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とある王国の話をしよう。
わざわざ話すということは、大事な情報だからである。
『ソラナム王国』
中央大陸の中でも小さな国だ。
王政をしき、王を中心とした貴族体系が骨幹となり国を支えている。国土面積は帝国の10分の1程度。小さい国だ。
立地としては、北にある大山脈と、南から吹く暖かな風により温暖な気候で農作物の生産が主な産業となっている国である。
そして、あと数日で滅亡を迎える予定の国である。
◆
「めつぼうするって……他の国にでも攻められてるの?」
「いいや、毒にも薬にもならないうちの国を攻めるのはあんまり得がない」
勇者ルークと魔女カランコエは近くの村に少女を送り届けた後、一晩経ってから魔王の森を目指し街道を進んでいた。
「自分の国なのにひどい言い草ね」
「僕は事実はきっちり言う主義なんだ」
移動手段は馬車だ。
昨日のうちに村で古い馬車をルークが直し、走らせていた。昨夜襲われていた行商人のものを買い取ったのだ。
とはいえガタガタ。いくら魔女とはいえ、少女の姿をしているカランコエには堪えるかとルークがキャビンを覗き込むと、白い髪を揺らしながらカランコエは平然としていた。
「じゃあ、なぜあなたの国はほろびるの? それもあと数日で」
「その答えは実にシンプルだよ」
ルークは改めて御者席に座り、馬を操作しながら言った。
ただ、世の中の理を告げるようにあっさりと。
──茸の
◆
王国滅亡の危機の下手人は、とある魔物。
人の手に余るとされ、『魔王』の名を冠した存在。
第225 茸の魔王『
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センピテルヌスの恐ろしさは、本体に在らず。
ルークは喉を潤すために、横に置いてあった動物の胃の水筒から水を飲み、続けた。時刻は太陽が天頂を回ったくらいだった。
「ヤツの特性は『増殖』と『寄生』だ」
2人が進む街道は、土を固めただけの素朴なものだ。それでも森の中を進むよりは何倍も効率がいい。だから多少時間を使ってもルークは馬車を直して行ったのだな、と、カランコエは馬車の天井をぼんやり見ていた視線をルークの後頭部に向けた。束ねるほどの髪が揺れている。
「センピテルヌスは圧倒的速度で土地を蝕み、自身の茸の森に作り替える。そこにいたら胞子を吸い込み、『寄生』される」
寄生された生き物は理性を失い、攻撃性が増し、そしてそのままセンピテルヌスまでの道のりを阻む兵となる。
「だからヤツの周りには寄生された魔物がガードマンみたいにうようよいて、叩きたい本体までまず辿り着けないんだよね」
ははは、とルークは笑った。
もう嫌になっちゃうよ。
センピテルヌスが王国を飲み込むまであと数日。それまでに狂化された魔物うろつく茸の森を抜け、胞子にも気をつけながら本体まで辿り着き、かつ、討伐しなければならない。
しばらく馬の蹄の音と、馬車の軋む音が響く。
やがてカランコエはぽつりと言った。
「とおまわしな自決じゃない」
「──いいや」
勇者はきっぱりと言った。
「僕は勇者だからね。行くのさ」
「あなたの
「きびしい魔女さまだ」
◆
「それじゃあ、馬車はここまでだ。これ以降は胞子が来る」
またしばらく街道を進んだあと、そう言って勇者ルークはなんの変哲もない草原の、一本だけ突き立てられた木の杭の横に馬車を停め、口元を刺繍による魔術のかかった布で覆った。
「さ、カランコエ。君も」
予備の布を差し出せば、ちいさな魔女も渋々といった様子で着ける。布が大きすぎてぶかぶかだった。
「よく似合ってるよ」
「お世辞なんかいらないわ」
つれないなぁ、とルークは苦笑いする。
ここからは魔王の茸の森まで徒歩だった。距離はおおよそ5時間は歩いた辺り。そこから気を引き締める戦場だ。
「移動がてら、お互いの戦力の確認をしようか」
◆
そうして互いに切れる手札を整理した結果が次の通りである。
『鍛造の魔法』。物質、非物質問わず
・魔力の籠ったものほど強力な一刀になる。
カランコエが変身した『魔女のつるぎ』は品質としては中程度。ただし何度振るっても壊れない。
勇者ルークの『一刀の加護』は剣の機能を持つものを振ると、一度力を引き出す代わりに壊す。強制発動。使い勝手×。
「うん、……なかなかだね!」
「貧弱ね」
勇者が言葉を呑んだ事実を、カランコエはきっぱり言い放った。
そうなのだ。確かに強力な手札を持っては居るが、『魔王』相手にはあまりにも貧弱。
ルークは頬をかいた。
「ま、でもいざとなったらほら、これも使えるから」
