「マズいことになった」
その日の夜。報告を終えたルークは寮の自室でベッドに両手をついて呟いていた。シーツが皺になる。窓の外は夜の帳が下りていて真っ暗だ。部屋の明かりが反射している。
彼はもう一度叫ぶ。
「マズいことになったぁ!」
本来二人部屋のはずの一室は、帝国からの働きかけによりルークだけの部屋となっている。正確にはベッドルームがふた部屋に分かれていて、もう一方をカランコエが使う予定だった。
「まぁ、うるさいわ」
彼女は不機嫌そうに、スタディデスクのラダーバックチェアに腰掛けて焼き菓子を頬張っていた。それでも頬張るのをやめないのだから、アダマンスヌス帝国の菓子が相当に気に入ったのだろう。
現在部屋の中に人目はない。だから彼女も人の姿に戻ってこうしているのだ。どこから持ってきたのか、ゆったりとした薄灰色のガウンを着ていた。
「ほうこくはしたから、いいじゃない」
カランコエは赤い瞳を細くして、ベッドで項垂れる勇者を見た。
床に届かない裸足がぷらぷらと揺れる。ルークはあのゼミの部屋で魔王の情報が漏れている可能性を知り、すぐさま報告をしていた。
人気のない校舎の外で合図を出せば、シュンカがやってくる。あとは情報を伝えるだけでいい。シュンカは基本的に医務室でアスナヴァと同行している。あとはどこか学院内を散歩しているかだ。
「そうだけどさぁ! カランコエ、思い通りにいかないことはあるでしょ!」
ルークは頭を抱える。
かつての北の英雄が、どうにもならないなら腹を据えろと言ってくれた事は胸に刻み込んでいるし、土壇場の場面では何度も助けられてきた。だけどいつだって納得できる訳じゃない。ひとつやふたつ、叫びたい事はあった。
「わたしはさいしょからよ」
ふぁ、とカランコエはあくびをした。
眠たいのなら、部屋が二つに分かれているのだからそっちに行けばいいのだが、カランコエはルークの方に居座っていた。当の勇者はそれどころではなく、気が付いていないが。
部屋の天井につけられた照明がすこし明るさを変える。そして元に戻る。炎のゆらめきのようだが、魔術を使った照明だった。魔術学院様々だろう。
「とにかく、ウルペスのような何も知らない子を。魔王を知らない子を巻き込むのは危険だ。どうにかして探すのをやめさせたいけど……」
「むずかしいんじゃないかしら」
そうだ。そこが問題なのだ。ルークは眉間にシーツみたいに皺を寄せて唸り声を上げる。
“ルーカス”にはウルペスの魔王捜索を止めさせる理由がないのだ。
危険だ、と言ってもそんなこと相手はわかっているだろう。下手を打てばルークが勇者だと望まぬ形で露見しかねない。
まだ、魔王の姿すら分かっていないのに。魔王にいらぬ警戒を抱かせて取り逃したくはない。
それに赤茶色の彼は魔王への熱意があった。人が止めた所で聞かないだろう。
「いっそ、縛ったらどう? そしたら、めんどうはないわ」
「……一旦倫理的な話は置いとくけど、そんなことしたらウルペスの欠席を不審に思った人にバレるからね。仮にも貴族なんだから。あぁ、考えてたらなんだか喉が渇いてきた」
普通の人は人を縛ったりしないの。
そう言ってルークは薄い茶髪をくしゃくしゃとして、ベッドに手をついた状態から立ち上がり、部屋のスタディデスクの下にある戸棚を開けた。ちょうど膝の辺りにある収納なので四つん這いになって。すぐ横で椅子に座っていたカランコエが何を思ったのかルークの背中に足を乗っける。
行儀悪い、とすぐにルークはカランコエの足をどかした。
「お、あったあった」
引き出しの奥から取り出したのはコルク栓のしてあるビン。
ルークは腰の道具から針のようなものを取り出すと器用に栓に突き刺し瓶を開けた。
「なあに、それ」
「水。しばらく安全が確保されるまではあんまり外部のものは飲みたくないから」
