ワッケイン   作:いくさふね

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TV版機動戦士ガンダムより、ワッケインについての私の妄想を形に残そうと思います。
話しはUC0078年末から、テキサスコロニーでシャアのザンジバルに破れる迄です。
本人による語りは最初のみで、途中から別の語り部が登場する事を予め記しておきます。
劇中設定に付いては、基本的にTV版機動戦士ガンダムを元にオリジナルを加えました。
現在公式とされているガンダムセンチュリーや玩具メーカーの販促用MSバリエーション
等の設定は、一部引きずられている部分も有りますが原則採用しておりません。
本作の主役は有る意味艦艇なので、MSの一撃で艦艇が沈む事は、例外を除き有りません。
MSが縦横無尽に暴れ廻る話しでは無い事、MSのサブタイプ名や開発時期が従来公式とさ
れていた物とは異なる事、コロニーの構造の一部等にも変更を加えました。
有名な「ミノフスキー粒子戦闘濃度散布」の台詞も採用しておりません。
このような話しにもお付き合い頂けると言う方は、宜しくお願い致します。







故郷の十字架は重く
レリア シンコナラ セルレア


うつむき歩く視界の端を、白い何かが横切った。いや、見間違いでは無い、今日はそういう日なの

だ。

歩みは止めず天を仰ぐと、大河の様にも見える採光窓も、その両岸に広がる対面の街並みも、鈍色

の雲に隠れがちで、しかし粉雪は雲から降りて来る事はない。

カザハナと言う言葉を東洋出の者から聞いた事があったな… と、何か重い物が右の脚にぶつかっ

て来た。危うく転びそうになるのを辛うじて堪えると、落とした視界の先には小さな男の子が尻餅

をついている。

「君、大丈夫?」歳の頃は7~8歳位だろうか、うちのダリルと同じ位だ。

「ごめんなさい」見上げる瞳は少し怯えている様だった。

「よそ見をしていたこちらが悪かった、怪我は無いかい?」

彼は立ち上がると、「平気です」と言って駆け出していく、雪にはしゃいで駆け回っていたのだろ

う。

まばらに降る雪は路面に消えてゆく、気温が高いからだ。

管理局は季節感の維持を名目に夏冬の寒暖差を付けてはいるが、冬とはいえ暖房が要る程気温を下

げる事は無い。

彼が雪景色を見る事はあるのだろうか…

 

時計は午後3時を廻り、採光窓の遮光発電帯が簀の子の様に引き出され始めているのが雲の隙間に

見て取れる。

曇り空が夜の訪れを早めている様に思わせて、私の心を焦らせた。

何故なら私は今、息子へのクリスマスプレゼントを探しあぐねて街を彷徨っていたからだ。

民族宗教が入り混じり、最早かつて程の賑わいは見られなくなったクリスマスとは言え、ここザー

ンでは宇宙移民最初期の欧州出身者が多いせいもあり、この時期に雪を降らせる程にはまだ慣習は

残っていた。

月を含めた人口都市群は全て北半球仕様で季節を回しているのだ。

我が家でも、息子が4歳を過ぎてからは、妻のエレノアがそれらしい事をしている様だった。

だった。と言うのはまだ一度もその日に帰宅出来ていないからなのだが… 

そして今年は、始めて息子からプレゼントのリクエストが有ったのだ。

うちではサンタクロースのお伽話は最初からしてはいない、息子には大切な人に贈り物をする習わ

しと初めから言って聞かせてある。

これまでエレノアにねだっていたのだろう息子が、私に話しを持ってきたのには訳が有った。

母へのプレゼントが欲しいと言うのだ。

贈り物の贈り物もどうかとは思ったが、彼に大した小遣いも与えてはいないし、自分の分はエレノ

アにねだってある様なので、それならと聞いたリクエストは花だった。

 

