銃が撃てないモブちゃん 作:ん、曇らせ
「ほらどうした? 撃てないのかよ?」
「こいつマジで腰抜けだな、情けねぇ」
嘲笑と銃口の冷たさに、足がすくむ。
撃てない。撃たなきゃと思っても、あの光景が脳裏をよぎる――防御を失った“的”を撃ち抜いた瞬間の、耐えがたいほどの虚しさ。
もう撃てない。二度と。
そのとき。
「うへ~……弱いものいじめは、おじさん許せないなぁ~」
のんびりとした声が割り込んできた。
気がつけば、日差しを背に受けた少女がそこに立っていた。
長い髪を揺らし、銃を構える仕草すらどこか気楽で、けれど確かに頼もしい存在感を放っていた。
「だめだよ~? ちゃんと撃ち返さないと~」
彼女は私に笑いかける。冗談めかした、けれど優しい笑顔で。
私は――息を呑んで、震える声を漏らした。
「……ごめんなさい……」
涙がこぼれる。
なぜ謝っているのか、自分でもわからない。
でも、ホシノのその笑顔が、あの世界で最後に見た笑顔と重なって、胸を締めつけた。
ホシノは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに困ったように笑った。
「……えっと、そんな顔しなくてもいいんだよ? ほら、もうおじさんが来たからねぇ」
ホシノが軽く銃を構えると、不良たちは舌打ちをして後ずさった。
「ちっ、アイツはヤベー!ずらかるぞ!」
不良たちが去っていくのを見届けてから、ホシノは肩をすくめて笑った。
「うへ~、全く、弱いものいじめは勘弁してほしいね~」
銃を下ろした彼女は、まるで散歩のついでに面倒を片づけたかのような気楽さで、こちらに視線を戻す。
「……君、大丈夫?」
優しい声が、耳に届く。
気づけば私は、強張った指から銃を落としていた。床に響いた音がやけに大きく感じる。
「……ごめん……」
また、口が勝手に謝罪を漏らす。
ホシノは目を瞬かせ、困ったように微笑んだ。
「謝ることないよ~? 怖かったんでしょ? 撃ち返せなかったのも、別に恥ずかしいことじゃないし」
違う。怖かったんじゃない。
ただ――撃てなかった。
引き金を引けば、守れたかもしれない。
でもその先に待っているのは、また誰かの命を終わらせる感触。
“的”にしかならない姿を撃ち抜いたときの、あの取り返しのつかない虚しさ。
唇を噛みしめ、私は視線を落とした。
「……ごめんなさい……」
また同じ言葉しか出てこない。
ホシノは、そんな私をしばらく見つめていた。
やがて彼女は静かに息を吐き、頭を軽くぽんぽんと叩いた。
「……うへ、まぁなにがあったかはわかんないけどさ。いいよ。撃てないなら、撃たなくてもいいよ。困ったときはおじさんが守ってあげるから」
その笑顔に、胸が張り裂けそうになった。
――だって私は知っている。
あの世界で、彼女は後輩に見るも無惨な姿にされてしまったのだから。
ホシノは私の手を軽く引いて、校舎の中に連れ込む。
「ほら、もう大丈夫だよ~。教室まで案内してあげるよね」
その言葉に、つい微かに頷く。
廊下を歩くたび、耳に入る話し声や足音に、心が少しだけざわつく。
**――あの世界では、こんな音が最後の安らぎになることはなかった。**
「ねぇ、君、名前は?」
ホシノが首を傾げて聞いてくる。
自然な日常の問いかけなのに、私にはひどく重く響いた。
「……えっと……」
言葉が出てこない。
胸の奥で、過去の光景がちらつく。
――笑顔で迎えてくれた仲間が、瞬く間に影に飲まれていったあの世界。
ホシノは不思議そうに首をかしげたが、すぐに笑顔を崩さず言った。
「ふふ、まぁいっか。ゆっくりでいいよ~」
その温かさが、逆に胸を締めつける。
私は、ただ黙って頷くしかなかった。
――そう。私は、この世界でも守れないかもしれない。
けれど、ホシノの存在が、少しだけ、希望を思い出させてくれる。
廊下の向こうから、他の生徒たちの声が聞こえる。
――あんな世界になってからついぞできなかった日常が、ここにはあるのだ。
そして、ふとした瞬間に、誰かの笑顔が――
あの光景を思い出させる。
私はまた、無意識に唇を噛みしめる。
________逃げて、逃げて、逃げた先にはなにもなかったことを。
_____________あの時、私が死ねば良かったことを。
________________だからできるだけ今を苦しむよ
_____ノノミ
あ、言い忘れていましたがこの作品基本的に生徒が可哀想な目に合います。合わないと感じたらブラウザバックよろです