ルークはちょっと疲れた顔をして、そのままぐいと瓶ごと中身をあおった。一口目を口に含んだ瞬間に目を見開くが、そのまま何口かごくごくと喉を鳴らした。そして口を離す。勇者は手の甲で口許を拭うと、手元の瓶を見つめて言った。
「ミスった。これ、酒だ」
弁明しておくと、ソラナムではルークの歳に酒を飲むことは合法だ。だから問題自体はない。水と酒を間違えたのは、酒の方が保存が効くので濃いものを持ってきて薄めることが多いから。ルークは原液を飲んだのだった。
考え事をしていたせいか、ミスをした。口に入れた瞬間に気がついたのだが、もういいかと飲み進めたのだ。
ルークはもう一口ビンに口をつける。酒精が喉を通り抜けて、身体がポカポカとしてきていた。今日、この後の予定は特にない。もう寝るだけだったから酒が入っても問題ないだろうという判断からだった。
「また、あしたウルペスからはなしが、あるらしい」
ゼミでの別れ際。彼は『プランを明日伝えるぜ』と言って別れた。いよいよ魔王の捜索に乗り出すのだろう。だから明日の午前に、彼に会う前に方針を決めておかなくてはならない。
魔王捜索に協力するのか、彼を止めるのか。
「ぼくは、きめなくちゃ」
どう動くのか。
魔王から人々を守るために。どう動くのが正しいのか。
きっと帝国の上の方では大騒ぎだろう。学院の一部に魔王の情報が漏れていたのだから。これはルークが潜入していたからこそ分かった内部事情だ。これだけでも一応、潜入捜査の甲斐があったようなものだ。まだ本命の魔王は突き止められてはいないが。
ルークの頭がふらふらとする。
酒の回りが早いようだ。
勇者はノイズがなくなってきた事をいいことに、思考を深めた。
魔王の現在判明している情報は、血液をなんらかの形で取り除く相手かもしれないということ。それは学院内で見つかった干からびた動物の死骸が証明している。
新たな疑問。
なぜ、魔王の情報が漏れている?
考えなくてもいい疑問。
なぜ、魔王はこの学院で(恐らくは人命を大量に失わせる)騒ぎを起こそうとしている?
「もう、ねたらどう。おうたでも歌ってあげましょうか」
「カランコエは、そんなのできるの……」
ルークの思考がぼやけてきた。
カランコエの呆れたような声に、勇者はふらふら揺れる頭でなんとか頷いて返事をした。もう、頭が霞が詰まったようにうまく働かなかった。全ての思考がシャットダウンされていって、眠りに落ちる道しか無くなっていた。
1日でずいぶん、疲れていた。
ベッドに歩いて行く。
そして、ダイヴ。ばさりと毛布が捲れ上がって、シーツの海に勇者は沈んでいった。
曖昧になった頭は、今の疑問に答えるために、過去の記憶を投射していくのだった。
◆
微睡だ。
記憶が混濁している。
過去のものが今あるように思えてくる。
なぜ、魔王を殺すのか。
ルークは考えたことがあった。
『お兄ちゃん、
まだ十にもならない少女に泣きながら懇願された時。
彼女のまるく、膨らんだ子供特有の手で、血に濡れた手を掴まれた時。
『勇者さま、どうか、どうか孫夫婦の墓に供えるために……』
何十年も生きた老人に縋り付かれた時。
枯れ木のような、もう力のない手で魔物の体液に塗れた手を取られた時。
そして、姉の胸骨を自分の手で砕いたとき。
この世界はなんなんだ。
なぜ、こんなにも魔王がいる。
理不尽がある。考える、考えた所でどうにもならない。
だから剣を振る。
でもまだ足りない。
禁忌さえ。
禁忌さえなければ魔王など生まれないのではないか。
禁忌さえなければ、魔女など生まれないのではないか。
誰が決めるのだ、これは駄目だと。人が生きる上で踏み越えるかもしれないライン。ここより先は駄目だと決めつけ、超えたものに世界の敵とラベルをつけるのは……
神か?