心当たりは有った、妻が地上から苦心して持ち込んだ草花の種撒きとその顛末を、彼は直ぐ傍で眺

めていたのだ。

彼女は、私と結婚する前は植物園で働いていて、植物に疎い私には良く判らなかったが、その種は

勤め先から貰って来た検疫済みの貴重な物らしかった。

息子がある程度手が掛からなくなるのを待っていたのだろう、今年になって冷蔵庫に仕舞われてい

た種をやっと撒いたのだが、遺伝子操作もしていない草達に、小惑星を砕いただけの土は合わなか

ったのだろう。

育ち切れずに枯れて行く苗を前に残念そうにしていた彼女の姿を息子は見ていた。

恐らくはそれが花を贈る動機になったのだろう。

私も妻も地上育ちなのだが、私の生業が彼女の緑の手から土を奪ってしまった。

なので、これは私と息子、二人からの送り物とも言える。

だから探しているのは切り花では無く鉢物なのだが、それが容易に手に入る物では無いと言う事に

無知な私は探し出してから気付かされたのだった。

ムンゾが独立を叫び、公然と建軍を始めた事で、経済制裁の泥試合が始まり、今や食品以外の植物

の入荷はほぼ止まっていたのだ。

元々、生きた植物の地上便は検疫が厳しく、品数も限られていた上、月やコロニーの植物工場も食

料品の生産が殆ど、コロニーの植栽は公社の独自生産品で、切り花は今や精巧な造花で賄われてい

る事を、私はここに来て始めて知らされた。

数年前に見掛けた花屋を記憶を辿り訪ねて見たのだが、そこもどうやら店じまいをしてしまった後

らしかった。

だが、約束した手前容易に引き下がる事は躊躇われる。

通販か? しかし携行端末の画面にもそれらを扱う店は現れない。

大体、今、手許に欲しいのだ。

流石に諦めて謝るしかないか…

 

雪は止み雲は晴れ、天上の街並みに明かりが灯り始め、採光窓は七割方遮光された。

いよいよ時間切れか… 言い様の無い焦燥感に思わず立ち止まり、夕暮れに沈み行く街並みを見渡

す。

と、何かが頭の中で前に進む様促して来るのを感じた。

ここに居ても仕方が無い、それは家へと向かう道だ。

多分、自分自身を無意識に促したのだ。

私は歩き始めた。

商業区画を過ぎると街の様相は一変し、閑静な住宅街が続く。

辻を二つ程超しただろうか、車を呼べば良かったか… その時、又、何かが頭の中で行き先を告げ

て来た。

次を左? 疑念をよそに身体はそれに従う。

枝道を左に曲がり、普段なら入らないであろう道を幾らか進むと、右側に空き地が広がった。

いや、空き地では無い、平屋の建物が一軒とそれに不釣り合いな広い敷地、幾本もの柱が並び、網

のような物を空中で支えている。

柱の中程からはワイヤーが幾本も隣の柱に渡され、そこに植物らしき物がずらりと吊り下げられて

いた。

手前には作業灯を点け、シートの様な物を畳んでいる人影が目に入る。

声を掛けようとしたが、それは相手の方が早かった。

「お客様ですか?」声の主は齢70に届こうかと言う男性だ。

「いえ、初めて通りかかった所目を惹かれまして、失礼ですが何をされているのですか?」

「ああ、これですか、先程まで雪がちらついていたので被せていた物をどけているんですよ。もう

すっかり暗くなってしまって…」

「こちらに並んでいる物は?」

「ああ、そこはデンドロビウム、向こうはカトレヤ、ファレノプシスは扱ってません。一番奥は変

わり者、セロジネとかブルボフィルムとか。」

「済みません、植物の事は解らなくて…」

「いけない、いつもの癖で… 蘭を育てているんです。」

話を聞くに、彼は植物分類を専門とする元教授で、半ば強制的に移住させられたザーンの第三期入

植者だった。

移住の条件として提示した研究継続の為の植物栽培の許可は下り、居住区域での栽培を始めたが、

結局、宇宙ではフィールドワークとは無縁なので研究を諦め、今では趣味と商いを兼ねて蘭を育て

ているとの事だった。

 

気さくな人柄に気を許し、もう少し話しを広げて見る。

「居住区で良く許されましたね、防疫は大丈夫だったんですか?」

「ああ、この子達は無菌の容器で培養してた物を持ち込んだからね、コロニーの居住区はこの子達

には天国だよ、暑さ寒さも天候不順も無い、容器から出す時も雑菌が少ないから慣れやすい、地上

では結構大変なんだよ。」

改めて辺りを見渡すと、ぽつぽつ花を咲かせている物も有った。

「御免御免、今、明かりを点けるよ。」

そう言うと、彼は平屋の建物へ向かう、程無く照明が眩く輝き出した。

手前に吊り下げられた植物達は姿も様々で、鮮やかだが小さな花を付ける物が多い。

「そこは原種が多いんだよ、あっちのカトレヤは見栄えもするし時期だから良く咲いているよ。ま

あ、そっちも原種かプライマリーばかりだから花は小さめだけれど。ミニとかミディーとか昔呼ん

でた物だね。」

彼の指差した先には、成るほど私にでも良く判る美しい花々が並んでいた。

確か私に客とか言っていたが… 意を決して尋ねて見る。

「済みません、この内のどれかを譲って頂く訳にはいかないでしょうか?」

「無論です、お気に召した子が有りましたら是非連れて帰ってあげて下さい。」

そう言って彼は外の看板を見上げる。

先程までは暗さで気付かなかったのだが、今では見掛ける事も珍しくなった直書きの看板には、直

売を謳った文字が並んでいる。

 

