なんども声にならない声で繰り返す。

 爬虫類のような瞳が一際輝いて、一筋。大粒の涙が頬を垂れた。

 

「み……ないで……」

 

 その色は。

 少女が流す涙の色は。

 

 誰とも変わらない。綺麗な水晶の色をしていた。

 

「──そっか」

 

 ぎちり、と鎖がなる。ルークが動こうとしたのだ。

 狐の少女が険しい顔をして、毛を逆立て拘束を強める。

 麦の勇者は手首を僅かに動かし、ほんの少しの可動域を確認するとミョウメイと目を合わせ、ぼそりと呟いた。

 

「じゃ、助けよう」

 

 くい、と手首を捻る。

 微かにカランコエの剣が()()()()

 

 

 ──ルークの授かった加護は『一刀の加護』

 微かでも振えば武器の能力を大幅に引き出す代わりに、振るった武器が壊れてしまう加護。

 

 カランコエの赤黒の斬撃が一呼吸の間に二人の間を走った。

 

「え、なっ──んで!?」

 

 狐の符術師が悲鳴みたいな声をあげる。

 ばつん、と音を立てて鎖が切断される。

 自由になったルークが動き出す。少女が符を構える。すでに戻ってきていて背後に潜んでいたアスナヴァに組み伏せられる。

 

「まっ、たかよ!? そのオンナァ!」

 

 狐の少女の支援が絶えた事を見たミョウメイが喉がひっくり返ったような声で叫んだ。

 

「行け! ルーク!」

 

 アスナヴァが視線で道を示した。

 黒の勇者までの、道が開く。

 

「──常識人ヅラして、気狂いかよっ!?」

 

 ミョウメイは驚愕に顔を引き攣らせながらも、青龍刀を水平方向に振りかぶった。直撃すれば、真正面から突っ込んできているルークの腰から下が切断される軌道。だからこそ、この一撃は()()()()前提の攻撃だった。相手が防いだ時に出来た隙を突く。そのつもりの一撃。

 

「彼女を、返してもらおう」

 

 だが、ルークは避けなかった。

 まっすぐ、相手の剣の軌道に腰から下がずぶりと切断されながらも慣性のまま剣を振りかぶる。

 

「は、はぁぁあッ!?」

 

 上半身と下半身が分かれた勇者は、ひたすらにシュンカだけを見つめ続け、ついには呆気に取られたミョウメイの手から彼女を奪取することに成功した。

 

 そして『鍛造』

 

 下半身が万全の状態の装備を伴って回帰する。

 カランコエが“勇者ルーク”の姿に鍛造した形へと成形し直される。

 

 これまで見せていなかった技。

 

 魔女の手を取った勇者が使う、世界の禁忌を犯す、常識外の反則技。

 

 ルークは片手で奪ったシュンカを抱き寄せるように、より安定した姿勢にかえて、もう片方の剣を持つ手で黒の勇者に向き直った。

 そして、最初よりも熱を増した瞳で黒い勇者を見つめ、言った。

 

 

「さぁ、再開だ」

 

 白い剣の切先は、黒い男の方を向いていた。

 

 

 実力的には、ルークとアスナヴァを含めてもミョウメイの方が強い。 

 実際に先ほどの攻防では二人を簡単にいなしていた。

 だが、傷に怯まず、脅しに引かず。 

 

「……気狂いが」

 

「じゃないと助けられない」

 

 ただ前に進み続ける勇者の瞳を見て、それがいやに恐ろしく、微かに汗をかいていた。

 

 

 

「ホンモノだ、こりゃ」

 

 

 

 

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