ふと、頬に感じるシーツの冷たさ。
望洋とした目をなんとか開くと、窓の外は深い紺色の夜空だった。
海底と夜空の違いはなんだと昔の詩人が歌ったと姉が教えてくれた。本が好きなひとだった。
枕元を弄る。口の空いた瓶があって、からからの喉に酒を流し込んだ。が、入ってきたのは水だった。あれ、と思って上半身だけを持ち上げる。
はらりと毛布が落ちて、着の身着のままシャツも脱がずに寝てしまったのだと気がついた。
時刻は深夜の頃だろう。
あたりは静まり返っていた。
『〜、〜、ー』
そんな中、響く歌声。
音につられるように視線を向けると、窓辺で誰かが歌っていた。
柔らかい布を擦るような、静かで聞き心地の良い声。
歌はこちらが起き上がってきた気配を察したのか、徐々に止まる。
そして窓際の椅子に座っていた彼女は振り返ると平坦な声で言った。
「なきながら寝るなんて、よわむしね。なんで勇者なんてやってるのかしら」
頬を触ると、冷たかった。無感情に、流れるように雫は拭い去った。
まだ鈍い頭で、ルークは首を振った。
「やめたくないから」
「へぇ。あなた、とっても可笑しいわ。気がくるってるのかしら」
あんまりな言いようだ。
ルークは反論しようとしたが、それよりも早く彼女が口を開いた。
「やめちゃえば? いつもけがして、くるしんで。それで、まだ人のためにやるの? あなたのことは誰もたすけてくれないのに」
ホーホーと鳴き声がする。
夜鳥の鳴き声だ。少しだけ痛む頭に手を当てて、ルークは呟くように言った。
「僕は……ぼくは、誰も助けてないさ。ころしつづけるだけだ」
そして腰のあたりに落ちていた毛布を頭の上まで引き上げて、中に包まれるようにくるまった。体が冷えていた。
「でも、殺して、褒められて、それで、何になるっていうんだ。賞賛も、憧れも、僕にはいらない。何がおかしくて誰が血と臓物で塗れた男を讃えるんだ。おかしいんじゃないか。ぼくは……てきを倒すだけの、汚れて醜い、血まみれの……」
声はくぐもって、部屋に落ちる。
飛距離のない、不鮮明な声。
しばらく部屋は静かだった。夜の世界は静かさを湛える。自分の言葉がよく響く。だから布団を被った。
「魔王はころす?」
「うん」
魔王は被害を呼ぶ。
いると悲劇が起こる。それを知って安穏と生きられるほど、ルークは切り替えが得意では無かった。
「じゃあ、まじょは? 記録だと、あばれっぷりは魔王とあんまりかわらないわ」
確かにそうだ、と冷静なルークの知識は頷く。
憤怒の魔女は28万人。
英雄15人で勇者は8人。
灰燼都市は14万人。
英雄は29人、勇者は14人。
国墜の魔女は50万人越え。
最後は自滅で滅んだ。
全て、何百年と続く歴史の中で、歴代の魔女が出した被害だ。
そして討伐に要した人数でもある。魔女は立派な脅威の一つだ。それも人類にとって。
他にも魔女の報告は多数あるし、そこまでの被害にならなかった例も多くある。だが、被害が大きくなればここまでになる可能性があるのだ。りっぱな災害。大いなる爆弾。
ルークの頭の中に、ふと、疑問が生まれた。
かつての魔女たちも、なにかに絶望し、狂ってしまった末なのだろうか。
忘れがちになる『秘匿の杖』も、何か狂った末なのか。
これも魔女とされているが、被害は一切記録されていない。都市が消えたと思しき痕跡はいくつもあるのだが、誰も何も被害を受けていないのだ。ルークはこの魔女が一番恐ろしいと思っている。なにせ、まだ生きている可能性が唯一あるのだから。
だから、魔女は敵だ。
ならば、彼女も。
「ええ、もちろん」
いつか敵になる、潜在的な脅威。被害をもたらすかもしれない爆弾を、事前に処理することは、勇者として正しい。出来る限り多くの人に尽くす勇者としてきっと正解の道だ。そのはずだった。
「君は……」
まだイガイガとする喉でルークはなんとか声を出した。