私は居並ぶ花達をつぶさに見て廻った。

こんなに真剣に花を見つめる事など生まれて初めてだ。

そして目に止まったのは薄紫の花を咲かせている物だった。

「これでも宜しいでしょうか?」

彼、いや、主人はそれを見て、「ああ、青い子ですね、私も好きです、どうぞお持ちになって下さ

い。」と、微笑みをよこす。

「青 ですか…」

「ああ、この仲間には青花は無いんで、昔はそういうのを無理矢理そう呼んだんですよ。薔薇なん

かもそう、セルレアとか言ってね。今では遺伝子でどうにでもなるんですが、ウチでは組み替えた

品種は扱っていません。」

気さくな人柄に気が緩み、先程から気になっていた事を聞いてみた。

「皆、根が剥き出しで土が無いのですが、これは?」

「これはね、元々こうして生きているんですよ。本来は木や岩にしがみついて夜露や雨水だけでね

、だからこんな所でも出来るんです。家では霧吹きとかで毎日頭から濡らしてあげて下さい。まあ

、一~二週間位忘れても大丈夫ですけどね。」

土の要らない植物も有ったのか、まあ、植物工場も水耕栽培で土を使わないと言う話しだが。

「それは本当にコロニー向きですね、では、これにしたいと思います。幾らになりますか?」

私が値段を尋ねると、主人は笑顔でかぶりを振った。

「いえ、お代は結構です。ぜひ可愛がってあげて下さい。」

いやいや、苦労して育てたであろう物をただで貰う訳には行かない。

私は固辞したのだが、主人も引き下がらろうとはしなかった、

「いえ、ここはもう閉めるんですよ、水を使いすぎると言われましてね。ちゃんと払っているんで

すがこの御時世でしょ、資源を無駄にするなって。それに私も歳ですし、この辺が潮時かなと。で

、特売の広告を打ったんですが、この不景気でしょ、財布の紐が堅くって全然減らないんですよ。

ですから連れて行って下さるだけで十分です。」

主人が全く受け取ろうとしないので私は甘えることにした。

「どなたかへの贈り物ですか?御包みしましょう。」

そう言うと主人は花を持って平屋の建物へ向かった。

「誠に有り難うございました。」

戻ってきた主人は、きちんとリボンの掛かった包みを私に手渡すと、満面の笑顔で見送ってくれた

のだった。

 