懐から取り出したのは黄金色に輝く、日の光を取り込んだような琥珀。
カランコエは紅の目に力を込めてそれをまじまじと見た。
「うちの国宝だよ。『太陽のギャレヨン』」
『太陽のギャレヨン』
創世記から続く遺物。発動すれば内部に溜め込まれた大量の魔力でドテカイ物体を召喚し敵にぶつける。召喚された物体は発光してよく見えないが、創世神話の“船”だという。
使った魔力は太陽光に当ててチャージ可能。再度使用までは15年。
「あっ、とカランコエ。取り扱いには注意してね、これ凄いけど強度は琥珀なんだ。割れたら中に入った15年分の魔力が形を成さないで暴発する」
そんなものを懐に入れておくなよ、とカランコエは半目で勇者を見た。
「さ、手札も整理し終わったし、行こうか!」
勇者ルークが歩き出す。
カランコエも遅れて進む。
すると目の前に不自然に蠢く木があった。
「トゥレントだね……、寄生されてる」
茸を生やした木の魔物。
勇者ルークはまだ距離が50メートル以上ある相手を見つめ言った。
「ここはまだ“森”じゃないから大丈夫だけど、森に入ったらなるべく戦闘は避けなくちゃいけない。動けば動くほど胞子を吸い込むから」
この布も国宝級だけど、完璧に防ぐことは無理なんだよ、とルークは口元に垂れる国宝を引っ張って告げた。
「ところで、カランコエ。なんでも『鍛造』できるなら、あのトゥレントごと『鍛造』は出来るの?」
くるりと振り返り勇者が聞けば、カランコエはなんてことないように言った。
「出来るわ。でもものすごく疲れる。あんな生きた魔力の通った塊をそのまま『たんぞう』するなんて。正気?」
言ってみただけだよ、とルークは言った。
そして駆け出し、カランコエは無言でシャランと音を残し剣に変身した。
トゥレントもこちらに気がつき、木々を軋ませる音を出しながら鋭い枝を伸ばしてくる。
「ふっ!」
ルークが伸びて来た枝を一太刀すれば、赤黒い斬撃を描きながら抵抗なくトゥレントの枝は絶たれる。魔女の剣は内部から崩壊するが、カランコエが瞬時に鍛造して形を取り戻す。
そして止めをさそうとルークが剣を振りかぶると、トゥレントが嘲笑うように葉っぱを揺らす。
嫌な直感に振り向けば、背後から伸びるトゥレントの根。
想定外なのは、このトゥレントが通常のものではなかったこと。
魔王の寄生は生きものを狂化する。寿命が圧倒的に短くなる代わりに、心身を戦闘に最適化したものに作り替えるおぞましき能力。
ルークは歯噛みした。
すでに剣はトゥレント本体に向けて振りかぶっている。今から勢いのついた剣を引き戻しては間に合わない。
(一撃なら──!)
そうしてルークが被弾を覚悟で身を捻ると──
『死んだ切れはしなら『鍛造』、こうやって簡単よ』
目の前に現れたのは木目のついた一本の剣。
最初にルークが切り飛ばしたトゥレントの枝を、カランコエが『鍛造』したものだった。
「最高だよ、カランコエっ!」
勇者の権能で常人よりも強化された動体視力で、ルークは振り下ろし途中の魔女の剣を手放す。そして瞬時に空中に現れた木の剣を掴み、根っこに向かって一閃した。
結果としてトゥレント本体と、根っこを同時に撃破するという曲芸じみた動きを見せて戦闘を終えたのだった。
「あーっ、あぶなかった……」
『ぎりぎりじゃない。そんなので倒せるの? 魔王』
「倒すんだよ、勇者だから」
そう言ってルークは剣になったカランコエを戻そうとして、気がつく。
「なんか……揺れてない?」
『いまのわたしは剣で、あなたに握られてるのだけど。地面の振動が分かると思う?』
「そうだけど……」
そして、トゥレントの残骸を見て、冷や汗をかいた。
「ちょっと待って。まって。……なんでここに寄生されたトゥレントがいるんだ?」
魔王の領域、茸の森まではあと徒歩で2時間は掛かるはず。
ルークが最悪の可能性に思い至ったと同時に、地面が
草原の緑の草を掻き分けて現れたのは、白い糸状のものが伸びた地下世界。なすすべもなく落下していくルークは無限とも思えるほど広がる地下世界と、そこに寄生していた
「森は地下にもだっ!?」
そう、茸の魔王『センピテルヌス・フングス』の森は二層構造。
地上にある巨大茸の森と──地下に伸びる、さらに巨大な菌糸の森である。
こうして勇者と魔女は一気に、
誰かが言った。
魔王討伐は決して一筋縄ではいかない。
だから、『魔王』なのだ、と。
| 『勇者』ルーク Lv.15 | 『魔女』カランコエ Lv.1 |
|---|---|
| スキル▼ 『一刀の加護』 ・身体強化魔術 ・生活魔術 ・初級水魔術 | スキル▼ 『鍛造の魔法』 |