カン、と音がする。
見ると、彼女のちいさな手には夜空を鍛造したような紫の混じったナイフが握られていた。熟れた果実のように真っ赤な瞳が無感情にナイフを持った手のひらを見つめている。
あんなに、彼女の手は小さかったか。ルークは自問自答した。
あんなに小さな手を、今までの凄惨な戦場に連れ出していたのか。僕は。
「世界なんてきらい」
風が吹いた。
窓辺のカーテンを揺らす。どうして窓辺に椅子があるのか疑問だったが、スタディデスクの椅子が無くなっていた。彼女が窓際に運んだらしい。
「ちいさい命も、なにもかも生きてるのに、踏みつけるなんて」
「…………」
夜の静けさが、少し肌寒い風を運んできて月明かりが部屋を照らしている。青白い部屋だ。家具が青白く照らされている。
カランコエの髪の毛が、真っ白な布のように揺れていた。
夢か現実か、ルークには完全に判別が出来なかった。
「だったら、こんな世界、いちどぜんぶ壊して鍛造してしまったほうがいいと思うもの」
ああ、彼女は世界を壊す。
魔女になった時に課せられた戒めが機能しているからまだ行動に移さないだけで、きっとすぐにでも。
ルークが消えれば、彼女は自由の身になる。でも今は契約で命が繋がっているから、ルークが死ねば彼女も死んでしまう。
「わたしはあなたの罪を肯定してあげるわ。血と臓物でまみれたあなたをほめてあげる。だって、わたしは魔女、だもの」
くすくすと窓辺で彼女が笑った。
ぐらりと視界が揺れて、眠気が強くなってきた。
「わたしは世界の誰もが嫌う、災厄よ。せかいの味方、勇者の敵。どうも、こんばんは。せかいの救世主さん、どうするの?」
声が反響する。
ぐるぐる回る。これは、夢か。なんだとルークは意識をはっきりさせようとしたが、ダメだ。
感覚器官のあらゆるが遠くなっていく。
「きめなくちゃね。あなたは。──さいごに何をえらぶのか」
夜中の風が毛布の隙間から入ってくる。
寒かったが、彼女がワンフレーズ、歌を歌っていて、どこか肩の力が抜けるようだった。
まどろむ。
意識が消える。
暗くなる世界で、声が響いた。
「まちがえちゃ、ダメよ。だって、これは再試験のない問題だもの」
──そりゃ、誰だってまちがえたくないよ。
でも、やっちゃうんだ。
やっちゃうから、後悔という機能が人間についているんだ、とルークは閉じる瞼で浮かべていた。
その声を最後に、勇者は意識を失った。
夜の部屋には一人だけのための、歌が響いていた。
◆
「はっ」
意識の覚醒と共にルークはベッドの上で上半身を起こした。外は朝方の明るさで、窓を開けっぱなしにして寝ていたのか肌寒い。
「支度しないと……」
妙に腹のあたりが暖かかったので、毛布を捲るとカランコエが丸くなって寝ていた。ルークは無言で毛布の端を持ち、二秒で魔女をぐるぐる巻きにして、魔女の方の寝室に放り投げた。
「ひどい」
「ひどいのは君の感性だ!」
魔女の抗議に、ルークはこんな場面を見られたらどうするんだと悲鳴のように叫んだ。
とにかく朝の支度をしなくてはならない。なんだか、昨日の夜の記憶が曖昧だが頭はしゃっきりしていた。
歯を磨く。
ヨレヨレのシャツをハンガーにかけて、別の新しいシャツを取り出す。部屋に入ってきたカランコエを一旦追い返し、ズボンやら何かを全部着て、髪をかるく整髪油で整える。
支度の最後に朝食を下の食堂に摂りに行こうとしたところで、廊下に気配を感じた。
『おうぃ、兄弟! 起きてたら開けてくれ! ビッグニュースだ!』
そしてドンドンドンと響く扉を叩く音。ルークは入り口を見る。
来客のようだ。相手は分かっているが。
靴を素早く履いて、紐を結び、シャツのままルークはドアを開けた。そこには案の定、笑ったウルペスが立っていてイタズラ小僧のように体を小刻みに揺らしていた。
「よぉ、いい朝だな、兄弟」
「おはよう、ウルペス。で、どうしてこんな朝早くに?」