車を呼ぶか… 呼び出しを掛けてから気付く、さっきまでは家に早く着きたく無かったのだと。

それ程待つ事も無く車は来た。

流しのシティーコミューターは無人だった。大概は相乗りになるのに今日は貸し切り状態だな。

走り出す車窓から振り返ると、未だ隣家の影に灯ったままの明かりが見えた。

研究の道を絶たれ、趣味も諦めた主人の事を思うとやるせない気分にもなる。しかし、自分もまと

もな庭造りも出来ない宇宙に妻を連れ出して来たではないか… 

だが、僅かでも彼女の無くした物を埋め合わせられるかも知れない。

上手に育てられるだろうか…

いや、大丈夫、彼女は最も由緒有る植物園に勤めていたのだから。

しかし奇跡の様な出会いだったな…

家に着いたのは8時手前だった。

錠を解き、玄関のドアを開けると、怪訝そうな表情の妻が奥から顔を除かせた。

包みを後ろ手に隠す、私の顔を見るなりその表情は驚きの色へと変わった。

「ライナス、何故そこに居るの!?」

無理も無い、帰宅する事など告げてなかったし、ここ数年、この時期に私が家に帰る事などなかっ

たのだから。

「今年は特別だ、たまには良いだろう?」

「帰って来るなら一言欲しいわ、夕食二人分しか用意してない。」

だろうな…

「いや、直ぐに戻るから心配は要らない。それよりダリルの顔が見たい、今何してる?」

「さあ、部屋に隠って何かしていたけど… 呼んで来る?」

言ってる傍から息子はひょっこり表れた。

三週間ぶりか… 

「何に夢中になってたんだ?」

そう言いながら妻に気付かれ無い様目配せをした。

「調べ物。」

息子は素っ気なく答えたが、その顔は嬉しそうだ。

「取りあえず上がらせてくれ、私の家だろう?」玄関を過ぎると短い廊下の先はダイニングだ。

テーブルの上には、夕食のメニューがほぼ出そろっている様だった。

特別な物は無いが、取り合わせと飾り付けの工夫でちゃんとクリスマスのディナーらしく仕上がっ

ている。

「本当にもう戻っちゃうの?食事をする時間位無い?一人分位どうにでもなるわ。」

妻はそう言ってくれたが、折角のディナーを作り直させたくはない、それに気恥ずかしさも幾らか

有った。

「二人のデートに水は差さないよ、それより君はいま、手が離せないんだろう?」

息子と二人きりになる為の方便だったが、支度もほぼ終わっている様なので少々苦しいか?

だが妻は、「そうだったわ。」と言うとキッチンに向き直った。

何か感づいているのかも知れない… 

 

とにかく妻の目を盗んで息子の部屋へと滑り込んだ。

私の後を息子が付いて来る。

そこではたと気が付いた、ラッピングを今解く訳には行かない。

息子にどんな花かを見せる為に、画像なりを包装前に撮っておくべきだったのだ。

「クリスマスプレゼントだ、だが済まん、これではお前が気に入るかどうか見られないな…」

だが息子は意に介す様子もなかった。

「父さんが選んでくれた花だから、それでいい。」

「そうか、責任重大だな、ところで、さっきまで何をしてたんだ?」

「うんと… お花の育て方を調べてた。」

息子は、母親が植物園に勤めていた事など知らないのだ。

そんな事を思いながら付きっぱなしの検索画面に目をやると、そこには私が求めて来た物にそっく

りな花が写っていた。

育て方を調べていたと聞いた時点で、実は何かしっくり来ない物はあった。

私が持ち帰る花の種類も判らないのに闇雲に何を調べるのだ。

まあ、子供のする事だからと流してしまっていたが… どうやって包みを開かず中を見た? 

いや、そうでは無い、息子は私の帰宅前からここで調べていたのだ。

どうやって私が持ち帰る花を知り得たのだ?

「凄いなダリル、どんな魔法を使ったらプレゼントの中身が判るのかな?」

「それじゃあ当たりって事? 魔法なんかじゃ無いよ、流石は父さん、僕もこのお花好きだよ。」

偶然予測が当たったと言う事なのか?だが、これ以上この話しを続けるのも不粋だ。

「お褒めに預かり光栄だ、私はこれで仕事に戻るが、後でプレゼントを渡した時の母さんの様子を

私にも教えてくれよ。」

息子の部屋を出てダイニングに戻ると、妻が私を待っていた。

「本当に行っちゃうの?」

「ああ、今年はこれでも特別なんだ、で、こっちも特別なんだが…」

思わず、不自然に言い淀んでしまった。「今年は私から贈り物が有る、今までしていなかったので

何だが…エレン、いつも有り難う。」

ポケットから事前に用意して有ったプレゼントの小箱を取り出すと、妻の掌に押し付ける様にして

手渡す。

中身はそれ程高値では無いブローチだ。

「え、嘘、有り難う。だけど私何も用意してないわ。」

一応喜んでいる様だ。

「いいんだよ、イレギュラーだから、じゃあ、これで御暇する。」

そう言って私はそそくさと玄関を後にした。照れ臭かったのだ…

 

家では車を呼ぶタイミングが無かったので、歩きながら呼び出しを掛ける。

今度は直ぐには来なかった。

家の前に留まって居るのもバツが悪いので、そのまま歩みを進める。

結構な距離を歩かされると後ろから車は近づいて来た。

中には先客が二人。

「主鏡側守備隊駐屯地へ、一人。」

四人乗り向かい合わせの席に、先客達は対角を成して座って居た 。

初老の品の良いご婦人は、目が合うと微笑んでくれたが、流石に隣は気が引けたのでもう一人の男

性に目をやると、それは良く見知った顔だった。

「司令、お帰りは明日の朝だったのでは?」

羽織ったコートのせいで軍服を見逃していたのだ。

「邪険にされたので逃げ出して来たよ、君の方は予定通りかな、エラン君。」

「そんな事言って奥様に告げ口しますよ、司令は恵まれ過ぎです。けど、そんな僻み事もこれまで

です。私も、未来の妻を捕まえて来ましたからね。」

彼は、私の座乗艦に乗る火器管制オペレーターだ。

例年ザーン西行政区軍では、総司令の鶴の一声により始まったクリスマス休暇独身者優先キャンペ

ーンが展開される。

狙いは勿論独身者の結婚支援だ。

私がこの時期家に居た事が無いと言うのも、彼らに替わり隊の留守番をしていたと言う側面も有る

のだ。

かつて程盛んでは無くなったとは言え、クリスマスの主役が子供で有るからには、子持ちを中心に

不満の声も聞かれたのだが、今年は違った。

23日から26日迄の4日間で、総司令の認めた例外を除き、全ての隊員が交代で休暇を取得するよう

厳命が下されたのだ。

いつもの独断とは言え、休めと言われて文句を言う者など居ない。

かく言う私も、24日昼より一泊を挟んで翌日午前帰隊と言う今までは考えられ無かった様な休みを

、幸運にも手にしたのだ。

 

「エラン少尉、それは婚約の成立との理解で合っているか?」

彼は照れる事も無く答える。

「はい、彼女にOKを貰いました、今日休みを頂けたと言う事は、神様が決めろと言っている様な物

でしょう?」

「まあ、独身者は毎年休めている筈だがな、」

「それを言ってはいけません、司令。」

「相手もキリスト教なのか?」

そこでかれは携帯端末を取り出すと画像を見せてよこした。

そこには東洋系の柔和な顔立ちをした女性が写っている。

「中華系だと聞いています。家は仏教徒らしいのですが何故かクリスマスは祝っていたとか… 若

くみえますが、私より2つ年上なんですよ。」

「美人なのは判ったが、一応個人情報だ、それくらいにしておいてあげろ。」

惚気話を嫌った訳では無かったが、軍の規範も有るので一応釘は刺しておく。      

「はい、ですが出来れば司令も式に御呼びしたいと思っておりますので。」

ちょっと二人で話し過ぎたか? 向かいの老婦人に目をやると、彼女は静かに、そして楽しそうに

こちらを見ている。

「これはご迷惑を、誠に済みません。」

大体軍人は職業柄声が大きくなりがちなのだ。

彼女は微笑みながら頭を振って答えてくれた。

「いえいえ、気になさらずに、私も若い頃を思い出して… いえ、聞き耳を立てていた訳では無い

のですけど。」

本当に楽しそうに話すので、エランも気を許した様だ。

「では、人生の先輩として相方と上手くやっていく秘訣など有りますか?」

軽率な発言だとは思う、彼女が既婚者だとは限らない、恐らく彼はプロポーズが上手くいって気分

が高揚しているのだ。

「それはもう女の子の機嫌を取り続けることよ。私の夫も、私にはさぞ苦労した事と思うわ、でも

、この世はそうなっているのよ。」

私の心配は杞憂だった様だ。

彼女は、「私はそろそろですので。」と言うと、車はゆっくりと止まる。

「少尉さん、頑張って。」

彼女が降りると車は再び走り出した。

何しろ都市筒の末端部までなので結構距離を走る。

軍事施設は大概両末端部の鏡板周辺に集中している。

人口密集地を避ける他に、鏡板に向かって斜面を形成する土砂に、外部攻撃からの防弾効果を期待

しているのだ。

無論港に近いと言うのが第一義ではあるが。

 

眼前には既に巨大な壁がそそり立っている。

6キロを超える高さは地上の山でもそうお目に掛かれないだろう。

走らされたと言っても時速40キロで10分弱の事だ。

住宅が減り、官舎が近づいて来た所で、私はエランに途中で降りる事を告げた。

基地に入る前に夕食を購入する事を思い立ったのだ。

今日位は、基地の食堂とは違う物でも食べたいではないか… 

衛門への道すがら、最後となるストアーの前で止めて貰い、私は車を降りた。

何処で乗り降りしようが自由、コロニー内の交通機関は原則無料だ。

但し、軍事基地へは関係者のみだが。

店に踏み入れると、テイクアウトのデリカコーナーへ向かう。

店内にクリスマスらしい飾り付けは無かったが、デリカのラインナップは明らかにそれを意識した

物となっている。

が、残る商品は僅かだった。

当てが外れたな… まあいい。

私はサンドウィッチとコーヒーを求め店を後にする。

そしてこれがUC78年の私のクリスマスディナーとなったのだった。

 

 

 

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