少ししたら出る時間ではあるが、訪ねてくるにはまだ早い時間帯。
わざわざ部屋前にやってきた男にルークは片眉をあげて尋ねた。
「なんだぁ、兄弟。部屋に連れ込みでもしたか? ま、いいけどよ。それよりやったぞ!」
「何を?」
「最後のひとり、魔王探しの仲間が見つかった!」
ウルペスはニヤッと笑った。
相変わらず少年のような喜び方をするやつだな、とルークは思った。
「仲間って」
確か条件は、魔術に秀でている者の筈だ。
魔術の腕もあるのに魔王がいるという眉唾物を信じてくれて、かつ協力してくれる人というとなかなかハードルが高い。
そんな人物が何処にいるのか、と思っているとウルペスの背後でバタバタと動く音がした。もっと正確に言えば、腰のあたり。
「は、離せっ! あたしが何をしたっていうんだーッ!」
半目になってルークはウルペスを見る。
彼は気まずそうに目を逸らして、右の脇に抱えていたものを隠そうとした。
彼が腰で抱えているものには足が生えていて、学院指定の革靴を履いている。端的に言えば、人だった。
「……ウルペス、君が本当にそんな奴なら、僕は君を拘束しなくちゃならない。残念だよ、兄弟ができた途端、犯罪者になるなんて」
「ちっ、違っ! これはなぁ! いいか、オレは被害者で……」
ウルペスが慌てたように自由な方の左手を振るが、ひときわ大きく担がれている人物は暴れ始めた。
「どうせ、あなたの協力者っていう人も、魔王の噂なんかを信じちゃうくらいオメデタイひとなんでしょー? イヤー! あたしそんなもののために死にたくないーっ!」
足がバタバタと揺れる。
ルークは軽く一歩足を引いて準備をした。意識を刈り取るなら呼吸の間を狙うこと。ウルペスの顎の位置は高いので、ハイキックになるだろう。
「はっ、なっして!」
「暴れるな、わかった、分かったから!」
ウルペスは何度も抱えた人物に足蹴りを喰らいながら、宥めようとしている。抱えられている彼女? は必死なのか蹴りはそこそこ威力があるようで、ウルペスの腹に当たるたびに彼は渋い顔をしていた。
「安心しろって。まともな奴だから。ほら、協力者のルーカスだ。挨拶しろよ、これから協力して魔王探してくんだから」
ついにウルペスは腰に抱えた相手をとんと床に下ろす。ふわりと薄紅色の髪が広がって、学院の制服が遅れて重力に従うように追従した。
よく見れば彼女を一周ウルペスの上着が包んでいて、直接触らないようにしていたらしい。一応の配慮のようだ。
地面に下された彼女は、そのままの勢いでカンカンに怒ってウルペスに迫っている。それなりの巨体を誇る彼も勢いにタジタジなのか仰け反り気味だ。なんだかアンバランスだった。
「突然降ってきたアンタを助けたんだから、仕方ねぇだろ? それに、ほら。兄弟がいれば魔王も探しやすくなるって」
ウルペスが上半身を逸らせながら指を指す。
先には成り行きを見守っていたルークが立っていた。
「だから、それって一体どこの誰…………あ゛」
彼女が振り返る。
目が合う。
髪の色よりすこし薄めの彼女の目が大きく見開かれて、カタカタと震えた。
「あびゅう……」
かと思うと、白目を剥いて後ろに倒れた。
慌てたウルペスが背中を支えて後頭部強打は免れる。
何かあったのかとウルペスは慌てて、気を失っているだけだと判断すると、何かを類推するような目でルークを見つめた。まるで、容疑者を見るかのような視線だ。
「……いゃ、深くは聞かねぇけどよ、兄弟。何したんだ?」
そこには多分に、困惑やら何やら。
いろんな感情が混じっていて、新たなトラブルの予感に顳顬を痙攣させながらルークはひとまず叫んだ。
「誤、解、だ!」
こうして魔王を探す同盟は集まり、さわやかな朝の時間に、青年の弁明が響く空間が生まれたのである。
【手掛かり】
▶︎1.漏れてるウワサ話
2.血のない死骸